沢田綱吉side
さよならだ、君にはもう逢えない。
もう二度とあの手を握れない。あの笑顔も見れない。
もう本当にさよならだと思った。夢に見た。
『私、本当は君が大っ嫌いだったんだよ。知ってた?沢田綱吉。ああ、知ってたか。私がアンタ……アンタだけは名字で呼んでるってことにね。それが嫌いだって証拠よ』
君はそう言って俺から背を向けて。どんなに手を伸ばしても君は振り向かなかった。
俺は、俺は………あのままでは終わりたくなかった。
天姫が本来いた世界に帰る日。
夢を見てショックで俺がソファでぼうっとしていると突然入っていたリボーンに蹴られ、そのまま有無言わさず玄関前まで引き摺られた。
そしたら、神男さんがいた。
あの、自ら神と言っていた顔立ちが整い過ぎた男が。
「ちゃおっス、ヘボ綱吉」
なんか無意識にイラッと来る挨拶をされた。
リボーンは怒るかと思ったけど、スルーしていた。
なんか耐性が出来ていた。リボーンは神男さんに、
「ツナを連れて来てやったぞ。早く連れて行け」
「急かすな。赤ん坊。事は一刻を争う訳じゃないしな」
最後だから特別にあいつに内緒で連れてってやる、と最後に神様らしい(初めて見たけど)ところを見せてくれた。
神男さんが俺とリボーンだけをまたあの異空間に誘う。そのやり方は瞬きをして一瞬だけのことだった。
ガランとした殺風景の場所。
天姫はいた。現代の服装ではなく中国風の衣装に身を包んで佇む。
確かにだがまた別の女の人も立っていた。茶色髪のショートヘアの女性。
まずこの現代ではありえない格好である。
海外の映画にも出てきそうな服装。中国風?
天姫の知り合いだろうか。
でも天姫を見る瞳は瞬時に理解できるほど憎悪が含まれていた。
ここからは本当に二人の世界だった。踏み込んではいけない領域。
※
狗楽side
なんともクライマックスシーンのような雰囲気の中、わたくし神崎狗楽は忍びのように潜んでいます。
「なんかヤバげな感じしない?」
「これが修羅場というものですね!?」
双眼鏡片手にまるで映画でも見るかのようなスタイル。
ポップコーンを持ちスタンバイオーケー!
「ちげーよ」
興奮気味にひつじが叫ぼうとしたので口の中に大量の唐辛子放り込んで口元と体中に縄を幾重にもぐるぐる巻きにして放置した。辛さに悶え苦しむ蓑虫がいっちょ上がり!
ごろごろと後ろのほうで転がり続けるひつじ。
私と同じく見守り体勢に入った揚羽、そして相変わらず食い物を手に観覧しているラビット。
「えげつないな?ひつじに対しては」
「昔は、結構素直な性格だったのに…」
何だよ二人して。揚羽はなんだか残念そうな顔して嫁の貰い手がどうのこうの横で五月蝿く説教してくる。
揚羽だっていい歳じゃん、嫁もらえよ。
それにさ?別にいいじゃん簀巻きにするくらい。
乙女なら普通な事だもん。
「ねー?ひつじぃ~?」ゲシッ!!
さっきからごろごろ動き回るひつじを足で踏む。ウザイ!
そしてまた向こうの様子を窺う。
「さすが、天姫の妹…」
「躊躇いがない所がそっくりだ。狗楽の相手をする男は苦労させられるだろう。未来の義弟は可哀想だ。あ、実は決まってたか?アイツかアイツなのか?俺は許さないからな。狗楽。アイツは駄目だアイツは駄目俺許さないから。理由?そんなのない。なんとなくだ」
あんたらいい加減に口閉じろっていうか誰の話をしてんだ?揚羽は。しかしまさか燐華自ら来るとはね。ねーちゃんも思わなかったろ。まさか自分が命を奪った恋人の妹がくるなんて。天姫命の燐華も殺意湧いてるかな?
うーん、なんか微妙な感じ?対峙する二人。
一方は困惑と疑念。もう一方は大切な者を奪った人間への怒り。
「見損ないましたわ。姫様」
「……燐華……?」
戸惑い、固まるねーちゃんに燐華は冷めた目つきだ。
「わたくしが御育てした姫様は自ら尻尾を巻いて逃げるお方ではありませんでした」
「買いかぶりだよ、燐華。私はちっぽけな存在だから」
「ええ、ミジンコほどに。いえ、それ以下ですわ」
相変わらずの毒舌ぶりは絶好調ですね。
横でラビットが肩を震わせ笑いを堪えている。
ここって笑う所?っていう私もちょっと含み笑いしてしまった。
さて、あちらがたはシリアス真っ最中ですね。
「……………」
「わたくしは貴女が憎い」
「燐華…」
「兄は最後の瞬間まで貴女をみていました。見つめていました。わたくしなどに別れの言葉すらかけてくれずに」
あの人、誰がみても天姫馬鹿だったからね。
酷い人だね。いろんな意味で。
ねーちゃんは顔をうつぶせ、か細い声でただ謝るのみだった。
ただ一言だけど、沢山の意味が込められた謝罪だと思った。
「ごめん」
でも燐華は容赦なく斬り捨てる。
「謝っても、兄は帰りません。もう死んだのです。貴女の手で」
「っ!?そうだね…」
うん、正論だね。確かに劉牙は死んだ。目の前で、刺されて崩れ落ちて倒れこんで起き上がらなくなった。ピクリとも。
あの人の作る肉まんはとってもおいしかったと記憶に残っている。
なんとも惜しい人材が死んでしまった事だ。
「姫様、わたくしは貴女を憎いと言いました」
「うん」
「ですが」
「それ以上に、貴女が生きていてくださって嬉しいのです」
「り、んか…」
「ですから、殴らせてくださいませ」
「は?」
「はぁぁあああああ!」
渾身の一撃を溜める燐華。
「ちょっ?!」
燐華の拳になんか色んなオーラが込められる。
いうなれば黄金のような輝きを放つ。秘拳っぽい。
「揚羽~、燐華ってあんな大技使えたっけ?」
とりあえず、兄に聞いてみた。
そしたら彼は
「ノーコメント」
とだけ返答を返すにとどまった。
そんなのんきなやり取りをしている間にも姉は
ばししぃいいいいいん!
「のぼぉっ!?」
見事なストライクになっていた。コントのように華麗に吹っ飛んでいく。
宙を舞う姉と視線がパチコン!としたので手を振ってあげた。
揚羽とラビットも同じく。そして華麗に顔面から地面に直撃!
おもしれー。吹っ飛ぶときに花が舞ったよ。
燐華の力加減がコントロール出来てないな。感情的になってるからか?
燐華っていっつも笑顔の印象だったから
なんか意外?まぁ、ねーちゃんといいコンビじゃない。
また仲間が増えるなら楽しそうだし。
ねーちゃんを守る存在は多くいても腐るもんじゃないし。
『駒』はいくらあっても困らない。
今度こそ手放さない為に、わたしだって覚悟してんだからさ。
と心の中で語ってみることにした狗楽であった☆
※
天姫side
「天姫!」
驚いた沢田くんが大声を上げた。まず、彼がいることにもびっくりしたが今はまず目の前の状況を整理しよう。燐華ってこんなに強かったけ?!
何コレ?常人じゃないよ。
そういえば空を舞うとき狗楽たちが私に向かって優雅に手を振っていた。
てめーら!覚えてろよ!
ああ、ゲームでいうならコンティニュー状態だ。
⇒リトライ?
⇒ゲームオーバー?
⇒逃げる?
どれも、私には選択できなかった。
っていうかその余裕すらなかった。
「ぎゃっ!」
そして頭から突っ込み一瞬星が頭上でぐるぐる漂う。んで容赦なく首元を引っ張られ身体を持ち上げられた。
「っ!?」
群青色の瞳。私が失ってしまった彼の色だ。
その瞳を通して映る私自身の姿は揺らめいていた。
「生きてください。逃げないで下さい。兄を忘れないでください。忘れることが罪だとは言いません。ですが兄が生きていた頃の楽しかった思い出まで、消し去らなくてもいいではありませんかっ!?」
「……燐華……」
ああ、燐華の泣いたところ生まれて初めて見た。
ずっと長い時間を過ごしてきたのに私は燐華のこんな表情も知らなかったなんて最低だ。
友達失格だよ。
「兄が生き、愛した年月を殺さないでください」
ずっと、ずっと一緒だった。
「目を、逸らさないで」
逸らしたくても、逸らせなかったよ。
燐華の一言一言が私に突き刺さる。
私っていっつも逃げてたね。今もそうさ。
理由を並べて、自分が楽な道を選んでた。だってそれが一番楽じゃない。
これ以上苦しい思いしたくないもん。誰だってそうじゃない。
「わたくしは貴女と共にいます。今は貴女がわたくしの全てなのですから」
でも間違ってたね。
だって燐華は全力でぶつかってきてくれたのに私はまた過ちを犯そうとした。
今、あの世界に戻ったところでみんなに受け入れてもらえるはずがない。
私は一度逃げて捨ててきてしまったのだから。
「ゴメン……燐華」
「今度こそ、逃げることはおやめ下さい。わたくしは死にません。たとえ貴女に殺されようとも」
そんな言われる価値なんかないんだよ。狗楽だって、揚羽だって。
この世界の皆だって本当は大切になりかけているんだ。
深く 深く刻み込まれてきてるんだ。
それじゃ駄目なんだよ、いつか彼らに刃を向けてしまうかもしれない。
また、彼のような事が起きてしまうかもしれない。
みんな、みんな、本当は大切すぎて側にいてほしくない。
だって、私には死が付き纏う。
もう、彼のような死をみるのはいやだ。
「………もう、誰も、……失くしたくない、よ………」
いやだ、もう誰も傷つけたくない。
「誰も失わせません、決して。わたくしがそうさせません」
両膝から力が抜けて崩れ落ちる寸前、燐華が受け止めてくれた。
もう私には立つ気力がなかった。ただ、想う。
「………ほんと、は愛……したかった……」
彼からのストレートな想いが情熱的な感情が痛いほど伝わって戸惑った。
けどホントに嬉しかったんだよ。
「ええ。痛いほどわかっておりました」
「彼なら、ホントに………愛せるって思え……た」
彼なら、劉牙ならあの忌々しいほどの過去から解放させてくれるような気がして。
私を救い出してくれる王子様みたいに思えた。
生きてほしかった……共に……
許されない事かもしれないけど、望んでしまった。永きに渡る世界への旅路へと。
「姫様は、不器用ですから」
私は不器用なんて言葉でおさめられないよ。馬鹿なんだよ、私は。
彼は、もういない。ホントにいないんだ。受け止めなきゃいけないんだね。
私が殺しちゃったんだから。
「……りゅ、っがぁあ…………」
「うっ………うぁぁああああああ!」
堪えきれない想いが全て溢れた。
とめどなく流れる涙。まだ信じたくないのだ、彼の死を。
私にとって過去ではない。現在にも等しい私の罪。
「全てをさらけ出すことが出来ぬとも、今だけは、どうか、ただの女性としていてください。」
ただ燐華にすがり咽び泣いた。
これが本当に悲しいって気持ちなんだ。失って気がつくなんて、今まで奪う側だったのに守ることで奪う事に執着していたのに、自分が思い知らさせる時が来るなんて昔の私は理解していなかっただろう。
私は、こうやって咽び泣くことでさらに自分が馬鹿だという事を認識させられていくのだ。