これはどこにでもあること。いつもの風景である。彼女、天姫が街を歩けば大体のひとは天姫に挨拶をする。
「おはよう、天姫」
「今日も買い物かい?大変だねぇ」
「おはよ、きょうも綺麗だね!」
「おう、子供等は一緒じゃないんだな!」
色々な人と挨拶をかわす。老若男女。天姫にはコレが日常風景の一部。それは買い物の時だって同じ事。馴染みにお店にいけば
「おう、天姫!いつもの入ってるよ!」
「ありがとう、おじさん」
いつものお菓子屋さんでも
「天姫ちゃん、今日はコレもオマケしとくわ!」
「おばちゃん!助かるよ!」
馴染みのパン屋さんでも
「あ、天姫おねーちゃん!おかーさん!天姫おねーちゃん、来たよ!」
「あら、天姫。今日はあの子たちはお留守番?」
「ああ、家で勉強させてるよ」
「あらあら!スパルタなママね。あんまり、厳しいと嫌われちゃうわよ?」
「大丈夫大丈夫。あの子らに限ってそれはないから。それで、今日はこのパンを買いたいんだけど」
「それだけ?もっと買っていきなさいよ!育ち盛りの男の子三人もいるんだから」
「…買って行きたいのは山々なんだけど、もう、手が塞がっていて」
「……しょうがないわね。後でうちの人に届けさせるわ」
「ありがとうございます!」
「フフっ。お得意様ですもの!」
「おねーちゃん。またねー♪」
バイバイと手を振って別れる。これが、天姫のいつもの日常である。
※
天姫side
なんか、カートみたいなの欲しいなと考える。私の腕には大量の荷物がある。オマケしてもらえるのはありがたいのだが家に持って帰るまでが大変なのだ。
鍵を取り出そうとポケットを探ろうとしたときドアは勝手に開き飛び出してきたのは勉強を終わらせた子供たち。最初に抱きつきたいのを我慢して笑顔で迎えた骸だった。
「お帰りなさい。天姫」
「ただいま……重い……」
私の身体にまとわりつく子供たちを伴い台所まで進みながらテーブルに荷物を乗せる。腰元にはすでに荷物を置いたので思う存分抱きついている骸がいたがそのままにさせておいた。千種も犬も私が帰って来たことが嬉しいのか、それともおやつを心待ちにしていたのか少し浮かれているみたいで可愛いと思った。
「大漁、大漁」
「おらつは?おらつは?」
「がそごそしない、犬。それと、お・や・つ、でしょ?」
勝手に荷物を漁り始めた犬を軽く叱り手を洗ってきてからと促す。
「いたらっきまーしゅ!」
「「いただきます」」
先程買ってきたアップルパイを切って分けたものとミルク。これが子供たちのおやつだ。
もぐもぐと口を動かす千種と綺麗にフォークを使って食べる骸。犬だけは悪戦苦闘しなが、口の周りをミルクで汚している。
「ほら、こっち向いて」
「うぅ」
甲斐甲斐しく犬の口回りを拭いてあげる。リボーンが好んでいたエスプレッソも今では私のお気に入りとなっている。
皆、どうしてるかな?
時折思い出す並盛での日々。懐かしいと言ったらおかしくなりそうだが確かに天姫はあの時間で生きていた。天姫は骸たちと暮らしてから数ヶ月は経過している。
骸達も最初のころよりもだんだんと子供らしさを取り戻し性格も明るくなりつつある。
いつも、人の後ろを追っかけることも少なくなったのだ。自主的に動き回るようにもなったし何より笑顔でいることが増えたことに天姫は日々幸せを感じている。そしてここに来た時に自分の名前を取り戻し自分の姿が戻ったことは嬉しいとも思っている。
だがもうジルではないと思うと少々寂しいような悲しいようなそんな、複雑な心境がたまにやってくる。幸せの中なのに、おかしな話だ。
望めば、全ての物質を切り裂く能力。無論最初に無意識に研究所の男達を殺した力もこれである。異質で自由自在のこの力は人間の者ではない。異能というものに近い。
なんとなくこの力はあの子を連想させる。いつも側にいていつも私に甘い言葉をくれる。力もあげると言っていた。ワタシをあげる、と。この力、自体があの子なのか。
だとしたら、私はもう、ジルではない。なのに、どうして、この力が使える?
考えたところでこの問いに応えてくれる人は誰もいないけど。
「天姫?どうかしたんですか?」
「……うん?」
「へんらー、天姫」
「寝不足?」
おおっと、骸たちの視線が一気に集中していたことに気づかなかった。
「なんでもないよ」
取り繕った笑みで誤魔化したけど骸は勘が鋭い子だから納得していないみたい。でも話せる内容でもないので今後もバレないようしなくてはと少し気を引き締めた。
そんな時、ジャケットのポケットから携帯の着信音が鳴り私はカップ片手に器用に電話に出る。
「はい」
『ああ、天姫か?』
あ、来やがった。
静かにカップを置いて部屋を出て別の場所へ向かう。大体この相手からの電話は子供たちに聞かれたくない内容なのだ。自室へと籠ってベッドに腰かける。
「………ロベル。また人の休息を奪う気なのね」
『なんだい?その言い草は。まるで人を厄介者扱いして』
「実際そうなんだから仕方ないわね」
『うわっ。辛辣!相変わらず女王さまだな』
「誰が女王だ!……用件を5秒以内に言いなさい。じゃなきゃ切るから」
「おい!?それじゃ、なにも喋れないじゃないか!!」
「よし!ではさようなら」
『待て待て待て待てぇぇぇええ―――!?言う!言うから切らないでぇぇ!』
「さっさとしろ」
『ったく、短気n』「何か言った?」
『いいえ!……いつものアレ、頼むよ』
「………今度は?」
『詳細はいつものようにデータで送る』
「わかった」
『今回も天姫なら楽勝だろ?成功を祈ってるよ。終わったら一杯つきあえよ』
「気が向いたらね」
パタンと通話を終えた私はふぅと軽くため息をつき、階段を下りて子供たちの所へ戻った。するとてっきり楽しくおしゃべりでもしてるかと思ったら骸達は無言で私を見つめてくる。
「どうしたの?」
「天姫、また、お仕事ですか?」
「うん」
「かえってくるろね?」
「何そんな不安そうな顔してるの、犬」
「行ってほしく、ない」
「……千種」
この子たちの不安はわかる。だが、骸たちの身を安全にするためにもこの仕事をやめる訳にはいかないんだ。できることといえば
「……ごめんね?ちゃんと帰ってくるから私は。戸締りはちゃとすること。知らない人が来てもドアは絶対開けちゃだめだからね、何かあったらすぐに私の携帯に電話すること」
「…はい…」
「そんな顔しないで。なるべく早く終わらせて帰るから」
気休めに謝るしかなかった。今回のターゲットは裏で臓器売買をする中小マフィア。
規模は……意外に小さいな。すでに頭に情報は入っている。すぐに証拠が残らないようブツは処分済みだ。
闇に目立たぬよう黒服に身を包み銀色の仮面で顔を覆う。髪は後ろで一つに束ね腰元には一振りの刀。
よし、準備オッケー!
ちょっとヒール高めのブーツだけど私はこの方が落ち着く。
「よし、行きますか!」
バッと二階の窓から静かに跳び降りた。子供たちには私が夜の仕事をしていること、それがどんな内容かは教えていない。もう、あの子たちはあったかい太陽の日の下でのびのびといきてほしい血なまぐさい裏の世界とは無縁の生活を歩んでほしいから全ては秘密で今日も私は働きます。全部は子供達の為。私の仕事は
「うわぁぁぁあああ!」
「やつが現れたぁぁ―――!?」
「どうも、こんばんは」
挨拶代わりに一人斬って葬ってあげました。
そう、私の仕事は法では裁けない非業の奴等を潰すこと。正義を振りかざすつもりはないしこの仕事が決して許されることでもない。けど子供らを養うためだ。
金がいるのはどうしようもない。世の中の仕組みだ。
どうやって見知らぬ土地で子供ら三人を養えよう。
色々と追われる可能性の高い子たちだ。隠れ蓑になる家だって一つだけではマズイと考えたわけだ。となると金がもっといる。あの子らの将来の為にもできるだけ稼げる内に稼いでおきたい。
では、高収入となる仕事とは何か?と言えば裏の世界と限定された場所になる。
幸いこちらの方にはマフィアという職業が結構盛んのようだからこのような裏稼業というのは人気があるらしい。ちょっと情報を集めに夜をフラフラしていたら馬鹿な男どもが下品な目で私に近寄ってきたので軽くのした時に偶然通りかかったロベルというどこか胡散臭いヘラヘラ笑顔を浮かべる男とばったりんこ。
私の腕前を気に入りその場でスカウトしてきた訳だ。
勿論、私は仕事を探していてしかも高収入とキタ。これは頷かないわけはないとその場で承諾。それから夜はもっぱら街のお掃除タイムになった。
喚く男共を蹴り倒しつつあ、そういえば今日はお月様がくっきりだなと思い出して悪戯心から怯える獲物たちに決め台詞を言ってみた。
「月に代わっておしおきよ!」
(このネタわかる人、この指と~まれ☆)