獄寺隼人side
甘い言葉。俺には縁がねぇってずっと思ってた。
「ジル、好きだ」
誰もいない空間、俺とお前だけ。たぶん、俺はお前に面と向かって話すことはできないだろう。お前がボンゴレ十代目との将来を決められた相手と知るまで。その決められた運命(さだめ)を俺は十代目から知らされた。敬愛してやまない十代目と初めて年下すぎる相手に恋をしてしまった馬鹿な俺。もう、すでに決着はついていたんだな。
立派な時期ボスを支える妻として、ジル。お前は最高だよ。最高な人生が決められたんだ。喜んでやりたい。祝福してやりたい。それが部下として、十代目の右腕として当たり前の反応なのだから。
でも、できねぇんだよ。心臓がぎゅってしちまう。
苦しんだ、どうしようもなく。締め付けられるほどに、暴れちまう。
お前との距離が決まっちまうのが。立ち位置が定められてしまうのが。
「ジル、好きなんだよ…………」
どんなに言っても返事などありはしない。お前がこの消毒された世界で眠り続けてしまうという恐れは俺を縛る。握り締めた拳からは真っ赤な血が流れた。
(伝えたくても伝わらない想いが、俺をさらに悲しみで包み込む)
※
山本武side
「ここっていっつも花の匂いがするな」
おどけた感じで俺は話しかける。ずずっとジルの目の前までイスを持ってきて座った。
清潔な空間。空気は病院の匂い、ではなく花々の匂い。この部屋に通って何回目だ。それでもジルは変わらない。ずっと、ずっとだ。
このまま彼女は眠って終わってしまうのでなないかと不安が頭を過ぎる。そう、俺は不安なんだ。だから確認しに毎回来ているんだ。この変わらない病室へ。
「ジルも花の匂いうつっちまうかもな。そうなったらいい香りなんだろうな」
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。
「そうだ、ジルの誕生日聞いてなかったな。俺んとこでみんなでパーティしようって話が出ててな?親父も喜んで連れて来いっていってるんだ。親父が腕によりをかけて寿司作るから元気になって来いって。ハハっ、親父、柄になくはりきっちまって、恥ずかしかったんだけどな」
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。
「……………なぁ、ジル。俺」
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。
「お前のこと、諦めるつもりないから」
リボーンから聞かされた。ジルはツナの花嫁になるために日本に来たこと。
すでに決められた男がいる。それがツナだと。そのことを明かされたとき、リボーンに俺は言われたんだ。
「アイツを確実に守る男でいれる自身がねぇなら、諦めろ」
誰が諦めるか。
「俺はお前を諦めない。ジルは俺が守る」
誰かに言われたからじゃない。自分で決めたこと。かすかな体温が感じられるジルの頬を撫でながら俺は囁いた。
「ジル、好き、だ」
(揺ぎ無い信念と大切に確実に手に入れたい君)
※
リボーンside
「お前はいつもモテモテだな」
ツナに、獄寺、山本、雲雀にディーノと笹川。ママンにランボにイーピンにビアンキ。ハルに京子、その他、ジルの見舞いはひっきりなしだ。
眠る彼女の側にはいつも誰かが来ている。ママンは少しやつれてしまった。看病と心労が重なってな。休めといってもママンは笑顔でこの病室に通っている。
『あの子はさびしんぼなのよ』と笑ってな。
一人にはさせない。みんな、お前が目覚めることを願っている。
これほどの人間の心を動かすお前なんだ。お前は咲き誇る華。可憐で甘い毒をもつ。
男達は毒と知りながらも、その禁忌の味を求めてしまう。吸い寄せられるように。お前の優しさに集められる人々。それが正当化であるように決めてしまうお前は無垢で純粋で守られる華、ではないよな。
お前が何かを決意して日本に来たことは知っていた。決して無垢な存在ではないことも。
お前は何か底知れないものと闘いながら日々生きていたことを。
「俺とお前は同じだ」
精神と体がちぐはぐな存在。お前は必死に『ジル』という少女を演じていたな?
俺は前から知っていた。いや、推測の域ではあったがそう感じたんだ。
だが、俺にはお前が『ジル』だろうが『ジル』じゃなかろうが関係ない。
「お前が誰でどんな奴なのか、なんて興味ないぜ。俺が知りたいのは」
お前の瞳から流れる光のような涙の原因を作る奴だけだ。
そっと俺はジルの涙を拭う。
「お前を独占するのは俺だけでいい」
(他は全て消してやる。だから目を覚ませ)
※
夜、全てを飲み込むほど闇が巨大化する。月は残酷なまでに優しく微笑み貴女を奪った。
どんなに貴女が愛しかったが、どんなに貴女が恋しかったか。離れなければならなかったこの年月は僕の体に刻み込まれた想いを大きく実らせた。度重なる実験幾度と繰り返される肉体強化が今でもこの体に刻み込まれその忌まわしい記憶が消えることはない。だが、それも貴女が僕たちを解放し全てを消し去ってくれたお蔭で今では貴方との出会いの瞬間すら懐かしいと思えるようになった。怯え恐怖しか知らなかった僕達に貴女は、慈しみ思いやりその温かな眼差しで全てで抱きしめてくれた。
あなたたちは生きている 自由なんだよ、と。『カゾク』というものを教えてくれたのは貴女だった。そして、愛おしいという気持ちもくれた貴女だ。それはこの離れた年月で積み重なった感情を変化させたんです。カゾクとして愛しいと思う気持ちとは別に異性として愛おしいとおもう気持ちがうまれ、それは徐々に膨らんでいった。
これが貴女がくれた甘美な毒のようで、愛おしい。この感情に蝕まれ浸る僕は、なおさら貴方を求めてやまない。
ついに『この時』を待っていました。指折り数えて逢いに行きますよ天姫、僕の『カゾク』。
※
ジル
神崎天姫
ジル
神崎天姫
私はどっちであればいいの。この世界での私、それとも元の世界での私?選択肢は二択しかないの。深く深く眠っているはずであろう私の体。指先でさえピクリとも動かすことができない。倒れる前はわからなかったけど、今なら手に取るようにわかる。どうしてこうなってしまったかを。私の『今』の器が耐え切れないんだ。このままではあの子の力がこの小さな器では収まり切れなくて維持できずにいつか破裂する。
負荷がきたんだ。後もう少しで支えきれないほど膨れ上がった力に私の体は押しつぶされる。このまま、死ぬのだろうか。痛みも悲しみもすべて眠りが誤魔化してくれるかもしれない。だったら苦しまずに死ねるのかな。それなら死ぬのは怖くないよ。
でも、一目、一目でいいから……。彼等に逢いたかった。家族として接してきた子供たち、氷から解き放たれるだろうザンザス、ヴァリアーの皆。他にも、もっともっと逢いたい人がたくさんいる。知り合い、作り過ぎちゃった……。馬鹿だな、私は。出会いが多い分悲しみが多くなるじゃないか。
でも、それでも。もっと、もっと話しておけばよかったな……。
後悔ばっかりだな、私。ディーノ あいた、い…よ。
※
僅かな隙間の窓から風が吹きカーテンが揺れる。月夜が妖しく輝きを放ち室内は月の光に溢れる。ジルが眠るベッドに近づく人物がいた。
「やっと、やっと、貴女を、手に入れられる」
ぶちり、と点滴を取り去り真っ赤な血が流れる。それを丁寧に己の舌で舐め上げジルがつける酸素マスクを横に無造作に投げた。まるで必要のないものだと言わんばかりに。男、背格好から少年だろうか。彼は己の腕の中に収まってしまう少女を愛おしそうに眺めその絹のような肌に顔を寄せ熱っぽく囁いた。まるで少女に言い聞かせるように自分に確かめるように、彼は言う。
「帰りましょう。僕達の所へ」
どこへ?と少女に意識があったなら、そうたずねていたに違いない。だが少女はただされるがまま少年の腕にそっと持ち上げられ抱かれた。
窓は全開に開かれ、カーテンがパタパタと急に吹き始めた風により激しく揺れ始めた。
ベッドには少女の姿はなく、数滴の鮮血が残されただけであった。
ジルのタイムリミットまで、後、20時間。
過去編 完