闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的37彷徨う虚ろの中で

誰かが、誰かに言っている。

 

『姫様』

 

また、誰かの記憶?また、私と同じ名前の人物の記憶。

現代の女に『姫様』なんて普通はつけないよ。私は長い髪をしていて、丁度鏡の前で髪を丁寧に梳かれている。

 

『姫様は昔から綺麗な御髪をされていますわ。わたくし、うらやましいです』

 

自分の顔は鏡に映って分かるのに、私の髪を櫛で梳いていてくれる彼女。

後ろに立つ女の人の顔が映らない。のっぺらぼうではない。ただぼやけていて顔の輪郭がはっきりとしないのだ。

 

『姫様。あの時からどのくらいの年月が立ちましたでしょうね。あの、忌まわしい記憶から』

 

忌まわしい、記憶?

 

『……申し訳ございません。出すぎた真似をいたしました。もう、忘れてもよいものですものね。……このあいだ、兄と共に、母様の墓前に挨拶をして参りました。

そうしましたら、小さな一輪の花が。あれは母が生前、好んでいた花でした。……父が来てくれていたのでしょう。父も母を心のどこかでは、覚えていてくれたのでしょうか。

忘れてはいなかったのでしょうか。……ふふ、面と向かっては申せぬことと言え、言葉に出すと気恥ずかしいものがありますわ』

 

緩やかに口元が笑みの形をする。

 

『姫様、もう、剣を降ろしていかがでしょうか。もうすぐ、戦など不要な時代が訪れる。ならば、姫様が将として軍を率いることなどなくなります。兄と幸せになられてください。姫様……。あんな兄ですが、立派に姫様をお支えできるでしょうし、何よりわたくしは、貴女に幸せになって頂きたいのです。乱世を駆け抜けた姫様だからこそ、この国の安寧と平和を一番にお分かりです。皆、貴女に惹かれついて参ったのです。その皆が貴女の幸せを願っているのですから』

 

髪を梳く手が止まりシャラリと一つの簪がつけられた。

 

『さぁ整いましたわ。よくお似合いですわ、その簪は兄が幼少の姫様に差し上げた簪ものでしたわよね』

『おい、天姫。終わったか?』

 

後ろのほうで扉が開き、こつこつと近づいてくる足音。

 

『まぁ、兄様、女人の部屋に無断で入るなど無粋な!のっくぐらいなさったらいかがですか!』

『のっくしても、気がつかなかっただろうが!』

『姫様、さぁ、不肖な兄ですが、でーと楽しんできてくださいませ』

『不肖は余計なんだよ……行こうぜ。天姫』

 

差し出された手と送り出してくれる女の人。そのどちらも認識する前にブラックアウト。

 

獄寺隼人side

 

「十日、十日で強くならなきゃならないんだ」

 

決意を固めた十代目は俺を震撼させた。真っ直ぐに揺るぎない意思で俺を射抜く。

リングを託された俺は十代目の願いに恥じない働きをしなくてはならない。

十代目の願いを俺のミスで消すわけにはいかないんだ。

ジルがあのヴァリアーと関係していると聞かされた時。俺は十代目の声を遮って叫んでしまった。

 

「ジルがヴァリアーにですか!?まさか囚われの身にでもなって!?」

 

俺は声に出した途端、我に返った。まさか、こんなに動揺した様子を見せてしまうなんて。

 

「どうしてヴァリアーにいるのかはわかっていないんだ。でも、リボーンが言うには奴らは暗殺集団のプロだって。だから、その、今回は生半可な気持ちじゃヤバいと思う。俺はジルを助ける。だから俺は強くなりたい」

 

その表情はどこか普段の十代目ではない堂々としたものだった。俺はその言葉に対して言い返せる訳もなく黙るしかなかった。

 

十代目が厳しい修行を行うってのに、俺はどうすれば強くなれるんだ!?

 

「俺は十代目を支える右腕になる男だ。それ以外は俺の、…俺の…目標じゃねぇ」

 

シャマルに弟子の話を断られた俺は独自で特訓を開始した。だが、そんな事簡単にいく訳もなく、無様に怪我ばかりしていく。

 

「ちくょうっ!………なんで、こんな」

 

爆風で吹っ飛ばされた俺には,いたるところに傷の跡。

だが、なぜか工事現場のヘルメット被ったおっさんと一緒に穴の中にいた。

こんな穴、いつの間にあったか。

 

「お前は周りばかりに気を取られているからさ」

「んな!?なんだ、おっさん」

「俺は通りすがりの近所のおじさんだよ。可愛い愛妻と可愛い息子もちのな」

「はあぁ!?」

 

いきなりの出現についていけない。だが、おっさんは呆ける俺にかまわず話し続ける。

 

「まぁ、おじさんの助言聞け。お前は助けたい、力になりたいと我武者羅に突っ込む。だが、お前が傷付けば誰かが悲しむとは思わないのか?助ける側にしてみればお前の考えは胸糞悪いものだろう」

「っ!?」

「自分の命さえろくに考えていない奴に大切な人が守れると思ったら大間違いだぜ、若いの。………じゃあな」

 

おっさんは去った。なんかまだ、小さいおっさんが側にいるけど視界に入らなかった。

 

「俺は……あの時から見えちゃいなかったのか……」

 

自分の命があって大切な人が守れるという事を。

ぎゅっと拳を握りしめ、新たな決意を固められた、そう感じたんだ。

 

「ブザマだな、隼人」

「シャマル……」

 

俺を見下ろすシャマル。最初の弟子入りしたを拒絶した時の瞳ではなかった。

 

「自分の怪我は自分で治せよ。俺に例外はない。……嬢ちゃんの事もだ」

「…………」

「恋に譲り合いなんて生優しいもんは存在しねぇんだよ。獲るか盗られるかだ。そんな悩むくらいなら、さっさと諦めちまえ。惨めすぎんぞ」

「っ!テメェにそんな事いわれる筋合いなんかねぇ!!今度こそ、ジルを救う!十代目であろうと譲りやしねぇ!!」

 

アイツが誰かの物になるなんてそんなの考えられねぇ。

 

「……いったな、本音」

「あ!」

 

上手く乗せられた。この野郎!

 

「狙う獲物は超大物だ。それなりの、『男』見せろよ?」

 

ニヒルに笑うこのやぶ医者。ことさらにムカついた。

 

「言われなくても、なってやる!!」

 

この『嵐』のリングにふさわしい所持者にな。

山本武side

 

「親父、俺に剣道教えてくれねーか?」

 

この言葉は決して軽はずみで出た言葉じゃねえんだ。

やばぇ、向かい合うだけで汗が滴り落ちてくるぜ。

 

「武、お前に足りないもの何か判るか?」

「…親父…」

「気迫だよ!」

 

強烈な一撃が俺の鳩尾にはいる。

 

「グッ!?」

 

胴着を着ているとはいえ、この衝撃。ハンパないぜ。しかも、親父の気迫が俺を追い立てる。

 

「武、お前がどういう気持ちで剣道始めたか知らねぇが、中途半端なままの覚悟なら、やめるんだ。これは人殺しの剣だ」

 

親父はこんなにも真剣な表情をするなんて思いもしなかった。

 

「……人、殺し?」

「おうよ。この名、『時雨蒼燕流』は、古来から暗殺など人を殺す術として用いられてきた。気軽な気持ちで習得できるようなもんじゃねぇ。……武、やる気がねぇなら帰んな」

「誰が、帰るかよ!!」

 

俺は勝たなきゃいけない奴がいる。それに仲間との約束もある。

なによりアイツ、ジルを助けなきゃいけない。

ジルとの最後の会話はあの夏祭りの日。

ヒバリと一緒に行動してたと後から聞かされたときはホントに腹立たしいのと寂しい気持ちでいっぱいだったが、花火が夜空を彩っていた、あの日。

少し、ジルと話をしたんだ。

夜でもよくわからないほどの白い生地の中に紫の蝶が優雅に舞っている柄。

さながら紫の蝶っていったところか?

じっと夜の空を眺めるジル。

ドン、ドン!と大きな音が夜空の大輪を演出する。

 

「そういえば、武。怪我なかった?」

「おう!全然平気だぜ、心配してくれたか?」

「全然!」

 

笑顔で即答されちまったんだよな。その時は思わず苦笑いしちまった。

ジルは隣で面白そうに俺をみていると、また視線を上に戻した。

 

俺も上を見た。

 

「ねぇ、武」

「うーん?」

「もし、もしもだよ?」

「おう」

 

俺は横目でジルを視界に入れようとした。だが、その動作が止まってしまった。顔を向く一歩手前で。ジルの顔があまりにも綺麗で。怖すぎるほどに綺麗すぎて。ジルの口がスローモーションのようにゆっくりと見えた。

  

ドォォォオオーーーーン!!

 

「もしも、――――が―――――ら」    

「……え…」

「……武は、嫌いになる、かな?」

 

色とりどりの花火が最後を締めくくる。

俺を一心に見つめる瞳は花火の光を受けて。

キラキラと輝いていた。こう、胸を締め付けられるような

切なくなってしまうような感情。

花火の音がジルの言葉を吸収するかかのように、完全には聞き取れなかった。

 

「ジル、今、なんて」「帰るよジル」

「きょん?もう帰るの?だってまだ…」

「君、さっき思いっ切り走ったから相当身体にキテるでしょ。いいから帰るよ」

「えっ、うわ!」

 

あっという間にジルはヒバリに連れて行かれちまった。

呆気に取られたけど、また明日には会えるよなと自己完結し、ツナたちと一緒に帰った。

だが、その日以降、俺はジルと会話をすることが出来なくなってしまった。

あの夏祭りの日の夜。

あれがジルとの最後の会話。

たった、数分しか話せなかった。いや、もっと短かったかもしれない。

あの時の言葉を最近になって考えた。

離れた日数が重なるだけ,あの日の記憶が鮮明になってくる。

あの時ジルが伝えようとしていた言葉。

 

それは

 

「ねぇ、武」

「うーん?」

「もし、もしもだよ?」

「おう」

「もしも私が私で無くなってしまったら」    

「……え…」

「……武は、嫌いになる、かな?」 

 

輝いて見えたジルの瞳は本当は涙で揺らいでいたんだ。

だから、光の反射で煌いて見えた。ジルは自分が消えることを恐れていたんじゃないかって思う。自分が消えても俺は嫌いにならないか?、そう聞いてきたと俺は思ったんだ。

俺は『ジル』っていう名前の女の子を好きになったんじゃない。

俺が好きになったのは言葉を飾らない素直で鈍感優しくて優しすぎて自分を犠牲にしてしまうような、そんな素敵な女の子『ジル』を好きになったんだ。

そんなあの子が泣いている。そう、思うとこんなところで止まってる場合じゃない。

 

「俺は、お遊び気分じゃやってないぜ。親父」

「……………」

「あいつが待っている、俺はそう感じるからだ。だから、こんなとこで止まる訳にはいかないんだよ!」

 

俺を待っている子がいるから、引けやしない!

 

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