闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:松魚

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標的56優しく殺して

雲雀恭弥side

 

そういえば君は面白い事をいっていたね。

 

「ねぇ、きょんはさ、噛み殺すと優しく噛み殺すのどっちが好き?」

 

アメジストの瞳が惜しげもなく僕を見つめる。

 

「……なに?いきなり」

 

ジルに膝は寝心地はまぁいい方だった。

だって彼女の匂いで安心して寝れるのだから。だから、身じろぎしたら僕が落ちてしまう。

 

「ん、だってきょんはいっつも『噛み殺す』しか言わないじゃない?他に言い方とかないのかなって」

「君って時々不思議な事考えるね。そんなの全然気にしないよ、普通は」

「そう?」

「そうだよ、ほらおとなしくしてて」

 

せっかく、君と過ごす時間だ。ゆっくりしたい。

君は分からないかもしれないけどね。

 

「ムム」

「ちょっと、ジル?」

 

ジルは納得いかなそうな顔で僕の頭を押しやり反対側のソファへ座った。

 

「私の膝は有料でーす。タダじゃありませーん。使いたい方は一昨日来やがれでーす」

「なにそれ」

「質問に答えなきゃ有料ってことで、ひとつよろしく」

「……フゥ……じゃあ、『噛み殺す』だね」

「いつもと同じじゃない!それじゃあ」

「いいじゃないか、同じで」

 

僕はジルの方へ近づき、その幼くとも誰もを魅了してしまう顔を自分の手で包み込む。すっぽりと収まってしまう君の顔。

 

「だって、変わってしまうだろ?それじゃあ」

「……なにが?」

 

分からなくていいさ。君は知らなくていい。

 

「…秘密だよ…」

 

そういって笑う僕を君は怪訝そうに見つめた。

だって、『噛み殺す』は相手への威嚇を込めているんだからさ。

相手?もちろん君を狙う群れてる奴らにさ。その気持ちは今でも変わってないよ。

 

※

イタリアにて。

家光率いる門外顧問チームは激戦する、ボンゴレ内部にいた。

向かってくる同胞に躊躇いもなく銃を打ち込む。

 

「やはり、気持ちのいいものではないわ。かつての同士を殺るのは」

 

だが、女の手に一切躊躇いはない。

 

「そういうな、オレガノ。これも九代目を救出するため。それにこの複雑な城の構造、よっぽどのものを隠していると見える」

「迷宮にいるような感じよ。飽きてしまうわ」

 

何処をみても同じ造り。コレも全て九代目というボンゴレのシンボルと守る為。それと別の理由?

 

「見つけたぜ!二人とも」

「ラル!」

 

ラルと呼ばれた小さい赤ん坊。彼女は二人に近づき状況を報告する。

 

「家光は無事に最深部に突入した。途中、はぐれたが、アイツなら大丈夫だろう」

 

アイツとは………あのヴァリアーの側にいる『虚像の花嫁』の言動によって九代目の身を案じる門外顧問。

ボンゴレ内部にて。

 

「どういう事だ……この手紙は……!?」

 

隠し部屋にいるはずの九代目の姿はどこにもなく、主が不在と化すその椅子の上にあるのは、天姫が家光たちがこの場所に来ることを事前に見越し、手紙という形として置いた物。

表にはなにも書かいておらず、封をしめるのは龍の刻印。

家光は、なんともいえない気持ちでソレを開く。

封筒の中に入っていたのは、折りたたまれた二枚の紙。

 

『沢田 家光殿

書面で全てを語るしかない事をお許し下さい。まず、九代目はご無事です。どうかご安心下さい。こちらの手配した医療機関で安静に過ごされています。手紙と共にその場所を明記したものがあります。

そして、謝って済むことではないことですが、此度の事、誠に申し訳なく思っております。

私が『虚像の花嫁』としてあなた方の前に出現してしまったことにより、ボンゴレを混乱に陥れてしまったこと。

『ゆりかご』、あの発端は全て私が元凶であること。

そして、今まさに貴方のご子息を巻き込んでしまっている『指輪争奪戦』これも、

全て私が元凶として招いてしまった結果です。私というイレギュラーが登場したことにより、彼を、ザンザスを巻き込んでしまった。彼が私をボンゴレというしがらみから解放せんと動いた結果、このような事態になってしまったのです。

 

本当に申し訳ありません。

謝ってすむ問題ではないこと、重々承知しています。ですがザンザス以下、ヴァリアーの起こした問題は全ては私の責任です。

どうか彼らに罪を問うようなことはなさらないで下さい。全ての咎は私が受けます。

貴方をこの場所に誘導したのは九代目の無事を伝えるため。

そして貴方を日本から離れさせたかったため。

誤解無きよう、ご子息を傷つけることは私は一切望んでいません。

ですがこの私が招いた結果が後々ボンゴレを背負う運命にある彼を大きく成長させると考えたのです。

九代目にもその旨、お伝えしました。

理解は得られませんでしたが私は後悔してはいません。

これが彼の為になるから。

 

神崎天姫』          

 

その中に書かれているのは想像を超えるもの。

 

「………彼女は……わかってこんな事を…?」

 

あの、忽然と姿を現しボンゴレにとって、不可欠な存在として認められた少女。

尋常ではない成長の速さ。理解できない行動の裏にある彼女の本当の真意。

全ての責任を負うという余りにも切ないほどの自己犠牲。巡り巡って彼女は本当にあの、初代蒼龍姫と思ってしまう。彼女が想う行動、全てはボンゴレに行き着くのだから。

そして、二枚目の紙に目を通した家光はぽとりと紙を落とす。そのあまりの内容に衝撃を受けたからだ。

 

※

雲雀恭弥side

 

いい加減君に触れたいよ、ジル。

 

僕は指輪になんか興味ない。どっかの小競り合いなんかもっと興味ない。

ただ、参加すればジルと会える。それだけが僕がいる理由だよ。なのに彼女はずっと向こう側だ。この前の屋上の件だって僕から逃げるのに必死な顔してさ。

まるで僕が嫌われてるみたいで結構ショックだった。

次の日、どうしようもない苛立ちに風紀委員に八つ当たりしたし。

早くこの試合が終われって何度念じたことか。

終わったら速攻君を奴らから奪い返してやれるのに、時間が惜しい。

僕にはこの『雲』の試合は待ちに待った機会だ。

指定された場所で偉そうに待っていた………猿山のボスザル?だっけ。

うじゃうじゃと弱い集団が僕の前をこれ見よがしに戯れている。

邪魔だよ、全部。

 

「君達、なんの群れ?目障りだ。消えないと殺すよ」

 

噛み殺すとか優しい言葉言わないよ。この怒り、消化することだけでいっぱいなんだから。

だいたい僕の領域(テリトリー)で群れるなんて僕の邪魔をしたいって見せてるものだ。

でも、僕の獲物はアイツだ。

あくまで、僕の目標はアイツなんだから。

ぎりっと奥歯に力が入って鳴った。

 

「そう、君だよ。降りてきなよ、そこの奴。全力で噛み殺してやる」

 

ジルを独占してやまないあの男。

名前なんか知らない。興味もない。偉そうにして何様のつもりさ。

猿山のボスザルが興味なさそうな顔して僕を一瞥すると、小声だけどはっきりと聞き取れる威圧ある態度でこう言った。

 

「…………行け、ゴーラ・モスカ。殲滅して来い」

グォン、グォン……(目標確認、殲滅、開始)

 

いいよ。全部壊してやる。

僕の障害になるなら、全部ね。

 

試合は開始されたけど頭の片隅で彼女のある表情が消えないんだ。

 

ジル、どうして君は切なそうに顔を歪ませているんだい。

ああ、今もだね、まるで誰かの無事を祈っているみたいだ。

ジル、君が祈る対象は誰。君は誰の勝利の信じているの?

こんなことでさえ、君の行動一つ表情一つに僕は囚われて集中できないよ。

……嫉妬だってわいてるさ。

 

このガラクタ、右腕が脆すぎる。僕の攻撃で耐えうる強度じゃないって証明だ。

戦車みたいな格好して、見掛け倒し。

簡単すぎるくらいに倒れていく。

 

「ゴーラァァア――!」

「天姫、下がっていろ!」

「ヤダ!?だって、私の、私のゴーラが!」

 

滅茶苦茶にされたガラクタをみて半狂乱と化すジル。

抑えるボスザルの手を振り切らんと暴れだした。

 

「……ッチ!」

ドスッ!

「っ!」

 

嫌だ嫌だと繰り返し言い続ける彼女を止めるため、アイツは手刀を食らわした。

思わず駆け出そうとしたよ。あんなの見せられて冷静でなんかいられない。

何であれ、あんな行動許さないよ!

 

彼女は崩れるように意識を無くし抱きとめるアイツの腕の中に収まる。

 

彼女の、ジルの閉じた瞳から雫が無情に幾重も流れ落ちる。

 

ズキン、と僕の胸に痛みが発した。

ジルが悲しんで泣いている。

なんであれ、その姿が僕の心を締め付けるようだ。

 

僕自身が勝てばかならず喜んでくれると思ってた。

ジルが僕を見てくれると、あの『さよなら』はただの冗談だと言ってもらえると思っていたのに。

ジルは全然自分の勝利どころか、敵が倒れた事に叫び、悲しみ、涙を流す。

それが狂おしいほどの嫉妬心に油を注いだ。

僕は自分の手にある指輪を投げつけ、

 

「ジル、から、手を離せ。サル山のボスザル」

 

どうして、君は手に入らない……。それもこれも、全部アイツの所為だ。

目指すは僕からジルを奪った張本人だけ。

 

「……おい」

 

あのサル山、本当に僕をイラつかせてくれるよ。

僕の目の前でジルを遠ざけようって算段かい。その証拠に気を失ったジルをサル軍団の一人に預けて僕から逃すつもりだ。

 

「……お姫、泣かしてムカツク奴」

「天姫ちゃん、最近泣いてばっかりね。可哀想に…」

「アレはジルのお気に入りだったしね」

 

ボスザルの部下にゆだねられたジルはあっという間に連れて行かれた。

 

「…雲の闘い。俺達の負けだ……そのガラクタ、回収させてもらう」

「簡単にいくと思ってたの、それにそんな顔に見えないよ」

 

僕が繰り出す目にも止まらない速さの攻撃を一切、手を出さずかわし続けるボスザル。

余裕綽々って奴?ますます気に入らないよ。

 

「おい、チェルベッロ。これはあきらかにルール違反だ。俺はなにもしていない」

「…了解しました。雲の守護者は直ちに戦闘を中止してください!」

「そんな、命令僕が聞くわけ、ないでしょ!!」

 

ジルを縛っているこいつを倒せば…ジルはきっと僕をみてくれる……!

 

「君が邪魔だ……ッ!?」

 

だけど、あのデカブツに一瞬のうちに左の太ももをやられてしまう。

痛みで思わず顔が歪んでガクンと僕の膝が立っていられずに地面についた。

僕がやられた様をみて奴は愉快だと言わんばかりに嫌な笑みを浮かべては

 

「おっと、回収が遅かったせいで暴走しちまった」

 

といかにも自分は関係ないといった態度をとる。

 

「…クッ…」

 

あのわざとらしい言い方、狙ってたよね。噛み殺したい、殺したい!

 

結局、君は僕の手をすり抜ける。

 

※

沢田綱吉side

 

無差別攻撃を繰り返し暴走しているゴーラ・モスカ。

破壊された校舎がその凄まじさを物語る。

みんなにその攻撃の刃が届く前にタイミングよく遮れた。

 

「十代目…!」

「ツナ、すげーよ…」

 

よかった、なんとか、間に合った。

 

「うそ」

 

全身の力が奪われたかのようにジルは膝と落とした。瞳に空虚感を滲ませて。

 

「ジル……」

 

戸惑いとやるせなさが俺を押し寄せる。

 

「……………ゴーラ…が」

「ジル!?」

「天姫ちゃん、見ちゃダメよ!」

「ゴーラ」

 

ルッスーリアに視界を遮られる。それでも彼女の反応はこの場にとって異常なものだった。

 

「あはは、あははは、あははっははは」

 

ひたすら笑い続け、ゴーラ、ゴーラと繰り返す。ザンザスが天姫の腕を掴み立たせようとするが

 

「天姫、撤収だ。アレはもう動かない」

「ごーら、ちゃん」

 

ジルはただ、俺の方向を見た。

ううん、俺じゃなくて、俺が倒したものをみてる。

そして、ただ涙を流す。

廃人みたいに。只、意味を理解せず涙を流し続ける。

 

「……よくも『虚像の花嫁』の心を傷つけたな。俺の物に手出しした貴様!貴様を討って、天姫の屈辱を晴らす!」

「…!」

「な、」

「なに!?」

「チェルベッロ」

「ハッ!」

「次の『大空戦』ですべてを決める」

「わかりました。我々、チェルベッロは次の勝利者で時期ボンゴレ後継者を決めます。

開始時間は明晩。…ザンザス様もよろしいでしょうか?」

「ああ、かまわねぇ。いくぞ、天姫」

「…………………」

 

頷くこともせず、反応することなくそのまま、ザンザスに身を委ねる。

分かりきっていたことだった。だって、ジルは命に対して過剰に反応していた。

スクアーロの件がそのことを証明している。

でなければ、自ら危険な場所へ行ったりしないはずだ。

誰よりも命の重さを知っている彼女。

機械仕掛けといえど、それは同じだったのかもしれない。

 

「俺はジルを傷つけた?のか。全然、空回ってばっか、じゃんかよ……!」

 

泣かせたいわけじゃないのに!

ただ、助けてやりたいだけなんだ!

 

俺の気持ちと、ジルの気持ちはきっと平行線じゃない。

すれ違っていて、交わることはないってことかよ……。

争いに巻き込まれてばかりのジルに『平穏』を贈りたいのに『雲の守護者対決』は俺たちが勝利した。

もやもやとした気持ちを全員が抱えたままに。

 

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