闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

68 / 160
標的69最後の夜

アイツは半分自棄(やけ)になっているような気がするぜ。

知られたくないと押し隠してきた部分を知られてしまったが為に必死に仮面を作り逃げようとする。怖がっている。そうだアイツは怖がっている。

自分の秘密を知ってなお俺たちがアイツを知ろうとすることに。

人との付き合いをセーブし自分の世界を守ろうとする人間の虚勢だ。

馬鹿らしいの言葉に尽きるぜ。なぜ閉じこもる必要がある?

どうして受け入れようとしない。俺はそれが気になって仕方ないぜ。

 

日曜日 ツナ&リボーンside 夜デート

 

天姫は俺に顔を向け嫌そうに言う。

 

「ねぇ、リボーン君。どうやって私の気配辿ったんですか?」

「神男だ」

「…ッチ、あの野郎。…なんだかつけ回されてるみたいなんですけど」

「誰にだ」

「君に」

「そうか、先が一緒なだけだ。安心して進め」

「そうですか?」

「そうだ」

 

俺はそれで言葉を終わらせた。天姫は気を取り直したのかまた夜道を進み始めた。

 

スタスタスタ、てくてくてく。

スタスタスタ、てくてくてく。

 

再度、天姫は振り返り、そして俺と同じ視線になる。

 

「ねぇ、リボーン君。赤ん坊がこんな時間に歩いてはいけないんですよ」

「俺はヒットマンだ」

「ヒットマンでも赤ん坊でしょうに」

「気にすんな。同じ道をいくんだ。ついでに護衛してやる。女の一人歩きは何かと不安だろ」

「私は大丈夫なんですけど……それに君は彼の家庭教師なのでしょう。家で勉強見てあげなくていいのですか?」

「いいんだ」

 

どうせ、部屋で唸っているだろうしな。

俺がいなくてもいても同じことだ。

 

「結構頑固ですね、君って」

「お前もな」

「じゃあ、抱っこしてあげましょう、歩くの疲れるでしょうから」

「餓鬼扱いか?」

「まさか、サイキョーのヒットマンをからかう真似なんてしません。命がいくあっても足りないですから」

 

苦笑気味に笑う天姫。

それに、と天姫は俺を抱え言葉を付け足した。

 

「眠れない彼を誘って散歩にでも行こうかと思っていましたからね」

 

天姫が言う彼というのが一発で理解できた俺はしかたねぇな、と返事した。

綱吉side

 

もう、最後の夜だ。明日には天姫がこの世界から発つ。

皆、何度彼女と会話をしたことか、それでも一切を拒絶し、知りません存じません一点張りな彼女。皆の努力も空しく終わっちゃうのか。

 

眠れなくて眠れなくて何度も寝返りをうった。

時間だけが無情に過ぎていく。

 

天姫が居なくなる?

もう、二度と会えないっていうのか……。

俺には憎まれ口ばっかりで嫌味しか言われてなかったけど、でも#name1#だったとき接してた時間が偽者だったなんて思わないし、あれも天姫の面の一つだって思えばなんとなく今なら理解できる。

 

……いやだ、いやだ!天姫に会えなくなるなんて……。

なんでかわかんないけどとにかく嫌だ!

 

俺は、無力な自分が嫌で、かといってずっと何もしないままな自分も嫌で気がつけば外に出ている俺がいたわけだ。

あれ、なんでだろって若干の違和感もあったけどそんなのすぐに吹っ飛んだ。

 

「こんばんは」

 

玄関を出た所の塀の所に天姫がいたからだ。

 

寄りかかる形でリボーンを抱いたまま彼女は俺に微笑みかけた。

一緒に散歩しないか?

そういって、俺に手を差し出したんだ。

戸惑う俺に天姫は前と変わらない笑みを浮かべていた。

それで俺は直観した。もやもやしてたものが鮮明に浮かんできた。

だから俺は迷うことなく彼女の手を握った。

記憶を失った君とは思えないほどなんら変わらない。

 

「移動するときに私の手を離さないでくださいね。どっか別の場所に跳ばされても助けにいきませんから」

 

怖い事をサラッと言われて俺は一瞬え?と口元がヒクついた。

でも天姫は 俺に目を瞑っているように指示し俺は無事につきますように

と願いながら天姫の温かい手にすがるように握った。

 

「もう、いいですよ」

 

天姫はそういって俺に目を開けるよう促す。俺は恐る恐る瞳を開いた。

すると、目の前に広がるのは延々と太古の昔から

同じことをしてきただろう母なる海であった。

静かな夜での海は昼間とはまったく違う印象を出していた。

波が同じリズムで戻ったり引いたりしている。リボーンはひょいっと身軽な動作で砂浜に降りた。

天姫は俺から離れる為に手を放そうとしていた。

離れたくない

そう思った俺はすぐに彼女の手に縋り付いた。

驚く様を見せた彼女だったが、何も言わずに繋いだ手を振り払うことはなかった。

 

ここが最後のチャンスだ。

天姫にちゃんと聞くことができる場所なんだって自覚させられたら

一気に俺の口は動いてた。

 

「ねぇ、天姫はちゃんと覚えるんでしょ?」

「………、何を」

「俺たちの事、全部記憶が無くなったとか、嘘なんじゃないか?」

 

そう切り出したら、天姫は僕の手を離し一歩前を歩く。

 

「嘘じゃなかったら、どうする?」

「…天姫…」

 

そして急に振り返った。

彼女はジャケットの懐からあるものを取り出した。それはいつもリボーンが持っている、アレで俺はそれを凝視してしまった。あまりにも不釣合いすぎたから。

天姫のイメージには。

 

「責任取って今ここで、死ぬ?」

 

天姫の手には黒光りする一丁の銃あり、かちゃり、とその銃口が俺へ、俺の心臓へと向けられる。

 

「………いいよ。……天姫がそうしたいなら」

「…へぇ……命乞いしないの。それとも私が無視一匹殺せない弱い女だとでも勘違いしてるわけ?」

「怖いよ、本当は滅茶苦茶怖い」

「だったら撤回しなさい。さっきの言葉を否定しなさい。そうすれば撃たないわ」

 

俺にそう迫る天姫。

でも、俺は首を縦には振らなかった。むしろ彼女の方に一歩近づいた。

 

「撤回しない」

 

すると驚いた天姫が一歩反射的に足を引いた。銃口は変わらず俺の心臓を狙っている。

いつでもその引き金を引けるはずなのに彼女は一向に引こうとはしない。リボーンなんかあっという間に秒殺してるっていうのに。あ、リボーンと比べるのは違うか。

殺す気ないのが見え見えだ。

 

「……死にたがりだったとは驚きだわ」

 

強がった態度取ってるけど、俺一番の山場となっている。

そうだ、誰だってこんな場面見れば俺はただの死にたがりだ。

命乞いもせず自分の正義(言い分)を貫きとおそうとしている。

でも俺はそんな正義感とかないし、自分の命だって大切にしたいゲス野郎だ。

自分の命賭けてまで赤の他人を助けられるかって言われれば、躊躇いはするし、もしかしたら自分の命優先にするときだってあるはずだ。

普通の極一般人だったんだ、それなりに自分っていうものを確立してる。

だからこそ、俺の直観が訴えてくる。

いや、直観っていうよりも天姫という人物をそばで見ていたからわかるんだ。

 

彼女が一番嫌いなものは、何かって。

 

「でも俺は天姫がそんなことしないって知ってる。だって天姫は嘘、嫌いだろ」

「………」

「俺、知ってるよ。君が#name1#だったときから。覚えてる?前に俺がくだらない言い訳して帰りが遅くなったの誤魔化したとき、#name1#泣いてたよね。俺がどこかで事故にでも合ってたんじゃないかって心配したって。嘘ついて誤魔化すなんて最低だって。泣きながら怒鳴ったよね。あれ、演技じゃなかった。本気で俺のこと心配してくれてた。嘘に敏感だから俺がついた嘘に気づいたんだろ。そんな君が上手に嘘つけるはずがない」

「そん、なこと…」

「天姫、手、震えてるよ」

 

そう指摘してみれば天姫は息をのんだ。

 

「…っ!」

 

俺の言われて初めて気が付いたんだ。撃つという行為そのものに怯えている。

誰かの命を奪うことに恐怖している。

 

「………天姫は嘘が嫌いなはずだ」

 

天姫は何度も何度も首を横に振っては必死に否定する。

 

「違う、違う!私は、私は!」

 

ぽとりと力がなくなった両手から銃が落ちて塩水に浸かる。

天姫は一歩一歩、まるで俺から逃げるように離れようとする。

けど俺は逆に距離を縮める。

このままじゃだめだ、はっきりさせないとと焦る気持ちもあったから。

 

「天姫、お願いだから…」

「何が真実で何が嘘かわかりもしないくせに、私のことなんか知らないくせに!偉そうによくもべらべらと軽口叩けたものだ!」

 

吐き捨てるように天姫は俺を凍てついた瞳で射抜く。

しまいには天姫は海の方まで言って靴が濡れるのもお構いなしに海に入っていく。

俺は驚きながらも追いかけて彼女の腕を取り、無理やり正面を向かせた。

 

「なんだよっ!そんな言い方あるかよ!?」

「他人がズカズカと土足で入るなって言ってんだよ、理解できないおつむしてるわけ?」

 

売り言葉に買い言葉。俺たちは誰もいない夜の海で膝まで海に疲らせながら怒鳴りあい。

 

「確かに他人だけど」

「五月蠅い黙れっ!」

 

彼女の手が俺の首元にかかり、ぐっと締め付けられる。

 

「ぐっ!」

 

それと同時に彼女の整った顔が間近になった。

 

「簡単に人間同士が分かり合えると思っているのか?人の裏の裏、汚い部分まで全てを受け入れることがお前にできるのか?お前はどうしてそこまでする、どうして私に構ってくるんだ!!」

「……皆が、俺たちが…天姫と一緒にいたいと思ってるからじゃないか!!だからあんな事してまで天姫に思い出してもらおうとしてたのに、それを天姫が拒絶するから、だから皆余計に必死になったんだ!」

 

誰がそう頼んだ、と彼女は忌々しげにつぶやいた。

 

「それが余計だと言うんだ、私には必要のない事なんだよ。それに『虚像の花嫁』のこともだ。虚像の花嫁なんか幻像だよ。そんな存在は余計ないざこざを起こすだけだ。なら綺麗さっぱりその存在こそいなくなった方が無駄な抗争など起きない。沢田綱吉、アンタの理想とする争いのないマフィアへの道が一歩進む。君には嬉しい話でしょう?」

「俺はそんな事望んでなんかっ!?それにただの言い訳じゃないかっ」

 

天姫は逃げてるだけだ、俺はそう訴えた。

 

「ああ!私は臆病者だ卑怯者だよ。でもアンタに言われる筋合いなんかひとかけらもない。アンタだってボンゴレという鎖から逃れたいのでしょう?重圧から逃れ、平凡な幸せをつかみたいのでしょう?普通に生きたいのでしょう?だったら私の事なんか忘れてちゃえばいい、いない者と思えばいいじゃない。そしてアンタの本当に好きな人と共に生きれるじゃない。神男に言ってやるよ。すべては『原作』に戻すと。どう、嬉しいでしょう?全部厄介ばらいできるんだから。全て最初に戻る、全ての過去に私はいない者とすればいい。狂った歯車を元通りに修正すればアンタの夢だった平平凡凡な未来が取り戻せるんだから。喜びなさいよ、……私がその歯車を狂わせた原因なんだから。消えてやるわ。私も清々するわよ。これっきりこの世界ともおさらばだからね」

 

なんで、そこまで自分勝手なんだよっ!

なんでそんなに俺たちを拒むんだよ!?

 

「天姫!!」

 

ああ、時間切れだ、と天姫は言う。

俺の耳に口を寄せこう甘く囁いた。

 

「私、本当は君が大っ嫌いだったんだよ。知ってた?沢田綱吉。ああ、知ってたか。私がアンタ……アンタだけは名字で呼んでるってことにね。それが嫌いだって証拠よ」

 

そして俺の体をドンっ突き離し俺はゆっくりと海に背中から落ちていく。

でも、水しぶきが上がる事はなかった。

だって、気がつけば俺は自分のぼんぼん!とベッドにダイブしていたんだから。

瞬間移動?!なんていつもの俺だったら叫んでる所だけど今の状況とかどうでもいい。

理解したんだ。彼女の抱える問題は俺が解決することが出来るものじゃないって。

 

「なんで、だよ」

 

悔しかった。

悔しい、悔しくて視界がぼやけた。

 

ぶつかってばっかりで、怒鳴りあってばっかりで、本音で語っているとはとても思えない。

俺は彼女を追いこんでいるようにしかできないのかって。

俺がもっと頼られやすい男だったら天姫は気兼ねなく相談してくれたのかなって。

彼女が抱える悩みを少しでも教えてくれたのかなって。

俺がもっと違っていたら?

距離が、縮まることなんてこの先ないのか?

 

ぐるぐる頭を駆け巡るそれは可能性のない話ばかり。

 

「馬鹿、天姫」

 

言わなきゃ教えてくれなきゃ何もわからないじゃないか。

(理解などしようがない)

 

 

一方先に消えてしまった弟子を傍観していた小さなヒットマンがようやく口を開いた。

 

「天姫、気は済んだか」

「いいや、まったく」

「お前はどうして一人になろうとする」

「答える義務はないな。さて君も家に送ろう」

「俺は諦めてねぇぞ」

「諦める諦めないの問題じゃない。これは私が決めたことなんだ。覆されるはずがないだろう」

 

天姫は彼の台詞に最後まで耳化すことなく、神男不思議能力によりリボーンを沢田宅へと送り飛ばした。

 

「……真っ直ぐすぎ、胸が痛い……」

 

グサグサとアイツの言葉が胸に刺さった。

そうだ、図星ばかり刺されて売り言葉に買い言葉みたい状態になってしまった。

まるで子供の喧嘩みたい。

先ほどのやり取りを思い出しては知らぬ間に苦笑していた。

 

沢田綱吉、君はずっと昔に私が失ったものを持っているような気がするよ。

だから羨ましくて悔しくて八つ当たりしてたのかな。

 

最初は勝手に期待してた。

でもその期待も無駄だとわかると内心小馬鹿にするようになってた。

どうせ、何にもできないただの落ちこぼれだって。

無視一匹も殺せなさそうな軟な男に期待する方がおかしかった。

自分の力で現状打破しなくちゃと勝手に使命感に燃えていた。

 

でも、あの温かい家庭の中で、大切にされて守ってもらって慈しんでもらっている内にある違和感に気が付いた。

私、溶け込もうとしてる?って。

あの場所に自分がいることが当たり前な日常になりつつあろうとしてた。

そう錯覚させられてた。

居心地が良すぎて、ぬるま湯につかりすぎてた。

そういう風に思わせてたのは少なからず彼の影響もあったんだ。

日々、リボーンのスパルタ教育により少しずつながらも成長を続けていく彼の姿を毎日見るたびに、何度やっても無駄なのに諦めない姿にちょこっと感心した。

十代目になんてなりたくない!って叫んでた癖にボンゴレメンバーとの友好関係は継続させてて、その矛盾に可笑しくて、でもそのド根性に共感を覚えて、たまには優しくしてやるかって気持ちになった。そんな日々の変化と積み重ねが、私が彼に対する印象を少しずつ崩す結果になったんだ。自分でも気が付かない内に起こっていて、自覚するまでに時間がかかったみたいだ。

 

ゴメン。

面と向かって謝れるほど私は大人じゃない。

どっちかっていうと卑怯者なので、今謝らせてほしい。

私は、君が嫌いだといった。

それは嘘じゃない。

でも、嫌いだけど好きなんだ。

君のそのまっすぐさが好きなんだ。

 

君の人柄に触れてわかった。

ああ、これは彼だから人は自然と集まるんだって。

純粋に皆は君に惹かれていくのだって。

だから実はいうと嫉妬してました。私は仮面被って演技する毎日だったのに、君は素で何不自由ない生活で家族があって、友達があって学校があって、私にはないものばかりだったから。記憶がないとはいえ、得られなかったものに無意識に妬んでたんだね。

君が全て持っていることが羨ましいのと同時に憎らしい。

 

もし、私が君の立場にあったのならもっとこうしている。

いやそれ以上のことをしているはずだ。無い物ねだりした結果、それは馬鹿らしいけど嫉妬として君を嫌う結果になったってわけ。餓鬼みたいなくだらない理由。

誰にも言うつもりはないし、これから誰かに打ち明けることもない。

私が胸の中にしまっていくこと。

 

沢田綱吉くん。

どうか、私が失った分を。

私が得られなかったものを。

 

大事にしてこの人生を歩んでいってほしい。

私という存在が君の人生に影を落とすことないように、綺麗さっぱり忘れてさ。

何もかも、終わったんだ。

これ以上、君を、君たちを苦しませる要因を残したくない。

最後の置き土産として、明日。

 

君たちの記憶から私という存在を抹消してこの世界を発とうと思う。

 

それが私にできる君への償い。

 

(野薔薇の実の花言葉は『無意識の美』)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。