骸からのプロポーズのような台詞に天姫の思考は完全停止した。
そんな様子を骸はおかしそうに見つめてくる。
「返事は元に戻った時でもかまいません。なんせ」
そう、続けた骸は天姫から離れすっと席を立った。
カチャリと破片を踏んでこちらに現れた人物。それは久し振りに顔を見る並森の秩序。
「ジル、やっぱり此処だったんだね」
「恭弥!?」
「クフフフ、僕達の仲を邪魔する、虫が入り込んできましたからね」
骸は恭弥と真正面から対峙し背に天姫を庇う。それが恭弥の癪に触るのだ。
自分の手からのうのうと盗み出したこともだが、彼女の腕に残る痛々しい点滴の跡。
ジルが居なくなったベッドには数滴の血の跡があったと聞く。連れ去るときでも乱暴に点滴を抜いたんだろう。だからジルの腕に傷がついた。
アイツは少しでもジルの血を流させた奴。
苛立ちがより恭弥を怒り状態へと駆り立てる。
トンファーをジャキッっと装備し今にも飛び込んできそうな勢いで構える。
天姫はなんとかしようにも体に力が入らないので、ただただ二人の行いをハラハラと見守るだけしかできない。その間にも、二人のにらみ合いはヒートアップしていく。
恭弥はギロリと骸を睨みつける。
「君、頭おかしいんじゃない。ジルは僕のだ」
「それこそ、おかしいのではないですか?彼女は『ジル』であって『ジル』ではないというのに、君は愚かなほどに彼女を知らないようだ」
「うるさいよ、君。ジル。待ってて、すぐに終わらせるから。病院戻るよ」
突っ込んでくる恭弥に天姫は悲鳴に近い声を上げた。
「恭弥!ダメ、やめて!」
「天姫、あまり叫ばないで下さい。身体に響きますよ」
「っ、離れろ!」
バッと繰り出される攻撃。骸はそれをかわしながら不敵に笑った。
天姫は目を見張った。だって、こんな場所にあるはずがないもの。それが目の前に現れたのだから。
「骸!?」
「君に、コレを送りたいと思いましてね」
満開の桜だった。視界を埋め尽くすほどの沢山の桜の花。それが恭弥の動きを封じる骸の策だった。体の動きがにぶった恭弥は骸の一方的な攻撃をくらいボコボコにされる。
「恭弥ぁぁあ―――!」
悲しみに満ちた天姫の悲鳴が廃墟全体に響き渡った。
※
ジルside
「もう、やめて、やめてよぉ!」
何度こうやって叫んだか、もう、覚えていない。ただ、声が掠れるまで骸が暴行をやめてくれるまで続いた。彼の足元でボロボロの恭弥。私は必死に身体に鞭打って這いずるように恭弥へ向かった。
「恭弥、恭弥ぁ、恭弥!」
気を失っている恭弥に覆いかぶさるように骸から庇う。完全に気を失うまで彼を傷つけた骸へ涙目で睨み付ける。疑惑と困惑を織り交ぜて。
「骸!どうしてこんな事、何の意味があるのよ!?」
「焼けますね、その男。そんなに必死に貴女に庇われるなんて」
「茶化さないで!」
私の怒りを感じ取り骸はふぅと軽くため息をついた。
「………少し、僕は外に出ます。貴女はゆっくりしていて下さい。…ですがこの男は閉じ込めてきますから」
「なっ!?待ちなさい!骸!」
骸は恭弥を連れて部屋を出て行った。どんなに叫ぼうが骸は私の言葉に耳をかすことはなかった。
「…いったい、何がどうなってんのよ!?」
やり場のない怒りがふつふつと私の心に湧き上がる。
骸は私を救うためだと言っていた。この場所には恭弥がきたという事はすでに情報は流されている。私を餌にして骸はもしかして、自分たちを追い込んだマフィアに復讐でもしようとかんがえているのではないか。 だとしたら、ボンゴレが真っ先に標的なはず。
沢田たちがここに来る。何とかして阻止しなきゃ。
だけど、今の身体は地面から足を立て立ち上がれないほど衰弱している。
気持ちに身体がついていかないことに苛立った。
彼等が傷付かなければならない理由なんかない。ましてや、こんな復讐なんて意味がない。
リボーン、隼人、武、ハル、京子、ビアンキ、ランボ、イーピン、フゥ太。
それに、何故だか沢田の姿が脳裏をかけた。なんで、アイツが出てくるんだ。自分で沢田は嫌いだと判っていたはず。なのに、彼の心配をしている自分がいる。
『ジル』
屈託のない顔で笑いかけるあの男。私はあの男が憎い、はず。そうだ、あの男の所為で私が得られるはずだった幸せが突如として奪われたのだ。憎んで、ましてや嫌って当然のはずなのに。
『ジル!』
そうだ。私はあの男が嫌い。
あのいつも逃げ回る姿勢、マイナス思考な性格。責任逃れな言い方。
どれをとっても腹立たしい……。
なのに。
嫌いなはずなのに、このどうしようもない気持ちはなんだ。
どうして、苦しい。
どうして、こんなにも。
『 』のだ?
カタッとした音でハッと沈みかけた思考が戻る。骸が帰ってきたと思ったからだ。
音の発生場所に視線をやると予想とは裏腹にまったくの違う人物がそこに立っていた。
久しぶりに会うランキング大好きな少年、フゥ太だった。
「フゥ太?どうして、こんなとこに……!?」
「………」
何か様子がおかしい。虚ろな目をしたフゥ太は私の問いかけに一切答えない。
それどころか、私など眼中にないかのようにランキングブックを大事に抱えたまま、走り去ってしまった。
「フゥ太!」
まるで自分の意識がないかのようだった彼。
『マインドコントロール』
その言葉が頭をよぎる。フゥ太はもしかしたら骸に操られている?
骸のあの右目。実験で移植された目だとはわかっていた。だがそれにどんな能力あるかまでははっきりとはわからなかった。
もう、次から次へと、一体あの子は何がしたいんだ。
腹いせに近くにあった石ころを掴み、壁へ向かって投げた。
カツンと跳ね返って石はある方向へ。彼の足元に当たる。私は驚き目を疑った。
「千、種…」
「…天姫……」
黒焦げになって帰ってきた千種がフラフラと千鳥足のように進みながら私の目の前までやってきて倒れ込んだ。
「千種!」
ぺちぺちと頬を叩くも反応はなく、気を失っている様子に自分の想い通りに動かせない体に余計苛立った。
「…一体、どうやったらこんなボロボロにされて帰ってくんのよ!」
叫んだとてその訳に応えてくれる相手はいなかった。
天姫のタイムリミットまで、後9時間。