闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的23義兄再び

離れた時間だけ恋しくて仕方がなかった。

だから、彼が腕を広げて、駆け寄ってきてくれた時に私の体はもう走っていた。

 

「ジル!」

「ディディ!」

 

バッとお互いがスローモーションのように感じられた。

でもそんなんもの今までの長い時間を埋めるものであれば関係がない。広い広い腕。

いつも安心させてくれるたくましいからだ。そのすべてがジルのものだ。今この一瞬だけだったとしても。お互いが今はお互いを想っているのだから。朝からジルは張り切って支度をしていた。体調が悪いのを隠してだ。いつもは適当な服も一番可愛い服を選び、髪だって念入りにセットした。鏡で自分の顔をみたらいつもより白すぎたのでビアンキ姉が軽く化粧をしてくれた。沢田とリボーンとクロと共にタクシーに乗り込み空港にてディディをまつ。その待つ間さえジルには永く感じられたのだ。逆にその姿を肉眼で確認できたときの歓喜は表現しようがない。駆け出したジルをとめるものなど、この場には誰もいなかった。空港には他にもジルにとって家族である、ファミリーの姿が。

 

「よう、元気だったか?」

「ロマーリオ!」

 

ディディが居ないときいつも遊んでくれた家族。ドンっと勢いよく飛び込んだ。

そして一気に視界は高くなる。

 

「おいおい、お姫様は相変わらずお転婆だな」

「ロマーリオも相変わらずひげひげだね!」

「これが俺のトレードマークなんだよ!」

 

ドッとファミリーに笑いが溢れた。今までも彼等は息が詰る生活だったのだ。

いつもの明るく寂しがりやなジルがいないことになれることなどできなかったのだ。

だが、今この場で笑っている表情をしていない仲間はいない。みんながジルとの再会を心から喜んでいるのだ。ディーノもそれをこの場のみんなの表情で体感した。

ロマーリオからジルを受け取り、首元にすがりついて離さないジルをふんわりと撫で、ようやくツナとリボーンに遅れてあいさつをした。

 

「よう、ありがとな。ツナ、リボーン。ジルを連れて来てくれて」

「いえ、おひさしぶりです。ディーノさん」

「さっさとそのニヤケ顔しゃきっとしやがれ」

「なんだよ!リボーン、いいじゃないか。嬉しいんだから。なぁ?ジル」

「うん!はやく行こうよ」

「ハッハッ。慌てなくたって消えたりしないよ」

 

一同にぎやかなまま、ツナの家に向かった。

 

 

でも、全員は家に入りきれないので大半は外で待っているのでツナの家の前を通る人は恐怖におののく結果となる。さて、沢田の部屋にてこれまであったことを全てディーノに話したジル。その中にはまぁ、自分に関する事は当然話さなかった。

いらぬ心配をかけたくないからだ。ジルが一生懸命、話せばディーノはちゃんと相槌をうち、笑ったり、ときたま怒ったりする。ちゃんと会話してお互いの事を教えあって笑って。ジルはそのときに本当のジルになれた。漫画の登場人物として好きになったのではなく同じ『人』として大切だと思えるようになったのだ。ディーノがジルがジルとして愛してくれるように、ジルもまたキャラとしてではなく大切な家族として愛している。もちろん、ファミリーのみんなも。もともと体調が悪かったジルはまだまだ話したりない様子だったが、奈々がいち早くジルの具合の悪さに気が付き部屋に連れて行った。いくら化粧で誤魔化していても隠し切れなかったのだ。ディーノも気がついていたのか一緒に部屋についてきた。

 

「ジルちゃん、ちゃんと寝てなきゃ駄目だからね?」

「うぅ~」

「安心しろ、傍にいるから」

「………うん……」

 

自室についたジルはパジャマに着替えさせられベッドに強制睡眠。実は結構無理をしたせいで体温も上がっていたのだ。奈々は頭に氷枕をセットしたり喉が渇いたらいけないので飲み物などを用意した。無論、ディーノも手伝おうとしたが部下は外で待機しているので。へなちょこ状態では手伝ってもすべて裏目に出てしまうのでツナがストップさせた。やっとすやすやと眠りについたジル。さっきまで異常に体温があがり中々熱が下がらなかったのだ。ジルの面倒は奈々がみるとのことで部屋を追い出された二人はツナの部屋に移動した。ツナはベッドに、ディーノは専用の黒椅子に座り重々しい息を吐いた。

 

「……無理、させてたんだな…」

「……ジルはずっと前からディーノさんに会えるのを楽しみにしてたんです。こんなに無理するくらい、俺、予想できたはずなんだけど」

 

逆に俺が情けないとツナが肩を落とす。ディーノはぽんとツナの肩を軽くたたき慰めた。

 

「ツナのせいじゃないさ。……それにな、ツナ。聞きたいことがある。正直に答えてくれ」

「……はい」

 

真っ直ぐにツナの瞳を見つめ、ディーノは真剣な表情で問うてきた。

 

「お前は、ジルをこの子を本当に好きか?」

「…好きって好きですよ。その生意気だけど目が離せない妹、みたいなとしてですけど」

「ただの妹してか?」

 

ディーノの真意がわからずツナは怪訝そうに言い返した。

 

「じゃなきゃただのロリコンじゃないですか。……俺は一般人なんだ。マフィアなんかなりたくない!……ジルがどう思ってるか知りませんけど俺はマフィアと関わり合いになりたくない……!ジルだって普通の子供みたいに振る舞いたいに決まってますよ。そうだ、ディーノさんから九代目に頼めませんか?そうだ!その方がジルの為にもなりますよ。きっと!今俺の婚約者だとかわけわなんない状況からジルをやめさせることを」

 

と、ここでツナの発言は突如終わった。バシッ!と容赦ない一発が後頭部にお見舞いされたからだ。

 

「いたっ、何す……」

 

またリボーンか!?とジンジンと痛む箇所を手で押さえつつ振り返ると、ツナは思わず言葉を途中で詰まらせた。なぜなら自分にむけて殺気を隠すことなく向きつけた赤ん坊がいたからだ。

 

「馬鹿ツナが。何勝手に決めつけてんだ。だったらアイツの意味はどうなる。ディーノと無理やり引き離されて日本にやってきた意味がなくなるんだぜ。お前がどう思ってるか知らねぇがな、ジルは生半可な気持ちでお前のそばにいるわけじゃねぇ。九代目からの命に逆らえないディーノの立場をわかった上、ボンゴレとキャバッローネとの関係にひびが入らないよう自分で納得したことにして日本に来たんだ。いわばアイツは人質なんだよ」

「ひと、じち…?」

 

あの幼い身で人質?ジルが決意して日本に来たって?俺、そんなの知らない……。

 

ツナはいつにないリボーンの殺気みちた視線に反射的に体を震わせた。

ぶるる、と背筋が凍るかのようだ。ディーノがリボーンの名を呼んでそれ以上はと、首を振り止めさせた。

 

「…リボーン……」

 

リボーンはディーノを一瞥してふいっと視線をツナから外し、帽子のつばをきゅっと手で下げ顔をそむけた。

 

「……わかったら軽々しく『やめさせる』なんて口にするんじゃねぇ。…アイツの決意を侮辱する奴は俺の弟子でも許さねぇぞ」

 

だが、ツナに釘を刺すことは忘れていなかった。

反対にツナはリボーンがジルのために怒ったことを意外だと思っていた。

 

だって、あんな子供に何を本気になるっていうんだ。

獄寺君とか山本とかヒバリさんとか、いかにもジルを一人の女の子として扱っている印象を受けるし言動ひとつみるにしても好意を抱いているというのはまるわかりで、なおさら理解できない。いつもそういうのをそばでみている側としては、いつももやもやとした気持ちにさせられる。一般的な常識を持っているのは俺だけで、この危なっかしい妹みたいな子を守れるのは俺だけだと再認識する毎日だった。

可愛い顔して減らず口で生意気で年下のくせに妙に男気があるというか、堂々としていて時々自分より年上なんじゃないかって思う時もあった。まぁそんなわけないけど。だからなのかな。目が離せない、っていうか存在感があるっていうか。

そういえば、俺っていつからこんなにジルを気にするようになったんだ?

最初はやっかいな子が来たなって溜息しか出なかったはずなんだけど、いつの間にかジルがいる日常が当たり前になってて、ジルが危ない目にあうんじゃないかってハラハラするようになって、学校に行ってても頭の片隅にはいつも、ああ、ジルは何してんのかな、一人で散歩とかしてないよなとか、またヒバリさんに誘拐とかされてないかなとかろくでもない心配ごとばっかりで授業にも集中できなくて先生に叱られたりとかして

気分が落ち込んで獄寺君に全力で慰められても気分が晴れなかったのに家に帰ってジルが玄関開けた途端に『お帰り、綱吉!』って笑顔で迎えてくれた途端に落ち込んでた気分も一瞬で晴れるとかどんだけ俺ってジルのことばっか考えてたんだ!って部屋で頭抱えて悩むこともあったな。でもそれはジルが破天荒すぎるから心配のあまりのことだってあとからわかったから多少はすっきりできたけど。

 

だって俺が好きなのは京子ちゃんなんだから。

あの天使みたいな子はどこ探したっていない。

 

ジルみたいに口喧嘩することはないし、

ジルみたいにわかりやすくへそ曲げることもないし、

ジルみたいにお菓子に釣れられて誘拐されることないし、

ジルみたいに子供っぽく笑うこともないし………。

 

あれ、なんでさっきからジルばっかりなんだ?

なんでジルと比較してるんだ俺。そんなこと、必要ないじゃないか。俺が好きなのは京子ちゃんでジルは比べる対象ですらないのに……。

 

ツナはぶんぶんと頭を振りながら叫んだ。

 

「あわわ!何考えてんだ俺!?」

「どうした?ツナ」

 

ディーノが怪訝そうにたずねてきた。ツナは挙動不審な態度で突っ込まれてもおかしくないながらもそれをはねのけるような勢いで両手を全力でぶんぶんとふりながら

 

「は、ハイ!?いいい!いいえ!なんでもありません!」

 

と速攻言い返した。

 

「そうか?……ならいいんだが。……」

 

ディーノはそれ以上聞き返すことはせずにいったん口を閉じた。

視線をドアの方を向き今も苦しい思いをしているであろうジルに想いを馳せながら、小さな声でつぶやくようにツナに言った。

 

「ジルには、あの子には辛い思いをさせたくないんだ。……最後の時まで……」

「えっ」

 

最後の、時?

ツナにはすぐに理解できない言葉であった。だがディーノは一人呆けるツナをよそに悔しそうに拳を作ってはダン!と椅子の肘掛を強く叩く。辛そうに絞り出すような声で叫んだ。

 

「本当はツナの言う通り今すぐにでもイタリアに連れて帰りたいんだ!どうにかできるんならすぐにでもやってる!!……でもジルをツナから離す権限は俺にはない。俺には権利なんてものすらないんだ。……どんなに手放したことを何度と後悔したか……。今となっても毎日後悔の念は消えちゃくれない。ジルを、あの子のことを九代目に教えるべきじゃなかったのかもしれない。もともと無理がきかない体だったんだ。だから日本に来て前よりも病状が悪化した……。全部、全部俺の所為なんだ!」

 

何とも重苦しい雰囲気にツナは何がなんだかさっぱりわからず声を上げた。

 

「ディーノさん、急に」「ジルはあと少しで死ぬ」

「え」

 

ツナはディーノの言葉に一瞬にしてまるで凍り付いたかのように固まった。

 

「……ジルは、あと少ししか生きられねぇんだ。今は薬でなんとか生かされている状態だ。人よりも抵抗力が極端に弱いからあっという間に風邪なんか貰っちまえばころっとくたばっちまう弱く脆い子なんだ。シャマルが処方した薬は効果は絶大だが幼い身には毒にもなる。それがあの子の体力を極端に奪った結果なんだよ」

 

ディーノが苦痛に満ちた表情で語ったそれ。ツナには冗談にしか聞こえなかった。

 

だってジルがだよ?

 

「…嘘、でしょ?」

 

ツナの声がかすれてまともに喋れない。音とならない。それでも事実を否定してくれる人間はいなかった。ディーノは苦痛に耐えるかのように唇をかむ。

 

「嘘じゃねえ。シャマルが下した判断だ。間違いはない。……信じたくはないがな」

 

リボーンは帽子のつばで表情を隠す。さきほどまでの強気なリボーンは見る影もない。

 

「……死ぬって…そんな大げさな……何かの間違いだろ?」

「ジルは俺と一緒に暮らしてた時ももともと体が弱い方だった。ジルには言っていなかったが」

「だからって、そんな死ぬとか……大げさな…はは、は…」

 

はははとから笑いするツナにディーノは同意することはなかった。

 

「ツナ」

「ディーノさん……冗談、キツイですよ……」

 

ツナは頑なに信じようとはしなかった。

リボーンはそんなツナの様子を見守ることしかできずにいた。

 

「……お前がボンゴレ十代目になりたくねぇって気持ちは俺も経験してたから痛いほどわかる。だがな……」

 

ディーノの言葉はそれ以降、ツナの耳には届いてはいなかった。

 

ただ、ただ信じられなくて。死ぬとか、ありえないだろ。

あのジルが?

 

死ぬ?

 

なおさら、ツナは否定したかった。否定したいからこそふらついた足取りで立ち上がると、ディーノの呼び止めなど聞こえないままジルの部屋へと向かった。

事実を否定したかったから。きっと、ジルは風邪で体調を崩しているだけで本当はすぐに回復するはずなんだって。そうだ、きっとそうなんだ。

自分に言い聞かせるように何度も何度も呪文のように続けて続けて。

そしてジルの部屋のドアノブに手をかけてドアを開く。

 

静かな室内のベランダ沿いに置いてある小さなベッドにジルが静かに横になっていた。

 

「嘘、だろ…ジル」

 

ツナはジルが眠るベッドに近づき腰を掛けた。

いくら名を呼び、声をかけてもジルは目を覚まさない。薬が効いているのだろう。その表情は先ほどまでの暑さによる苦しさから少し解放されて穏やかだ。

 

「……ジル……」

 

そっとジルの銀色の髪を手の甲で撫でる。

あの子憎たらしい、だけど憎めないお転婆な少女の面影は一切消え去っていて、まるで蝋人形のようだ。けどかすかに胸が上下していることだけがジルが生きている証。

 

「……死ぬなんて、嘘だって、言ってくれよ……」

 

返答はない。だが現実というのは残酷であり正直というもの。

事実、今ジルの容体が決して軽いものではないのだ。どうしてもっと気がつく事ができなかったのか。だが、気が付いたとしてもツナ一人個人の力ではどうしようもないほどの大きな壁が待ち受けていようとはこの時思いもしなかっただろう。

 

日常編 完




日常編完結です。ここからどのように変わっていくのかお楽しみください。
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