六道骸side
天姫がどんな仕事をしているのかすごく気になった。
彼女が買い物に出て行った後、天姫の部屋に忍び込みなにかないか手掛かりになるものがないか見つけようと決意した。本当はいけないことをしているって自覚はある。けど天姫が心配でただ待つだけなんていたくないと思ったから。緊張感に包まれながら僕は彼女の部屋に入る。綺麗に整理整頓された部屋。というか、必要最低限の家具しかないんだ。天姫は僕たちのためにはお金を惜しまないほど色々なものを買い与えてくれる。
けど一度だって天姫が天姫のためにお金を使ったところは見たことがない。
洋服だって小物だって何一つ新しいものは買ってない。僕がお金を稼げる歳だったら、いくらでも天姫のために新しい洋服とかアクセサリーとか買ってあげるのに。
僕は子供だ。彼女が守る対象としてみられている、餓鬼だ。早く、早く大人になりたいと焦る僕がいる。もっと僕が頼られる存在になれたなら、こんなコソ泥みたいなことをせずにすむんだ。天姫だって、なんでも僕に打ち明けてくれるはず。
彼女がいるから僕は生きている。そんな彼女を疑う行為が少し僕の心を抉る。
でも、探ってみてもなにも出てこない。
「コラコラ。勝手にあら捜ししてると女王様に怒られるぞ」
瞬間、ほんの僅かな殺気が背中に突き刺さる。
「!?っ、誰」
瞬間、僕はすぐに振り返った。後ろにいたのはそう、どこにでもいそうな普通の男。
さして、特徴がないのが逆に違和感を持たせる。だが、気配が一切感じなかったのだ。これだけ、近くに居たのにだ。男は普通な笑顔をみせ
「おう!俺は君のおかーさんの相棒のロベルだ」
と尋ねてもいないことを軽い口調で喋ってくる。
「……………」
おかーさんじゃない。天姫は僕の母ではない。
男のわざとらしい言い方に僕はイラつき、キッと睨みつけた。
「アラ?警戒心バリバリ?お兄さんは悲しいぞ!」
「……出ていけ……」
「あ、そうだよなー。でも鍵もらっちゃってるからオールオッケーなわけ。わかる?」
「嘘だ!天姫はそんな馬鹿なことしない!」
天姫はそんなに人を簡単に信用したりしていない。彼女なりに徹底した人間関係を築いている。広く浅くというやつだ。こいつは見た目だけじゃなくどこか嘘くさい人間だ。
警戒するに値する人物だ。
「あんら~?天姫のこと何にも知らないのにそんな事言えんのか?」
「っ」
「俺は、知ってるよ。天姫の全てを。天姫の知らないことまで、全部、ね」
にんまりと笑うその男は僕の心を完全に見透かしている。
僕が知る彼女以外をアイツは知っている。それを嘲笑っている。
見下している、見下されている。
「……僕は」
「人様の子供に何してくれてんだァ!」
「ごほぉぉぉぉ―――!」
ドカッ!
怒鳴り声と共に登場した天姫の盛大な蹴りが男の後頭部を直撃。男は面白いくらいに壁に激突した。天姫は普段の冷静さが嘘のように崩れて感情がむき出しだった。だから駆けだしてしまった。彼女に向かって。
「…天姫!」
「大丈夫だった?骸、ウワッ!?」
「……天姫…」
「どうしたの!?やっぱり変な事されたんだね!?お口じゃ言えないことされたんだねっ!アイツ、…殺す!」
僕の身を案じてこんなにも殺気を飛ばす天姫。僕が飛びついていなければすぐにでもアイツに襲い掛かっているはずだ。嬉しい、嬉しいはずなんだ。天姫が僕を想っていてくれる証拠なんだから。でも、正直に喜べない僕もいる。
天姫を信じようと決めたはずなのに、どこかで彼女を疑っているんだ。
だから卑怯なマネをしてしまった。その事実を知らない天姫がもし、僕がやったことを知ったらどうなるんだ。軽蔑?もしかして嫌われる?
「違うんだ、……違うんです…」
「…骸?」
黙って僕の頭を撫でる天姫に言えなかった。真実を打ち明けることができなかった。
僕は悔しかった。あの男のいっていることが全て当たっていたことに。
貴女が僕たちを信じてくれていたように僕達も貴女を信じていれば。
それが引き金になるなんてこれでお別れが来てしまうなんて、予想もできなかった。
※
天姫side
骸の様子がおかしかったので別室にて休ませた。犬も千種も心配そうにしていたのをみると心が痛む。それも、これもこいつのせいだ。
ホントは手当てぐらい自分でやれと言いたいが、私が半分悪いことでもあるので自分の部屋で手当てしている。だが、少々乱暴にしてやった。お仕置きも込めて、だ。
「アンタが悪いんだからね。わかってる?あの子たちの情報が裏の連中にばれないように細工してるっていうのにアンタがホイホイ家に侵入するか!」
「っ痛たた、もっと優しくしてくいだぁ!?」
誰がするか!だいたいコレぐらいの傷で大の男が涙目なんて軟弱な!
「自業自得だっつーの。……それで、わざわざ私の家に来て何の用」
わざわざ驚かすために来た!とか言ったらはったおす。
「………やっぱ、女王、いえ、なんでもありません!………実はな。心臓に悪い情報を掴んじまってな」
私のどこが女王なんだよ!
「…悪い、情報?」
ロベルは胸元のポケットから汚れた紙切れを取り出す。
そこには血痕が少々ついていた。天姫はいつもの内容ではないことだと瞬時に理解した。そこに書かれていたことは…。
「……エストラーネオの残党がまた人体実験をおっぱじめたって情報がな」
『エストラーネオ』まさかアイツラの生き残りなんて存在しないはず…。だって徹底的に根潰してやったし。
「ガセじゃないの」
「残念。それがまだ生き残ってたんだよ。……しかも今度は無関係の市民を巻き込んでだ」
「無関係ネ、その単語は関係ないけど子供が誘拐される事件が多発してたわね。…それも関係アリなら話は別だわ」
そう、最近町では子供が身代金など無しに無差別に誘拐するという事件が多発している。
見知らぬ人間がどうなろうと知ったこっちゃないが罪もない幼い子供と聞けば黙っちゃ置けない問題である。
「当たり。奴らがやってることだ」
「情報は?」
「おいおい、一人で行く気か?お前が強いのは知ってるが今度のは山がデカすぎる気がするぜ」
「別に問題ないわ。金がもらえるなんでもやるし。それにアンタにアジト知られた以上別に場所に引っ越そうと考えてるし?ホント来るんじゃねぇよこの馬鹿」
「スイマセン。次は来ませんから許してください。…これがやつらの拠点とされている場所だ」
「よし、私が帰ってくるまで責任もって子供たちの面倒見てろ。勝手に不法侵入した罰だ」
「俺に餓鬼の子守役をさせるつもりか?!あのな」
「今ここで沈黙したいなら別にかまわないけど」
にっこり微笑んで拳を見せればロベルは青い顔してコクコクと頷いた。
よし素直でよろしい!
だってここを留守にする訳にはいかないのだ。子供たちにはもう怖い思いをして欲しくない。少しでも安全を確保しなければ。多少なりともロベルの事を信用しているのだ。でなければこんなお願い私自らしない。
「じゃ行ってきます」
「おう、気をつけろよ」
私は装備を整え夜の闇へ消えた。だがロベルから渡された情報の場所へ行けばそこはもぬけのから。ただの古ぼけた廃墟で人の気配どころか幽霊さえ出そうな場所だった。
「どういうこと…?」
まるで人の気配が感じられない。隠し通路みたいなもんでもありそうかとあらゆる場所を探してみたがその形跡さえ見当たらない。すぐに携帯でロベルに連絡を取ったが一向に繋がる気配はない。何か悪い予感がする。私はぎゅっと胸元を握りしめその場を離れた。
すぐに帰らなければ。気持ちばかりが先走っていた。
私の不安は悪い意味で的中していたのだ。闇夜、囂々と視界一色に炎が飛び込んでくる。
大きく煙をまき散らしながら燃え盛る我が家。だが、救急車も消防車もましてや野次馬の人だかりさえない。人っ子一人影さえ見当たらないのだ。
不自然でありえない光景に。
「骸、犬、千種っ!」
もしかしたらまだに中に取り残されているかもしれない。
私はそのまま勢いを増す炎の中へ身を投じようとした。だが、それは敵わなかった。
「黒焦げになっちまうぜ」
「……ロベル……!?」
「なんだよ、俺に逢いたかったんだろ?」
私は縋るようにロベルに駆け寄った。
「ロベル子供たちは!?」
だがロベルは子供たちのことは愚か、まるで火事が起こっている目の前の光景そのものが面白いと言わんばかりに笑いはじめた。
「ククク、ハハハ、っハッははははははははっはは!」
可笑しい。何もかもがオカシイ。私の中で警鐘が鳴りすぐにロベルから距離を取る。本能的に未知なる恐怖を前にしての畏怖だ。
ロベルはぐにゃりと姿をかえ【面識のない白髪の男】へと変わった。声だけは同じままでロベルだった男は歪な笑みを浮かべた。
「お前に死なれたら困るんだよ、蒼龍姫」
「…どうしてその名を…お前、は……!?」
「俺は神だ。お前を連れ出した偉大な神様だ。感謝しろよ。なんだったら、拝んでくれてもいっこうにかまわないぜ?」
「何を言って…っ!?みんなは………骸に千種に犬は!?何処へ、……何処へやった!」
炎は大切な家を思い出さえも全て燃やし尽くす。崩れ落ちていく瓦礫が火花を散らし、私と奴の顔を紅く照らす。両者にあるのは憤怒と狂喜。男は刀を右手に携えおかしそうに狂ったように嘲笑った。
「餓鬼共か?みーんな、出てったよ。なんて嘘。……ウザいから殺してやったわ」
「ふざけるな!おまえ、が………おまえがァ殺したんだろぉぉおお―――!」
「おいおい。お前まだ俺に敵うって思ってたのかよ。……進歩ねぇ、なァッ!」
男は目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛けてきて刃の先端が私の腕を斬りつける。
グシュッ!と肉を裂き鮮血が舞う。
「っ!」
「勘違いすんなよ、お前がお前を取り戻さないとこっちが大変な訳。わかるか?名前を取り戻そうが、絶対な力を取り戻そうが、お前の記憶が戻らない事には意味ないんだよ!」が
刃物と刃物が擦れあい火花を散らす。両者決して譲ることはない。
「そんな、ことであの子たちをまた絶望に蹴落としたというのかぁ!?」
「『そんなこと』でだよ。俺達、神にかせられた仕事は『柱』にふさわしい人間を選定し、育成して育て上げる。そしてあいつと闘わせアイツを完全に葬るためだ。それを、お前はアレがあったからショックで記憶をなくしあの世界に落とされたんだよ!」
「……アレ、だと?」
「しかも、お前に干渉しようにもお前の裏のほうが力が強すぎてあの世界にさえ、近づけない。だから、力が弱まっている隙にこっちに引き込んだわけ」
信じられない、裏切られた。
そのショックで固まりかけた思考にある声が優しく響いた。
『我が姫御』
頭に直接叩き込まれるような言葉。この場に私と奴しかいないはず。この言葉を投げかけてくる者に私は聞き覚えがある。そして一つの感情が生まれた。懐かしい、と。
ロベルだった男が怒気を露わにして頭上に向って叫ぶ。
「またお前テメェか……。俺の邪魔すんじゃねぇよ!」
『邪魔とは貴様の事ではないか、紛い物の神よ』
紛い物の、神?
「……?」
『愛しき姫よ、短き夢は終わりを迎える。あるべき世界へと帰るのだ』
夢?誰、知らない声にどうして胸が高鳴るの。どうして、私はこの声に心底安堵しているの?貴方はだれ。
「邪魔させるか!」
「っ!」
男が刀を振り下ろす瞬間、もの凄い光にすべてが包まれた。
脳裏に浮かびあった最後の記憶は、残していった子供達の事だけ。
『さぁ、帰るのだ。そして、我を思い出せ』