闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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継承式編
標的157とあるお店の日常


とある世界にとある願いをかなえるお店がありました。

願いをかなえる代わりに相応の対価を取るという不思議なお店。

そこには出かけたまま帰ってこない魔女を待ち続ける少年がいました。

少年が魔女を待ち続けて幾年も季節が変わりました。

外の世界では目まぐるしく時間が過ぎていきましたが、そのお店だけはまったく何も変わりませんでした。そこだけ時が止まっているかのように。

そんなある日、今日も少年は魔女を待ち続けていました。

すると一人の訪問者が現れました。

酒瓶片手に長身の男。黒髪は腰まで伸びていて一つに結んでいました。緩く着物を着こんでいて足元は下駄でした。

ニカッと人懐っこい笑みを浮かべて気軽にあいさつをしてきます。

 

「よっ?元気でやってっか?君尋」

「タクミさん、相変わらず軽いですね」

 

君尋は苦笑しながら出迎えます。タクミと呼ばれた男は縁側に座る君尋の隣にドカッと座りました。

 

「お前酒飲めるよな、祝杯上げようぜ」

 

コレ貴重な酒なんだよな~、と言って何処からともなく二人分のお猪口を出現させ

君尋に片方を持たせ零れそうなくらい注ぎます。

そして自分にも同じように注ぎ、くいっとタクミは一気に口から流し込むように飲みます。

 

「侑子はまだ帰ってこねぇのか」

「はい」

「そうか」

 

そこで一旦会話は途切れました。お互い月夜の明かりを見上げながら

ちびりちびりと酒の味を楽しみます。

最初の話題を切り出したのは君尋でした。

 

「天姫さん、以前より強くなりましたね」

「ああ、失ってた部分を取り戻したからな。後は蒼龍だけだ」

「タクミさん、相当恨まれると思いますよ。彼女から最愛の人を奪ったんですから」

「俺だって奪われた」

「天姫さんだけじゃなくてくーちゃんとか緋奈さんとかその他もろもろ」

「最初からそのつもりだ」

「光さんは喜びませんよ」

「だろうな、でも考えを変えるつもりはない」

 

タクミはきっぱりと言い切りました。

 

「俺は誰を犠牲にしてでもアイツを蘇らせてみせる」

「何もかもを犠牲にしてもですか」

「ああ、お前は反対か?」

 

お猪口を廊下床に置きタクミは問いかけました。

君尋は軽く首を振りました。

 

「…いいえ、俺は何も言いませんよ…」

 

あくまで自分は傍観者だ。当事者に回るつもりはない。

ただ、願えるのならば俺は誰も悲しまなければいいなと思うんですよ

理想だけど、現実であって欲しいと思うのだ。

タクミは、その言葉に瞳を伏せ、ゴロンと廊下に寝そべりました。

手を頭上高く上げ、遥か遠い月に想いを馳せました。

 

「…遠いな……」

 

何もかも遠すぎて記憶がかすれていく。

まだ記憶が消えないうちに取り戻したい。

自分の名前さえ忘れないうちにあの頃の笑顔を取り戻したいと思うのは罪なのだろうか?

 

「光」

 

タクミは一筋の涙を流しました。

どうして自分は涙を流すのか、何を想って泣くのか何が嬉しくて泣くのか

感情が入り混じって自分という人格さえ本物なのか偽物なのかごちゃごちゃになった彼にはもう理由がわかりませんでした。

君尋は、何も言わずにタクミの隣で一緒に月を見上げていました。

 

※※※

 

君尋はゆっさゆさと体を揺さぶられ、意識が覚醒していくのを感じました。

 

「君尋~、風邪ひくよ。こんなとこで寝てたら」

「……くーちゃん……」

 

上から覗き込んでくるのは、オッドアイの瞳。

もうすでに朝になっていたようです。隣にいたタクミはすでに消えていました。

狗楽はタクミが座っていた場所をみやりこてんと首をかしげました。

 

「誰かきてたの?」

「うん、古くからの知り合いがね」

 

誰とは言わずに君尋は簡単に説明するだけにとどめました。

狗楽はそれ以上突っ込むことはせず、ふーんと言うだけに終わらせます。

 

「何かあったの?」

「あ!そうだそうだ」

 

興味を失くしたように別の話をし出しました。

 

「それよりさ、ちょっと味見して欲しいのあるんだけど…」

 

ごそごそと彼女が何やら袋から取り出したのは

 

「ジャーン!!自家製ヨーグルト作ったんだ~」

 

ガラスの器に盛られた狗楽がいう『自家製ヨーグルト』なるもの。

それを認識した途端、君尋は目が点になり口が半開きになりました。

言葉にするのに時間がかかりました。

 

「……それ、色が紫色だね」

「でしょ?斬新だと思わない?」

 

上手くできたんだよ~!と嬉しそうにはしゃぐ狗楽。

 

「しかも表面がテカテカしてない?油塗ったみたいに……」

「でも油塗ったわけじゃないから安心して」

「………あ、色が変わった…今度は黄色……」

「画期的だと思わない!?見た目も楽しめるヨーグルト!」

 

さぁさぁ、とスプーンを無理やり持たせ食べろと迫ってくる狗楽に君尋は未だかつてない危機感を感じ取りました。冷や汗を大量に出しながら

 

「い、いやあのなんで自家製ヨーグルトなんて作ろうと思ったの!?」

 

と話題を無理やり変更させようと画策します。

 

狗楽は

 

「じーじが目を覚ましたからなんか作ってあげようかなと思って。おかゆばっかりじゃ味気ないんじゃかなーってさ」

 

と何とも健気な孫娘ぶりです。

 

「へ、へぇ~。おじいさんの意識戻ったんだね。良かった良かった」

 

笑みを浮かべつつ逃げ腰が君尋。

実験台とばかりに選んばれたのは君尋にはとんだとばっちりです。

まだ死にたくない、顔をひきつらせそう願いました。

とにかく逃げたい君尋でした。

 

「ホラ味見してよ?いきなりじーじにたべさせてぽっくり逝っちゃったらヤバいじゃん?」

「俺は死んでもいいのっ!?」

 

めちゃめちゃ可愛がっていたのに、恩を仇で返すのか!?

 

「君尋は頑丈だから死なないってっ☆」

「どこからその考えはくるんだよっ!?」

「いいから食え」

ガシッ、「むがっ!!」

 

頭を固定され口を開かされ無理やり謎なヨーグルトを食べさせられた君尋の感想は

 

「……………ヨーグルト、だ……」

「でしょ?」

 

呆然とする君尋ににんまりと笑みを浮かべる狗楽。

彼女の料理は見た目奇抜なのだが味はちゃんとしているのだった。

 

「さ~て、ねーちゃんにも味見してもらおうかな~?」

 

次の犠牲者は天姫!?なのか。

 

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