闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的51素肌で受け止めて

山本武side

 

「勝ったぜ…」

「…山本が勝った……!」

「あいつ…」

「やりましたね!」

 

歓喜の声が上がる中俺の手の中にはゲットした指輪。ちょっと血を流しすぎたが。フラフラとしながらも手に入れられた実感は確実にある。水の中に倒れこんだスクアーロはピクリともしない。だが、チェルベッロよりつげられた言葉は無情すぎるものだ。

 

「アクエリオンに入るのは危険です。規定推進に達したため、獰猛な海洋生物が放たれましたので」

「なんだって!?」

「おいおい、そんなのアリかよ…」

 

女達が言うには敗者には生命の保証はしないだってさ。そんな事させるかっての。

足もとさえ、定まらないような状況でスクアーロを引き上げる。だが、血が抜けきった身体では大の男一人でもやっとだ。外では無茶だとか、馬鹿かとか言ってるけど俺には普通だと思う。見捨てる命なんか一つもないだろ。ジルだったら、絶対そうしてるはずだしな。でも、

 

「はは、ちょっとピンチか?」

 

すぐ側では大きな鮫の背びれがウロウロしている。だが足元のコンクリートが突如、崩れ落ちる。徐々に沈んでいく足もと。それにしたがって鮫との距離が縮んでいく。その時、スクアーロが顔を起こし、

 

「降ろせ」

「剣士としてのオレの誇りを汚すな」

「なに、言って」

「うぜぇぞ!!」

 

その瞬間腹を思いっきり蹴られ吹っ飛ばされた。鮫が向かう方向とは違う場所に投げ飛ばされ気がついたときには

 

「その甘さ捨てることだぁ、剣の筋は悪くねぇがなぁ。………すまねぇ、天姫」

 

獰猛な鮫がスクアーロを飲み込むのを黙ってみるしかなかった。

どばぁぁぁん!!

水しぶきを立てた後、スクアーロの姿はなかった。

 

「………っ…」

 

結局、俺は助けられたってことか…。拳を握りしめ、その場に佇む俺。だが、

 

「天姫様、おやめ下さい!?」

「天姫!」

「ジル!?」

「え…」

 

皆の制止を振り切り空中を降りてくる一人の女の子。

真っ直ぐにただ紅く染まった水を目指して。一瞬だけ、視線が合わさった。俺の瞳と紫の瞳が。

 

ばっしゃ―――ん!

 

ま、さか、今のは

 

「天姫―――!」

 

悲鳴に近い叫び。騒がしくなる音。嘘だろ……誰か、嘘だと言ってくれ…。

あの大きな巨体の奴がジルの後を追って水の中に飛び込んだ。すべてがスローモーションのように見える。

 

「…ジル、ジル……うそ、だ……ジル―――!」

 

体が麻痺したかのように動かない。なのに声だけは出せた。血で淀んでいた水がさらに真っ赤に染まる。考えたくない思考が絶望を呼ぶ。

 

でも、一つの奇跡が起きた。バシュッ!!大きな水しぶきが視界を遮る。

 

水滴がばしゃんと振りかぶる中、

 

グォングォングォン……

巨体の手には血だらけのスクアーロとずぶ濡れのジルの姿。

 

「………カハッ……!」

「ジル!」

「天姫!」

 

ギャラリーから次々とジルを心配する声が上がる。

 

だがジルは荒い息を繰り返す身体でキッとスクアーロを睨み、

 

「…お、きれ、この馬鹿ぁぁあ!」

どごぉ!

「………ゲホッ!?」

 

容赦ない蹴りがスクアーロの腹に直撃した。飲んでいた水を吐き出したスクアーロ。

だがジルの攻撃は止まらない。綺麗な足を微塵もなくさらしさらに蹴りを入れ続ける。

 

「アホ野郎!」ゲシッ!!

「ウグゥ!!?」

「気障野郎!」ドゲシッ!

「グハァぁぁあ!」

「無駄にロン毛がぁぁあああ!」どごぉぉぉおおお!

「グエェェェ――――!」

 

ジルの行動に皆ぽかーんと口をあけるしかない状況。もはや別の意味でスクアーロは瀕死に近い状況。肩で荒い息をするジルが吐息混じりに言ったこと。

 

「何が、…剣士、の誇りを汚すな、だぁ?、何が、す、まねぇだって……?」

「てめ、天姫……」

 

首元に砕けたスクアーロの剣先を近づけ、顔を寄せる。馬乗りになり身動きしようとするスクアーロをとめる。喉元ぎりぎりの距離。ギラついた視線が押し込められたような怒りの声が場を支配する。

 

「誰が、いつ、どこで、何時何分何秒お前に死ねって言った!?」

「!?」

 

息を呑むほどの気迫。これは殺気に近い。怒りという名の殺気。

 

「ザンザス?マーモン?レヴィ?ルッスー?ベル?それとも私?それとも剣士の誇りが?」

 

素手で掴む手は肉が裂き刃が食い込んでいく。血がぽたぽたとスクアーロにかかる。それでもジルはやめようとはしない。搾り出すような声は精一杯の気持ちを出していた。

 

「……許、さない………死ぬなんて、」

「……天姫…」

「……だったら、そんなもん、ぶっ壊してやる、そんなもので死ぬ時を決めるってんなら、私が言ってやる!『私が死んでいい』って言う時があんたの死ぬときだ!それまでは許さない!たとえ反抗しようが、絶対に逆らえないようにしてやる、抗えないようにしてやる。私が!!いる、私が『今』生きてるこの『世界』で、絶対、誰も、死なせないっ!神が殺すって言っているなら私が神を殺してやる!あんたは『今』、生きるんだ!」

 

ジルの叫びは、この環境で半協和音を引き起こし、木霊とかす。

 

「……わ、るかった……」

「……」

「…泣くんじゃねぇ……」

「泣いてない、馬鹿もん。これは鼻水だもん」

「目から、鼻水でんのかよぉ?」

「そうだよ。目から鼻水でるんだもん」

「……悪かったから、ソレ、止めれ゙ぇ」

「………死ね、あほスクめ……」

 

ぽすっ。

最後の一撃とばかりに頭を落とすジル。スクアーロはそれをぽんぽんと叩いた。

 

「『死ぬな』って言ったのは誰だっつぅ゙の……」

 

たぶん、俺にしか聞こえなかったと思う。

ジルから、かすかに聞こえる嗚咽を堪える声が。

 

天姫side

 

正直、アホだと叫びたかった。だがそれよりもなによりも身体が動いていた。

ザンザスの止める声も、凪の悲鳴にちかい叫び声も、ルッスーの驚愕の表情も、ベルの伸ばされた手も、マーモンのとっさの力でさえも、私の目には入らなかった。

ただスクアーロの髪があの鮫に飲み込まれる瞬間だけ。一瞬風をきって下へ落下する時、武と目があった。その顔は唖然と僅かの驚きと悲しみに溢れていた。

 

ばっしゃ―――ん!

 

冷たく血が混ざった水で視界は遮られ、彼が何処にいるかさえ、分からない。かなり深くもぐったところで分かりはしない。

 

はやく見つけないとこっちの息ももたない……。どこ……そうだ、鮫は血の匂いにやってくる。

なら自分の腕を太ももに着けたいたナイフで傷つけ鮫をおびき出す。そのとき、大きな巨体が蠢いたのを感覚で捉えた。物凄い速さでこちらに向かってくる。

お前にやる餌なんかないわ。食うか食われるかの瀬戸際であの銀髪目の前の端をかすった。

 

見つけた!

 

その瞬間、ゴーラちゃんがタイミングよく私を捕まえ、そしてスクアーロを抱え、上昇する。うっ、水圧がキツイ。スクアーロ……息しないと絶対許さないから……!

 

バシュッ!

 

やっと、出れたとおもった瞬間、肺が求めていた酸素が一気に入り、どっと身体にきた。

 

「………カハッ…ハァハァ…!」

「ジル!」

「天姫!」

 

私を呼ぶ声が聞こえるがそんなもの、全然耳に入らない。

今は目の前でぐったりとする男ただ一人。簡単に死なせるかよ!

スクアーロの上に思いっきり足を振り下ろした。

 

「…お、きれ、この馬鹿ぁぁあ!」

 

あらん限りの声で叫んだ!そして踏みつけた!

 

「………ゲホッ!?」

 

よしっ。水は吐き出したな。でも、これだけじゃ気がすむわけない!

交互に足を振り下ろし制裁を加える。加減なんて言葉は最初からない、いやあるわけがない。

 

「アホ野郎!」ゲシッ!

「ウグゥ!?」

「気障野郎!」ドゲシッ!

「グハァぁぁあ!」

「無駄にロン毛がぁぁあああ!」どごぉぉぉおおお!

「グエェェェ――――!」

 

…………白目、向いてる。やりすぎた?いやこれはまだいける範囲内だ。

まだまだ、だ。まだだ。まだ、このお馬鹿にはわからせなきゃいけない。

何のために人がわざわざずぶ濡れになってまで助けにいったか。

何のために鮫をおびき出すために自分の腕まで切っておびき出したか。

何のためにみんなが傷付かずにいられるようにしているのか。

呼吸する間さえ、アンタにくれているというのにコイツは何一つ理解していない。

それが腹立たしくて仕方ない。当たらずにはいられない。

 

「何がっ、…剣士、の誇りを汚すな、だぁ?、何が、す、まねぇだって……?」

 

白目から復活したスクアーロがぎこちない身体で起き上がろうとする。

 

「てめ、天姫……」

 

だが私は鮫が砕いたであろう剣を俊敏に取り出しスクアーロの首に突きつけた。

 

「……だれが……」

 

肉が食い込もうが血がとめどなく溢れようがそんなの気にしない。

こいつが理解するなら、なんだってしてやる。ぐっと、スクアーロの上にのっかりこちらに優勢をもってくる。逃がしはしない。怒気を含んだ瞳が真っ直ぐスクアーロとかちあった。彼にあったのは戸惑い一色だ。尚更ムカついた。苛立った。

 

「誰が、いつ、どこで、何時何分何秒お前に死ねって言った!?」

「!?」

 

ブワッっとあふれ出す私の感情がここでもう爆発した。

 

「ザンザス?マーモン?レヴィ?ルッスー?ベル?それとも私?それとも剣士の誇りが?」

 

早口になりもはや止まりはしない。感情のまま私は思いの丈をぶちまけた。

 

「……許、さない………死ぬなんて、」

「……天姫…」

「……だったら、そんなもん、ぶっ壊してやる、そんなもので死ぬ時を決めるってんなら、私が言ってやる!『私が死んでいい』って言う時が、あんたの死ぬときだ!それまでは許さない!たとえ反抗しようが、絶対に逆らえないようにしてやる、抗えないようにしてやる。私が!!いる、私が『今』生きてるこの『世界』で、絶対、誰も、死なせないっ!神が殺すって言っているなら私が神を殺してやる!

あんたは『今』、生きるんだ!」

 

ああ、視界がぼやけてきた。たぶん息継ぎなしで喋ったから酸素が足りないのね、きっと。疲れた叫び疲れた怒鳴り疲れた泳ぎ疲れた蹴り疲れた血が足りない貧血気味になったかも。全部、アンタの所為だ。

 

「…わ、るかった……」

「………」

 

謝っても許してやらん。

 

「…泣くんじゃねぇ……」

「泣いてない、馬鹿もん。これは鼻水だもん」

 

緊張して鼻水でちゃった。

 

「目から、鼻水でんのかよぉ?」

「そうだよ。目から鼻水でるんだもん」

 

大量にね。呼吸さえ、奪われそうなほどね。

 

「……悪かったから、ソレ、止めれ゙ぇ」

「………死ね、あほスクめ……」

 

ぽすっ

 

最後に頭で攻撃してやった。

だけど、それは力ないものになってしまった。だって、鼻水を止めるのに精一杯だったからなのだ。

偉そうに私の頭をぽんぽん叩いてくる。

 

「『死ぬな』って言ったのは誰だっつぅ゙の……」

 

ポツリと呟かれた言葉に私だよ、とはあえて言わなかった。

ああ、手が痛い……最後の復讐にスクの服で鼻かんでやった。

今日はぐっすり、眠れそう……。

 

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