俺が天姫にやれることか。愛が伝わるならなんだってするぜ!
って、山本はあいつに花を贈ったのか?
くそっ、山本のクセして洒落たことを…俺もお前に贈るぜ。
別に対抗してるわけじゃねぇ!?……お前の、喜ぶ顔が見たいだけだ……。
俺のあいつへの愛はライラックの紫だ。
※
火曜日 並森公園デート
獄寺隼人side
守るなんて豪語して俺はお前を守れなかった…お前の本当の姿が知りたかったんだ。
だが、その真実を知った俺が、最初に感じたこと。
お前がこの世界に降りた理由ができたこと。
お前に出会えるチャンスが生まれたこと。素直に喜んじまった。
人として最低だ。お前の大切だった人間が死んだことを歓喜ととるなんて。
謝りたい。でも謝れない。
「獄寺君。たこ焼き冷めますよ」
「あ!?ああ……」
なぜか、公園のベンチでたこ焼きを食うことになった。
しかし、『獄寺君』か。
いつも、隼人と名前で呼ばれていたから、苗字などで呼ばれると寂しい部分がある。
隣にいるお前はまったく違う『神崎天姫』で『ジル』であったことも記憶にない。
俺の知らない記憶で俺の知らない出来事を、お前は体験してきた。
その差は最初から埋められるもんじゃ、なかったんだな。
「なぁ、お前はウサギになりたいか?」
「なんですか。それは。私にバニーガールになれと言っているんですか?エロですね」
「なっ!?違う!俺はそんなっ。お前が、言っていた言葉なんだが」
「私がですか?そんなこと言いましたかね。記憶にないけどこたえてあげます」
「どうしてだ?」
「ただのウサギで何を守れると思いますか。逆に守ってもらうのがオチですね。だいたい、人間がどうやってウサギに変わるっていうんです?非現実的。回答終わり」
「………そうだよな…」
なんか、劇的に違う天姫だ。あいつってこんな冷たい奴だったか?
「獄寺君。君はこの世界での私の言葉に耳をかたむけすぎです。本来ならいない存在の彼女。こうして私と話していると段々、溝ができてきませんか?私は現実的。彼女は、まるで御伽噺にでてくるお姫様のよう。ほら、これだけであまりにもかけ離れている。
ただ、君達との邂逅が一瞬だっただけと思ったほうが楽でしょう?そうすれば、そんなに悩むこともありません。今の私が君達といる理由もありません」
「なっ!?俺たちはお前のに側にいてほしいとっ」
「君は、その人間の意志を無視してまで、側にいることを強要できますか?」
「俺はそんな意味で言ったわけじゃ!」
天姫は前を向いたまま、ぱくりとたこ焼きを放り込む。
「君の言っていることはそういう事なんですよ。気持ちがどうとか立場がどうとか。私にとっては正直にウザッたいですよ。煩わしい」
もぐもぐ。
「天姫っ!?てめっ」
そんな言葉を聞きたくなかった。
だって、みんな必死にお前に記憶を取り戻してほしくてやっている事を。
ウザッたいなどと、否定されることは耐えられない。
俺は立ち上がり、天姫の肩に手をかけた。
だが、逆にその手を捻りとられ、ベンチに倒れこむ。
「イテッ!?」
「動きが鈍いですよ?」
上から圧し掛かられ、身動きが出来ない。
俊敏な動き、これはまるで殺し屋レベルを簡単に追い抜く速さだ。
「さっきから全然食べてないじゃいですか。たこ焼き」
「それがなんだっむぐっ?」
喋ってる途中で、何か押し込まれた。冷めたたこ焼きだ。
「作った人に対して失礼ですよ。私直々に食べさせてあげます。出血大サービス」
なんか、妙な格好でそのまま食べさせられた。
キチンとまとめられたゴミ。ちゃんと片付けるタイプだったんだな。
「ハイ、完食です。なんだ、ちゃんと食べれるじゃないですか」
「お前が無理矢理食わすからだろうがっ!」
「なら、自分で食べられたんですか?あの話のままで続けてたら」
「グッ!」
確かに、さっきの流れのままじゃとても手をつけていたとは、言えない。
クスッと笑われた。そして、あの台詞を言われた。
「君は素直ですね」
これは前にも言われた言葉だ。
『隼人はとっても素直ないい子』
「まるで子供のように素直な反応をする。大人のように普段、振舞って、ね?」
鮮明に覚えてるあの時のお前。
『隼人のほうが子供みたい、だね?』
天姫は立ち上がり、俺に背を向けた。
「お前っまさか!?」
まさか、記憶が…そう続けようとした、言葉は飲み込まれた。
重なりあった、口づけによって。
「っ!?」
一瞬だけだが、その時は完全に俺はお前に囚われた。
踏み込めないほどの、闇のような領域。俺を、踏み込ませない為の行為。
「これは『口止め料』。お利口さんなら黙ってられますよね、……獄寺君?」
天姫は茫然とする俺を残して帰っていった。
「……ったく、勝手ばっかしやがって…」
人の心乱すだけ乱して消えやがるなんて。
(ライラックの紫の花言葉は『愛の芽生え』)
※
『みんなで愛を叫ぼう』、だっけ?なんか嘘臭さムンムンしてるよ。
神男って人間の願い事なんか叶える気もな癖に。むしろ自分勝手なとこばっかりじゃん。
今回のことだって……え、なんで、わたしも?しかもねーちゃんに対してやれってか。
ま、いっか。どうせ帰るまで暇だし。わたしの愛は…そう、ダチュラ。
※
狗楽side
わたし、神崎狗楽は告白します。
勿論姉には一生秘密にする話だから内緒。
この世界に来るため姉を迎えに来るため完全に取引を完了させるため魔女との取引をわたしは交わした。神崎狗楽は一旦自分自身を消去するという対価。
つまり、わたしは神崎狗楽と言う少女で出来上がった人形と言うわけだ。もちろん肉体ごと消えたわけではないしちゃんとこうして生きている。
ようは再利用したと言う意味だ。
狗楽が消え去ったただの肉の塊に新たに作り上げられた人格が今のわたし。
どうしてその経緯に到ったか。
それは姉である神崎天姫を救う為だ。彼女はある事件により一度死した身となった。だがわたしは運命を捻じ曲げ全てを無かったこととした。その代償によりちょびっと複雑な対価になってしまったわけなんだけど、まぁ神崎狗楽が生きているのでオッケーなことにしよう。
えーとつまりは記憶を受け継いだわたしは依存という言葉をインプットされた訳である。
姉を助けるという狗楽は実に一途その者で誰よりも執着心が強かった。以前の狗楽のように振る舞い彼女の言動を一字一句真似、天姫という少女に依存する事で今のわたしが成り立っている。悪い言い方すると寄生虫?うーん、響きが良くない。持ちつ持たれつ?うん、この言葉の方がしっくりくるかな。そういや、ゆうこどうしてるかな。君尋の様子も気になるしなー。そういえばわたしが前に会った六道骸さんって今の彼よりも大人って感じだった。一体何処から来たのか不思議と言えば不思議。
「ねーちゃん、ツナ君たちが来たよ?」
「…ああ、わかった」
億劫そうに返事返す黒髪の少女。
なんだ、結構大切にされてる癖にまた逃げ出そうと言うかこの姉は。
まぁそれも良しとしよう。
それが姉が選んだ選択なのだ。
わたしがとやかく言う事ではないし何よりメンドイので何も知らないフリをしてあげよう。あはは、こう見えてわたしは策士なのだ!
ただ誰も策士に見えないようお馬鹿に振る舞っているだけなのだ。
それが神崎狗楽という女の実態!
記憶をなくした少女。記憶から逃げた少女。
わたしは天姫に依存するために生まれた。
わたしの世界は残された記憶と天姫に対する依存で出来上がっていることを。
告白します。
だからオリジナルの狗楽。心配なんかしてんじゃないよ。
というか眠ったままのアンタはもう関わらなくていい話だ。
これからは姉が必要として尚且つ依存する対象は『わたし』なのだ。
このわたし!神崎狗楽は全力で神崎天姫を守ると決めたのだ。
誰にもこの座は明け渡さないし譲らない。
邪魔するならすり潰して粉にして捨ててやる。
だから、誰も邪魔しないでよ?
自分を消したくないなら、さ。
最初で最後の神崎狗楽との約束。
(ダチュラの花言葉。『偽りの魅力』)