ジルside
さて、新たな火種を争いに投げ入れた事に自覚していないジルは学校で開催される体育祭をワクワクして期待してました。
なんせ、イベント事は大好きなお祭り人間ですから!
並中でも特にビックイベントみたいで漫画でみた棒倒しなんか凄く楽しそう!
そういえば、前回の恭弥には驚かされた。一体彼の何が気に入らなかったのか、暴走するままにボクシング部へ殴り込み『カチコミ』しにいくなんて。
気になるのは笹川兄の決め台詞なだけで他はどうでもいいというのに。
まるで嫉妬心に駆られて先走ったみたいじゃない。
こんな幼児にマジになるとかないだろうし、きっと虫の居所が悪かっただけだろうな。
でも全速力で突っ走る彼に追いつこうと幼児なりの体で懸命に走った私の身にもなってくれよって感じでした。まぁ、後半くたびれ気味な私をわざわざ抱っこしてまた応接室まで運んでくれた恭弥には感謝しまくりだったけど。
帰りは校門前にて待機していたタクシーでお家まで帰ったけど中にはちゃっかり!リボーンが先に乗り込んでいた。
彼曰く、その後いろいろと男子達が騒がしかったとか?
何があったと尋ねようとしたけどクタクタなのでやめといた。リボーンも私の体調を気遣ってか、帰ったらゆっくりしろと言ってくれた。ええ、ゆっくり部屋で今後の作戦練らせてもらいますわ!
次の日、しっかり英気を養った私はまた恭弥の所へ行った。呼び出しくらったからだ。
今後の付き合いの為にも断るのはまずいので素直に了承。
べ、別に!ナミモリーヌのケーキが目当てとかじゃないんだからね!……体重とかは気にしないのだ。だって成長期だし!
お弁当(殆ど奈々さんが作ってくれたが私もちょびっと手伝った)をもって彼のところへ情報収拾するのが最近効率がいいのではないかと思っている。だって彼は並盛の歩く秩序。
どこで何があったとかすぐに知りたい情報は風行委員が勝手に仕入れてくる。
私はそれを恭弥から聞き出すだけ。
ご機嫌さえ保てていれば彼は結構教えてくれたりする。こんなうまい手が他にあるだろうか!楽して入手する。
幼児という特殊な立場故叶うことだけど、今となっては感謝すらしている。こんなちみっこい体なれどやれることはあると証明できているんだ。周囲を欺き、笑顔振りまいて無垢な子供を演じる。ストレスを感じないのかと問われれば、否となろう。けどそれ以上に成果を得られるなら文句は言わない。
私がやるべきことをなすための手段として淡々と受け入れるのみ。
彼を、救うため。
◇◇◇
ある風紀委員に丁寧に応接室に通された先に、机にたまった山のような書面に目を通していた恭弥が顔を上げて私が来たことに気が付いて口元を微笑ませて「よく来たね」と言った。
「ごめんね、お仕事忙しかった?」
「僕のほうから呼び出したんだ。謝らないでよ」
「そう?じゃお邪魔しまーす」
お弁当が入ったリュックサックを中央の高そうなテーブルに乗せてよっこらしょと言いながら私はソファに背を預けた。恭弥はもう少しで終わるから待っててとまた書面に視線を落としつつ、慣れた手つきでサインをしながら素早く書面の山を減らしていく。私は彼の邪魔にならないように静かに読書をすることに。
「はい、お茶。熱いから気を付けて」
「ありがとう」
「……今日はハンバーグなんだね」
「きょんの好物でしょ?奈々さんに頼んで作ってもらったんだ。私もこねるのは手伝ったからね」
「そっか、嬉しいよ」
「奈々さんの料理は栄養バランスばっちしだから、仕事忙しいには恭弥ぴったしだよ」
「クス……おいしいよ……すごくね」
そんなにおいしかった?笑顔全開ですよ。漫画のヒバリンだったらありえない顔だよ。
「さて、じゃあ食べますか!」
卵焼きを口に含んで噛んだ瞬間ガリッ!と音がする。……卵の殻入ってた。だが次があるさ。自分自分を褒めることで次へと頑張ろうと言う気になるじゃないか。だから褒めよう、ドンマイ!ジル。
◇◇◇
午後から恭弥はまた群れてる草食動物を咬み殺しにいくので不在になる。
恭弥は私に念を押すように「勝手に帰らないでね」と言い残して風紀委員の皆さん連れて出て行った。帰らないよ。この前勝手に帰ったら恐ろしいほどの電話のメールだったし。
そして出たら出たらでアンタは女子高生かと言いたいくらい長電話。
疲れて後半は殆ど何喋ったか記憶にないよ。なので帰らないってか、帰れない。
「御嬢、今日は機嫌がいいみたいですね」
「そうみえる?草壁さん」
私を御嬢と呼ぶこの人は恭弥の部下の草壁哲矢さんである。とても見かけどおりの人じゃなくて面倒見がいいっていうか。とにかく優しい。ロマーリオみたいな人だ。
うっ、思い出しちゃった……。
そういえば、哲さんって呼んでみたら速攻でやめてくださいと青い顔で懇願された。
どうしてだ?みたいな顔したら、理由は言えませんって感じで走り去りましたよ。
何があった?どうして走り去るんだ。その度に振動でリーゼントが揺れて面白いじゃないか。
そんなに呼ばれるのが嫌なのか!?それは私にとってショック以外の何者でもない。
だからちょっとブルーな気持ちになったって帰って来た恭弥に子供っぽく八つ当たりをした。ちょっと無視しただけだが、次の日の新聞に『恐怖!!大魔王降臨!?』ってタイトルで誰かが群れている人手当たり次第咬み殺したらしい。誰がって?無論恭弥。
私はすぐ電話して謝った。そしたら機嫌よくしてくれて元のいつもどおりの恭弥に戻ってくれた。これで被害者も少しは報われるといいんだが。(死んでない)
「御嬢、マドレーヌ食べないんですか?」
「ハッ!?ううん。食べる食べる!……おいし~!」
「良かったです。一日限定100個の特製マドレーヌですからね」
苦労を笑顔で語る漢、草壁哲矢!
私がいつも美味しく食べているお菓子は風紀委員たちが自ら買いに行ってくれている。きっと朝から並んでくれただろう。美味しく頂かねば罰当たりだ。もぐもぐ食していると下の階から賑やかな声が聞こえてくる。
「ねえ、草壁さん。下の階から『きょくげんひっしょー!』って熱い声が滅茶苦茶聞こえるんだけどアレは何をしているの?」
「ああ、それですか。たぶんチームごとの最後の組み対抗「棒倒し」の大将を決めているんでしょう」
「なるほど。じゃあ、やっぱり大将は笹川センパイって人?」
「さぁ、どうでしょうか。去年も一昨年もそうでしたが……気になるなら調べてこさせましょうか?」
いや、そんな興味本位で訊いただけなのに真に受けないで欲しい。
「ううん、大丈夫。ありがと。哲さん!」
「……」
微笑んでお礼と名前呼びをしてみれば彼は目頭を押さえて顔を横に背けた。
……きっと、目にゴミが入ったのだろう。私は黙って食べかけのマドレーヌを頬張った。
◇◇◇
草壁哲矢side
「御嬢、今日は機嫌がいいみたいですね」
「そうみえる?草壁さん」
そう、誰が見ても見惚れてしまうほど今日の御嬢は輝いて見えた。
まるで、太陽を待ちわびる一輪の花のように可憐で決して自分を飾らない人。
己の力のみで天を目指す気高い方。
初めて御嬢、いや、今はあえてジルさんと呼ばせていただこう。
ジルさんとの初めての対面は委員長に書類の束を持っていこうと中に入ろうとしたときだ。その時、応接室に誰かの気配を感じ、まさか不審者と思い警戒して中に足を踏み入れたのだ。まさか、そうまさかだと思った。
「だ、れですか?」
その人物を脳が認識した瞬間、雷で打たれたかのように電流が身体を流れた。
そう、まるで淡雪のように解けてなくなってしまうのではないかと錯覚させる、シルバーブロンドの髪、確実に自分がうつっているであろう、くっきりとしたアメジストの瞳、これが本物の白と思うくらいの肌の白さ。ジルさんは立ち尽くす俺を不思議そうに眺められていた。俺としては何かを言葉にしたいのに、いかんせん、舌が、口がろくに回らない。ただ、一歩でも近づきたくて、彼女が座る黒張りのソファにおそるおそる近づこうとした。だが、
「何してるの、草壁」
ゾクリと背筋が凍りつき、背後を振り向くことが出来ない。
いや、本能が言っている。逃げろと。だが、足は恐怖で凍りついたようにびくともしない。
死を覚悟した。
「あ、きょんだー!お帰り~」
「え?」
「ただいま。ジル、ちゃんと一人でする留守番できたみたいだね」
さっきまでの殺気めいた委員長が今は何処にもいない。
まるで、何事もなかったかのように振舞い硬直する俺の脇を通り抜けた。その瞬間緊張感が抜け持っていた書類が足元を散らばしてしまった。ヤバイ、と思いすぐに屈んで散らばった書類を拾おうとする。だが自分の手はいまだ消えない恐怖から震えてまともに拾えない。これ以上、委員長の前で失態は許されない。
焦る俺の前に「ハイ。落としたよ」と書類が手渡される。その手は幼い手だった。
「…え…」
「何してるんだい。さっさと受け取りなよ、草壁。わざわざジルが拾ってあげたんだから」
「コラ!そんな言い方しないの」
まるで白昼夢だと思った。ジルさんが子供をしかるみたいにあの鬼の委員長を軽く叱りつけているなんて。すごいと思った。
彼女にしかこの委員長は懐かない。そう、直感し同時に彼女の分け隔てない優しさに感激した。まるで慈愛に満ちたその表情はとても子供には思えない彼女に敬意を表してこれからは御嬢と呼ばせていただくことにした。無論、他の風紀委員にもこのことはすべて明かした。
彼女の存在はこの風紀委員だけではなく委員長を支えてくださる存在だと。
あの日改めて思ったのだ。しかし、さきほどの満面の笑顔。つい、目頭にきてしまった。
あまりにも、無邪気でいて心に衝撃が繰るほどの愛くるしい笑顔だったから。
ジルさんは少しそのような軽はずみな行動には気をつけてもらいたいと思ってしまう。
でないと、委員長も心配度が増し、もっと過保護になると軽く予想が出来るからだ。
そう、考えるが本人には決して言えまい。
なぜなら、今の自分がこの少女の笑顔を独占してしまいたいと願っているのだから。
◇◇◇
ジルside
さて、帰りはもちろん恭弥に送ってもらって明日の体育祭も僕のところ来てよねといわれた。明日は皆で応援に行くはずだからそれは無理かも知れないけどまぁお弁当は恭弥と食べるって約束だしちょっと顔を出すぐらいにはできるはず。バイバイと手を振り見送った後、ただいま~と言いながら家の中へと入ったら。
「パオパオ!」
パオパオ老師がいた。玄関で何をしているのか理解不明。
驚愕するしかない私にリボーンは早速出かけるぞと言ってきた。
「ジル、丁度いい時に帰って来たな。ツナのとこ行くぞ」
「……綱吉はどこにいるの?」
「笹川了平のところだ。どうせ、怖気づいて断りにでもいったんだろう。面白いもの見せてやる」
「?」
まあ、沢田の面白いトコ見れるならいいかなと気軽な気持ちでリボーンもといパオパオ老師に着いていった。そしたら、笹川兄と合流。
「お久しぶりです!パオパオ老師!!」
「パオーン!」
なんだ、この熱気はこっちまで伝わってくる。熱伝導か?私は思わず後ずさりしてしまった。でも大きな棒を持ってきた笹川兄は私を視界で捉えた瞬間「おおっ!」と大きな大きな声をあげて顔を近づけてきた。
「お前かっ!俺が気になってしょうがないという少女は!」
「え、いや、あの、それ一部違います。気になって仕方がないのは貴方の決め台詞で」
「そうか、そうか。お前もこのすばらしいボクシングを気になってしょうがないという事だな!」
「だから、ちが」
「うっむ、しかし、お前はまだ、幼い。だがその熱い精神!!俺はすばらしいものだと思っている!」
「人のはな」
「では、こうしないか!?俺と毎朝ジョギングをし、共に汗をかき熱い日々をすごすというのは!」
言葉を発する余地させこの男は与えない。しかも距離が近い。熱い、近い、熱い、近い!どうしようと本気で困ったその時ズキューン!と銃声音と一本の銃弾が私たちの間を掠めた。
「……」「何!?」
はらりと笹川の額を一滴の血が流れていく。私達が一緒に視線を向けたその先にはパオパオ老師、ではなく。いつもの黒服に着替えているリボーンが立っていた。
しかも、なんだか彼が纏うオーラが違うのだ。殺気立っている。あれは殺し屋リボーンに相応しいオーラだった。この私でさえ一瞬震えてしまうほどに。
「さっさとジルから離れろ」
それは、命令以外のなにものでもない。私はささっと身を離し巻き添えをくいたくないので逃げた。それからしばらく沢田のところまでたどりつくまでは無言だった私達。まるでお通夜状態。その後は沢田たちと合流して沢田が棒倒しの大将になったからそれの練習。
隼人と笹川兄がケンカを初めて棒を支えきれず沢田は川へ落ちた。
うん、満足のいく落ちっぷりに思わず拍手したくなったが、ぐっと堪えて心配そうな演技で沢田へと近寄った。ああ、笑いを堪えるのがきついわ。