天姫side
「天姫ちゃん!今日の私の華麗な試合みにきてくれるわよね!」
「あ、無理♪」
「うっそ~~~ん!?」
笑顔で泣きまくりのルッスーを後でお話聞かせてよと慰め、いってらーっと元気よく見送り、私は私で準備をする。これから行くのは屑な親の元で不憫な思いをしているある女の子の所だ。
「その女の住所は、コレだ」
彼から差し出されたのは一枚の紙切れ。情報収集はお手の物のマーモンに頼んでおいたんだ。お金は?って訊いたら、天姫からはあとでお茶に付き合ってよ。それでその代金は無しだよって可愛いこというもんだから。こうぎゅっと抱きしめてしまいましたよ。
そしたら、ザンザスが憤怒の炎出しちゃって部屋が半分焼け焦げた。だから今もちょびっと焦げ臭いです。
「ありがとう。じゃあ、さっそく行ってきますわ」
「………俺も、行く……」
「駄目でしょ。ザンザスはルッスーの活躍を見てきてあげなきゃ」
「…………カスなんか、気にしてられるか」
「カス?」(にこりとかつ拳をかざして)
「ウッ!?」
「………わかった、行こう。ただしなんでもかんでも燃やさないこと。いい?守れる?」
「……………フン……」
素直じゃないな、まったく。心配なら心配って言えばいいのに。
病み上がりみたいな体だもんね。確かにザンザスは心配だった。天姫が他の男共からちょっかいかけられないかと。
(二人の勘違いは続く。)
※
ある病院での出来事。
「あなた、あの子はもう駄目よ」
苦しむ少女の一室を前にして繰り広げられる醜い言い争い。夫婦と思しき男女二人組みが、声もはばかることなく大声を上げた。
「凪は君の子じゃないか!君が責任を取るんだ」
「なんですって!?」
「ああ、もう会社に行かなくては!」
踵を返そうとする男の前にサングラスをかけた女が一人佇んでいた。後ろには目つきの悪い男を従えて。
「ええ、結構ですよ。行ってください。私としてはそのまま永遠に会社に縛り付けてあげたいくらいですが」
「殺すか、…」
何やら男の方が恐ろしいことをさらっとつぶやく。女はここで火事起こしちゃ迷惑でしょ!と男とたしなめて叱る。
「なんなんだ、君たちは!」
父親と思われる男が不審人物を見るような目つきになり、大声を上げた。
突然現れた二人組にこれまた突然夫婦の会話に乱入されたのだから、ビビッて当然。
男のいぶかしんだ問いかけに黒髪の女は口元に笑みを浮かべ
「こんにちは、凪のご両親。貴方がたがさきほどいらないと仰っていたお嬢さんを引き取りに伺いました。ですのでさっさとここからお引き取り下さい。あの子の面倒は私が今後一切引き受けますので」
「なっ!?なにを急に!」
「失礼な人!あなた、警察を呼んで!」
男は妻に促され携帯を取り出した。だが電話が繋がることはなかった。
「壊れてしまったの、か?」
フフツと女の口から笑いが零れる。相手に侮蔑を込めてだ。
「ああ、無駄ですよ?こっちにはプロの殺し屋がいますからね。(要はザンザス権力)この辺一体携帯使えなくさせることなんて朝飯前ですよ(ただたんに携帯壊しておいただけ)」
その言葉が引き金となり廊下だった場所は一変、真っ暗な暗闇へと変化した。電灯スイッチ切っただけなのだが、突然の事態に人間というのはパニック症状を起こすもので思考がまともに働かないのだ。
足元を支える床が消え去った感覚に陥った夫婦は恐怖のあまり叫ぶ。
「…………なにが、目的だ。金か!金だな?!薄汚い連中めっ」
「………カスが……」
「コラ!ザンザス。貴方たちの金に興味はありません。ただ、あの子は私が引き取ります。そう、一言。貴方はおっしゃってくださればそれでいい。拒否の言葉を」
「いら、いらないわ!あんな子なんか!」
「そうだっ!もう必要のない子だ!」
夫婦二人が必死にその言葉を叫んだ瞬間、明かりがつきはじめた。夫婦は安堵感からかその場にへたり込む。黒服の二人だけは平然とその夫婦を見下ろす。
ゴミを見下ろすかのように冷たい視線で。
「人間の汚い部分見たって感じ?」
隣の長身の男が女の肩を抱き寄せ
「……いくぞ、天姫。馬鹿が移る」
「確かに!ではでは。今後二度と逢うこともないのでご安心を。さようなら」
そういって二人は普通に病室を出ていった。
「なんだって、いうんだ……」
「……あなた……」
女は凪がいた病室の前でへたり込んでいた。男はいぶかしみ、側へ近寄る。
「どう……」
男も言葉を失った。
なんせ、凪がいたであろうその病室はもぬけの殻。
忽然と消えた娘の行方を探し出そうとは思わなかった夫婦。その後の二人がどうなったかは知らないし知りたくもない。
所で彼らが凪が消えたと思った病室は、実は違う病室で暗闇になった瞬間、別の部屋ナンバーだけを入れ替えておいただけという仕掛け。
言葉巧みに利用し、人間の錯覚という現象を利用したちょっとした手品。
ザンザスだけに任せていたら、きっと悲惨な事件扱いになってしまうのは明白。
錯覚を利用した単純なトリックである。
彼らに気づかれないうちに、凪は早々に違う病院先に移されそのまま彼女に必要な移植手術を受けさせることになった。
「ザンザス。今回は燃やそうとしなかったね」
「………フン…無駄に手を汚さなくてもいいだろう。屑に構う暇はねぇ」
「それは言えてる。それに病院で火事は不味いからね。……でもありがとね。一緒に来てくれて。実はああいうタイプって絶対殺しちゃいたいくらい嫌いだから」
お礼言われてそっぽ向いて照れるヴァリアー暗殺部隊のボスであった。
※
六道骸side
どこまでも終わりがない空と雄大な大地。それが現実のものではないということは分かる。
ここは夢の世界。精神と精神が融合して出来上がった世界。だから貴女も僕の望みで出来上がった一部だと思っていた。
「骸」
その声を聞くまでは。
「天姫!」
昔懐かしい彼女の姿を目にしたとたん僕は駆け込んでいた。あの頃に近く大人へと成長し近づいた少女。その柔らかな身体を抱きしめて離さないように閉じ込めた。たとえ、ここが夢の世界であろうと彼女は僕の中にいる。言いようがない高揚感。彼女の絹のような髪が僕の頬を撫でる。
「ああ、天姫、ずっと逢いたかった」
「心配かけたね、ごめんね」
僕の頭を撫でるその仕草すら昔のようだ。
「…貴女が、僕等を庇って奴ら共に消えた。それがどれほど僕の心を引き裂く行為だと考えたことはなかったのですか?現に僕はずっと貴女を求めていたのに……」
僕の悲痛な想いに彼女は口を開かず優しく頭を撫で続ける。
「天姫、帰って来て下さい。もしそれが出来ないのでしたらまた迎えに行きます!」
貴女を縛っているものは全て敵だ。だが、そんな僕の想いすら貴女は切なげに否定するんだ。ふと、髪から手の感触が無くなり身体を引き剥がされた。紅い瞳が僕と重なる。
「骸、しばらくはそっちには帰れない」
「そんなっ!?」
どこまで貴女は僕を絶望させれば気が済むのだ。だが、そんな貴女でも僕にしか出来ないことを頼んでくれる。
僕を頼りにしていてくれていることが僕を歓喜へと導く。
「骸、頼みたいことがあるの。あの娘を貴方に託したい」
「あの、娘ですか…?」
天姫が指し示した先に現れた少女。
「…天姫…?」
「凪、こっちにおいで」
天姫に誘われ、おずおずと骸と視線を合わせた。白いワンピースを身に纏った少女。
右目は髪で覆われ見えなかった。天姫は優しく少女の手を握り大丈夫だよと視線で語る。それに凪はほっとした表情をみせた。
「骸、この子が凪。凪、ご挨拶して」
「…初めまして………」
「天姫。貴女は、何をしようとしているんですか?」
「今は何も言えない。でもいずれはきっと皆と暮らせるから。それまではこの子の家族になって。……私に言ったように。この子を守ってほしい」
「天姫………分かりました。」
「……天姫……行っちゃうの?」
「大丈夫。すぐにまた逢えるわ」
幼子のように瞳を揺らぐ少女。凪の額に安心させるために軽くキスをする。
「『霧の試合』で逢いましょう?」
そんな不敵に微笑んで彼女にだけするなんて卑怯ですよ。
「天姫」
「ん?」
掠めるように合わさった唇は一瞬だったけど、それは確かな約束の証。みるみるうちに天姫は先ほどの行為がなんであったかを思い出したかのように、頬を可愛く染めては口元を片手で覆い、一歩後ろに下がった。
「約束です。貴女は、僕の『家族』なのですから」
「……一丁前に乙女の唇奪うとは……軽やかすぎ」
「貴方限定ですよ」
「いらないです」
不意打ちのキスに天姫は「じゃあね!」と言い残し消えていった。
※
あとに、残されたのはどこか不機嫌な凪とご機嫌な骸。
「…ぱいなぽーめ……」
ぼそっと毒を吐く凪に聞き捨てならんと骸が食って掛かる。
「!?人が気にしていることを!」
だが凪の方が一枚上手であった。
「パイナポーの精のくせして天姫の唇奪うなんて生意気」
「だれがパイナップルの精ですか!?」
「骸さま」
「真顔で人を指差すなんてどんな性格ですか!?」
「こんな性格」
「いちいち言わんでよろしい!」
訂正、一枚も二枚も三枚も上手だった。
天姫絡みだと凪の性格が変化することをこの時、骸は思い知ったである。