沢田綱吉side
決戦当日俺は学校へ行かせられた。2週間近く欠席させといて急に行けだもんな。
「たまには頭動かしてこい」
「一言余計なんだよ」
「うるさい」
背中を蹴られ、ムカツキながらも俺は登校するために歩き出した、普通の学校。
俺が2週間前に通っていたときと同じ学校だ。
昨日の傷跡は一切残されていなかった。
リボーンの説明によれば、チェルベッロの術士が数人で幻覚をおこしカモフラージュしているという。
クラスの男子に学校をずっと欠席していた事をからかわれたけど俺はあいまいな返事でその場を抜けた。
屋上の上に俺一人。昨日の出来事が俺の頭から離れない。
俺が知るジルとは違うごく自然な表情に溢れ、時折暗殺者のような底冷えするような瞳で俺たちを睨みつけたり、子供みたいに人形(ロボット)相手に本気で泣き叫んだりして、今まで俺が見てきたジルのイメージなんかガラリと崩れた気分だ。
「…ジル…」
フェンスにもたれ深くため息をついているといつの間にか、京子ちゃんが声をかけてきた。
オレはなんとなく話してしまった。ジルの名を伏せ、とある少女の話として。
「ツナ君。その子はたぶんだけど待ってると思う」
「でも、押し付けてるだけかもしれないんだ。彼女の気持ちを無視して、傷つけて」
「なんで、ツナ君はそう、思うの?」
まさか直球な質問がくるとは。
「なんでって!?それは、きっとそう、だって思ったから…」
直接話せたらこんなに悩んだりしないさ。
でも話すことができない間柄に俺たちは立たされているから。
「ツナ君はその子じゃないでしょ?ツナ君はツナ君じゃない」
「でも、だって、話す機会なんか全然ないんだ!その子はいつも居なくなるから」
「だったら、話す『きっかけ』を作ったら?」
「きっかけ?」
「うん、だって話さなきゃ全然、相手の気持ちがわからないじゃない?だから、話す場所をつくるの。そうすれば最初の一歩に繋がると思う」
「話す、場所…」
今までもやもやしていた気持ちが一気に吹き飛んだ。
なんだ、簡単だった。真正面からぶつかればいいんだ。
「ツナ君も一歩を踏み出してみたら?」
初心に帰れってことか。
ジルが日本に来た意味は俺に会う為。理由がどうあれ、あのジルが何も考えずに俺の婚約者だとか理解できないものを了承するわけがない。結構打算的なとこあるし。
ディーノさんのことも理由にあるだろうけど、それ以外に何かが、何かがあったんだ。
そういえば、俺は直接話しかけようとはしなかった。
あーじゃないか、こーじゃないかって勝手に推測して思い込んで囚われてたような……。
本人の口から聞いた言葉じゃないのに、いつの間にか起こること全てがジルに関連付けてたんだ。
全力でぶつかっていくことを避けていたんだ。
俺が作り上げたジルのイメージが壊れるのがなんとなく恐かったから。
ジルが一歩を踏み出したのなら、俺だって一歩を踏み出さなくちゃ。
相手が歩みよろうとしないならこっちから歩み寄ってやる。
嫌がられたって構うもんか!
知りたいから、本当のあの子を知りたいって思ったから。
その為の戦いだったんだと思うとザンザスとの試合も気が楽になる、かな?
ジル、ううん。天姫、君と話をするために。君の話を聞くために。俺は、今日、必ず勝って見せる。
「ありがとう、京子ちゃん」
「どういたしまして」
にっこりと微笑む京子ちゃんは俺の救いの女神みたいだって
ガラにもなく思ったことは内緒にしておこう。
※
雲雀恭弥side
応接室に僕は一人でいつも通りソファに腰かけていた。
テーブルにはいつも少女が好んで食べていたアップルパイがある。
「……………」
「緑たなびく並森の~大なく小なく並がいい~~♪」
僕の頭の上にはヒバードは楽しそうに歌っていて首に紅い宝石をつけたチョーカーをつけている。僕は静かにヒバードの校歌に耳をかたむける。
「……ジル…」
僕の首にもチェーンに繋ぎとめられた宝石の欠片がある・ヒバードと同じものだとすぐに分かった。これがジルがしていたチョーカーの飾りの物だと。
宝石の色が前と違うが漠然とそう、思ってしまった。今朝、起きた時にヒバードが運んできたもの。今でも思いだせる。今こうしてアップルパイを出しておけば、扉の向こうから君の声が響き『きょーん!』と元気に駆けよってきて僕の挨拶もそこそこにアップルパイのほうへ顔を近づける。そしてニコニコと笑うんだ。
『食べよ?きょんも一緒に』
もちろん、お皿やフォーク、いつも同じ飲み物も用意してある。
僕はしかたがないなって許してしまう。君が喜んでいる顔がみたいだから。
ここに君がいればいいのに。でもそんな苦しみも今日で終わる。今日で全てが終わる。
こんな切ない想いをしなくて済む。必ず、勝つよ。君がくれた証に誓って。
※
山本武side
まだ、開始時間前の事。
俺はカウンターの前でじっと座ったまま刻々と迫る戦いへの緊張感と闘っていた。
するとカウンター越しに声を掛けられた。俺は顔を上げてその人物を見やる。
「武」
「うん?」
右目を覆う包帯がまだ慣れないな。
親父は仕込みの最中で、本来なら俺が手伝えればいいんだけどな。
今日だけは、駄目だ。
「ジルちゃんの誕生会なんだけどよ。お前の『やるべき事』が終わったらやってやれば喜ぶんじゃねぇか」
「……親父」
ジルが昏睡状態の時に元気になった時にとみんなで提案したパーティ。
結局、あの後ジルは消えちまったから。
流れたままだったけど。
でも、そうだな。ジルじゃねぇか。天姫としての誕生会してやらないとな。
あいつなら絶対喜んでくれる。心から。
「親父、ジルさ?ホントは天姫って名前なんだ」
俺が好きになった女の子。
少しお転婆で自分より他人を優先するちょっと不器用で素敵な女の子。
「ほお、あの子らしい綺麗な名前じゃねぇか」
「…親父、……だって」
だって、普通ならおかしいって思うだろ?
そう出かかった言葉はまさかのかえしで驚かされる。
「女ってのは、謎めいてこそ華があるってもんだ。一々、驚いてられるか。それにな?武。男なら女の影も含めて受け止められる器のでけぇ奴にならなきゃ駄目だ。俺みたいに、な」
「…親父…」
俺、改めて自分の親父の凄さを感じ取っちまった。
つまりかっけぇって意味で。
堂々とあるがままを受け止める、そんなことが出来る男に俺もなりたいって思った。
「天姫ちゃんにちゃんと伝えれよ?前に食べられなかった分、特大の寿司作って待ってるからよってな」
「おう!」
あの頃より、時間はかかっちまったけど、
でも約束は守らなきゃいけない。
眠っていた天姫は知らないけど、俺はあの時約束した。
『みんな』でパーティをしょうって。
だからみんな揃ってなきゃ駄目だ。誰か一人欠けても駄目なんだ。
「親父、行ってくるわ」
「おう!気張って行って来い!」
俺は一歩を踏み出す。天姫といる未来を勝ち取るために。