天姫side
転がるように綱吉の家を飛び出て白虎になったシロに跨った私と燐華。無論、ゴーラちゃんも一緒である。
骸たちの住まいである黒曜にたどり着いたのは、あの悲痛な声で電話をしてきた凪との応対から数分の事だった。
頭が真っ白になり衝撃的な事実を受け入れられなかった燐華にビンタを喰らい
やっと正気に戻った天姫の行動は目を見張るほど素早かった。
そして、天姫に遠慮なく叩いた燐華も服装を動きやすいものに着替え、共に着たのだ。
今から考えれば、燐華はこうなる事を予測していたのかもしれない。
「凪、犬、千種!」
私たちを待ち構えたいたのは、元々荒れ果てた場所だったものがさらに壊され、無様に床に転がされる『家族』の姿。
そして、愉し気に笑みを浮かべる元『知り合い』。
「あら、遅かったようですわね、蒼龍姫」
待ちくたびれましたわ、とあくびをするフリをした。面白そうに。
傷つき、気を失っている凪たちを虫けらと言わんばかりに足で蹴る様を直で見て
殺す衝動は止められないほど膨れ上がった。
一気に殺気が爆発し、天姫は声を張り上げアイツラの名を叫んだ。
「輝瑠姫(きるき)!?」
キラリと輝瑠姫が持つ双剣が妖しく輝きを放つ。まるで輝瑠姫自身を現しているかのように。あの雌豚の孫娘風情が、私の『モノ』に手を出すなんて……。
生意気な、生意気な生意気な屑がっ!!燐華の相手をしたのは、
「お姉様もお元気そうでなによりですわぁ~?」
とおどけてみせる朱論であった。
「朱論、よもやこのような薄汚い事にまで手を染めようとは…劉一族の面汚しにでもなるつもりか」
燐華も私同様、高まる怒りに表情が変わっていく。
「おねいさま~?そんな怖い顔なさないでくださ~い、ね?」
「その薄汚れた手を即刻離せ、でなければ同体ごと真っ二つにしてやる……」
腰元に備え付けた『月光』と『蜻蛉』が二刀とも唸る。燐華も構えの体勢をつくりだし
隙を一切与えないつもりで敵である目の前の少女二人に対して。
「あらあら、弱いクセにほえ面だけは一人前ですのね?この前は朱論にしてやられたのではないかしら?」
「そうそう、簡単に殺せそうだったのにどこかの邪魔者が無粋にも邪魔してくるから」
残念でしたわ~、と彼女は微笑む。
「二人で勝てると本当に思っておられるのですか?」
人質を取られ、私たちに焦りが生まれた。
「残念!二人じゃないんだな~」
「この声は!?キャッ!!」
頭上からなんと、白い液体が並々と落ちてきて、それが輝瑠姫と朱論の頭にかかった。
どろどろしてて時々発光したりするのはなぜだ?
とにかく隙を与える事はできた。
彼女らが動揺してる隙に、燐華と阿吽の呼吸で同時に動き出す。
「燐華」「わかっておりますわっ」
私が先に地面を蹴り高速でハッと焦った顔の輝瑠姫の間合いに入り込む。輝瑠姫は私の月光をすんでの所で受け止める。が、私は輝瑠姫の双剣を押してくる力を逆に利用し自分の方が刀に込める力を緩めると同時に反動で輝瑠姫の体が傾いた隙をついて左足を軸に右足で彼女のわき腹を力いっぱい蹴り込む。
「カ八っ!!」
輝瑠姫の体は真横に吹っ飛び、壁に叩き付けられる。顔色変えた朱論の相手をしているのは姉である燐華でありその動きに一切攻撃に対する迷いはなかった。
たとえ妹だろうと容赦はしない。
以前に会った時に言っていた彼女の台詞に嘘はないということだ。
無駄のない動きで朱論の繰り出す拳や蹴りをまるでそよ風でも受けているかのように軽やかに避ける燐華。
徐々に距離をなくしていき、動揺する朱論の腕を捻りあげ後ろを取った。
「ぐぅっ!!?」
「動きが甘いですわよ、このまま首を刎ねてやりましょうか?」
そっと、朱論の耳元に囁くように彼女の首に手をまわす。それに朱論は、「ヒッ」
とひきつった声を漏らした。
「燐華、今は駄目よ。骸の姿が見当たらない」
「そうですわね」
シロとゴーラちゃんによって、救出された凪たち。こんなに痛めつけられてなんて可哀想な事をしてくれたんだ。
そういえば、さっきの声はすっごく聞き覚えがあるような…。
「わたしいらなかった?っていうか燐華かっちょEー」
「狗楽っ!?」「狗楽様っ」
変な台詞で登場してきたのは、久しき我が妹狗楽であった。
武器らしい武器を手にしていない狗楽だったが、二人に与える威圧感はすさまじいものだった。
こちらにビシビシと痛く感じるくらい、重いものだ。
「久しいね、輝瑠姫に朱論。わたしはねーちゃん側だから。3対2だね?よし、戦争しようか」
狗楽は心の底から嬉しそうに笑う。違和感、そう違和感だ。
これは、まるで私の知らない『狗楽』みたいで…。
輝瑠姫は吐き捨てるように言う。
「…フン……興が冷めましたわ、ただの『人形』と遊んでもつまらないもの。ねぇ?狗楽」
後半の台詞は、狗楽に対して言ったのだろうか?そこから狗楽に異変が起こった。
「……殺してやる…」
妹の雰囲気が変わったのをすぐに感じ取れた。
「…狗楽?」
あまり見たことのない、殺気丸出しの妹の様子に、どうしてか不安が生まれる。
「あの六道骸はちゃんと『利用』しますからご心配なくぅ?」
「な、待てっ!!!?」
言いたいだけ言って彼女たちは、出現した闇に体を吸い込ませ消えていった。
「クソっ」「逃げ足だけはいつも早い事」
二人が去ったあと、私は突然現れた自分の妹に理由を尋ねた。
「狗楽、どうしてここに」
「いや、実は試作品がほかにあったんだけど君尋が『ぜひ天姫さんにも試食してもらったほうがいいよ!!』とかって必死になって言うから面白いからねーちゃんにも毒見してもらおうかと思って」
「っていうか、これってハプニング的な展開だった?」
「…まさに、ね」
私の行くところ行くところ、ハプニングばかりだ。
苦笑いするしかない。トラブルメーカーな人生を呪うしかなかろう。
君尋とは誰だろうか。なんだか懐かしい響きに思えたけれど今は骸の安否が気がかりだ。
「狗楽様らしいですわね」
燐華もちょっとあっけらかんとした狗楽に苦笑いする。
というか今は凪たちの手当を急がなければと、凪たちの治療に専念したものの
連れ去られた、骸が気がかりでならなかった。
遥か未来の地にて彼の悲痛な叫びが今でも鮮明に思い出せる。
『私は『息子』の役を望んでいるんじゃありませんっ!!天姫にとって唯一の『男』になりたいんです……天姫を、一人の女性として愛しています』
震える声と、すがってくる腕の重み。
どれだけ彼は葛藤し、報われない恋に悩み苦しんだんだろう。
一途に想いそれを抱き続ける執念ともいえるもの。
……こうして、傍にいないことが来る日がやってくるなんて、考えられなかった。
だってあの子は、いつも子犬のように人の後をくっ付いてくるものだと思ってたんだ。
私の所為で巻き込まれた。私の所為だ。
助ける、という強い正義感に満ちた感情と私から奪う事なんて許さないという激情のようなものが同時に存在する。
これが、誰の仕業だろうが関係ない。
あの子は、私のモノだ、と独占力が狂気へと変わる。
奪われたならそれ以上ものを奪い返してやる。
蒼の女帝は己に逆らった愚かと言える子羊に罰を与えようと微笑んだ。
(触れてはいけない、彼女の宝)