闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的32似た者同士

「馬鹿馬鹿骸」

「そんな怒らないで下さい。千種も重傷ではなかったんですから」

「ッ!?これのどこが重傷じゃないって?まったくの完璧に黒焦げに帰ってきたのよ。骸の頭がおかしいんだわ!」

 

さっきからこの問答の繰り返しである。天姫は戻ってきた骸に千種をベッドに寝かせるよう指示した。丁寧に治療が施された千種は少し落ち着いた様子で眠っている。

さっきからご機嫌取りをしてくる骸を小さな足で蹴りつつ千種を心配そうに見下ろした。

 

ああ。どこにケンカ吹っ掛けて来たの千種。こんなこんがり状態で帰ってくるなんて私は心配で心配で倒れそうです。一体どんな相手とトラブってきたっていうの!?……昔は優しい子だったのに。私と別れた間に骸にどんな事言われてたらこうなってしまうのかしら。

 

なおさら天姫は骸に対して腹立って仕方ない。どうせ指示を出したのは骸であることは見当がついているからだ。なのにさっきからご機嫌を伺ってちょっかいばかりしてくる骸にいら立っている。なので最後の一発は思いっきり力を込めた。

 

「痛いです!」

「最後の一発は痛いようにしてるの!全然反省してないじゃない」

「……天姫、冷たいですよ。ウサギは愛情を注がないと寂しくて死んでしまうというではないですか。僕、死んでしまいます」

 

とか言い訳しつつ天姫を抱え込んでは頭の上で顎をこすりつけてくる。

 

「骸は神経図太いから放っておいても死なないよ。安心して」

 

だいたい骸のどこがか弱いんだ、と天姫は自分の頭をゴンゴンと骸の顎に頭突きした。

骸は「だから痛いですって」と小さな声で不満そうに抗議して少し身を離しては、やれやれと肩をあげる。ふと、……天姫は複数の気配を背後に感じた。

 

「骸、アレ。何」

 

自然と声音は低くなり眉間の皺は倍増する。骸は天姫から感じるピリリとした殺気に流石天姫と心内で称賛を送りつつ答えた。

 

「……援軍ですよ。僕等のね」

 

援軍、ね。

 

天姫はふーんと瞳を細め向こうの奴らを見定めた。

 

「骸ちゃん、何その餓鬼?」

「ウジュ。なんとも可愛らしいお嬢さんじゃないですか!」

「…………………」

 

金しか興味なさそうな制服の女、眼鏡をかけ天姫を凝視して鼻血を流す帽子男。

その男の肩には似合わない可愛らしい黄色い鳥を乗せていた。

他、気持ち悪い大柄の双子に帽子を目深にかぶり素性の知れぬ屈強そうな男。その中の唯一の女は天姫を小馬鹿にしたように鼻先で貶してくる。

 

「何よ。その目つき気に入らない!餓鬼のくせに」

 

どうやら自前の武器で天姫を殺そうとするらしい。天姫は興味も沸かない対象物を見るように億劫そうにする。そんな天姫を庇うように一歩前へでて女を牽制したのは骸だった。

 

「天姫を傷つけるなら、容赦しません」

 

骸の脅しに女は引きつった顔して楽器から手を離した。それから骸は顎で去れと命令しこの場から退去させる。最後まで納得いかなそうに地団太踏んでいた女だが最終的には大柄の男に引きずられて強制的に連れて行かれた。再び静まり返った廃墟内で天姫は意を決して骸に訴えた。

 

「………骸、お願い。ボンゴレから手を引いて。このままじゃ皆、重罪になるわ」

「できません。いくら貴女の願いでも」

 

迷いもなく即答で返され天姫は戸惑った。

どうして骸がそこまでボンゴレに拘るのか理解できなかったからだ。

 

「……ボンゴレが憎いの?それともマフィア全体?」

「正直言えばマフィアは殲滅させたいですよ。でもそんなの貴女の事に比べれば月とスッポンです。貴女が一番大切なんですよ。僕も犬も千種もね」

 

(そんなに想ってくれるなら私の気持ちにも気がついてよ)

 

天姫は骸のほうへ向き直りきょとんとした骸の顔を己の小さな手で捕らえた。

 

「………私だって、骸たちが、大切なんだよ?」

 

心が締め付けられるほどにどれほど大切か骸に分かって欲しいという意味を込めてコツンと額同士を合わせ天姫は瞼を閉じて呟くように訴えた。

 

「……私だってこのまま何もせず死にたくない。生きたい。でも私自身がこの世界のマフィアにとって利用されやすい位置にいるの。現にディーノは私の存在に苦しめられている。……『蒼龍姫』なんて馬鹿げた存在にみんなが惑わされその力を欲している。そんなもの、まやかしでしかないのに……そんなあやふやな存在が権力の争いの元なんて」

「……天姫……」

「お願い、もうあの時のような思いはもう沢山なの。………生きて欲しいの、骸」

 

皆を一気に失ってしまったと思った、あの時の絶望は、もう嫌なんだ。私一人くらいの犠牲で済むならこの身一つ安いものだ。

 

骸はわなわなと震えだし天姫の小さな手をぎゅっと握り返した。骸の表情は何か今まで溜め込んできたを吐きだそうとしているようだった。

 

「……貴女だって、全然、僕達の事を考えていない」

「え?」

 

目を瞬かせる天姫に骸は思いのたけをぶつけた。今まで伝えられなかったことを。

 

「僕達は!僕は、貴女と再び会うために此処まで計画してきたんだ。貴女を救うために、生きさせるために!なのに、貴女は僕達が大事だとか生きてくれとか言って勝手に決めて消えようとしてる。僕達の想いを無視してだ!そっくりそのまま返しますよ。天姫、……生きてください。いいや、生きていていいんです。…昔、幼い僕に貴女が言ってくれたように。天姫は生きていいんです。貴女を犠牲にして存在する世界なんて僕はいりません!」

「む、くろ…」

「僕達を暗闇から救い出してくれたように。今度は、今度こそは!……貴女を助けたいんですっ!」

 

切なげに歪む骸の表情は天姫の胸をひどく突いた。

 

ああ、私と彼等の願いはかけ離れているようにみえて根本は一緒だった。

どれだけ年月が経とうとこの想いは色あせない。

私たちの絆は切れてはいなかったんだ。

骸の気持ちが嬉しくて、嬉しくて、でももっと切なくなった。

 

彼の気持ちを汲めば、ボンゴレへの復讐を許すことになってしまう。そうなれば今まで私が知り合った人たちに何らかの悪影響が及ぶことになる。

では、私の存在そのものが無くなれば、骸たちが悲しむことに繋がる。

一体どうすればいいんだ。

どちらか一方を犠牲にするなんて、今の私にはできない。

 

その時、首にチクッとした痛みが走った。

やばいと、天姫は咄嗟にその場所を手で抑えたものの遅かった。

何か注射器のようなもので打ち込まれ驚く天姫に骸はどこか、寂しそうに笑った。

 

「天姫、お休みなさい」

「骸、なん、で、……む、……く、…ろ……」

 

掠れていく意識の中で最後の言葉が頭に浸透していく。

 

「次に僕と貴女が逢うときは、『本当』の貴女に逢えるのですね」

 

天姫のタイムリミットまで、後5時間。

 

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