俺が一番手か?キンチョーしちまうな!それにしても神様って変な奴なんだな。
天姫の記憶を取り戻すのに必要なのは、『愛』だって。
それで、俺たちの気持ちが天姫に届いて記憶を思い出せるかもしれない、とか言ってさ。少し胡散臭くいと思うのは俺だけか?でも方法がこれしかないならやるっきゃないか!そうだ!ただ言葉に伝えるのはつまんねーよな。
俺は天姫に花を贈るぜ。だって、花言葉があるだろ?いろんな種類の花はたぶんみんなの言いたい事をおまえに伝えてくれるはずだ。だから、俺はお前にこの花を贈る。
アンスリウムだ。
※
『月曜日:普通のデート』
山本武side
「これ、おいしいです」
「そうか?」
小さな容姿だった頃とは大違いの彼女に変身を遂げた天姫。
今はなんでもパクパクと口に運ぶ姿は本当に同一人物かと疑いたくなるけど同じなんだよな。親父もその様子に嬉しげだった。俺の心境は複雑だった。
「おう、天姫ちゃんたっぷり食って行ってくれや!」
すでに、天姫が食した皿は高く積みあがっている。
「ありがとうございます。でも御代がタダなのはすごく気が引けるんでお支払します」
そういいつつ食べる手は止まらない。台詞と言葉が合っていないし遠慮どころの話じゃない。
「なぁに、そんな細かいこと気にする必要なんかないさ。なんせ、将来はうちの身内になるんだからな。今の内に店の味覚えてもらわんと!」
「親父っ!」
何いってんだよ!??と怒鳴りそうになったが天姫は寿司に夢中なため、今の台詞は聞いていなかったようだ。
すげーな……あ、えくぼできてる。
ホントに美味そうに食べるんだ。こりゃ、親父もはしゃぐわけだ。
「しかし、綺麗になったねぇ~。天姫ちゃん、こんな別嬪さんとは、ウチの武にはもったいないよ」
「おい、親父!?」
「……んぐ、えーと、山本君とはお付き合いした記憶がないんでそれは違うと」
お茶を飲みながら冷静にかえす天姫。確かにそうだけど、はっきり言わなくても。
だが、親父もなんだか負けてない。
「そうかい?だったら、試しに付き合ってみればいいじゃないか。俺の息子だ。立派に成長するぜ?」
「申し訳ありません。お寿司はたいへん美味しいと思ったのですが、山本君押し売りみたいな形はやめていただけますか。私は特定の男性とお付き合いする気は一切ありませんので私よりも素敵で女の子らしくていかにもこのお店の看板娘というにふさわしい方を探したほうがよろしいかと思います」
「いやいや、天姫ちゃんほどこの店の看板娘というにふさわしい存在はいないさ。
それに出された食べ物をそんな風に全部笑顔で食べてくれるなんて子は、そうそういない」
「これは普通の反応ですよ。食べ物を粗末にするなんてそれを作ってくれた方に対して失礼にあたりますし。それに山本君のお父様に気に入られようとして行なった行為ではないので大変迷惑な勘違いしないで下さい」
毒舌だ。でも親父の嬉しそうな顔は変わらない。
「そうかいそうかい。でも俺はあんたが気に入ったよ」
ご馳走様でしたと手を合わせ天姫は席を立つ。
「そうですか、ありがとうございます。でももう関係ないと思いますので。これにてお暇させていただきます。あ、お寿司ごちそうさまでした。美味しかったです」
「えっ!?もうかよ」
「さようなら」
「武、送ってやれ」
「お、おう!…待ってって!?天姫っ」
スタスタと出て行く彼女を追った。ゆっくりではなく、早歩きだ。
「なぁ、天姫どっか寄っていかないか?」
まだ帰らせたくない。だが、天姫は全然その気はなく。
「君だけどこか行ってくればいいじゃないですかね。ここで見送ってあげますから。はいさようなら」
辛辣だ。綺麗な顔でいうから余計冷たく感じる。
「そういう事じゃないんだけど…」
「じゃあどういう事ですか?君は私とデートしたいんですか?っていうかさっきのはデートだったんでしょうか?」
「……ああ…もっと、天姫と話したい、たくさん」
「……良いですよ。話しながら帰りましょうか。何を話したいんですか。ああ、記憶云々ですか。だったら残念!何も覚えてないし貴方たちのことは全然存じ上げません」
確かに話したいと言ったけど結局帰ることは前提なんだな。
でも、さっきよりもずっと遅いペースで一緒に並んで歩き出した。
「…………」
「……………なぁ」
「……………」
「……なぁと言う名前ではないですけど」
「じゃあ、天姫」
「…………なんですか、山本君」
「………なんか、わざとしてないか?」
何をとは言わなかった。俺は立ち止まった。天姫の歩くペースに乱れはなかった。
前を向いたまま、歩く。俺は天姫の背中を目で追う。天姫はゆっくりと止まった。
「君は沢田君たちがマフィアごっこをしていると思っていますか?」
「なんで、急にそんな」
「答えてください」
「そう、思ってるぜ?」
「そうなんですか。じゃあ、そういうことにしておきます。実は私もそうなんです。今まで君達に接してきた私は『幼児ごっこ』や『#name1#天姫ごっこ』をしていた私なんです。今の私が本当の私。納得しましたか?私はごっこで君達と遊んでいた酷い女です。付き合う価値など私にはないんですという訳で私のことは諦めてください」
「わかんねぇな、俺には。価値なんて誰が決めつめるんだ?天姫は天姫だろ?
どこがごっこだったんだ?」
「さぁ、それは人それぞれでしょう?私が決めつけるものではないです。とにかく私にはすべてが遊びだったという事です。それ以外関係ありません」
「俺にはあれが遊びだったなんて思えない」
遊びであんないろんな表情が出せるはずはない。
「君がそう感じようが感じまいがどうでもいいです。真実は変わりません。記憶のない私にはもっとどうでもいい事なんですよ」
「記憶が本当に無くなったらまた作ればいいじゃないか?俺たちと」
また、最初から積み立てていけばいい。ゆっくりと時間をかけて。
「君はまったく人の話を聞かない人ですね。会話していると疲れます。会話が終わる気配がまったくありません」
「今のはごっこじゃないだろ?」
「………ごっこで疲れまで演じられますか?そこまで器用ではないですからね、私は」
苦笑気味に笑う天姫。
「なんで、笑うんですか?」
「俺はさ、天姫のそんなとこに惹かれたんだ」
自分で笑ったとこなんか見たことないだろ?
今の天姫はふと、垣間見せたあの時と同じ表情だ。飾らない本当の笑顔。
(アンスリウムの花言葉は『飾らない美しさ』)
※
『みんなで愛を叫ぼう』なんて変なタイトル。
えっ?黙って答えろだって?神男のクセに生意気だ。しかも花言葉になぞらえて?何をしでかすつもりなのか知らないけど無駄な事させないでよね。―――わかったわよ、うっさいわね……私の愛、ね。
いいわ、……オドントグロッサムを選ぶ。
※
天姫side
私、神崎天姫は大切な妹、神崎狗楽に一生秘密にしなければならない事があります。死んでも守らなければならない秘密がある。
私と狗楽は母親が違う。
狗楽の母親は本妻、私の母親は愛人で私は本妻に引き取られた妾(めかけ)の娘。
昼ドラでよくある話だ。私達が生まれた神崎の家は由緒正しい家系にある。
『神降ろし』
昔々から言い伝えられる言伝の中に代々の当主が全知たる王、龍をその身に宿すことで絶対なる権力でいつの世も影で絶大な権力を牛耳ってきたという。
影の世界では名を知らぬものはいないというほど恐れなれ崇められてきた。
それが神崎のブランド商品。
色濃く受け継いだ血で当主が選ばれその看板を背負う。それによって一族が安定する。
だがそれも過去の遺物にすぎない。
現代の神崎には形ばかりの当主が置かれ、無能な一族はそれにすがるほかない。
くいっぷちがそれしかないわけではないが、神崎であるならばとの世間の目ともいうものがある。
ホント、くだらない。
何代か前の当主候補だった者はその一族自体に嫌気がさし、姿をくらませたという。
まぁ、私もホントは神崎の名は捨てたいけどこだわらなければ別にどうでもいいんだ。
いかにも金持ちが住みそうな日本邸。
その家の当主である父は本妻を迎えていたがなかなか跡取りができず愛人を作る。昔からの血筋を絶やさないのが掟。
その愛人にはすぐにこが出来た。
無論、それが私。産みの親にさして情はない。
ただ彼女は私を産み落とした。私は彼女から産み落とされた。
その関係に過ぎないのだ。
本妻は愛人からすぐに赤ん坊を引き離し自分の手で育てようと愛情を注ぐ。
自分には子供は一生出来ないと思っていたからだ。
だが、狗楽が出来た事で状況はかわる。
跡取りとしての私の意味が失くなったからだ。
私に向けられていた愛情が一気に狗楽に向けられた。
一族総出が手の平を返したかのように私を見なくなった
つまり、私は用済みということ
私が生を受けたった四年という歳月。私は両親にとって用済みとなった。
一応、神崎の血を受け継いでいるとの情けで小間使いとして使われた。
だが、4歳の餓鬼に何が理解出来ようか。
自分を取り巻く環境が一変、生まれたばかりの赤ん坊の出現で幼い私が嫉妬心を抱かない訳がない。
ある日、邸の人間の目を盗んで母親に会いに行こうとした。
親あいたさの行動だ。
だが、部屋に入る寸前で私は邸の男に見つかり、その場で蹴りを入れられた。
面白いくらいに吹っ飛んだと思う。
ガタンと壁にバウンドし、全身を強打して動けなかった。
その時、赤ん坊を抱いた母が侍女を連れ、廊下に出た。
母様…
私は必死に動かない身体を痙攣させながら手を伸ばす。
助けて、母様助けて
男に髪を引っ張られ、鋭い痛みに顔を歪めながらも必死に母を求めた。
だが、母は、私を通り過ぎた。
なにも見えていないように最初からそこにはなにも存在していないかのように鈍器で頭を殴られたかのような衝撃。
私は完全にいらない子供なのだと言われた気がした。
その時から私の扱いはさらに酷くなった。
反抗すれば暴力を振るわれ、お前は役立たずだと疫病神だと言われ、髪をむしりとられるかという勢いで引っ張られ、罵られる日々。
最後には地下の座敷牢へ放り込まれた。
殺さない程度には食事を与えてやる
牢ごしに父だった人間に言われ、私は生かされた。
ぼろきれを身に纏い、いつも酸っぱさを通り越した腐った食べ物を毎日、二回出され、
闇が友達の状態が何年と続いたか。
大きくなった手足。だが、もやしのようにひょろっとした状態。
もはや、覚えているのは自分の名前。
かすかにあった母の温かなぬくもり、父の髪を撫でてくれる優しくて大きな手。
時間の感覚がない地下牢ではいつもの食事が運ばれてくるのを基準にしていた。
だが、その日ばかりは違った。一向に来る事がない係の人間。
かすかに何かが燃えるような匂い。そして、何重にもかけられた鍵。
それがカキンと音をたて下に落ちる。
私はその牢から久し振りに外の世界へでた。
庭の片隅に父だった者と母だった者の亡骸がうち捨てられていて死んだ母に縋り付くあの頃より、少し大きくなった狗楽。
ウワンウワンと大きな泣き声をあげ泣きじゃくる。
「お前は何だ」
その女は燃え盛る炎の中を潜り抜け、やって来た。
私には終わりのない地獄から救ってくれる女神にみえた。
火の粉が踊り、さらにまた炎が燃えよ燃えよと勢いをたて全てを飲み込もうとする邸。
もうすぐですべてが終わる。
私には歓喜しかなかった。これで終わるのだと。
※
「生き残りか」
「あなたはみんなをころすの」
「私が残してしまった汚点、全て消さなければならない。それが当主たる私の最後の仕事だ」
「じゃあ、そのこもいらないね。わたしもいらないこだから。みんなころして」
「…おまえは死ぬことが怖くないのか。最後まで命乞いをしてきた者もいたというのに」
「こわい?どうしてあなたはそう、おもうの?こわいってなに?わたしはいらないこだとなんどもいわれた、あなたがみんながいらないといった、だからわたしはいらないそんざい。どうしてこわいとおもわなければならないの」
「……お前はこの子供が憎いはずだ。お前を捨てた一族が憎いはずだ。その血統に囚われたゆえにお前はその運命に当たってしまったのだぞ」
「だってすべてしぬのならなにものこらないじゃない、しんでまでうらみたくない、
しぬのならしずかにやすからにねむりたい、もうぶたれたくない、すっぱいごはんをたべたくない、かみをひっぱられたくない、ののしられたくない、もう、つかれたから」
天国など行かなくていい。そんなもの信じていない。
なら私に残された選択肢は?
跡形もなく消滅すればいいだけ。
恨みも、悲しみも、寂しさも全て消え去ればいい。
「……、おまえは生きたくはないのか、愛されたくはないのか」
女の問いかけに私はこう答えた。
「あいされるのならわたしはいらない、わたしがあいするから、うそのあいはいらない。ほんとうのあいをわたしがあたえるから」
嘘で出来上がった関係なんてたかが知れているじゃない。
確固たる絆が欲しい。壊れることのない絶対的な絆が。
「では愛する為に生きてみろ。自分を蹴落とした妹を全力で愛せ。それが歪んだものとしても正常なものとしても、お前の糧となる。愛することがお前に活力を与えるならな」
「なんだころさないのね」
「どうして殺す理由がある?いずれにしても当主神崎の家は断絶だ。まぁ、分家生き残りどもが居るだろうがな。なるほど面白い結果になった。お前の『愛する』手助けをしてやろう、小娘。お前に場所を与えてやる地位を与えてやる。神崎の力を存分に使い込め分家どもを破滅に追い込んでやれ。お前の名は今より天姫だ。そしてこの子供は狗楽。前の名は捨てろ。新しき人生の幕開けだ」
まるで劇が始まる前の観客のように他人事気分で楽しんでいる風だった。
あの女。そう、名前は確かこう言っていた。
「私の名は神崎、緋那。過去の遺物であり復讐せしもの。過去を清算させる為、再びこの世界に舞い戻った」
本当不思議な女だ。物好きとはあの女の事を示すのだろう。
「私の名を知るのはこうも言う。龍姫とな。さぁ、反逆といこうか」
私は自分を龍姫と名乗る女に協力してもらい、
神崎を完全に自分たちだけ残しその永き血に幕を下ろさせた。神崎は完全に断絶と世に発表された。
そして、私は生きる糧として狗楽を愛し育てる。
愛する対象、狗楽がいるかぎり私は生きれる。
反対に言えば私が生きるためには狗楽がいなければならない。
私にとって狗楽は生きる意味そのもの。
あの子を守るためならなんだってする。
自分の命さえ捨てる結果になったとしても。
決して純粋ではないけれど真っ黒で歪んだ愛をまっすぐに狗楽に捧げる。
それが私の生きる意味だから。
(オドントグロッサムの花言葉は『特別の存在』)