闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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天邪鬼編
標的63最後の手紙


これは家光にあてた手紙の二枚目に書かれていた文章である。

 

最後に貴方にこんな事と頼めた義理ではないけど、もしかしたらの事を考え、お頼みします。みんなには、こう伝えて欲しい。

私は私と関わったみんな全員がハッピーエンドを迎えることを心から望んでいます。

無謀な考えだと思うかもしれませんが、私はそうあってほしいと、強く願う。

たとえ、私が全てを忘れてしまっても、貴方達には笑顔でいてほしい

私の存在をなかったものとして扱って欲しい

私は貴方達の一生の出会いの内のほんの刹那として扱ってほしい

怒らないでほしい

哀しまないでほしい

これが『必然』なのだから

私は忘れる。けれど、貴方達が幸せであれとそう、願いながら。

私は、忘れる。

私は愛することはできるけど愛されることはできないから。

だから忘れてください。

 

沢田綱吉side  

 

指定された場所。

グラウンドには、まだ仮面の青年はまだいなかった。

黒耀メンバーは既に来ている。そこに、ヴァリアーの姿はなかった。

父さんによるとヴァリアーの処分はないそうだが、ケガなどで一応大人しくさせているとの事。そして、ボンゴレ。俺たちがいる。

昨日、みんな眠れない夜を過ごしたと思う。俺は全く眠れなかった。

天姫の事を知りたくてみんなしょうがない。俺だってあんな風に取り乱す天姫が心配だ。あれは普通ではない。なんだか、人間が踏み込めない領域のような気がしたんだ。

そして、狂気を感じた。俺が昨日の光景をまざまざと思い返していると、

 

「綱吉君、久し振りだね」

 

見慣れない紳士的な老人に声を掛けられた。どこかで、みたような……?

 

「もしかして九代目、ですか?」

 

父さんが一緒に行動してきたのは温和な顔のおじいさんで。

 

「もしかしてじゃなくてそうだぞ」

 

リボーンからツッコミならぬ蹴りをくらい本人の前に仰け反った。

 

「いてっ!」

「フム、仲が良さそうで安心したよ」

 

九代目の前で恥ずかしい事を…。というか、これって仲がいいというのか?

 

「でも、どうして九代目まで…」

「天姫ちゃんに助けられたんだよ。私は」

「天姫ですかっ!?」

「彼女は全てを承知であのリング争奪戦を行なった。自分が敵となることで、ツナ。お前を成長させようとな」

「……天姫、が…?」

 

天姫の知らなかった思いに愕然とした俺に、親父は続けた。

 

「九代目を別の場所に隠したり連絡を途絶えさせたりしたのも、俺をわざとイタリアまで誘導させたのも闘いの妨げとさせない為だ。……これが彼女が残していったお前達に渡すべき手紙だ」

 

そういって差し出されたのは読みやすい筆跡で書かれている文章。

でもその文章は納得のいかないもの。俺は手紙を破る勢いで握り締めた。

 

「………………なんだよっコレ!」

「十代目!?」

「こんなので納得できるかっ」

「…………くそっ」

「卑怯だぜ、天姫…」

「ボンゴレに尽くす女か。……まさにそうだな……」

「綱吉君。ザンザスは彼女の為にワシに反逆したんだ。彼女をボンゴレという鎖から解放させるために『ゆりかご』を引き起こした。ザンザスが十代目になれば『虚像の花嫁』という存在自体をなくすことができるからとね。ある意味、あの子も純粋な想いを抱いて行なったんだね」

 

九代目が天姫に対して、どこか哀しい瞳で言い切ると、

 

「お話の最中すまないが、いいかな?」

 

よく通った声音が、意外にも静かに響いた。さほど、大声でもなく小声でもないのに。

振り返るとそこにいたのは昨日の仮面の少年。

気配なく、その少年は現れたのだ。皆自然と警戒態勢をとる。

天姫の事を知っていて教えてくれる人だとしても。

いや、人かどうかはわからないが。

だけど、少年は俺たちの態度をさして気にしていない様子。

むしろ、どこか小さい子供を相手にしている節がある。

 

「貴方はっ!」

「人数は揃っているか。では案内しよう」

 

俺の言葉など無視し、皆にそう言い捨て背を向けた。

 

「ちょっ、」

 

少年の態度に腹が立った隼人が手を伸ばして肩を掴もうとした直前、少年の髪が揺れた。風でも吹いたように。でも、グランドには一切、風など吹いていない。

そして――――

膨大な光が俺たちを飲み込んだ。

光が止んだ先の光景は……あのグランドではなかった。

唖然としている一同に、誰かが片手を挙げて、

 

「よっ!人間共。ちゃおッス」

 

気軽に挨拶をしてくる白髪の男がいた。

その挨拶にリボーンが無意識なのか帽子を深く被って銃を取り出そうとしていた。

勿論、俺は押しとどめさせた。ここで不用意な乱闘はやめてくれという意味で。

その白髪は神男と呼ばれた男だ。

そして骸が異常なほど敵対心を見せている相手。

油断できない。冷や汗が流れた。

その神男の側にはなぜか、喋るひつじ。

蝶ネクタイまでしてる。

お洒落さんなんだな……。

 

「…失礼ですよ、神様。コホン!いらっしゃいませ、皆様。どうぞお席へおつきくださいませ」

「ひつじ、菓子が足らん」

「ラビット様、一体何度目だと思っていますか」

「俺がいちいち数えていると思ったか?」

「…貴方様には無駄な質問でしたね」

「五月蝿い連中だが、まぁ、適当に座ってくれ」

 

不可思議、あまりにも不可思議な場所だ。

延々と続く、だだっ広い世界。音もなく生き物が存在しない場所。

本当に神が住まう聖域のようだ。おかしいのは、そこの住人。

 

「骸はよく俺のことを知ってるかもしれんが俺は偉大な神様だ。なかなかお目にかかれないレアな存在だぜ?」

 

神であることをすごくアピールする変な神様に、妙に食欲旺盛な包帯男に口元に微笑を浮かばせる謎の仮面、そして、静かにお茶を飲む茶色の髪の少女。

彼らにとって、あの賑わいが日常茶飯事のようだ。

 

「お前は少しぐらいまともに話せないのか。…失礼。俺の名は曹揚羽。天姫の義兄であると共にこのボンクラクラ神男の補佐官をしている」

「さっきから食べてばかりいるのはラビット。こいつも俺と似たようなもんさ」

「そして、この子が」

「初めまして、ボンゴレの皆さん。私は神崎狗楽、神崎天姫の妹です。姉が大変ご迷惑をおかけしました」

「天姫の妹、か。あの娘も人からかけ離れた存在かもしれないな」

 

リボーンがそう呟いた。

落ち着いた雰囲気の少女。とても彼女とは似ていない。知的な印象を受けた。

あまりの展開の早さについていけない。

頭の情報処理を行なう事は、すぐには無理みたいだ。

でも、事の重大さはすぐにわかった。天国から地獄へ落ちる一瞬みたいに。

後ろに人の気配を感じた。それは慣れ親しんだ者。

 

「はぁ~、よく寝た。すんごい寝たわ。ね?シロ」

「みゃー」

「天姫!」

 

眠そうに目をこすりながら彼女は肩にシロを乗せて現れた。

良かったと安堵すると同時に昨夜の出来事が頭をよぎり駆け寄ろうとした足が止まる。

今までとは別人のように正気の沙汰とは言えない彼女を目の当りにしてしまったのだ。

 

「?」

 

俺たちをみてきょとんとした。まるで初めての人間を見るような視線で。

かすかな違和感。俺はどうしてか直前で歩みを止めた。

天姫は皆の側を抜けるように離れ、妹の側に駆け寄る。

シロは、その動きで下に下りた。

俺はその天姫の行動に、心の何かがひびはいる。

 

「…ねぇ、狗楽、誰?狗楽の知り合い?」

 

妹は天姫に後ろから抱きつかれ、姉にそう聞かれて複雑そうな表情を張り付けて、

 

「ねーちゃん…ねーちゃんが世話になった人たち&迷惑かけた人達だよ」

 

そうゆっくりとした声音で天姫に言い含めるようにいう。だけど、

 

「…そうだっけ?」

 

天姫は首を傾げるだけ。

妹は一瞬俺の方に申し訳なさそうな顔を向けた。次には天姫に戻して深刻そうな表情を貼り付け、

 

「……ねーちゃん、やっぱり…」

 

という。天姫は妹の表情で思い当たることを理解しようやく笑みを見せた。

 

「あ、そうだね」

 

思い出したのか。

 

「挨拶。挨拶しなきゃ狗楽ちゃんもそれは怒るわけだもんね。えっと、どうも初めまして」

 

期待はいともたやすく裏切られた。

 

「神崎天姫です。えーと、どちら様でしょうか?神男の知り合い?それとも揚羽の?揚羽、愛想はいいけど結構腹黒いとこあるから大変でしょう?」

「天姫、聞こえてるから」

「みゃ」

 

少年は足元にきたシロを抱き上げ、そう天姫に静かに、そう突っ込む。

 

「…あらま」

 

天姫はそう青年に突っ込まれてもあははっと笑う。家族のように。

壁の隔たりをそこで強く感じた。神がようやくばれたかみたいな表情で俺たちにはなした。あっけらかんと他人事みたいに。

 

「つまりアイツは記憶を失ってるってこと。残念だったな」

 

とアハハと笑い喋る執事のひつじから「神様っ!!」と怒鳴られていた。

 

「すいません神男の言う通り貴方方の事は記憶にないんです、スイマセン」

 

天姫は妹に抱きついたまま、ぺこりと頭を下げた。全然申し訳なさそうな顔して逆に妹は迷惑そうな顔をしていた。いや少しじゃない。はた迷惑そうな。

あ、クロームが殺意湧いた目でみて妹をみていた。

すごく、怖い。あ……例の武器を取り出した。骸はそれを見て、取り上げていた。

 

「そんな……」

 

俺は天姫が他人である様子にただショックを受けた。

妹はクロームの殺意視線など気にもせず、天姫に目配せし、

 

「ねーちゃんは、ちょっと席はずしてて」

 

天姫は妹の意を汲み取ると、目をすがめ、ちょっと口を尖らせると、

 

「ハイハイ」

 

少しすねたていで更に実の妹をはぐしてから離れていった。

クロームは骸から無理矢理武器を奪って妹に投げつけようとした。

俺はこの時ばかり死ぬ気の炎なしで俊足の速さでクロームに体当たりして投げさせるのを阻止した。

何故、こんなに必死になったかといえばあの子は天姫の妹でいかにも天姫が唯一気が許せる肉親だと実感したからかもしれない。

天姫が大事にするほど。

でも何故か違和感が感じた。何故だかはわからない。

そして、天姫は消え、残された俺たち。

これから長い説明だから耳かっぽじってよく聞けよと偉そうに神なんちゃらが語りだした。

 

「あの時、もう一人の天姫がいただろ。ま、暴走したアイツが本人刺しちゃったけど。あれは天姫の心の一部だ」

「本当の天姫ですか?」

「まぁ部外者には詳しく話せない決まりなんでかいつまんで言うけど、天姫の本来の仕事は幾多の世界を回りバランスを保つことだ。だがそのバランスを壊してまわる男が存在する。それが『ノイズ』。あいつは自身の快楽で破壊と殺戮を繰り返しあー、敵みたいなもんね。そいつが天姫の恋人を操って天姫自身に襲わせた。で、裏の天姫が正当防衛で自分の恋人を殺しちまった訳。自分の手で最愛の人を殺してしまった事実に耐え切れず暴走し現実を拒絶し、自分で自分の記憶を忘却させた。全てを忘れ全てを無かったこととするために」

 

次いで狗楽さんが喋りだす。

 

「ねーちゃんの身に眠る強大な力は、ねーちゃんが記憶を失ったことで宿主から除外されてしまった。だから、もう一度ねーちゃんと一つになる為、ずっと側にいた。貴方達がみた天姫はその力の中でも、強欲と殺戮、そしてねーちゃんに対する執着だけが形を成した者。そしてねーちゃんは『偶然』貴方達の世界に落ちた」

 

そして次は揚羽という少年が引き継いだ。

 

「だが、徐々にこの世界で元の記憶が戻りつつあった。アレが引き金を引きもう一度天姫と共になるため君達を利用した。非常に残念な最後だったがな。天姫が手を出したアレは俺が処理しておいたので君たちが気にする必要はないと言っておこう」

 

神が最後の言葉を締めくくる。

 

「わかったか?人間共。最初から仕組まれたことだったんだよ、お前らの出会いは。簡単に言えば天姫を得るための、策。お前らは言わば、餌だ」

「では、僕達の仲を引き裂いたのは…」

 

骸がわなわなと口を震わせ、真意を問いただそうとする。

骸と神様の間に過去の中で、何かあったのだろうか?

それは、その関係者にしかわからないことなのかもしれない。

 

※※

 

「どうする、こともできないのか…?」

 

項垂れるか落ち込むしかない綱吉たちに神男はふんぞりかえって偉そうに語った。

 

「お前ら、そんなに天姫に思い出してもらいたいのか?」

「当たり前だよっ!!」

「そうか、そうか。俺は神だ。たまになら神っぽい事してやってもいいだろう」

 

嘘つけ、アンタから責任感の欠片も感じなかった!と綱吉は叫びそうになった。

けど何とか押しとどめて神の言葉に食いついた。

 

「なにか方法があるのかっ!?」

「だったら、早くしやがれっ!」

「はやく教えないと、殺すよ」

「僕は信用できません」

「骸さま?」

「こいつは僕等から天姫を奪いました。どんな理由があったにしろ許せるはずがありません!」

「…俺はいいんだぜ?さっさと天姫を連れ帰るだけなんだからな」

「お願いします。天姫の記憶を戻す方法があるなら教えてくださいっ!」

 

頭をさげるツナ。それに続いて隼人、武、了平が同じように頭を下げた。

 

「「「お願いしますっ!」」」

「俺からも、頼む。義妹だが俺の大切な家族なんだ」

「ディーノさん…」

「弟弟子だけに任せられるかよっ」

「だったら、俺からも頼む」

「リボーン!!」

「生徒たちが頭下げてんだ。俺の立場がなくなるぜ」

「私も、天姫に…私の大好きな天姫に思い出してもらいたいっ」

「クローム……!」

「僕は殺すつもりでいくけどね」

「ヒバリさん、もうちょっと低めで…」

「僕に命令するわけ?君」

「健気だなぁ、おまえら。だが、まだダメだ。骸が入ってないぞ?」

「クッ!?」

「骸さま、一緒にお願いして?これからは大人しくするから」

「………ホントですね?クローム」

「うん」

「………わかりました。……お願いします。天姫の記憶を思い出させる方法を」

「よし、教えてやろう。それはな…」

「「「「「「「それは!?」」」」」」」

「『みんなで愛を叫ぼう』だ!」

「はぁはああああああ―――――――!?」

狗楽side

 

皆のツッコミ声が同時に重なった。

神男の無茶振りはこんなシリアスな場面でも発揮されるとは思わなかった。

ふらふらとした足取りで戻ってきて、いきなりな展開に何も知らずにポケっっとしているのは我が姉ただ一人。

 

「なんか、おかしな展開になってきたな」

 

しかもそれとなくわたしが座る椅子に無理矢理半ば押しのけつつ、一緒に座る形で姉はまるで他人事のようにいう。

 

「それだけあんたが大事ってことじゃない?」

 

人が食べようとしていたアップルパイを横取りしてまで食べる食い意地張った姉を横で見ながらそういってみる。

 

「……ふぅん…」

 

すると、姉は目を細め、口についた林檎のジャムを紅い舌で舐めとった。

あ、エロイしなんか企む目だ。

妹のわたししか知らないことだけどね。

うん?……ということは、もしかして……。ま、いいか。

どうでもいい些細な事に気付いてしまったわたしだったが、わたしにとってこの世界は関係ないので、何も言わない事にした。だって、本当にどうでもいいから。天姫以外は、ね。

 

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