闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的54林檎とウサギ

獄寺隼人side

 

「………………アホが……」

 

呟かずにはいられないほど、あいつの生気を感じられない顔に衝撃を受けた。

あの、『嵐の守護者対決』あれであいつの涙を見て以来、あいつの行動全てに目が行ってしまっていた。

 

あん時と同じ顔しやがって……。

 

あれは、そう、夏の匂いが陰りを見せていた少し、曇り空の日だった。

俺は体調が優れないジルを見舞いに十代目のお宅を訪問した。

丁度十代目が外出している最中で、十代目のお母様が快く部屋にあげてくれた。

柄にもなく花束を手にしてやってきたはいいが、ジルの部屋の前で止まってしまった。

 

「……なに、緊張してんだよ…オレ」

 

やべ、手汗まで出てきやがった……。

ごしごしと自分のズボンでこすりつけ、ふぅと息を吸い込みいざ開けようとドアに集中したら

 

ガチャリとドア意図せず開いた。

そして小さな顔が覗いていて

 

「隼人、?」

 

と俺の名を呼ぶ。やべ、タイミングがっ!

 

「えっ!?うわっ!」

ごすン!!

「い、ってぇ……」

「うぅ――」

 

下から可愛い声が聞こえるかと思って真下を見た瞬間ボッ!!顔から火が出た。ジルの顔が近距離に迫っていたからだ。

 

「わ、悪ぃ!」

 

慌てて、飛び上がり廊下へ避難した。

持っていた花束などとうに投げていた。だが、ジルは起き上がることはなかった。

 

「…ジル、おい、大丈夫か?」

「………ちから、入らない……」

 

ぐったりした様子のジルにそうだったと舌打ちしすぐにベッドへ運んだ。

持ち上げて軽すぎるほどの体重。

こいつ、メシ食ってのか?

 

「ジル、お前……なんでこんなに痩せてるんだ…」

 

自分の意思で動かせない身体なんてただの体調不良というには重症すぎる。

腕など力が入らないのか俺が持ち上げても反応が無いみたいだ。

 

「……食欲がないだけ…」

「なんだよ、それ…」

 

弱弱しく微笑む姿が無性に気になった。

 

「メシは?お粥ぐらいは食えるんだろ?」

 

こんなに必死に言う俺は間抜けだろうか?

だが、言わずにはいられないほど目の前の少女は弱っている。

 

「……食べたり、食べなかったり、かな。食欲ないの」

 

絶句してしまった。最初の頃のジルが嘘のようだと。

屈託なく笑うジルはいまや面影さえない。

オレは内心の焦りを隠すことができず、なんとか少しでも栄養があるものでも食べさせようと、ジルの好きなものを聞いた。そしたら

 

「……アップルパイ……」

「アップルパイ!?」

 

コクンと頷くジル。だがそんな消化が悪いもの、この状態のジルには無理だ。

だが、かといってなにも食べれない状態が長引くようなら命に関わることだ。

 

「……あ!アレがあったぜ!」

 

オレは少し待ってろとジルを部屋に残し、バタバタと階段を下りた。

 

「お母様!」

「あら、獄寺君?」

「林檎!林檎ありますか!?」

 

独り暮らししている俺なら朝飯前だぜ。

 

「ほら、コレなら食えるだろ?」

「…うん…」

 

摩り下ろした林檎をジルの目の前に持ってきた。オレがさしだすスプーンをぱくっとくわえ、んぐんぐと飲み込む。まるでひな鳥に餌を与える親鳥のような気分。ついでに喜ぶかと思って、

 

「あ、うさぎだ……」

「お、おう。分かったか」

 

二羽のウサギ。林檎で作った林檎ウサギ。ちょっと照れくさかったがすごい嬉しそうな顔をした。皿の上に二羽の兎。それを見つめながらジルは口を開いた。

 

「ねぇ、隼人」

「あ?」

「私ね、夢があるんだ」

「なんだ?」

 

どうせ十代目のお嫁さんとか言うんだろと落ち込んだが全く違うものだった。さっさと寝ろと林檎ウサギを取ろうと手を伸ばす。

 

「私の夢はね、死んだら兎になること」

 

思考を停止させるには十分だった。ふんわりと笑うお前はまったくの人間に見えた。

 

「なに言って」

「私は兎になって大好きな人の側で生きて愛されて愛されてそして土に還るの」

「やめろ…」

「そしてまた兎になって繰り返すの」

「やめろっ!」

 

カタンっ!

振り払った腕に皿が当たり、兎は宙をまって床下に落ちた。

ベッドへ圧し掛かったオレはなぜかジルをみて泣けてしまった。

 

「お前、なんでそんな事いうんだよ…」

「……なんでかな…わかんないや。……本当は夢じゃないような気がするの。もっと、根底に潜んでる、『願い』なのかも、しれない。私自身すら知らない、何かからの『願い』が」

 

押し倒された状態でもジルはなんら変わらない。その瞳にはなにも映らない。

 

「もっと子供らしい表情しやがれ」

 

今のお前はまるで全てを諦めきったかのような悲しみを宿した目をしている。

 

「子供…か。私なんかよりもよっぽど隼人のほうが子供みたい、だね」

 

お前がよっぽど大人すぎんだよ。

 

オレは声を押し殺して泣いた。涙を流さないこいつのかわりに。その間ずっとジルはオレの頭を撫で続けた。アン時と同じとふと片隅で思った。今でも鮮明に思い出せる。お前に心惹かれたあの夕方の公園を。

 

『隼人はいい子いい子』

 

俺の頭をなでる小さな小さな手。

 

『隼人はとってもいい子だよ。ジルにはわかる。隼人はとっても素直ないい子』

 

その微笑にどんなに救われたか、お前は知らないだろ?

 

『隼人、かえろう?』

 

ああ、ジル。帰りてぇよ。帰りたくてたまらねぇ。

あの何も知らなかったあの日に。帰れるものなら帰りたいぜ。

色々知りすぎてしまった今なんかよりもよっぽどマシだ。

 

だってよ、

 

(結局、兎は人間より先に死んじまうんだぜ)

 

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