夕焼けの中、男が一人立っている。隣には女の子らしき人物が並ぶ。
それは……私、だろうか?でも私は一言も喋れない。体が、指先一つさえ動かすこともできない。ただ、私という精神だけがあるかのようだ。隣の男の顔は夕焼けの日で顔が隠れてみえない。知らないはず。だが、私の心は懐かしくて、愛おしくて、寂しいそんな気持ちに溢れていた。その声に懐かしささえ感じてしまう。
『天姫』
『天姫、俺な?アイツの事忘れられなかった』
『アイツの事ずっと好きだった』
『いきなり、国飛び出していなくなったかと思ったら、敵国の将と婚姻してたって。
どんな失恋だよって、納得いかなかった。だから俺もあいつを追いかけて国、飛び出したんだよ』
『アイツを奪った奴を殺してやろうかってさえ、考えた』
『でも、できなかった。アイツ。笑ってるんだよ、俺の隣にいた頃よりずっと。
綺麗な笑顔でさ。ムカツクほどその男の隣で。そいつも気が良すぎるっていうか。
馬鹿がつくほど単純な奴でさ。もう気がそがれたっていうのか?まぁそんな感じでさ、アイツ。私は幸せよって言うんだ。ホントに嬉しそうに俺、ただ苦笑いするしかなかったよ。よかったなって言うだけだった』
『次は貴方の番だってアイツ言った。貴方が幸せになる番だって』
『こんな血まみれな手で幸せになれるかって、そのときは否定した。
アイツを守れなかったこともあったから。…でも』
『なぁ、俺幸せだぜ?こんな俺にも、守りたいって思える存在が出来たこと』
彼がこちらに向かって手を差し出してきた。
『お前が降りてきた、お前が俺の隣にいてくれる、それが今の俺の幸せの第一歩だ』(その瞳が)
『一緒に生きていこう、天姫。お前は俺が守る』(その手が)
『何者からも、すべての脅威からお前を守ろう』(その腕が)
『その宿命がお前を押しつぶそうとするなら一緒に抱えよう』(その優しさが)
『立ち止まるときがあるなら共に休もう』(その温もりが)
『俺は後悔はしない。お前が隣で笑ってくれるなら』(全てが、愛おしい)
その男の人はこちらに向かって手を差し伸べているのに私はなぜだか彼の手を取りたくて必死に手を伸ばす。
でもどうしても届かないの。どうして!?なんで私の手は彼に届かないのだ?
途中で気がついた。これは夢なんだと。叶うようで叶わなかった悲しい夢。
人魚姫のように声は出ないのに感情だけは鮮明で涙が流れ堕ちた。全ては泡に溶け込む夢。もう、手に届かないのは当たり前。
※
リボーンside
ジルが消えたこととあいつ等の動きが活発になり始めたことが気がかりだ。
ッチ!まさかこんな早くにあいつ等がかぎ付けてきやがるとはな。気分転換にとツナたちは京子たちも誘って繁華街まで足を運んできたがヴァリアーからの襲撃を受けちまった。
「う゛お゛ぉい!お前等邪魔だぜぇえ!」
S・スクアーロ。独立暗殺部隊に所属する剣士であり、最も現ボスに忠誠を誓う男。
あいつの剣技にあいつの弟子のバジルや獄寺と山本もやられちまった。
とりあえずツナには手袋を渡したがあの馬鹿こんなときでさえ、うろたえやがって。
「リボーン!?お前こんなときに何処に!!しかもこの手袋使えって!?」
「さっさとしやがれ、ツナ。俺にも事情があるんだ」
ズガン!
死ぬ気状態にさせたツナだがやはり歯が立たないらしい。吹っ飛ばされたツナは元に戻った。バジルがなんとか間に入ったがそれもただの時間稼ぎでしかない。だが、ディーノの登場で場はなんとか治まった。負傷したバジルの手当てもあるし、何より簡単にやられちまったあの二人にはいい薬だろう。ディーノが手配した廃病院にてさっそくツナが怒鳴ってきやがった。
「リボーン、あんな言い方しなくてもいいだろ!?二人は俺の為にやられたのに!」
「うるさい、ダメツナが。これから来る敵は骸の時みたいに、上手くいくなんて思ってんなよ。あの二人だってそうだ。ジルが消えたのはお前等の力不足が原因だってあるんだ」
「なっ!?」
図星か。
「リボーン、苛立ちもわかる。俺だってジルを止められなかったんだ。責任は俺にだってあるんだ。だが今はこの指輪の話だろう」
ディーノが俺とツナの間に入るように割り込んだ。ッチ。俺としたことが弟子にいさめられるとはな。俺だってわかっちゃいるんだ。あの紅い目をした少女の事を。
あれは天姫の影だと言っていた。ジルの本当の名前は『天姫』というのではないか。ジルの容態が悪化しだしたために、あの影の女は入れ替わった。
『天姫』を死なせない為。並森を去ったのだと。だとしても納得がいかない。なぜツナでは駄目だったのだ?骸との交流など意外な接点が浮かぶ中、それが頭を掠める。
未だ、ボンゴレ本部に関する有益な情報は送られてこない。これも何か情報工作されているのか。ツナでは駄目な理由が存在している?それにヴァリアーの襲撃に加え、ボンゴレリングの略奪。あいつが事を動かしているとなると。もしかしたら、あの影の女はあいつのところに向かった?
「リボーン?どうしたんだ」
ツナの問いかけで我に返った。
「いや、それよりもこれからだぞ」
「そうだな、ツナ。お前に渡さなきゃならない物がある」
そういってディーノが取り出したのはさっきスクワーロが奪っていったハーフボンゴレリング。
「えっ!?なんでディーノさんが!」
ジルはやはり囮だったか。あいつもそう読んでいたのか。
「ツナ、これはお前にと託されたものだ」
「俺に……でも俺は…」
「ジルに、もう一度逢いたいんだったら迷うな」
「えっ!?リボーン?」
「それをお前が手放さないかぎり、アイツはもう一度姿を現すかもしれない」
「リボーン!?まさかっ、ジルはアイツの所にいるとにらんでいるのか?」
両弟子が暑苦しく近づいてくるのに蹴りをいれ、俺はニヤッと笑みを浮かべた。
「俺が狙った獲物を逃したことがあるか?」
推測が正しいならあいつらを迎え撃つため鍛えあげなきゃならない。ツナとツナのファミリーを少なくとアイツとの再会までの間にな。
(待ちわびる彼の人)
※
雲雀恭弥side
一向に進展のないジルの所在。だけど、諦める気なんか全然なかった。
「こうして逢うのは初めてか。雲雀恭弥」
面識がない男が入ってきた。
この応接室にズカズカと入り込んでくるなんて不躾な男だね。
「誰?」
「オレはツナの兄貴分で、……ジルの家族だ。雲の刻印のついた指輪の話がしたい」
「ジルの!?……随分似てないけど」
思わぬ言葉に反応した。だってジルの家族だっていうんだから。
彼女はイタリアから来たのは知っているけど家族構成とかは聞かなかったし、彼女も言いたそうではなかったからあえて聞きはしなかったけど。ディーノと名乗ったその男は金髪。ジルは綺麗な銀色をしていた。だから、素直に感想を述べた。まぁ、ジルがどんな色の髪をしていたって関係なく好きだけどね。その男、ディーノと言ったかな。首を振り僕の言葉を否定した。
「……血の繋がりはない。だがジルはオレの大事な義妹だ。……お前はジルの所在を調べているようだな、色々とやっているのも聞くぜ」
なんかカチンと来た。だってその言い方がまるで値踏みするみたいな言い方なんだから。
「……当たり前だよ。ジルは僕のだ。僕が貰うって決めてるんだから貴方にとやかく言われる筋合いはないよ」
ゆらりと立ち上がり一睨みする。それでも向こうにはなんとでもないみたいだ。それが癪に触る。ずっと彼女を探しているのに情報の欠片さえ、掴めない状況。苛立って当たり前だよ。
「こうも、堂々と宣言されるとは思わなかったぜ。だがジルはまだ誰にも嫁にはやらない。人気はあるみたいだがオレが許さない」
うん、噛み殺そう。決定。
「貴方、何しに来たの?僕を怒らせにきたのなら相手してあげるよ」
ジャキッとトンファー構えて準備万端。どうやっていたぶろうかな。そう考えていた瞬間、思いもよらない言葉が耳に入った。
「……オレと取引しろ、恭弥。お前がツナのファミリーに入るならジルの居場所を教える」
彼女の居場所?全然情報が入らなかったのにこの男はそれを知っている?
「!ジルの居場所……そんな簡単に教えるって事は何かあるでしょ」
「オレじゃ、ジルを助け出すことが出来ない。だからオレはオレのやり方であの子を救う。たとえ、何を言われようがな。利用するものは利用するさ」
真剣な瞳。確かにジルを想っている事はすごくわかった。でもだからって僕がそうやすやすとあげると思うかい。
「……いいよ、指輪貰ってあげる。でもジルは誰にも渡さないから。たとえ、貴方でもね」
さっきからトンファーは得物を求めている。たとえ、ジルの義兄だとしても手加減なんかしないよ。だって、君関連の事だからね。
「いいさ、いくらでも吼えろよ。ジルはオレが認めた男じゃなきゃやるわけにはいかないからな!」
※
この時ディーノとて胸に思っていた。そう、簡単に嫁に出して堪るか。
というか絶対許さない!まだ、家族として数ヶ月しか暮らせていないのにもう何処の馬の骨かわからない男に取られた挙句、『お義兄さん』などと呼ばれるなど勘弁だ。
ツナにだって恭弥にだってあのザンザスも問題外だ。
ジル、オレはお前を助け出してみせる。
そしたら今度こそ一緒にイタリアに帰ろう。
また家族に戻ろう。絶対、何があっても守り切って見せる。俺たちと一緒にな。