また暗い所に来ちゃった。ここは確かに居心地がいい。ずっといたいと思ってしまう。
けどここは誰もいない。そうひとりぼっちだ。
すると突然暗闇の中から甘くささやくような声が聞こえる。
『あら、ワタシがいるわ』
貴女は、誰。一体どうして私に協力してくれるの。
『ワタシはワタシよ。貴女の為だけに存在し貴女の為にだけにある存在』
教えて。貴女は一体私に何をしたの?力をくれるのではなかったの?
『あら、心外だわ。もう全て渡したのよ』
え。
『ワタシは確かに力をあげたわ。ワタシという力を』
貴女、を?
『ワタシは貴女、貴女はワタシ。覚えておいて、ワタシは貴女を決して裏切りはしないわ。たとえ現実が貴女を裏切ろうともワタシだけは決して見捨てない』
まって!
『たとえ貴女が壊れてもずっと側にいるわ。ねえ?だって、ワタシ達は『二人』で『ひとつ』だもの。ずっと昔から』
◇◇◇
勢いよく瞼を開いた私の視界にまず一番飛び込んできたのは高い天井と豪華なシャンデリアだった。あれ、私の部屋こんなにゴージャスだったかしら、と……視界がぼやけたままゴシゴシと手の甲で目を擦った。
「ニャ」
するとあの子猫の鳴き声が枕元でする。そちらに自然に目が行くと子猫ちゃん側にずっと傍に居てくれた様子で私の膝の上にちょこんと上ってくる。
ありがとう、子猫ちゃん。ほんわりと胸が温かくなると同時にお礼を言おうとした。けどある違和感を感じ、ふと手を喉に当ててみる。
「……………」
どういうわけか、自分の口から漏れるのは空音のみ。口を開いてもパクパクとしかならないのだ。これって、……声が出ていない?………嘘!?
なんで!あの時は喋れたはず………?と途中で何かおかしいことに気づく。
……あれは、私じゃない。あの子だ。不可思議な力をくれたどこかおかしくも懐かしい感じする女の子。そうだ、あの子に眠ってと言われて意識を失ってから私はその後の記憶がない。つまりこの見慣れぬ空間に連れてこられた経緯を知らないのだ。途端に私は子猫ちゃんを胸に抱いてベッドから降り辺りを警戒しだす。しっかりと靴を脱がされた素足で冷たいじ絨毯の上をそろりと歩きだす。囲まれるように見事な調度品などで目が眩みそうになる。金銭感覚がおかしくなりそうだ。
どこだ、ここは何処なんだ?
頭がオーバーヒートしそうになった時、ドアが開かれハッとそちらに目が向く。
「ようやく目を覚ましたか?お嬢ちゃん」
ガッツリ金髪のイケメンが何処かほっと胸をなでおろしたかのようにフレンドリーに話しかけて部屋に入ってくる。こちらが警戒していることを理解して、その歩みはゆっくりだ。私はイケメンと距離を取る為に壁際にじりじりと後退する。部屋の状況を確認しながら、脱出ルートを確保できないかイケメンに視線をやりつつ、視線を彷徨わせる。
「…………」
「どうした。俺が怖いか?」
イケメンに気づかれている。私が逃げようとたくらんでいることに。安心させるように優しい声音で話しかけて一定の距離でその歩みは止まった。腰を落として床に片膝をついて、その大きな手を差し出してくる。
怖い、そう。怖いんだ。見知らぬ者に襲われた直後だから尚更だ。それに、……声が出ない事ももどかしい。どうやって自分の意思を伝えればいい?
今まで普通にできたことが急にできなくなる不安は経験した者でなければ理解などできまい。
だから感情の高まりから私は、つい弱気になってしまった。
弱音を、見知らぬ男の前で明かしてしまった。
◇◇◇
ディーノside
「どうした。俺が怖いか?」
できるだけ不安を与えないように優しく話しかけた俺だが幼い少女は何も言葉を発しない。ただ、子猫を胸に抱きオレをキッと紫紺の瞳で睨み付けてくる。小さな体は可哀想なほどに震えていて俺に怯えていることが丸わかりだった。
なぜ?もしかしたら俺がマフィア関係だと感じているからなのか。いや、そんなことはないか。まだまだ幼い子供。家族と引き離されたことで混乱しているんだろう。
俺は真摯に少女に言い聞かせる。
「俺は、お前を、決して傷つけはしない」
一言一言区切りながら話しかけた。すると少女は何か堪えていたものが溢れたのか、瞳から涙をぽろりと一つ零す。俺はたまらず腕を伸ばしてその小さな身体を引き寄せた。
少女の体がビクッと反応したが身じろぎ一つせず、されるがまま少女は俺に身を委ねる。
俺の服に少女の涙がしみ込んでいくのが分かる。
「俺が側にいてやる。お前を一人にはしない。だから、怖くないぞ」
何度もそう言い聞かせると、少女はついに恐る恐る俺の服をぎゅっと掴んだ。少女の手はまるで離さないでといわんばかりに必死さが指先から伝わってくる。
何も話してはくれないが、きっと怖い目にあったのだろう。この小さな少女を守らなくてはと使命感のようなものが俺の中で芽生えた。あのような惨事の中無事でいたことが何よりの奇跡だと思う。誰に反対されようともこの子の笑顔を見るまでは、守ってやりたい。
そう、親心のような気持が俺の中で芽生えた。