さて、天姫から骸を奪う事を命令されちゃんと実行してきた輝瑠姫と朱論の二人は嬉々として主に報告できると喜んでおりました。
古い洋館のような場所、応接室の豪華で年代を感じだせるアンティークの長椅子に優雅に腰かけていたのは、色素の薄いサラサラの髪質の優男風の少年。
「ノイズ様、只今帰りましたわ!」
輝瑠姫は満面の笑みで主に走り寄った。それに応えるようにノイズも笑みを浮かべた。
「お帰り、ずいぶんと機嫌がよさそうだね。いいことでもあったのかい?」
「もちろんですわ、だって狗楽に出会えたんですもの」
「へぇ~。元気にしてた?傀儡さん」
「はい。ずいぶんと性格がねじ曲がっておりましたが」
「まぁ、そんなもんだろうさ。それより、朱論」
名を呼ばれ朱論は、畏まった態度をとる。そこには緊張感が見え隠れしていた。
彼女はまだ、己が主に対して畏怖を少なからず感じているのだ。
「はッ!」
「邪魔が入ったって?ケガしなかった?」
ノイズが言う、邪魔とは勿論、姉の燐華を指し示す。朱論はいともたやすく姉にしてやられたことを恥じ、そして悔しさに顔を歪め頭を垂れ、謝罪した。
「…申し訳ありません…」
「別に怒ってる訳じゃないから気にしなくていいよ。彼女は結構侮れないからね」
とノイズはねぎらいの言葉をかけた。だが、それで朱論の気持ちが軽くわけではなかった。
「それよりノイズ様、彼を拝見いたしませんこと?苦労して捕まえて参りましたのに」
「それはそうだね」
朱論ばかり構っているので輝瑠姫の方がすねたようにノイズの隣に座り込み、彼の腕に縋り付き頬を膨らませた。
輝瑠姫が指をパチン!と鳴らすと、ボォォォオぉぉぉおおと濃い闇が瞬く間に出現し
大きく広がっていく。
すると、気を失った姿の骸が闇に抱かれるように現れたのだ。
「……こ、ここは……?」
じゃら、と自分の手に頑丈な鎖が繋がれている事に気がつき舌打ちし自分の置かれた状況が即様理解できた。
「おや、目が覚めたかな?六道骸君」
「っ!?貴様は……僕を連れ去って天姫を始末させるつもりですか」
「心外だね、僕がそんな残虐非道な行いをすると思うのかい?…勿論、当たりだけどね」
ニヤリ、とノイズが嗤う。
「貴様っ!」
ガチャンッ!!
骸を縛る鎖がぶつかりあい音を出す。
「おっとそんな目を吊り上げて怒らないでおくれ。まだ君の大事な御姫様には手を出さないさ。こちらにも『計画』があるからね」
骸は鼻先で嘲笑った。
「残念でしたね、天姫にはその『計画』はばれていますよ、彼女は全て知っている。お前と神が結託していると言う事をね!!」
骸の指摘にノイズは意味深に頷いたあと、
「……ふぅん、僕たちの『計画』、ね。……でもそれって何処までの話なのかな?」
と問い返した。
「……なん、だと…?」
「僕と、神の『計画』は例えば筋書きは同じかもしれないけど、根本は違うかもしれないじゃないか。どうして一緒だと断言できるのかな?君がどこで情報を得たかは知らないけど足りないね、足りないよ」
「だが次元の魔女はあの時っ!!」
そうだ、あの魔女は確かに僕に言ったのだ。
対価と引き換えに僕に情報を売った。それは紛れもない事実だ。
なのに、目の前の男に同様の表情など一切ない。
まるでそれも計算の内だと言わんばかりに骸を責め上げる。
「わざわざ『対価』を支払ってまで侑子に聞いたのか。確か、『対価』を払ったのは『未来』の骸君だったね。未来での記憶から君は『計画』の事を知ったのか。記憶とは面倒くさいものだ。……それにしても君はそこまでして天姫を助けたいのかい。自分を『男』として見させるという天姫の『視線』を君は侑子に『対価』として支払った。だから『未来』での骸君は天姫から『息子』として見られ続けた。自分が望むものとはまったく違う『愛』を与えられそれから逃れられないという現実に苦しみながら、それでも彼は天姫を救いたかった、かな?何とも泣かせる話じゃないか」
「黙れ、ぐっ!」
闇が骸を固定し、縛り上げる。体の自由を奪われ、ずずっと冷たくほの暗い闇が骸の体を侵食していくのだ。
ノイズはそんな骸に背を向け、声だけを響かせた。
「頑張り屋な骸君には申し訳ないけれども、僕にも譲れない信念があってね。」
君はちゃんと利用させてもらうよ、天姫の成長の為に。
くそ、骸は油断しきっていた自分を呪った。
もっと警戒していなければこんな間抜けな事しでかすはずがなかったのに。
骸は、ここより離れた地にいる心痛めているであろう一人の女性を想った。
……天姫、どうか僕の所にこない、で下さい。
貴女の足枷になりたくない、僕の所為で貴女を苦しめたくないのです
大切で本当に失いたくない貴女だからこそ
僕を見捨ててください、天姫
貴女は決断できる人だからこそ、伝えたいです…!
彼女に届けと願い骸の思考は完全に闇に堕ちた。
骸が完全に闇に呑まれた後、ちょっとした疑問を主にぶつける輝瑠姫がいた。
彼女にしてみれば本当にふと思った疑問だったのだ。
「そういえば、ノイズ様の本当の御名前はなんておっしゃるのですか?」
「なんだい唐突に」
「そういえばぁ?確かに聞いたことすらないですもの~」
「……ヒントをあげようか。寒い寒い冬『雪』の降る日に産まれたんだよ、僕は」
「まぁ、『雪』、ですの?……わかりませんわ、それだけでは」
「もっとわかりやすく教えて欲しいですよぉ」
部下二人の文句にノイズはキッパリとそれだけと言い切り
「駄目だよ、これで終わり」
さてこれから忙しくなるなと肩をコキコキ鳴らしながらノイズは応接室から一瞬で姿を消した。
彼の本当の名前は何というのか
彼が神とは違う『筋書き』があるというのは真実なのか
どれが『真実』で、どれが『嘘』か
貴方には理解できただろうか?
※
綱吉や他の皆が天姫の様子に心痛めている間、その本人はとりあえず病院に入院することになった凪たちの付き添いや九代目との指輪の件での連絡や、その他敵の動向を燐華に探らせたりで大忙しでした。
彼女にしてみれば気を紛らわせるためとも言ってもいいかもしれません。
何か他の事に集中していれば、何か策が見つかるはず。
骸は絶対無事なんだと信じられたから。
九代目から綱吉の継承式が近いことはすでに聞いていたので自分にもそれなりに関係のある話だと分かっていたものの、現実は骸の事だけでいっぱいいっぱいな天姫。
いつもはべったり状態が嫌いな狗楽が「しばらくいるわ」とのんきにそういってきても、「あ、そう」とだけしか返さない天姫は相当、変だと燐華は感じとっていたでしょう。
勿論、狗楽自身も姉の様子に少なからず心配があったから綱吉やママンにご厄介になりますと頭を下げたのです。
天姫が一日いない日、学校では様々な出来事がありました。
綱吉は、何とも気弱な古里炎真と印象に残る出会いをして共に苛められ、
獄寺は不可思議なSHITT・Pと衝撃的な出会いをし、
天姫が一日休んだ事に不満げな恭弥はキツイ姉さんタイプの鈴木アーデルハイトと睨み合いし
部活に青春する山本はおっさんな容姿をもつ水野薫に同じ野球魂を感じ
笹川は自分と同じ匂いを持つ青葉紅葉と同レベルの喧嘩をした。
この一日で天姫以外の仲間たちはそれぞれの出会いをし
自分の日常がまた変化する予兆をそれぞれが感じ取っただろう。
そして次の日。
天姫は今日も学校を休むつもりでいたがそうはいかなかった。
「姫様、今日は学校に行ってくださいね。姫様は一応学生なのですから。学生のお仕事は勉学に勤しむ事と聞いておりますので」
と強面の燐華に首根っこ掴まれ
「ねーちゃん、今日は学校行けよ。病院はわたしがいくから心配しないで」
と怖い笑みの狗楽に無理やり制服に着替えさせられ
「さぁお弁当よ、もし行かないっていうなら私の特製スペシャルケーキを食べさせるけど?」
と澄まし顔で脅してくるビアンキ姉に無理やり二人分のお弁当を持たされ
「天姫ちゃん、気を付けてね?横断歩道はちゃんと右左右って確認するのよ?」
と子供扱いしてくる奈々ママに笑顔で強制的に玄関に放り出され
グォングォングォン
とゴーラちゃんに無理やり捕らえられ彼の背中にロープで縛りつけられ
学校に飛んできました。
何なんだ、皆して。わざとらしい。おかげで髪の毛はぐちゃぐちゃ状態。
抵抗もできないまま天姫は学校に登校することになった。しかも、生徒たちでにぎわっている屋上に。
天姫が突如ゴーラちゃんで出現したと言う理由もあるがそれ以前に雰囲気が殺伐としていたようにもみえる。天姫はここにもゴタゴタはあったのね、とため息がぽろっと出たのは仕方ないかもしれない。
「随分と学校は物騒な場所になったものね」
「…天姫…!」
恭弥がピンク色の声を出す。君に会えて嬉しいと体全体でアピールしまくる節は他の男からみてイラッとくるものだろう。
その中、アーデルハイトが驚愕の表情で「虚像の、花嫁か…」と零したのを耳ざといリボーンは聞き逃さなかった。
無論、山本もである。表情には出さずに敏感に感じ取り自然な風を装って天姫に歩み寄った。いつでも守れる距離でいられるようにと。
気だるげに乱れた髪を直しながら天姫は問うた。
「…ああ、皆どうしたの屋上なんかで」
まるで彼女は生気が抜け落ちたように元気がない。
「今日は休みじゃなかったの?」
「…狗楽に追い出された。ずる休みするんじゃないって」
「へぇ、天姫の妹、こっちに来てたのか?」
んじゃ帰りにツナの家寄ろうかなと武がニカッと笑う。
「別に構わないけど……それにしても、ギャラリーの数がすごいこと、……ん」
天姫の目がある少年に止まった。
「君は、あの時の…」
「あ、あの」
「そっか、転校生って君のことだったんだね。」
「私は神崎天姫。確か古里炎真君、だっけ?よろしく」
「…っ…あの、その…よろ」
「触らないで」
バシィイィイイン!!
叩き落すようにあまきの手に触れようとする炎真の手を恭弥は容赦なく叩き落とした。
「恭弥…、あいさつぐらい構わないでしょう?」
彼が痛そうじゃないと怒っても、天姫の肩をぐっと掴み、己に抱き寄せた彼は
「駄目」
至極不満そうに言いのけた。
「…はぁ…」
溜息つきつつ、ある意味天姫には余裕がなかった。だから恭弥の手を無理やり外して
「?天姫…」
「今日は構ってあげられないから、スキンシップはまた明日ね」
と普段の彼女らしからぬ冷たい目つきで屋上から出ていった。図体に似合わず素早い動きでゴーラちゃんが後を追う。
「おい!待てよ」
と山本が最初に追いかけ、天姫に拒絶された事にショックで一瞬固まってた恭弥がすぐに我に還り
「天姫っ!」
と大声で追いかけた。