闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

61 / 160
標的61哀しみの唄

始まった『大空戦』

それは誰もが目を疑うような光景だった。

 

「大空戦では、守護者同士によるリング獲得と『命』を賭けていただきます。そして」

「……天姫っ!」

「……来い、ゴーラ・モスカ」

 

ウエディングドレスに身を包んだ天姫。

ゴーラに抱きかかえられその瞳は光を宿しておらずまるで操り人形のごとく。少量の毒によって意識を奪われている様子。ザンザスに物として見られ、利用するときは彼女の意思など無関係に使う。まるで道具にようにあれば利用し邪魔になれば捨てられるかもしれない。それに本当ならあの姿は彼女が彼女にふさわしい人と一緒になる時に身につけるべきものをこんな晒し者にされて、いや、操らり人形のようにされ命を賭けた闘いに借りだされるなど。許すことができない非道だ。

 

「その『命』である、蒼龍姫様の首には特製のチョーカーがつけられており中にはデスヒーターという毒が内蔵されております。こちらの毒性は一時間で死に至るものです。先程投与されましたので制限時間55分となります。この解除方法はすべてのリングをはめ込み解除するのみです。一つのリングだけでは作動しません。七つ全てを手に入れることが蒼龍姫様を救う唯一の手立てとなります」

チェルベッロにより淡々と述べられる死の宣告。

 

「なんでっ!?こんな事を…許さない!ザンザスっ―――!」

「……お前ら、仲間じゃあ、なかったのかよっ!?クソッ!」

「許せねぇな……お前は絶対に…」

「咬み殺す!」

「卑怯な!人の命を弄ぶとは……極限に助けるぞ!」

「天姫に酷いこと、しないでっ!」

「行きますよ、クローム。天姫を助けますっ!」

「ハイ、骸さま!」

 

ボンゴレ同士の闘いが始まってしまった。

 

沢田たち側とヴァリアー側。本来なら漫画でみんな綱吉とザンザスを除くみんなにリストバンドが配られ、デスヒータが作用する仕組みなはず。だがその筋書きが一切なく守護者同士のガチンコバトルだ。

 

こんなの知らないっ!?多少の変動はあったが最後まで変わらないものと思っていたのに。

ねぇ!はやく私の身体を返して!これじゃあ、私がやってきた意味がないっ!

みんなが争わなくてもいいようにしてきたのに…皆傷ついてしまう、私の所為で意味のない闘いが始まってしまった。

 

漫画通りに進んでいないこの世界。どんな事でボンゴレとヴァリアーの関係がこの先、完全に崩れてしまったら、どんな悲惨な結果が待っていることか。和解させなければ、溝をなくさなければだが、守護者同士の本気のリング争奪戦。目の前の映像はダイレクトに伝わるというのに身体はまったく動くことはない。指先の先さえ、ピクリとも動かせない状況。そして、さっきから、彼女はいない。何度と、声を掛けても彼女からの返答がないのだ。自分の中にいつも存在していた彼女の存在をまったく感じないのだ。痕跡もまったく感じない。まるで最初からいなかったかのように。空洞になったかのような気持ち。歯がゆい気持ちが焦りと苛立ちを生む。みんなっ!

 

そして、死闘の果てに全てのリングは全て手に入れることができた。決着はツナの勝利。地に伏したのは、ザンザスのほうであった。

 

「天姫!」

 

ツナが駆け寄って、手に入れたリングを順番にカチッと入れていく。早く早く!と焦る気持ちが指先に伝わって震えが止まらない。最後に手に入れた大空のリングを入れて、カチッ!と天姫の苦しめている根本が外れ毒が解除された。一瞬よろめいた体がくたりとツナに寄り掛かる。だがすぐに天姫意識が戻った。まず天姫が視線を動かし呟かれたのは。

 

「………ザンザス……」

 

であった。天姫はぐっと己を抱くツナの胸を両手でバンッ!と突き放した。

 

「ウワッ!」ドサッ!

 

尻餅をつくツナの横をまだ毒が残る足に力込めてよろよろと体立ち上がりながら、視線はまっすぐザンザスだけを見つめ歩き出す。

 

「ザンザス、ザンザス、ザンザス…」

 

茫然とツナは天姫を見やった。周りの皆誰もが一言も発せない状況の中、天姫は途中途中、どすっと転んだりしながら顔を汚しながらその真っ白なドレスが土で汚れようとも、また立ち上がり進む。またよろけて転ぶ。だが立ち上がる。見かねた誰かが手を差し出そうとするが、天姫は突っぱねて拒否した。誰の手も借りず、自分の手で足でただザンザスを目指した。その健気な姿にも誰も立ち入れることが出来なかった。

否、許されなかった。天姫の痛いほどのザンザスを求める気持ちが強かったからだ。

 

天姫side

 

死んでなんかない、ザンザスは死んでなんかない。

ずっと頭の中で自分に言い聞かせ続けた。最悪のストーリーが何度と自分を嘲笑ったことか。

ザンザス、ザンザス、ザンザス!起きなさい、いつもみたいに憤怒しなさいよ!やかましいってヴァリアー吹っ飛ばしてみなさいよ!

 

そんな彼が沢田にやられて地に伏している。ようやっと彼の元へたどり着けた。

 

ぼろぼろじゃない。なんで、どうして…。

 

緩んでいく涙腺を止められなかった。止める暇があったら彼を抱き起す方に尽力を注ぐ。なんて、痛々しい傷だ。この傷が全てが彼が全力で戦った証。私が彼に負わせてしまった証。

 

地面にペタンと座り込み、彼の頭をそっと己の膝に乗せる。本当、なんで。

 

「…嫌だ、なんで、私なんかの為に」

 

悲しくて。自分に力がないばかりに周りに迷惑をかけて。彼がこうなるなんて想像しなかったから。油断してたんだ。自分が招いてしまった結果。

でもなんであの子に言いように操られてでも結局は反抗もしなかったの。

 

ザンザス、どうして?

 

私なんかすぐ始末できるはずじゃない。自分の命優先しなよってひっぱたいてやりたい。

だって、アンタはヴァリアーのボスでしょ。他人の命に自分の命賭けるな。

 

「なんで、言われたまま、動く…のよ」

 

涙が零れてしょうがない。痛々しくてしょうがない。そっと、彼の頬を撫でる。閉じられた瞼が開くことはない。幾ら呼んでも、だ。

 

「ザンザス、なんか、言ってよ」

「……………」

「もう、終わったじゃん。…もう、起きてよ」

「……………」

「……いやだ、置いていかないで……やだよぅ……っく……」

 

死。その言葉が私を恐怖をで包む。だが、かすかな息遣いにハッとした。

 

「……………っ、な、くな……」

「ザンザス!」

「…ハッ、……顔、ぐち、ゃぐちゃじゃね、…か……」

 

憎まれ口に私は声を震わせながら言い返す。

 

「……誰のせいだと思ってんの…全部、ザンザスのせいじゃん」

 

そう、真っ白なウエディングドレスだって悲惨な姿に。

ベェールでさえ、投げ捨ててきたのだから。

化粧も涙やその他もろもろで崩れている。

こんな汚れた花嫁、そうそういないだろう。

 

「…ク、違い、ねぇ…おい、汚、…れちま、うぞ……」

「……いいんだよ、もうぐちゃぐちゃだから」

 

ぼろぼろな彼の手を取り自分の顔に寄せた。

だって、彼が私の為に負った傷ならばそれは私のものに等しいから。こんな姿でも彼が生きているのならどんな喜びにも勝る。

ザンザスは痛む体で吐血しながらも一生懸命言葉を紡いでくれる。

 

「………結局、カハッ!!………お前を……解放…できなかった……」

 

解放。

ザンザスは私をボンゴレというしがらみから救おうとしてくれた。

身を挺して、証明してくれた。

でも、もういいんだ。

いいんだよ。

 

「…………ザンザス、私はもう十分だよ。だって、こんなに幸せなんだから」

 

生きていてくれればそれでいい。

鼓動をとめないでその音を聞かせてくれれば私はそれでいい。

私を置いて逝かないならそれでいいんだ。

 

「…俺は、……」

 

なお言葉を紡ごうとする彼の唇にゆっくりと人差し指を押し当てた。

 

「もう、喋らないで。傷にさわる」

 

すると彼は、左手で私の手を取りそっと己の唇に私の手のひらを押し当てた。

温かい、キスだ。

 

「天姫。………愛して、る……ど、こ…にいても、ず……っとだ……」

「ありがとう、…」

 

愛してくれて、ありがとう

私は貴方を愛することはできないけれどこの涙が私の気持ち。

私も彼の手にキスを送り一筋だけ、また涙を流した。

 

 

「…………」

 

救護班が彼を連れて行くまで天姫は傍にいつづけた。

皆、言葉を噤む中花嫁である天姫はツナに向き直った。その瞳に意思を宿して

 

「沢田綱吉」

「……天姫…。俺は、後悔してないよ。君を助けたと思ってる」

 

真っ直ぐと自分を見つめてくるツナに天姫はようやっと彼を嫌っていた理由が分かった。

それは天姫が出来ないことをこの少年はやってのけるのだ。

真っ直ぐに自分に正直に生きているから。だから天姫は彼が嫌いだった。

 

「貴方がそう思うのなら思えばいい。私に異論はないわ。でもこれだけは覚えておいて」

 

天姫だって出された結果に抗いはしない。でも、自分は捨てない。

 

「私はボンゴレの契約に従い『虚像の花嫁』となる。だけどそれは、貴方に従うからじゃない。貴方に全てを捧げるからじゃない。私は私の意志で『虚像の花嫁』になる。このことだけは覚えておいて」

「……天姫……」

「貴方の指輪を、こちらに」

 

綱吉が手に入れた大空の指輪、それに天姫がためらいもなく口付けを落とすと、

 

『契約は執行された』

 

何処からか声が聞こえてきて目の前の天姫はそっと、綱吉に指輪を預けた。

 

「これって…」

 

淡々と彼女は口にした。感情など込められていないかのようにごく事務的に。

 

「私の指にはめて。何処でもいい。それで私が十代目の物だという証になるから」

「え!?何処でもって…そんな投げやりな!?」

「うっさい、さっさとしてよ!こっちは病院行かなきゃだし!」

 

天姫は視線で早くしろと急かす。

威圧感も半端ない。こんな展開ってアリなのか?とツナはたじろいだ。

 

「なんか、複雑……ここでいい?とりあえずだし」

「だからいちいち聞かないでさっさとしてってば」

 

指輪を天姫の左薬指にはめた綱吉。

どうせ、後で外すこともあるだろうし今は形ばかりの契約だからと言い訳をしてみる。でも始終心臓はドキドキと鳴りっぱなし。

 

「さっさと離して」

「……可愛くない」

 

この手の平返したのような態度につい本当にあの#name1#とこの人物は同一なのかと疑いたくなった綱吉。もしかして猫被ってたとかと首を捻って、当たりかもなと頷いてしまう。

おまけに、

 

「綺麗な幻想でも抱いてれば?」

 

と鼻先で笑われ、ふり払われるように手を外され天姫はザンザスも元へ向かう。

 

「可愛くない!」

「結構結構こけこっこー」

 

綱吉は最大限の反抗に背を向けた彼女に向かって大声で言ってやった。

でもダメージはない。というか自分が倍返しされた気分だった。

 

天姫side

 

この後は皆にもみくちゃにされた。病院?行こうとしたけど周りが行かそうとしてくれたなかったんだよ。ザンザスはしぶといから死なないから大丈夫だって、ディーノが言うから。

 

「天姫、どういうこと。早速僕の前で浮気するなんて悪い子だね。っていうか指輪外すから。手、出して」

「げ、恭弥!?いや、やめて!指輪どころか私の指が危ういことしようとしてるし」

「天姫!僕のプロポーズ受けてくれたじゃないですか!二股なんて酷いです!!」

「……骸、私まだ返事してないから。何で受けたことになってんの?勝手に記憶捏造するなよ」

「骸さまの頭。幻覚でスキンヘッドにしてあげる」

「ああ!?僕の髪型が!!?」

「凪、それは似合わないけどGJ(グッジョブ)よ」

「天姫ってホントにモテモテだね。幼児の時から。性格悪いのに」

「喧嘩売ってんなら倍額で買ってあげるわよ、沢田」

「ちょっと待てよ、ツナ。勘違いしてんじゃねえか?」

「武?良かった、まともな武なら……」

「天姫がモテんのはわかるけど嫉妬はねぇんじゃねーか。俺はまだヨユーだぜ」

 

アンタもか!?

 

「ちょっと待てー!聞き捨てならねぇ――!」

「隼人まで…」

 

早く収拾しないかな。ヴァリアーのみんなとか様子みに行かなくちゃ。

 

「…俺は、……お前を諦めてねぇ…十代目の物になってねぇんならなおさらだ。天姫!!俺とウサギにならねぇか!?」

「隼人、とにかく落ち着け。深呼吸しよう、深呼吸」

 

なんでウサギになるんだよ。

しかも隼人がなんで一緒になるの。

 

「ちょっと待て。てめぇら」

「ディディ!」

 

私の救世主登場だ。彼にぐいっと引っ張られ、気がつけばお姫様抱っこ状態。

 

「簡単に手に入ると思ったら大間違いだぜ?お前ら」

「ディーノさん!」

「よし!!天姫。にーちゃんとイタリア帰るか!問題も解決したしな。晴れて家族ってことだ」

 

にかっと笑う義兄の姿に天姫は微笑んで彼の首に腕を回して密着度を増した。

 

「うん!ゴーラちゃんに乗って帰ろう!」

 

しゅばっと出現したゴーラ・モスカはディーノと天姫を脇に抱え込もうとする。

 

「ちょっと、待て!?さすがに生身では無理だろっ!」

 

慌てふためくディーノと皆。勿論、ジョークジョークですよ。

本当ならこんな場面なんて存在しないと思ってた。

和解、はできてないと思う。

けど、前のギスギスした雰囲気じゃないのはすぐわかる。

 

私は可笑しくて嬉しくて目尻に涙を溜めながらアハハと笑い声をあげた。

笑いあえるハッピーエンド。私が望んでいた結末。

これで幸せに。

 

そう、なれるって信じてた。

 

(あの時は)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。