ジルside
いろいろ忙しかった体育祭だけど私は満足である。
やっぱり、殴りあう男って最高だと思います。私に被害が及ばない範囲でならいくらでも殴り合え。クフフ。あれ、なんか誰かの笑い方っぽい?
「……それにしても」
カタカタとパソコンをいじりながら一言。
「結構、集まったよなぁ~」
そうなのである。こっちから動かずとも自然と欲しい情報が集まっている。
各並森の主要人のプロフィールからマル秘情報まで。
様々ではあるがそれが最初に比べたら圧倒的に多い。これは嬉しいことだ。
まぁ、私個人による涙ぐましい努力の成果でもある。
それにボンゴレの機密情報もパソコンを通して入手している。
おほほほ!パソコンスキルは完璧だぜ。
その中には、あの時イタリアで私が誘拐され時に相手のボスが言っていた言葉。
『蒼龍姫』
この言葉がずっと頭の端っこに残っていて消えることはなかった。
虚像の指輪と虚像の花嫁。そして、蒼龍姫。
この三つのキーワードを調べ上げればどうしてザンザスが氷漬けに去れなければならなかったのかも理由がわかるかもしれない。当初、沢田に聞いてみればなんて子供じみた考えだったがそれでは彼は救えない。あの沢田では役に立たないということはそばで見てきて痛感されられたことだ。この先訪れるであろうリング争奪戦という筋書。
この世界ではザンザスが目覚める時期はいつなのだろうか。ザンザスは目覚める。そうだ、彼は氷から解き放たれる。でも、その先に待っているのは彼にとっても、ヴァリアーの皆にとっても酷な世界だ。うまくいけばもしかしたら無駄な争いなどせずに無事にみんなでイタリアへ帰れることになるかも。誰も傷つかずにヴァリアーのみんなとディーノと私でイタリアに帰れる。また、あの幸せな時間が戻ってくる。
ボンゴレなんか全て沢田に任せればいい。もともと、とばっちりで巻き込まれたようなもんだ。そうだ、いっそのこと虚像のリングなんか壊してもう虚像の花嫁は存在しなくなったんだって世界中のマフィアに情報を流せばいい。
そうすれば、そうすれば。
私は幸せに
『幸せになれる?』
誰かの声が頭の中で突然響いた。それは知らないようで知っている声。
えっ。
『本当に貴女は幸せになれる?』
聞き覚えがある声だ。それは私の声に似すぎだから。
また貴方なの。私は、…幸せにならなくちゃいけないの。やってみなくちゃわからない。
……だから成功させなくちゃ。
『貴女はそうやって全てから逃げるのね。そうよね、誰だって自分が一番可愛いもの。それは人間として当たり前の本能だわ。迫りくる恐怖から身を守る術は逃げる事。でもね。そんな必要、ないのよ?だってワタシがいるもの』
相変わらず少女の言葉は意味不明な言葉ばかりだ。こちらを戸惑わせようとしているのか、それとも忠告のつもりで助言してくれているのか。ただ、私の知らない記憶の手掛かりを持っている。それだけはすぐにわかる。
……逃げる?私が?何から逃げるっていうのよ。
『そう、あの時もあの時も逃げた。だから貴女は此処にいるのよ。ああ、可愛いもう一人のワタシ。無知な貴女は赤ん坊のように可愛いわ。誰にも渡したくない誰の目にも触れさせたくない。ワタシだけが永遠に独占していいのよ』
貴方は…何が言いたいの。
『でも聞いてちょうだい。今の貴方は仮初の貴方。
消えてしまうまえに貴女が全てを否定してしまうまえに。はやくワタシを受け入れて、はやくワタシに気がついて。ワタシは貴方を失いたくないのよ。だって何よりも大切で愛おしいから。そう、時間は残されてはいないのよ』
砂時計の砂は下ろされた。
◇◇◇
なんか擦り寄ってくる感触が肌を触る。くすぐったい。
「……にゃ…」
ふと気がつけばパソコンの前で眠ってた。起こしてくれたクロにお礼を言いつつ、ぐーんと背伸びをした。
「…う~~ん。いつの間に寝たのかな…」
首がビキビキと音が鳴るようだ。
ふと首元のチョーカーを触ってしまう。それはザンザスが私にくれたもの、だと思う。
本人から直接手渡されたわけではないし、気がついたら首につけられてたから変な気分だったけどこの赤いひし形の宝石は鏡を見るたびにザンザスの瞳の色を思い出す。
彼は私につける時どんなことを想ってつけたのだろう。どんな表情をしていたのだろう。
今となっては分からない。だから彼にお礼を言いたい。直接会って話して彼は笑顔を見せずにぶすっとした顔になるかもしれないけど笑いあいたい。
ザンザス。もう少しで、もう少しで逢えるから。
決意を新たに固めなおして私は喉が渇いたので一階に下りる事に。そしたら玄関に見慣れた靴をいくつか発見。台所に向かったら奈々さんがお菓子を準備していた。
「誰か来てるの?」
「ジルちゃん、丁度よかった。これツっくんの部屋にもっていってもらえないかしら」
どうやら武と隼人、それにハルが来ているとのこと。
ジュースは先に運んでいるみたいなのでお子様な私でも持てる重さだ。
「わかったー」
奈々さんの頼みならば断れまい。んしょ、んしょと階段を上がり部屋の前まできたはいいが両手が塞がっているので大声をあげた。
「あーけーてー」
反応ない、というよりも聞こえていないのほうが正しい。一向に待っても開けてくれる気配はないのでお盆を下において自分で開けた。
「綱吉―。お菓子もってきたよ」
ガチャリとドアを開ける。すると、
「…ワォ…」
思わず恭弥の口癖真似してしまうほど目の前の光景に驚いた。
「ジル!?」「ジルちゃん!」
皆が一斉に驚きながら私を見やる。なんと沢田の部屋に死体が横たわっているのだから。
殺人事件か!?おっと、冷静になれ私よ。これはあれですな。動かないで!真犯人はこの中にいる!ってやつですな。
「やぁ、ジル」
真犯人が増えた!?ってのは冗談で窓から侵入したっぽい風紀委員長サマが軽やかに挨拶してきた。彼、恭弥は室内に土足で死体を踏み踏みする。
「借りはいいよ。赤ん坊。ジルをもらってくから」
「おい!?」
そう言って近づいてきた恭弥は私を横に抱き上げたまま窓からひらりと躊躇いなく跳び下りた。
「ぎゃ!」
「大丈夫だよ。ちゃんと捕まえてるから」
そういう問題ではない!
「きょん!いきなりすぎ」(2階から飛び降りるとか自殺行為だろ!?)
「いいじゃないか。楽しかっただろう?」
幼児でも二階から降りて楽しむ余裕はない。しまいには頭上にダイナマイトの雨である。
私もいるんですけど―――!こら―!隼人めぇ―――!
「このぉ――!果てろ!」(ビシュッ!)
「君、ウザすぎ」(かきぃーーん)
私を腕に抱えつつのトンファー返し!
お見事です!どうせなら降ろしてからしてほしかった。(逃走できるし)
ちゅどーん!
沢田の部屋からは大きな黒煙がもくもくと発生し、私は恭弥に拉致られ並森中へ華麗に移動。なお用意周到な彼によって私の靴はすでに用意されていた。
だが私は不機嫌そのものですわざとらしく膨らませて抗議しまくった。
いつものソファに座らされ隣にはさっきから私のご機嫌どりの恭弥が据わっている。
「いきなり連れ去りますか普通。横暴すぎ人の意見も聞いてよ。聞いてくれないかもしれないけど聞いてよ。説明もしてくれよ!殺人事件はどうなった!?真犯人は!?」
「ゴメン、機嫌なおしてよ」
「やだ」
つーんとそっぽを向いて腕を組んでいると、ソファから席を立った恭弥がごそごそと何やらしている。何をしているんだろうと気になりつつ、ここで甘く出てしまっては立場逆転だと気を強く持たせる。すると、横目に恭弥から差し出されたお皿に乗せられたあるブツ。
「ホラ、これ買ってきたから君の好きなアップルパイ。ね?一緒に食べたかったんだよ」
「是非もなし!」
私は喜ぶ犬のごとく、しっぽ振ってアップルパイにありついたのだ。
あはは、女なんてこんなもんですよね。そうだ!大好物の前じゃ理性も吹っ飛ぶってもんさ。結局夕方まで恭弥といることに。
家に帰ったらそれもうリボーンとかまだ帰ってなかった武と隼人それにハルもめっちゃ怒ってた。沢田は私の姿を見た途端、「ジル!?何もされてないか?」と駈け寄ってきてぺたぺたと体中心配そうに触ってきた。私が何もされてないよと答えるとわかりやすい表情でほっと溜息をついて、なぜかお説教してきた。
「簡単にホイホイ着いていっちゃダメだろ!?」
「着いて行ってないよ。拉致られたんだよ」
「それでも嫌だとか暴れればいいだろ」
「無理だよ。だって私非力だし」(なんですか喧嘩売ってんですか?)
「まぁ、そうだけど」
ズバリな指摘であるけれどまた納得いかないといった顔つきである。
「それに綱吉、助けてくれなかったじゃん。なのに私を叱る資格とかあるの?」
「なっ!?」
どうだどうだ!正論に言い返せないだろう。だって事実だもん。
「………疲れたから奈々ままのとこ、いこ」
綱吉が何やらぼそぼそと呟いていたけど関係ない。私は無視して奈々ままのところへ向かった。
『………俺、子供相手に、何言ってんだ……』
(子供にみえない子供)