闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的34タイムリミット

闘いの最中、リボーンはジルの様子を逐一気にしてみたがこれ以上は危険だと判断した。少女の虚ろな瞳は光を宿していない。ただ、静かに涙を流すだけなのだ。その涙の後が痛々しくすぐにでもそばに駈け寄ってその涙をぬぐってやりたいとリボーンは舌打ちした。あの骸に何をされたかは知らないが、九代目から直接手を出すなと命令を受けているので、リボーンは腹立たしさを抑えこうして見守る側にいるが、その命令さえなければ俺があいつを直接殺していたのにと何度考えたことか。

ジルの容体が今、危険な状態にあるのは非常にマズイ。

九代目からジルを唯一救うことができる手段があるとの情報が送られてきたときには歓喜に震える自分がいた。

 

「ツナ、さっさ終わらせろ。ジルがもたないぞ」

 

事は一刻を争う状態。ツナもリボーンの余裕ない声にすぐに状況を理解した。

 

「っ!?わかった」

「彼女に、触るなっ!」

 

ブンッ!

すんでのところで骸の攻撃を避けた。その隙に骸はジルを腕に抱き床に片膝つきながら槍を構える。

ギラギラとした闘志を瞳に宿して身を挺してジルを庇う姿勢だ。

そんな骸の行動にツナはただ、戸惑うしかなかった。

誘拐犯と被害者の間柄ではない。骸はジルをそんな風に扱っていないのはまるわかりだからだ。

 

「骸、どうしてそこまで…」

 

(どうしてそこまで、ジルにこだわるんだ……)

 

骸はジルの乱れた髪をそっと直すために撫であげた。

 

「……マフィアなど滅べばいい。君達マフィアは彼女の力を酷使し利用しようとしている。その絶大な力をね。今だってそうでしょう?契約などと一時しのぎでしかない。それでは本当に彼女を救うことはできない。貴方がたは、彼女の命が助かる唯一の方法だとかなんとかそのままの情報を鵜呑みにしているのでしょう。

くだらない!僕が、僕だけが彼女を唯一救えるんです」

「……契約の事まで知っているとな。何処から情報を手に入れた?」

「そんな事どうでもいい、呪われたアルコバレーノ。人にものを問う前に貴方も沢田綱吉に黙っていることがあるのでは?」

 

そう切り替えられてリボーンは口を噤んだ。

 

「…………」

「リボーン?」

 

ツナはどういうことだと意味を込めて、リボーンの名を呼ぶが返答はなかった。

ただ、リボーンは骸をじぃっと見つめただけだ。

 

「どうせ、君達マフィアには一生関係のないこと。……僕は許しません。彼女は自由な存在のはずだ」

「俺は、そんなジルを利用しようだなんて考えていない!」

「クフフフフ、ックハハハハハッハ!『何も知らない』、ぬくぬくと、平穏な世界で生きてきた君がそんな事をいうんですか!?笑わせてくれますね。ええ、本当に腹の底から笑えてきますよ。……むしろ、反吐が出る!自分の限られた視野しか見てこなかった君に今更天姫の何が理解できるというのかっ!彼女の宿命を、彼女の利用され続ける哀れな運命を!………君の笑い話には付き合いきれません。天姫は僕の大切な人です。……彼女の業は、僕が解き放つ!」

 

骸はジルを地面にそっと横たえさせるとギッとツナを睨んだ。

 

「骸!」

 

ぶつかり合うことでしか答えはでない。

違うに譲れないもの同士の闘いは幕を下ろそうとした。

ツナの死ぬ気の炎によって浄化されていく骸のドス黒いオーラ。

 

「うあぁぁあああああ!…あ、ぁ……天姫………」

 

瓦礫と化した場所で骸は倒された。最後まで天姫の名を呼びながら。

闘いの傷跡がすさまじさを物語っている。

ツナとリボーンはジルへと駆け寄った。

ジルを自分の腕で彼女を支えるとジルの体温が極度に下がっているのが嫌というほど分かった。言い換えるなら、氷のように冷たいのだ。

 

「終わったな、ツナ。早く契約を済ませちまえ」

「…うん、って…契約ってどうやるんだよ」

「……ジルに契約の証をつける」

「どうやって?」

「キスしろ」

「はぁぁ――――!?」

「五月蝿い。俺だってイラだってしょうがないがそれが契約らしい。ジルにボンゴレボスとの仮契約を済ませることで一時的に命を長らえさせることができる。早くしやがれ」

 

キスって。ツナは顔を真っ赤にさせながらも段々と体温を奪われつつあるジルをみつめ、覚悟を決めた。おでこに、おでこならセーフだ。と己に言い聞かせて。

だが、それはもう遅かった。

 

「あら、残念。もうタイムリミットみたい」

 

魅了されるほど甘い声がジルの口を開いて紡がれた。

身体は冷たいままなのに、少女の瞳は開き、ぎょっとしたツナの腕から立ち上がった。

あら、また埃っぽいとこなのねと愚痴りながら、周りを見回す。

細かな仕草は線の先まで優雅にみえた。

 

「!?ジル!」

 

ん~?っとジルはツナのほうを向き猫のように目を細めた。彼女の瞳はアメジストではなく真っ赤なガーネットのようだった。

 

「一歩遅かったわね、沢田綱吉」

「え」

「ジルなら消えちゃった。アンタらがくだらないケンカしてるときにね。おまぬけねぇ」

「……ジル。一体何を言って…?」

 

彼女のいきなりの発言にツナは戸惑った。

さっきまで瀕死の域まで行っていたのにジルは自分で立ち上がり、元気に言葉を発している。唐突すぎる。子供では表現できない妖艶な笑みを浮かべて。

 

「あらあら、ワタシとジルの区別がつかないの?これで十代目を名乗るなんて九代目も外れを選んだんじゃないかしら?」

「……お前、誰だ?」

 

尋ねるリボーンの声が低くなった。対して少女は明るい声で応対した。

 

「察しが早くて助かるわ、アルコバレーノ。ワタシは天姫の影。あの子が忘れた天姫の一部。もう一人のワタシ」

「さっきから何なんだよ!?天姫って一体誰のこと言ってんだよ!!」

「五月蠅い」

「グッ!?」

 

ツナの身体は突然の重力により地面に押し倒される。

リボーンも同様に。

少女は何もしていないのに一気に体全体が鉛のように重くなった。押しつぶされそうなほど。

 

「ワタシは、黙ってる子のほうが好きなのよ。あ、覚えてなくてもいいわ。ワタシ、アンタには興味ないから」

 

少女は楽しそうに見ていたが来客がきたことが判ると爛々と紅い瞳を輝かせた。

 

「……ふふ。来たわね」

 

入り口に真っ黒なコートに体中を包帯で巻いた者達が現れた。その手には、罪人を捕らえる為の鎖のついた鎖。

 

「コイツラカ」

 

そいつ等は自らの仕事を遂行するべく、骸たちを捕まえていく。

気絶した骸たちはあっさりと捕らえられ長い鎖つきの首輪がガシャンと骸たちの首にかかった。

ジャラリ。

だが、それはパキンと音を立て、あっけなく外れてしまった。

いや、外れたというよりも、ナニカの力で真っ二つに切断されたといったほうが正しい。

三人同時に斬られた鎖はまた見えない力によりバラバラに切り細かくされただの鉄くずと化す。

戸惑う、復讐者たちに少女はコツリコツリとブーツ音を立て気絶している骸たちの前に出た。

ウフフ、含み笑いが耳に残る。異様な紅い瞳が復讐者を捉えた。

 

「天姫の大事な子たちを連れていくなんて野蛮な連中ね?その子たちは天姫の物なのよ。貴方達が手を下していいものではないわ」

「……ナンダ、コイツハ」

「その子たちの罪ならワタシが貰う。だからこの子達を連れていく理由がない。よって、貴方達が働く理由もない。わかった?」

「っ!?」

 

ゾクッと一気に背中が寒くなるツナ。

こうして抑えつけられている状況だが、あの研ぎ澄まされた刃のような殺気に身体が震えて仕方ない。

 

「消えていいって言ってるの?理解できないようならそのお荷物みたいな頭吹き飛ばしてあげようかしら」

「……ソウリュウキ……」

「あら、知ってるの。ワタシを?見た目に反して知能あったのね」

 

その瞬間、復讐者たちは少女の前で跪き頭をさげた。

見るものが異様な光景と捉えるかもしれない。だが、これは昔からずっとこうなのだ。

『柱』たる正統な主が再び降臨した。『柱』はバランスの中心。

異世界の均衡を保つには比すよう不可欠な存在。

主なきものだった彼等にとってこれは喜ばしいことなのだ。

 

「…エエ……貴女の帰還、永キに渡リ心ヨリ、オ待チシテオリマシタ。蒼龍姫様」

「ドウゾ、我等共ニ」

「……納得に欠ける理由ね、でも、ま。気にしないわ。ここから離れなくてはいけないし。…来なさいよ、シロ」

「ニャー」

 

いつの間にか、真っ白な子猫がジルだった少女の足元に現れる。鳴き声を一声あげ、少女は子猫を抱き上げた。その猫はジルが可愛がっていたクロと同じリボンの色をしていた。少女は一瞬だけ、ツナをみたがすぐに視線をリボーンに戻した。興味がなかったからだ。

 

「じゃあね、アルコバレーノ。その子たち頼むわ。でもくれぐれも殺さないようにね?じゃないと」

 

勢い余って殺しに行っちゃうかも。

 

「ジル!!」

 

どんなに叫ぼうがジルは振り返ることはなく復讐者たちを伴い彼女は消えた。そして、それ以降ジルの消息は途絶えたままだ。

 

黒曜編 完

 

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