ジルside
『今日の午後、お祭があるのを知ってる?……よかったら一緒にいかない?』
朝一番の電話はお祭りの誘いだった。
夏の風物詩『花火』!まさかまさか恭弥からお誘いを受けるとは思ってなかったよ。
だって朝の7時きっかりに電話の着信。
出たら恭弥の声でいつもいつも強引だと思ってたけど誘ってくる声はどこか緊張している様子だった。昨日、沢田からも一緒に出掛けようと誘いはあったんだけど断っておいた。
イーピンとかランボとかフゥ太に悪いことしたけど沢田には全然罪悪感は感じていないです。体調が悪いことも知っているので残念そうにはしていたけどね。
うーん。この頃、体が重く感じてしまうのだ。そう体のどこかしこに重石でもくっつけているのではないかってぐらいなだるさ。調子のいい時と悪い時があるみたいでそれは波のようにでこぼこだけど体の不調は続いている。たぶん夏の暑さによるダルさだろうさ。
今朝はまぁ、割といいほうなのでお祭りもいけるはず。
「奈々まま、お祭り行って来ていい?」
私の体温を測りにきた奈々さんにおねだりしてみた。
朝は何にも食べられずおかゆいっぱいで終わってしまったが。奈々さんは少し困り顔になる。
「……ジルちゃん…」
「お願い!きょんと、きょんと行きたい…」
なんとなく、これが最後になってしまうそんな不安に駆られてしまった。どうしてだろう。
体調が悪い事で気分も沈んでしまうからだろうか。
奈々さんは私の必死のお願いに困っていたが恭弥が付いているならばと折れてくれた。
「私から恭弥君に電話しておくわね。それまで少し休んでてね」
「ありがとう!」
嬉しくて奈々さんに抱きついた。あらあらと奈々さんは優しく抱きとめてくれた。
お母さんみたい。おかしかった。もう成人していて親離れなんかできているはずなのに。抱きしめられることが初めてのように感じてしまうなんて。ああ、今日はおかしい日だ。
※
雲雀恭弥side
朝一番に電話をかけてしまった。ジルにしてみれば迷惑かもしれないと頭ではわかっていたけど、でもすぐにでも伝えたくて。
『今日の午後、お祭りがあるのを知ってる?……よかったら一緒に、いかない?』
彼女の返事は……イエスでもなくノーでもなかった。少し考えさせてとか細く呟き電話を切られた。一瞬視界が真っ暗になった。彼女に拒絶させられたと。息が出来ない。彼女に嫌われたらと考えるだけで不安が僕を混乱させる。でも、一本の電話が僕を暗闇から救った。
「もしもし、恭弥君?沢田です」
「…奈々さん?」
ジルをいつも送り届ける時に顔を合わせる人。ジルがすごく大事に想ってる人だから自然と会話はできた。それに、お弁当も奈々さんが大半作ってくれているのも知っている。そんな奈々さんから電話がかかってくるとは思わなかった。
「ええ、ジルちゃんのことなんだけどお祭り一緒に行くそうよ」
「本当ですか?」
「ええ、どうしてもって。で、悪いけれど条件をださせてもらうわ。ジルちゃんこの頃体調を崩しているからよく気をつけてあげてほしいの。やっぱりお祭りだから人混みもすごいだろうし、…だからよく見てあげて欲しいわ」
電話越しの彼女はとても心配そうにジルの身を案じている。
「……わかりました」
ジルが体調を崩していたのは知っていたけど、そんなに悪かったのかとショックは受けたものの僕はしっかりと返事をして電話を終えた。
できるだけジルに負担をかけないように群れている奴らは今日だけは多めに見逃そうと決めた。最後には花火もあるし。
約束の時間より早めについた僕は玄関のチャイムを鳴らす。するとしばらくして人の気配とドアが開く音がする。
「こんにちは」
対応してくれた人に僕は軽く会釈をする。
「いらっしゃい、恭弥君。支度は終わっているわ。……ジルちゃん?恭弥君がお迎えにきたわよ」
「はーい」
トントンと階段を降りてくる音。そして完全に彼女をみた時息を飲む。
白地に紫色の蝶が優雅に描かれた浴衣。帯は金と銀組合わさったもので彼女の煌めく銀色の髪は後ろであみこまれ簪でとめられている。さながら夏の妖精のようだ。
「………っ」
「変?」
「すごく、似合っている」
どう言っていいか自分でもわからないだから素直に言ってみた。それがよかったのかジルは、はにかみながらありがとうと笑った。それがなんだかはかなく感じてしまったのは気のせいだと思う。会場までは徒歩で行った。バイクでいくわけにもいかないしね。
「ほら、手だして」
「ん」
小さくて柔らかい手がすっぽりと僕の手におさまる。
それと同時に今こうしていられることが嬉しい。
彼女と並んで歩いていることでこんなにも幸せになれるのだから不思議だ。
※
ジルside
「そういえばちゃんと風紀のお仕事してる?」
「そんなの気にしなくていいよ」
速攻で言い返された。実はさっきから気になっていたのだ。
屋台が立ち並ぶところへきてすぐに色々な出店のお菓子やお面など屋台でしか買えないものを次々買ってくれた。それこそいったいいくらつぎ込んでいるのと聞きたい位に。
漫画だと私がいないはずだから恭弥はちゃんと風紀の仕事をしてて立派に活動費?を徴収していたはずだ。やっぱり気になるのでここは年上として問いただしておくべきだろう。
くいくいと彼の手を引っ張る。
「どうかした?」
「ちゃんとお仕事した?」
答えるまで絶対此処動かないからね。むーっと眉間に皺よせて言った。
そしたら珍しい。恭弥が困った顔して私の頭を軽く撫でてきた。
「……心配しなくても、風紀委員にちゃんとやらせているよ」
「それって上司としてどうなの、部下ばっかり働かせてないで自分も働いたら?」
「上司って…。今はジルと楽しみたいからお休み。それにしても……君って、結構疑り深いんだ」
「そうだよ、女ってのは執念深くて怖い生き物なんだからね!」
「へぇ。君になら僕は追い掛け回されたいね」
それは違うだろう恭弥君。まぁ、でも仕事はちゃんとやっているのでよしとしよう。
二人で仲良く手を繋ぎながらぶらぶらしていたら、
「引ったくりぃぃぃぃ!?」
なんて馴染み深い声だと思ったら沢田だった。恭弥もなんか行きたそうにうずうずしてるようだし。ならばここは年上として快く送り出してあげるべきだろう。
「噛み殺してきていいよ」
「君一人にさせるわけにはいかないし風紀の人間がやるでしょ」
幼児に遠慮しなくても……。ハハーン!わかったぞ、やせ我慢だなー。
よしよし、ここはいっちょ私がひと肌脱いであげましょうか!
「駄目!」
「ジル?」
「きょんは並森が大好きなんでしょ?だったらあんな奴ら噛み殺してきてよ。並盛の秩序を乱す奴には制裁を!が風紀委員のスローガンでしょ?」
「……ジル……」
それでも恭弥は動かない。もう、素直じゃないなー。だったら実力行使しかあるまい!
私はばっとお菓子などを恭弥に押し付け持たせた瞬間、ばっと浴衣をまくしあげ、ぎょっとする恭弥を背にして走り出した。
「ちょ、ジル!?」
きょんが動かないんだったら私が動けばいい。そしたらきょんは私を追うしかなくなるはず。あーいうお馬鹿なやつらは徹底的に潰さなきゃ駄目なのだ。
長い石段を頑張って上りきりました。そしたら居たよ、あの大量のゴミ共。
しかも沢田までおまけつき。
「ジル!?なんで、ここに!」
「さて、どうしてでしょう」
「ふざけてる場合か!」
沢田のツッコミとかどうでもいい。今は相手してあげない。
それにしてもどうして、こういうごみどもは勝手に勘違いして勝手に暴れるんだか。
顔が面白いぐらいに変形してるやつがじろりって見てきた。それも汚い笑み浮かべてね
「おいおいおい、あんときの餓鬼グループにいたちびっこじゃねぇか。きれーな浴衣着せてもらっておにーちゃん庇いに来たってか?けなげだねぇ~あははは!」
「お兄ちゃんじゃないし庇ってるわけでもないし勝手に決めつけるなボケ!」
中指おっ立てて挑発してやった。そうしたらわかりやすい馬鹿だ。逆上したもん。
おっと!良い子の皆様はマネしないようにね?
「なんだと!?このクソ餓鬼がぁー!」
「ジル!」
私のやっすい挑発に見事かかったおバカさん一人。おばかさんがナイフ取り出して襲ってきた。うーん、絶対絶命?沢田も青白い顔してるし。
いやいやそんなことないですよ?
ガキィーン!
お馬鹿さんのナイフは円を描くように綺麗に弾き飛ばされた。
私の目の前には黒い学ラン。彼は思いっきり走って来てくれたことがすぐにわかった。
だからこそ、嬉しい。すぐに追いかけて来てくれたことが。
だから笑顔で彼を迎えた。
「きょん、待ってたよ」
「……君って、子は……!」
うーん。なんか怒られそう。トンファー出してる姿はやっぱり並森の秩序だ。沢田が恭弥の脇を通ってこちらにやって来た。肩を乱暴に掴まれる。
「ジル!」
「綱吉」
「怪我ないよな!?どこも痛いとこないか!?」
ぺたぺたと体を調べられて私が「大丈夫、どこもなんともないよ」と答えると
「……よかった……」
とほっと息をついた沢田はすぐに恭弥に弾き飛ばされた。そして目の前には恭弥にチェンジ。
「僕の寿命を縮めるのがよっぽど好きみたいだね。ジル」
青筋浮かべた恭弥が笑顔でぐみょーんとほっぺを引っ張る。痛い痛い!?
「ほへんひゃ~いい~~!?」
あんた力込めすぎ!!ほっぺ伸びる!!
「まぁ、今はこれぐらいにしてあげる」
「ほっ」
「あとで、おしおきするから」
「お断り「できないから覚悟してて」ですよねー」
宣告されてしまった!?
それに復活した沢田もなんかすっごくいい笑顔です。それが怖い。
どっから拾ったのか鉄パイプ持ちながら
「俺も言いたいことたくさんありますけど、今は……」
「君たち、………殺される覚悟、できてる?」
途中から武と隼人も参戦。もう奴さん。笑えるほど壊滅状態。
ほんとに指さして笑ってやった。
無事にゴミも片付けてお金も回収できて最後はみんなで花火をゆっくり眺めた。
もちろん、他のみんなに心配もされたし恭弥も嫌がってたけどみんなから離れたところで一緒に花火を観た。
すごく、心に響く花火だった。
その後お仕置きもされました。ええ、忘れてなかったのね。
ちなみに、お仕置きの内容は……ご想像にお任せします……。