標的24救いの人
???視点
どうしてか目の前に広がるのは薄暗い建物の中。
ほこりっぽい空気と外からの光も感じられない。あるのは電灯のぼんやりとした薄暗い明かりだけだ。どうやら、今いるところは地下室らしき場所。うーん、理解に苦しむ。
どうやってこんなところへ移動してきているんだ。また知らないところへ勝手に来てしてしまったとか?だって、さっきまで私は自室にてベッドに横になっていたはず。意識が朦朧とする中、飲まされた薬が効いてきて眠気に襲われる私にディーノは手を繋いでくれてほっと安心して眠りについたのにはずなのに。なのに、見知らぬ場所とな?
って、なんか身長高くない?目線がいつもよりも高いし、体などが幼児体型ではない。
もしや元の姿に戻ってる……とか。嬉しいけど、複雑。記憶にないうちに服装にチェンジしているし気持ち悪い展開ですなぁ。
おっと!思考の海に落ちるのはまだ早い。それはもっと安全な場所で行うとしよう。
まぁ、とにかくこんなトコで立ったままでもしょうがないので先に進むことにした。壁伝いに進んでいくとなんとも衝撃的な場面に遭遇した。
「………うぎゃぁぁぁあああああ!」
突如思わず耳を塞ぎたくなるようなまだ年端もいかぬ少年の絶叫があたりに響いた。
その声以外にも複数の男たちの会話が聞こえてきた。私は悟られぬよう気配を消して近づく。
「これでは使い物にならん」
「役立たずめ…」
「ああ、もっと強力にしなくては」
白衣を着こんだ男たちは口々にそう手術台に乗せられた少年をまるでゴミでも見るかのような視線で見下ろした挙句、早々にその場からカルテらしきものを持って移動していった。
私は影から奴らが完全にいなくなったのを確認して手術台のほうへ向かう。
そこにはすでにこと切れている少年が乗せられていた。
実験体として扱ったのだろうか、まるで人間がやるとは思えないほどの残酷な跡が複数あった。直視できないほどの拷問のようなやり方。
この部屋の周りには手術に使うような様々な医療器具が整えられているものの、治療するために使用されているわけではないことはすぐに理解できた。
大人の都合で利用され、あまつさえその幼い命はゴミ屑同然と扱われた亡き少年に言える言葉などこれだけしかない。
「……ごめん…」
今の私にできることは、何もない。自分でも怖いくらいであるが今は気にすることではない。後でじっくり考えられるだろうし何より無残に殺された子供を葬ってあげる方が何より私に出来る唯一の事だろう。私はやるせない気持ちを胸に足を進めた。そして、行く先々には、子供を実験の道具にしている様子が窺えた。それを目の当たりにするのと同時に腹の底が煮えくり返った。こんなくだらない場所、吐き気がする。あんな腐った野郎どもが平然と子供を利用するなど。怒りは募るばかり。それと同時に力も無限に自分自身の中に溢れてくるのを感じてくるのだ。
「子供を犠牲にするような奴ら。だったら自分たちで一回実験される気分味わえばいいのに。あ、それいいかもそうだね。だったらそのお手伝いしてあげなくちゃ」
どうして、こんな気分になるんだろう。私って普段からおせっかい焼きだったのかな。
まるで高揚感、愉しくてたまらない。人間を道具のように扱う彼らの恐怖に引きつった顔が目に浮かぶ様。どうやっていたぶってなぶって遊んでやろう。死の淵まで怯え絶望し人間としてまともに死ねない苦しみに満ちた顔にさせたい。死ぬ恐怖とはどういうものなのか、楽に死ねることがどれほど羨ましいのか。終わらぬ痛みというものをわからせてあげなくちゃ。
「ああ、愉しみ」
私はニヤリと嗤った。
※
謎の少年視点
最後には誰も残らないと思ってた。
繰り返される人体実験。次々と死んでいく子供。
僕も、大人たちに右目を抉り取られ、新たな右目を移植させられた。
包帯をされていてみることはできない。そもそも、そんなこと、ここではなんの意味もない。
「おい、何をぼさっとしている!」
「っ!?」
研究員の一人に突き飛ばされ、地面へと倒された。そして頭を踏みつけられた。
自身さえもファミリーに全てを注ぎ込んでいる馬鹿な連中だ。
「…やはり、移植は失敗か」
「クッ、これでは我がエストラーネオが再び栄光を掴むことなどできん!!」
「まだ、次があります。ここには実験動物がたくさんいますよ」
「そうだな、では用済みは始末しろ」
「はい」
全てを事務的に処理する奴ら。こんな奴らに僕等は殺されるのか。
もう、考えることができない。与えられた死さえが唯一の自由。僕はゆっくりと瞼を下ろした。
男の銃の引き金に指がいきそれが発砲される!という事はなくシンとしたもので何も起きなかった。僕はおそるおそる、閉じたはずの瞼を開く。そして、さっきと同じ立ち姿の男が視界にはいった。でもその男は動く気配がない。微動ださえしないのだ。ボトリと銃が落ちた。男の手と共に。鮮血が空を舞い僕の顔を塗らす。
「貴様っ!?何処から入った!」
「…………………」
さっきの男達が大声で叫んだ。侵入者が現れたらしい。
侵入者は深いフードを被っていて性別は分からないけどかなりの手練れであることは間違いなかった。標的は、僕ではない?
「無視しおってぇ――!」
「殺せ!」
数人の男たちがその人物を取り囲む。僕は思わず叫んでしまった。
「逃げて!」
「………」
シュパ!ドシュ!グシャリと男達はあっという間にバラバラになった。そう、文字通りバラバラに。凶器など一切見せずにまるで手品でも見ているような鮮やかな手口だった。
残された男は腰を抜かし恐怖に慄いている。そんな男を無視し、カツンカツンカツンと靴音を響かせてそのの人物は僕のほうへ歩んでくる。そして、
「…あ…」
「大丈夫?」
座り込んでいる僕と同じ目線で手を伸ばしてきた。
「血がついちゃったね、ごめん」
すっと伸ばされた手は優しく僕の顔を撫でてくれた。
「他に子供はいるの?」
「えっ……い、…いる…」
「そう」
その人は僕の頬を撫でていた手を下ろし、再び立ち上がった。
「あ」
置いていかれる!そう、思った僕はその人にすがりついた。
でも、そのひとはそんなことは一切なかった。
フードの隙間からみえる形のいい唇が笑みを浮かべていたんだ。
「おいで」
たった、その一言だけで僕は救われた。顔も性別さえもわからない謎の人だけどこの人は僕をこの牢獄から救ってくれるひと。差し出された手に僕は腕を伸ばした。伸ばしかけた。
けど、ズキューン!と一つの銃声音がした。その人はゆっくりと僕に倒れ掛かるようにして崩れていく。
「あ、ああ……!」
崩れかかった体を受け止めて、僕は声にならない悲鳴を上げた。
嘘だ、嘘だ。
なんで!
「……………」
「この、化け物が、はは、ヘヘヘ、アヒャハヤハアアア!!死んだ、これで死んだァァァ」
残っていた男がその人に向かって発砲したなんて。
ああ、どうしよう、どうしよう!男は血走った目で僕達の方へ向かってくる。僕は!
「ぼげぇぇぇえええ!」
男は急に奇声をあげると血を噴出して倒れた。そして何事もなかったかのような静けさに戻る。僕は何が起きているのか理解できなくて呆けていると受け止めた体が起き上がる。
「…君、怪我は?」
「あ、生きてた…」
すい、思ったまま呟いていたけどその人は
「ん?ああ、掠っただけだよ」
と答えてまた立ち上がり何事もなかったかのように立ち上がった。体をコキコキと動かして「運動不足かな」と小さく呟いてから僕の方を見下ろす。
「君は一人で歩けるかな?歩けないならおんぶするけど」
「…え、……歩けます、けど」
「そうか、なら行こう。他の子供も捜さなきゃならないし」
そういって、その人は僕を立たせて手を繋いだまま部屋を連れ出た。僕は誘導されるがまま久しぶりの外に出た。途中、僕の他にいた二人も一緒に。
その人、女の人は脱出寸前、手際のよい動きで建物内にあった爆薬などを使ってタイマーをセット。僕たちが脱出し終わった頃に盛大に爆発した。
証拠隠滅と言っていたけど本当はきっと無残な殺され方をした子供たちへの女の人のせめてもの気持ちだと思う。僕には聞こえたんだ。
女の人が遠くで爆音響く建物をじっと見つめながら小さく呟いたのが。『ゴメンね』って。
爆炎が上がる建物を遠くから見つめながら悲しそうな顔をする女の人の手を僕はぎゅっと握りしめた。すると、女の人は僕の方を見下ろして少し驚いた顔をしていたけどすぐに目を細めて「行こうか」と笑みを浮かべて言った。眼鏡かけた子と犬みたいな奴がぎゅっと女の人の服に縋り付いた。
「さて、どこか休めるとこでもあればいいんだけど」
「あの、あなたは誰なんですか」
「名乗ってなかった?」
女の人は不思議そうに首を傾げながらそう言ってきた。
今のいままで名乗り出る暇もなかったと思う。というか暢気に自己紹介する余裕はなかったはずだ。僕は小さく頷いた。
「…ええ…」
「そうか、それは失礼失礼」
バサリとフードを下ろし、現れたその人の素顔に僕は時間を奪われた。
流れるような漆黒の髪に白磁の肌。首元には黒革で作られた紅い宝石がついている。
一番印象に残ったのは、吸い込まれそうなほど綺麗な紫紺の瞳。
女性は自分の名前が分からない様子でしばし唸っていったが思い出したように声を弾ませた。
「名前。……名前ねぇ。…うーん。何だったかな……あ、思い出した!天姫、神崎天姫だった私の名前。へー、こんな名前だったんだ、不思議だわ。…まー、よろしくね、少年たち」
今までの惨劇が嘘のように彼女はほんわりと笑った。
僕たちは彼女と出会った。
まるで、出会いそのものが定められていたかのように。
(嘘か真か幻か)