闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的156銀の天使+夕闇の女王=蒼の女帝

しなやかな体、黒く艶やかな潤った髪。自分の手から二度と手に入らないと思っていた意中の想い人がようやくこの手に抱き締められる瞬間までが永遠だったと感じた。

 

「天姫、逢いたかった…!」

 

ぎゅっと抱きしめられた体はすっぽりと彼の腕の中に収まってしまった。

10年後の骸は逞しく成長した男性として天姫を抱擁し続ける。

 

「…大きくなったね、骸」

「ええ、貴女をちゃんと守りきる為に色々と苦労しましたからね」

「……そっか、偉い偉い…」

 

いつもの癖というか子供のように彼の頭に手が伸びてしまった天姫。

本人に他意はないが、骸は気に入らなかったらしい。

ちょっと、ムッとした顔で天姫の手を外す。

 

「…子供扱いはやめてください…」

 

視線が上を向くというのは、首が痛くてつらいもんだ。

もっと身長が欲しいとしみじみ思ってしまった。

 

「ごめん、ごめん…」

 

誤魔化すかのように言えば、骸は急に真面目な表情に変えてきた。

 

「……聞いてください、天姫」

「…ん?」

 

こてんと首をかしげ、先を促すかのようにじっと骸を見つめた。

スゥと息を吸い込む。骸にとって天姫に衝撃を与えてしまうかもしれない重要なことを口にするのだ。

戦闘の時よりも緊張感が増してしまうのはしょうがない。

 

「いいですか?天姫。あの神とは、即刻距離を取ってください」

 

アレハテキダ、アナタのてきでありアナタをりようしているだけにスギナイ。

 

「あの男は貴女を利用しているだけに過ぎません。貴方を供物としてある女の魂を呼び戻そうとしているんです。貴女は利用されているにすぎないんです」

「ある、女?」

「神崎光という女を、貴女の体に宿す為に」

「ふうん、私と同じ苗字ね」

 

偶然かしら、ああこの世に偶然なんてないのよね。あるのは『必然』だけ。

誰かからの受け売りのような気がする。

 

「驚かないのですか…、あの男がやろうとしている事に」

「普段から何考えてるかわからん奴だったからね、いちいち驚いていらんないでしょう?それにアイツがボランティアで私たちに色々してる訳ないし。何かしら理由はあると思ってたから」

 

それに#name1#緋奈って謎な女も知ってる訳だし。アレも多分血縁者か何かだろう。

私は、黙って利用されるほど安い女じゃないのよ、神男。

それはそうと彼に礼を言わなくては…。

 

「ありがとう、骸。私を心配してくれて」

 

貴方は私を決して裏切らない。愛おしいと言える存在。

彼の頬に手を添えてさらりと撫でた。軽く、軽く。

私の行為を黙って受け止めていた骸は寂しそうに笑う。

 

「……私は貴方にとって、まだ『息子』なんですね」

「骸?」

 

未来の天姫と同じなんて残酷ですよ、と彼はいう。

 

「いつか分かってくれると思ってました。ちゃんと口にして言葉にすれば態度で示せば超がつくほど鈍感な天姫でも……でもいい加減呆れを通り越して怒りが湧き上がります」

 

「私は『息子』の役を望んでいるんじゃありませんっ!!天姫にとって唯一の『男』になりたいんです……天姫を、一人の女性として愛しています」

「…骸…」

「何度だって告げてましょう、天姫の為ならこの身を捧げてもいい……だから」

 

だから、私をみてください、と彼は震える声で私にしがみ付いた。

そのままゆっくりと地面に膝をついていく。

力なく項垂れる彼は、本当に六道骸だろうか。

気がつかなかった私が悪い。

彼が、私を違う『視点』で見ていた事に鈍感すぎた私が悪いのだ。

親ではなく異性としてだからと言って私に出来ることはただ一つ。

彼の頭をそっと抱きしめ謝罪することしかできないのだ。

だからといって私たちの関係が変わるとは、この時考えていなかった。

 

(もっと違う形で出会っていたら何か変わっていたのかもしれない)

 

過去からきた私にとって、この世界はまったく予想がつかなかった世界だった。

恭弥と結婚してるとか、実はそれは偽りの婚姻で頭がおかしくなるような展開ばかり訪れるし、久しぶりに再会したザンザスからは、二度と離さねぇ、とかこっちが赤面するような熱い歓迎受けるし、骸からは衝撃発言されるし……ユニを守れなかった、し。

あまりに自分が嫌で反吐が出る。怖がってたから力が足りなかった。

すぐに手にしていれば状況は変わっていたのかもしれないのに、今更後悔したとて

ユニが現れるわけでもない。

 

「そうね」

 

私と同じ容姿。同じ声。でも瞳は真っ赤。彼女が私の名を呼ぶ。

 

『いつ以来かしら、天姫』

「さぁ?どうかな、天姫」

 

鏡のように向かい合い、頭のてっぺんから足のつま先まで私たちはうり二つ。

双子のように見えて、双子じゃない。元は同じだから。

 

『やっと、私の事を受け入れてくれる気になったのね?嬉しいわ。これでまた血に塗れる日々が訪れる。私たちが揃えば、怖いものなしよ。もう二度とワタシたちに刃向う者はいなくなるわ。二度と苦しい想いを、悲しい想いを、傷つけられなくて済むのよ。ああ、天姫。さぁ、一緒になりましょう。あの男を殺しに行きましょう。報いを受けさせるの、愚かな男に最後を与えに行きましょう。だって、ワタシの望みは貴女の望みですもの。貴女もあの男が憎いでしょう?ワタシから愛する者を奪った許しがたい大罪人だもの』

 

私はそうやって虚勢するのだ。それが幼い私が生きる術だったから。

 

「違うよ」

 

彼女の顔が一気に強張った。

 

『…なんですって…』

「違うって言ったの。貴女は確かに私。でも今の私じゃない。あの子供の頃の私よ。

闇に囚われて、『血』を求めていたあの時の私」

『何を言いだすかと思えば、フフッフフフ、天姫?ワタシは貴女よ?貴女がワタシを否定すれば、貴女はワタシを殺すことになる。貴女は自分を殺せるの?』

「殺すんじゃない、認めてほしいの。貴女は子供のままの私だから。だから貴女は成長を拒んだ私」

『ふざけるんじゃないわよっ!』

 

夕闇の女王は、ウサギのように真っ赤な瞳を最大限に開き、怒りを増幅させていく。

天姫は、それを軽く流し、避けていく。

まるで、あの夕闇の女王の攻撃が子供の動きのように感じてしまう。

余計に夕闇の女王は怒り狂った。

 

なぜ、当たらない!?

 

どうして、ワタシは強いのに、強くなくてはいけない

ワタシは永遠に強くなきゃいけないのよっ!

天姫は彼女の心内を見透かすかのように説き伏せた。

 

「……そう、私は昔から血ばかり見てた。どんな卑怯な手を使っても、一族の奴らが私に向って情けなく命乞いをしてきても全て斬り捨てた。だって、そうでなければ、私は生きれなかったから。2歳児の狗楽を抱えて、6歳だった私にできることなんで限られていたもの。ヒナに助力を得ようなんて考えなかった。ヒナは私たちを連れていこうとしたわ。

でも私がその手を突っぱねて、拒絶したの。私、個人の力でなければ、意味がない。狗楽を愛するためは私が強くなくちゃいけない。聞いて、貴女はあの頃の私が大人になった私。無理やり背伸びして、誰にも頼らなくてもいいよう大人になった子供な私」

『下らない事を!?』

「逃げないで、確かに私は馬鹿だった。劉牙を殺してしまった事で、あの『血』に囚われた自分を否定してしまった。だから貴女は私から分離してしまった。私が貴女を忘れたかったら。なかった事にしてしまえば、劉牙を殺した事実を消すことができる、なかったことにできる。また、逃げられる。そう思って、私は綱吉たちの世界に来てしまった。貴女を残していなくなってしまった」

『そうよ、ワタシは貴女に見捨てられた!否定された、ワタシは貴女なのに!ワタシには、貴女しかいなかったのに!ワタシだって天姫なのに結局、誰もワタシを見てくれない、貴女が憎かった本当に憎かった、恨めしかった、ワタシが得られないものを貴女は簡単に手に入れていたもの。……でも、殺せないのよ、殺したくても殺せない……どんなに憎んでもワタシは貴女が愛しかった、恋しかった、助けて欲しかった……!』

 

もう、独りは嫌だ…。

夕闇の女王は崩れ落ちるように膝をついた。幾恵にも涙を大地に零して。

夕闇の女王は泣いた。自分が焦がれた自分の前で。

 

「無理やりに大人になる必要なんて、もうないんだよ。一緒に成長しよう?これからずっと一緒に。だって、貴女は私だから」

『ワタシは貴女、だから?』

「そう、貴女の姿は本当は、幼いままの私」

 

天姫がそう言った瞬間、夕闇の女王の体は光に包まれ、あっという間に、幼子の黒髪の少女になった。

紅い瞳だけは違う。後は全てあの頃のまま、時間が止まってしまった姿だった。

 

『わたし、は……もうせのびしなくてもいいの?』

「うん、だって私がいるもの。一緒に大きくなろう、ゆっくり、大人になろう?」

『うん、……うんっ!』

「私は逃げてた。ワタシから逃げられれば、劉牙を想うことが許されるって。彼の死を嘆いて思い出の中に閉じ込めて、私はずっとぬるま湯みたいにつかってれば、この傷は癒されるって思い込んでた。劉牙はずっと一人じゃないって、言ってた。ボンゴレのみんなだって、ううん、違う。この世界で触れ合って過ごしてきたたくさんの友達だって言ってくれた。私が視界を閉ざしてた。だから見えない振りして、自分で抱え込んでた」

『………』

 

彼女は肯定も否定もせずに微笑んだ。

 

「……ごめんね。天姫」

 

たくさんの想いを込めて

 

『いいのよ、天姫』

 

彼女は受け止めてくれたし合わせ鏡のような私たち。

そっと、手を伸ばせば、彼女も同じように手を伸ばす。絡みあう指同士。

 

「馬鹿だから、私って」

 

何百回、皆に迷惑かけて、自分に諭されて、やっと自覚して。

それでも見捨てないでいてくれた。

 

『あら、貴女が馬鹿ならワタシもそうよ?……貴女をずっと見ていたわ。契約が果たされた時から、ずっと。でももう、前へ進むのでしょう?』

「うん、今度こそ。私は貴女から逃げない。傷は絶対消えない。彼を殺したことを完全には受け入れられないかもしれない。また誰かを失う恐怖が訪れるかもしれない。

でもそれと、貴女とは訳が違う。これは私自身の問題なんだから」

 

決意は大きな力となる。私たちは声をそろえていった。

 

「だって貴女は」

『そう、貴女は』

「『私なのだから』」

 

視界が一気に真っ白な光で包まれ、弾け飛んだ。

遠く、遠く未来の地にて皆それぞれ得るもの失くしたもの多種多様ではあったかもしれない。私たちは現代に帰ってきた。

帰るべき時代に、様々なものを背負い経験し一回り、他の皆は成長したようだ。

以前と比べると頼もしく思える。

それに、私も成長したと言える。懐かしい友に私は年甲斐もなく瞳が潤んでしまった。

はやく教えたい、私が何をしてきたか彼女に聞いてほしい

少し、前進できたことを報告したい

 

「無事にご帰還なさると信じておりました。お帰りなさいませ、姫様…」

「…燐…華……」

 

無理やり笑みを浮かべた燐華は、目の端に涙を溜めていた。

姫様、と呼ばれることが久しぶりに感じる。

距離が近かった彼女、どれだけ自然に彼女がいるのが当たり前となっていたか

こうやって目の前にしてみて大切さがこみあげてくる証拠だ。

どれだけ心配をかけたことだろう。

大切な仲間であり友達であり親友の彼女に

返せることなど少ないが私も嬉しさが溢れてこみ上げてきた。

 

「ただいまっ!」

 

お帰りと言ってくれてただいまと言える喜び。

私の未来は決して、一つじゃないことを学んだ。

暗いだけじゃなくて悲しいことばかりじゃなくて光があるって事実を。

人は常に成長し続ける。

それは悪いことじゃない、間違ってしまうことだってある。

ただそれをどう感じとって、どう行動し直すかそれによって得られる結果がどう違ってくるのか。

悩んだっていい、立ち止まって考えたっていい

また進めばいいんだから

笑顔でいれば何も怖くはない

たとえ、私たちを飲み込もうとする闇が、すぐ目の前に迫ってきていた事実があろうと

『ワタシ』を受け入れた私は怖いものはたぶんない

不完全だけど、完全に近づいている私だからこそ怖さが麻痺しているのかも

 

たとえ、この先裏切りが発覚してアイツと決別する瞬間が来たとしても

私は絶望しないだろう。

大切な仲間がいてくれるかぎり私はいくらでも立ち向かえるのだから。

 

未来編 完

 

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