闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的39眠りの姫の帰還

天姫side

 

「いき、て、る」

 

喉がからからで辛うじて出た声が自分の元からある声だと認識できる。

いつも通り見たことがない天井だ。ずっと動かされることがなかったであろう自分の体は指先少しでも動かすだけで抑えがたい痛みが走る。でもそれは徐々に感覚として慣れていきゆっくりと自分の腕を動かし左手を宙に翳す。

 

幼児の手ではない大きくなった己の手だ。そして薬指に青く光る指輪がおさめられている。

これは、『虚像のリング』、かな。

自己分析してる時点で今の状況は判断できていない。ただ、なすがまま、私が今、生きいることだけが現実だ。

髪を確かめてみたら輝くような銀色ではなく真っ黒な髪。無造作にベッドに散らばった天姫という女の髪だ。そう、大きくなったことでそれはジルではなくなったことを証明する。

 

ジルは死んだ。

 

まぁ、死んだというのは語弊があるかな。私が天姫に戻った事でジルという少女はいなくなった。力の均衡も収まっている。頭の片隅であの少女が語りかけてきた。

 

『あら起きたのね。どう、体に変化はないかしら?』

 

……大丈夫、ただ体が硬いだけ。でも指輪してるのはなぜ?これは元々、九代目の手元にあったはずじゃ……。

 

『貴女を生き返らせるに手に入れたわ。その指輪は貴方を安定させる役目があるのと同時に彼のものになった証でもあるのよ』

 

彼?

 

『そう、彼。貴女を一途に想い想った挙句のボンゴレ始まって以来の暴動を起こそうとしている、愚かで可愛い子。氷から解放された王子様。王子様は眠り姫をずっと待っていたわ、今までずっと。そして今も』

 

氷の王子?って……まさかっ!?

その人物に一人だけ心当たりがあった。いや、彼以外ありえないのだ。

 

『そう貴女の推測通り当たりよ。でも急がないと始まってしまうわ?時期ボンゴレ十代目を決めるための【指輪争奪戦】が」

 

そんなの、私は頼んだ覚えはない!ザンザス!

 

『……そうよ天姫、行きなさい。これでまた物語が終焉へと向かうわ。ワタシ達が望むべき姿へと近づくのよ』

 

グッと腕に力を込めてベッドから起き上がる。だがすぐに力が抜けてごろりと転がりながらベッドから落ちてしまい顔面強打。

 

「ぎゃ!」

 

だが根性~!と気合を入れて這ってほふく前進しながらドアへと進む。

言わねばならない相手が待っているのだ!それも頼んでいないのにとっととおっぱじめようだなんて!

 

頑張ってドアまで進んでドアノブに両手で引っ付いて開ける。廊下に出た頃には壁にもたれながらも立つことができた。だが道のりはまだ遠かった。

まずここが何処だか私、知らないのだ。

 

「ここどこ!?」

 

私の間抜けな叫びが廊下に響いた。

 

(ワタシ達が永遠となる日が近くなる)

沢田綱吉side

 

顔合わせの場にある人物が乱入してきた。

 

「ザンザス!」

 

その高らかな声が場を一瞬にして支配した。視線が皆その先へ集中する。

そこに立っていたのは、黒髪の女の子。具合が悪いのかおぼろげな足取りで近づいてくる。

 

「……天姫…」

 

誰かが呟いた。『天姫』と。瞬間、漠然と俺は理解した。

あの子は、ジルだって。俺が知るジルは幼い子供だ。遠く離れた場所にいるのは、その記憶からは違い過ぎている同年代らしい少女が立つ。誰が見たって、同一人物だとは思わないかもしれない。けど、俺には分かるんだ。

 

あの子が、ジルだって。理由なんかない、ただの勘だ。

 

他の皆も戸惑いを浮かべつつも,あの少女に釘付けだ。

黒のスリットの入ったワンピースを身に纏いヒールの高いブーツ姿。

黒髪は夜の中でも黒と混ざり合う事無くその艶やかで腰まである長さが目につく。

白磁の肌に黒がよく映える。華奢な四肢。意思が強く感じられる瞳は紫水晶そのもの。そして首元に光る紅い宝石のチョーカーがなおさらジルの姿が重なって見えた。

チェルベッロ機関の女二人が目をひん剥く勢いで驚いて声を上げた。

 

「天姫様!」

「無理をなさらないで下さい、まだお体が」

 

二人は彼女の体調を心配してだろうとザンザスに向かおうとする行動を阻止しようとずいっと行方を阻むが

 

「離せ」

 

と氷のように冷徹な視線で二人を無理やり下がらせた。

あの女の子達だけではなく俺たちのところにまで筋が凍りつきそうなくらいの殺気が届いた。黒髪の少女が一心に見つめる先はヴァリアーのボスがいる。

しばし見つめ合う二人だったが、先に言葉を発したのは黒髪の少女だった。

 

「私に、言いたいことはない?ザンザス。あるでしょう」

「………」

 

無言のまま、ザンザスは彼女を見つめる。

二人だけに通ずる絆のようなものを見せつけられた気分になり、俺は内心苛立ちを隠せなかった。そこへヴァリアーのメンバーが次々と彼女へ駆け寄っていく。笑顔で彼女を迎えたり再開を喜んだりしている。それが俺たちとの過ごした時間が否定されているようで悔しかった。あのヴァリアーのボスが少女を自身の腕に閉じ込めた時なんて腹立たしかった。

憎かった。許せなかった。

彼女は、ジルは俺たちと過ごしていたんだ。ジルは俺たちの仲間で、家族で、大切な人だったはずなのに、姿、形が違っていても俺にはわかるんだ。彼女はジルなんだって。

俺は気がつかないうちに叫んでいた。必死に、心のそこから。

 

「ジル!」

 

腕を伸ばし、届かない手を求めて。お願いだ、俺を見てくれ。

帰ってきてくれよ。俺たちの所へ。俺の、所へ。

 

「……綱、吉……」

 

ぽつりと呟かれた言葉。本当に小さくそれは小鳥が囀るようなか細いもので、でもちゃんと聞こえたんだ。あの黒髪の少女が俺の名を切なげに呟いたのを。でも少女の一歩は邪魔された。あのヴァリアーのボスに。

 

(この声は君を追えない)

 

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