沢田綱吉side
早く!早く!完成させなくちゃいけないんだ。俺の目標とする『零地点突破』。
けど焦る気持ちとは裏腹に結果は追いついてこない。
あのリボーンに言われた言葉が集中することを邪魔するからだ。
俺がジルっていう名前に囚われている?
なんだよ、それ……
俺はジルが心配でたまらないんだ。ジルは俺が助けなきゃって。きっとジルのことだ。お人よしすぎていいように利用されてるだけなんだ。ヴァリアーがどんな恐ろしい存在かってことを知らないからあんな態度取れるんだよ。
でもジルは俺を疎んでいる?
ジルは俺に助けられることを望んでいない?
いや、そもそも俺なんか眼中にないみたいだった時もある。
無視されてるっていうか、スルー状態だ。
なんだよ、こっちはジルの為に辛い修行だって本当は戦いたくない決闘だって受けるって決めたんだ。ボンゴレ十代目なんかなりたくないって気持ちは今もある。
でも、そう宣言してしまったらジルを取り戻せない。だからあえて自分を律してまで、ここまでやってるのに!
当の本人からはどうでもいいってか嫌われてるのか、とにかく!わからないけど俺の気持ちとか全然伝わってない。まるで今までの関係性とかリセットされた気分だ。
俺たちの関係ってそんな希薄なもんだったのかな……。
俺はそれなりに絆っぽいものを築けてたと思ったけど、一方的なだけだったのか。
ジルの、
あの子の本当の気持ちがわからない。
知りたくても近づくことができない間柄だ。
それにボンゴレ側の霧の守護者とも今だ顔会わせすらしていない。
状況は最悪。
「だらしねぇぞ、ツナ」
リボーンは理不尽に言ってくるしコロネロは根性足りてねーぞコラとか言うし。
山の中での修行も今日で何日目だか日数の感覚させ分からなくなってしまいそうだ。
「そんな事言われたって!」
「おい、リボーン。さっさと呼び出した用件言いやがれ」
コロネロがわざわざ修行の場所にいたのはリボーンが呼んだからなのか。
「しかたねーな。……おい。ツナ山下りてジュース買って来い。コロネロの分もな」
「ハァ!?なんでそーなるんだよ!」
「いいからさっさと行って来い」
「あ、拙者も行きましょうか?」
「甘やかすな、バジル」
善意で言ってくれてるのに…ったく、リボーンのヤツ。
なんか妙にイライラしてないか?
「大丈夫だよ、……行ってくる」
俺は無茶苦茶な命令に逆らえずに山を降りた。でも反抗はしなかった。
今はこのもやもやとした気持ちが収まるならどこへでも行きたかったから。
それに少しでもリボーンと距離を置きたい。お互いぎくしゃくしてたもんな。
山をてくてくと下りてきて、遠目からすぐ近くの町のある駄菓子屋の一角に自販機を発見した。俺は自販機まであとちょっとだ、疲れ切った足に力を込めて進んだ。
すると自販機近くまで来たところで、見たことのある制服姿の男子二人が駄菓子屋の前で話し込んでいるではないか。
「…、ん、こんなトコに黒曜生か…」
俺は彼らの脇をすり抜けてズボンの小銭を数枚取り出して自販機へと小銭を投入。
ピ、ッピ、ッピと機械音が鳴る。あ、何がいいのか聞いてこなかった。
適当でいいかな。
俺はさっさと選んで戻ろうとスイッチに指をかけようとした。
でも、どっかで。
めちゃめちゃ聞き覚えのある声がしていることにハッと気が付いた。
「犬、さっさと買っていくよ」
「まてよ、天姫にお土産に買っていくら!」
「天姫はガムお土産にもらって喜ぶ歳じゃないよ。だいたい天姫が喜ぶものならアップルパイでしょ」
「そうだびょん!おばちゃーん、アップルパイちょーだい!」
「駄菓子やにアップルパイ売ってるかよ!?」
突っ込まずにはいられない会話に思わず条件反射で突っ込んでしまった。
やっぱりお約束だよなー。
「アア!?」
「…天姫、の敵…」
まさか、まさかの黒曜ランド以来での柿本千種と城島犬との再会。
望んで得たものではないが、奴さんは敵意満々で俺は頬を引きつりながら穏便に行こう!と提案しかけた。でもそんなものよりもシュッと物凄い速さでヨーヨーが俺のおでこに飛んできてクリーンヒット。
当然、俺はそこで意識を失ったわけだ。
※
リボーンside
ツナの気配が完全に消えたことを確認した後、ずっとだんまりを通している俺に長年の勘からコロネロは俺が何か情報を掴んだことを感じ取っていたらしい。
「………リボーン、お前何か掴んだんじゃないか?コラ」
「リボーン殿?……やはり何かわかったのですね」
やはりバジルも気になっていたか。
さすが門外顧問組織CEDEF(チェデフ)に所属しているだけあるぜ。
こいつらなら教えてやってもいいかもな、アイツに関する情報を。
「……ジル、あいつ。神崎天姫って奴はどれだけ探しても生きてきた痕跡が見つけられない。ボンゴレの情報網を使ってもだ」
「…それは!?どういうことですか!!」
「………まるで、突然現れたみたいな言い方だなコラ」
「そうかもしれねぇ。……ジルの時のデータを照合しても一向につかめねぇ。あの女の状態ならと思ったがそれすらなにもない。この地球上ありとあらゆる国、人種。どこを探してもねぇ。もしやとは思っているが、アイツはこの世から抹消された存在なのかもな」
「…………そんな人間が本当にいるもんなのかコラ」
「最初の『蒼龍姫』も全てが謎なはず……リボーン殿。本当に彼女はいったい……」
「………本人に言わせるしかないじゃねぇか。………それが可能になるならの、仮定の話だが」
もし、それが起こり得るなら完全に勝敗が決まったときだ。
アイツ自身、ヴァリアーと共にいることを拒まず、むしろ大切に想い受け入れている様子。
『雨の守護者対決』でもそれは俺たちの前で明らかなものになっている。
天姫の真意?
そんなもの最初から分かったら、こんな苦労だってしねぇし、
俺がこんな苦い想いしなくて済むんだよ。
残るは『霧』『雲』そして『大空』の試合。
なぁ、天姫。お前の本当の気持ちってのは何処にあるんだ。
※
沢田綱吉side
いまだ痛むおでこに無意識に手をやりつつ目が覚めて気がつけば、見慣れた並盛中学の体育館にいた。
「え、ここって…」
「霧のリングの争奪戦、そのフィールドだ」
「リボーン!?」
いつの間に移動してきたんだ!?
ガバッと起きて周りを確かめたら心配そうな獄寺君が視界に入った。
「十代目!お加減いかがですか」
「獄寺君、それにみんな…」
ずらりと見慣れた顔ぶれがそろっていた。獄寺君に山本。笹川センパイにバジル。ランボは入院中だけど仲間って意味なら居場所がどこだろうと関係ない。
……そっか、俺が気絶してる間にもう決闘の時間になっちゃったのか。
今日は霧の試合だから黒曜の二人ってわけか。納得……、って納得するなよ俺!
伸されたことは納得してないぞ、今も痛いんだからなおでこが。
「バジルがここまでおぶってくれたんだぞ。礼言っとけ」
リボーンにそう指摘され俺はバジルに礼を言った。
「あ、ありがと……あ、そうだ。山本」
「ん?」
「その、目、とか大丈夫?」
痛々しく右目が包帯で幾重にも巻かれている。目だけではない、そこかしこに包帯が見え隠れし昨夜の怪我が相当なものだったことを現している。笹川センパイの怪我もやっぱり酷いもので思わず目をそらしたくなる。
「ああ、ロマーリオのおっさんが大丈夫だってよ」
俺の心配など吹き飛ばすかのようないつもの山本らしいスカッとするような笑顔。
俺はそっかと軽く息を吐いた。
よかった……。
「しかし、十代目。霧の奴が姿を現さないッスよ」
「…そうみたいだね、向こうの方は人数がそろってるみたい」
視線をヴァリアー側に移せばなぜかあのデカい巨体の後ろ姿が妙に視界に入る。
というか何をしているんだ?
チェルベッロの二人組みはスタンバイしているけど向こうの霧の守護者も姿が見えない。
だが、全部隠れているわけではなくちょっとだけ見えたりして。それが
「………、ジルだ…」
「十代目!?本当ですか!」
「………なんか、顔色悪そうだな……」
「うむ、一人では立てないなのかもしれんな。見てみろ、ルッスーリアに支えられているぞ」
笹川センパイの言葉の通り、ジルは時折ふらつく動作をしておりその度にヴァリアーの守護者に支えられている。
「やっぱり、スクアーロが倒れたこと気にしてるのか…。やっぱ、ジルは優しいな」
屈託なく笑う山本は本当に心の底からジルを信じているようだ。
ぐちゃぐちゃに考え込む俺はどこか先を越されたようで、なんか、悔しかった。
「……あいつ、ちゃんと食ってんのかよ……」
ぼそりと呟かれた言葉。
「獄寺くん?」
「………………アホが……」
珍しく声をかけても、いつもの反応がなかった彼。
でも、すぐにわかった。
獄寺君が見つめている先が。ジルだったことを。
※
自分が霧の守護者だと言った少女の名前はクローム髑髏。
あの六道骸を連想させるような格好と髪型をしているけど、いやそれよりもこの子って何処から現れたんだ?
気がついたらもう、そこに立っていたような……。
獄寺君はすごく警戒していて骸が憑依したんだ!バリバリ警戒しちゃってるけど、俺は彼女の意思がなんとなく伝わったから霧の守護者として了承した。
そしたら、ほっぺにキスを贈られ俺は赤面して慌てふためいてしまった。
対決直前、いつもの円陣を組んで気合いを入れるのもクロームは興味なしといった感じでクール対応。
いつも心強いアドバイスをくれるディーノさんの姿が今日は見えず、リボーン曰く、急用で昔の友達に会うらしい。それじゃあ仕方ないよな。
戦闘は開始された。
今回は特殊な戦いの幻術対決だ。
体育館の床が割れたり、マーモンから触手が出てクロームを襲ったり、マーモンがバイパーになって彼女に襲い掛かったり、クロームが応戦して火柱が立て続けにと出したりと幻術オンパレードなわけだ。俺たちは圧倒されて何も言えない。
幻術って五感を支配するってリボーンが言っていたけど、音までリアルに聞こえる。
そのせいでマーモンとクロームの会話がかき消されているし、何より音が酷すぎて耳を塞ぐほかない。俺以外の皆も耳元を押さえ堪えている様子だ。
だが、アルコバレーノ達は平然としている。
「うぅ、……リボーンは平気なのか…?」
「修行が足りてねぇな。…さすがだな、マーモン。いや、バイパーか」
「……生きていやがったのかコラ、アルコバレーノ。『バイパー』」
リボーンとコロネロが言うバイパーって誰だ?
もしかしてあのちっちゃいマーモンも、リボーンと同じアルコバレーノって奴なのか?
クロームの攻撃もおしゃぶりの力を解放したバイパーには効いておらず、絶体絶命のピンチに陥った。
「ダメ、ダメ―――――!」
クロームの槍が攻撃により破壊される。
その瞬間、霧が発生しクロームを包み隠していく。
背中に走る戦慄、嫌悪感、恐怖。この感覚は………
「十代目?」
「…六道…、……六道骸がきたっ!」
霧が徐々に晴れていき俺の叫び通り、その姿が現れる。
「お久し振りです、沢田綱吉。舞い戻ってきましたよ?輪廻の、果てより!」
六道 骸は再び俺たちの前に降臨した。禍々しいほどの威圧感をもって。
「随分、時間が掛かったようだね」
マーモンは余裕な表情でそう言った。
「クフフフ、クハハハッハハハハ!特殊暗殺部隊ヴァリアーの術士、マーモン。
アルコバレーノと言えど僕に敵うと思っているのですか?」
闘いの最中、幻覚汚染なるものが身体に影響を及ぼす。
頭が割れる感覚と共に脳裏に映像が流れる。
黒髪の女性が小さな男の子に向かって手を差し伸べている様子。
『おいで』
『あの、あなたは誰なんですか』
幼い少年がおそるおそるといった様子でそう尋ねている。
『名前。……名前ねぇ。…うーん。何だったかな……あ、思い出した!天姫、神崎天姫だった私の名前。へー、こんな名前だったんだ、不思議だわ。…まー、よろしくね、少年たち』
そういって彼女は子供達に手を差し伸べた。
また、場面が変わる。
愛おしいそうに涙を流す少年の頬をなでる女性。その眼差しは慈愛に満ちていた。
『骸』
『泣かないで、骸。大丈夫。私はみんなの家族だから。貴方たちがそう思ってくれる限り絆は消えないわ。…貴方たちは私が守って見せる。だから安心しなさい』
少年はタカが外れたかのように抱きつき咽びないた。
女性は何も言わずに優しく抱きしめる。また変わった。
『どうかしたんですか?天姫』
『ああ、なんでもないよ。骸』
『天姫!ご飯まだびょん?!』
『はいはい、もう少しだから。犬』
『俺も……手伝う……』
『ありがとう、千種。じゃあ、お皿出してくれる?』
目まぐるしく変わる女性と子供達の日常。
それは温かく羨ましいと感じてしまうような幸せな様子だった。
どうして、か。
なんとなく、ああ、そうなんだって納得した俺がいる。
あの人が天姫=ジルなんだ。
どうして、小さくなったかは分からない。
どうして、俺たちの前に現れたのかわからない。
でも黒髪の女性、日本人の容姿を持ちながら今のジルと同じ紫紺の瞳に慈愛の籠ったを眼差しで骸たちと接していた。
骸たちがなぜあんなにも必死に彼女を求めていたのか、それが今、理解できた。
『天姫』は家族だったんだ。
自分達を救ってくれた、家族。
骸、だからお前は……あの時、ジルを助けようとしたんだな。
自分の家族を救うため、ボンゴレと敵対してまで……救おうとした……
※
霧の試合は骸の圧勝に終わった。けど負けん気が強いのか、それともこの勝負に何やら執着でもしていたのか、もう負けがはっきりと見えているのにマーモンは諦めようとはせず、
「…まだだよ!まだ、僕はやれるよ」
と試合で疲弊した己の体に無理をきかそうとする。けど骸が不敵に笑みを浮かべながら余裕そうに上から目線。
「おやおや、往生際が悪いですよ」
「バイパー!!」
「…天姫?」
「バイパー、もう、終わった。……もう、帰ろ?」
もう、十分に闘ったといわんばかりにジルはマーモンを抱きしめる。
それは先程の映像の小さな骸と『天姫』をダブらせる。
骸は切なそうに顔を歪めては、ジルを見つめ自身の手をゆっくりと差し出した。
ジルに向かって。
「天姫」
「…骸…」
ジルは差し出された手を取ろうとはしなかった。
「天姫、僕はあの日、貴女に言った言葉に偽りはありません。今でも貴女を欲している。心の底から」
「……………」
「この手を取って下さい、天姫。僕を、欲してください。……貴女を必ず守ります。何者からも。あの『神』にだって負けません。………だから僕の手を取って」
「………ゴメンね……」
ザンザスが座っていた椅子から立ち上がり天姫に声をかけた。
「天姫、帰るぞ」
「うん。…骸、凪を大事にしてね」
「天姫!!」
骸の声が体育館に木霊した。
それでもジルが振り返ることはなかった。
たった一つの光を失った。
言葉で表現するならばこのようになったに違いない。
「……どうして、ですか……天姫」
「……骸…お前」
ぽつんと佇む後ろ姿はまるで母親に置いていかれた子供のようだった。
骸はまるで表情を作ったかのようにこちらを一瞥して
「……クロームを頼みます。少し疲れているようだ」
「ちょっと、待って!?骸は何処に行くんだ?」
なんだか、気になって声を掛けてしまった。
さっきの俺がみたことを聞いてみたかったのもあるんだけど……
だが、冷たく返されるのみ。
「僕は僕で行動させてもらいますよ。霧の守護者といえど、それは天姫を救うためだけになったのですから。貴方の指図を受ける気はありません」
「てめぇ!十代目になんて口の聞き方を!」
「おい、獄寺!?」
あわわ!
獄寺君、短気すぎなんだよ!?相変わらず……。
ちょっと黙っててほしい。
「一つ、忠告しておきます」
「えっ」
「沢田綱吉。表ばかりを見ていては、彼女に足元をすくわれてしまいますよ」
「……表って?」
そもそも、『彼女』って誰?状態だった俺だけどすぐにあの、『もう一人の天姫』だと言った少女が頭を掠めた。
今俺が見ているのは表の、天姫?
「犬、千種。行きますよ」
「あ、待ってよ!?」
肝心な謎を残し骸たちは去っていった。
あの、クロームもいつの間にか姿を消していた。
『表』『もう一人の天姫』『ジル』
なんだか、自分の中でぐちゃぐちゃになっていたパズルのピースが一箇所埋まるのを感じた。