沢田綱吉side
不思議な夢を見た。
頭上に信じられないくらいの大きい蒼い鱗を持った龍と、黒い髪の小さな少女。その少女の両隣には少女より少し背が高いくらいの少年が二人いた。
少女の右側に立つ色素の薄い髪質の少年が喋った。
『ひかり、本当にやるのか?』
『うん』
少女は明るく答え華がほころぶように笑った。
『おまえが消えるかもしれないんだぞっ!?』
左側に立つ黒髪の少年が少女の腕を掴んで声を荒げる。
でも、ひかりと呼ばれた少女は捕まえれた腕にもう片方の手を優しく添えた。
『私は消えない。信じられない?』
『そういう事じゃっ…お前がやらなくてもいいじゃないか!!だって本当の『神子』はあかねだろう?お前が犠牲にならなくてもっ』
『確かに、『神子』はあかねだよ。それに犠牲とかそんなんじゃない。呼ぶ必要があるから呼ぶ。ただそれだけのことよ、私がこの世界に呼ばれた事だって理由があるわ。だってこの世に偶然なんかないもの。あるのは『必然』だけ。昔からの友達がそう言っていたから』
『なんだよ、それっ!!!』
自分勝手にいいやがってと、黒い髪の少年は怒鳴った。
でも、反対に色素の薄い髪の少年は冷静な表情で少女に言った。
『私はひかりの判断に従う』
『てめっ、ゆきひこっ!?』
『熱くなるな、私たちが確実にフォローすればいい話だろう?たくみ』
『………』
『大丈夫だよ、私は強いから、ね?』
『また三人で笑えるようになるよ、だから』
納得がいかない様子の少年だったが、ある条件と引き換えに協力してやらなくはないとしぶしぶ言った。
『約束しろ、いいな?』
ひかりとゆきひこは続けて言葉をつむぐ。
『うん、約束する』
『わかった、約束しよう』
円を描くように互いの手を握り合って三人は声を揃えて言った。
『『『三人でまた一緒にいよう』』』
三人の声にそろえるように蒼い龍が鳴いた。
※
体が妙に痛くて目が覚める。
ふかふかのふとんではなく固い感触。
体がちょっと動いただけで悲鳴をあげている。
「………ん…」
気がついた俺は、昨日机に突っ伏したまま寝た事に今更ながら気がついた。
時計の針は五時半を回っていた。
そういえば、何の『夢』をみていたんだろう…、内容が思い出せないな
なんか、デカい龍がいたような……なんだっけ?
ふふぁぁ~、と気の抜けるあくび一つしてハタっと気づく俺。
サぁ~と血の気が引いた。ものすごい速さで。
朝、すでに日は上がっていてリボーンから言われた勉強が一切はかどっていない事に慌てふためいた。
「やべ、リボーンに殺されるっ!?」
あわあわと周りを見渡すとリボーンの姿はなかった。
というか家に気配がないような……。
なんか違和感を感じて、窓から外をのぞいてみた。
すると、なんと今まさに家に入ろうとしている天姫の姿を発見!
「天姫?」
彼女の顔色が昨日とおかしくて俺はすぐに部屋を出て階段を降り玄関まで向かった。
ちょうどタイミングよくドアが開く。
俺は、天姫だろうと
「天姫、どうし」
と声を出した。でも、最初に玄関のドアから入ってきたのは彼女じゃなかった。
「お久しぶり~。綱吉さん」
まさか、また逢うとは思わなかった。この組み合わせ。
男前になったじゃんと冗談を言ってくる茶色のくるくるカールの少女は天姫の妹の狗楽さんの姿。
「……狗楽、さん?あ、天姫、いったい何が、それに狗楽さんもどうして」
「これには山よりも高くて海よりも深い理由があるんだよ」
うんうん、と一人頷く狗楽さんの隣で抑揚のない声に無表情で天姫は言った。
「骸が連れていかれた、私たちを殺したいほど憎んでる連中にね」
「え、」
それ以上、天姫は黙ったまま靴を脱いで意味を理解できない俺の脇を通り抜け階段を上がっていく。
「ちょ、天姫っ!?」
トントン、と音は止まることなくバタンと閉じる部屋の音でしめくくられる。
呆然とするしかない俺に燐華さんは申し訳ありませんと深々と頭を下げた。
「骸様は我らの相対する敵の手に落ちました。骸様を餌に姫様を釣ろうとする算段なのでしょう」
「ねーちゃんもショックなんだよ。あっさり連れていかれた事とか。……ホント人質とれば勝てるって話でもないだろうに、ね~?」
そもそも余計な事言う前に始末しとけばよかったなと狗楽さんは不満そうに言う。
なんとも物騒な事を平気でいう人だと思いつつ、俺が寝てる間に衝撃的な展開があったなんてともショックだった。
「……そんな」
「クローム様たちの怪我は幸い命に別状はないご様子。ボンゴレ九代目が色々と手配してくださったおかげですわ」
「九代目が?」
「はい、それに他の件もありましたので」
「他の件って?」
この件だけではないのですが実は、と燐華さんは神妙そうに口を開いた。
「姫様の『虚像の指輪』が砕けたのです。これで蒼龍を呼び出す手立てを失いましたわ」
悔しそうに燐華さんが唇を噛む。それ以上に天姫はショックだったんだろう。
さっきの彼女の様子からそれは見て取れたことだ。
リボーンが数秒遅れて家に帰ってきたのは、用事を済ませてきたからだと言っていたし
天姫からの連絡内容も把握しているようだった。
それから俺と口数少ない天姫の心配をしつつ、「天姫と他の事は心配しなくていいからお前は学校に行け」といつも通り脅され泣く泣く学校に行く事になった。
今日は天姫は休むと心配そうにしている母さんに言われ、天姫の部屋の前までいったけどドアを叩く音に反応して出てきたのは
「はーい?」
と狗楽さんだけでドアの隙間から見えた天姫はベッドに腰かけて無反応のまま何もしゃべらなかった。
俺は何をいえばいいのかわからず
「……行ってきます…」
とだけしか言えずに背を向けて階段を降りた。
「はいはい!行ってらっしゃいな」
にこにこと送り出してくれるのは、狗楽さんの声だけ。違和感を感じてならないんだけど、突っ込めない。
……今日は確か、転校生が来るんだっけ?
「……はぁ~、平穏な日々はほど遠いかもな……」
今日は寄り道しないで真っ直ぐ帰ってこよう。
そして天姫にちゃんと理由を聞こう。彼女一人で問題を抱えさせるなんて絶対嫌だし無理させたくないのが本音。
まずはそれからだ、と自分に言い聞かせて俺は玄関で靴を履きドアを開くため一歩を踏み出した。
すでにもう次の話は進んでいたんだ。
骸が連れ去られたことにより俺とあの夢の関係性も
ずっと後に知ることになる。