リボーンside
昨夜の花見の途中、鼻垂れ小僧の世話から帰ってきた天姫。
行く以前と帰ってきた後では、僅かだが確実に変わっていたがあった。
無理に自然に振舞おうとする態度や、山本を意識して避けているあたりがまさにそれだ。
その山本も必死に視線で天姫を追いかけていたしな。
その原因となる事情があったのはまず、間違いないはずだ。
いつも通りの月曜日の朝。
ツナと俺はママンと天姫に手を振られながら送り出される。
だが、俺は途中でツナから離れまた家に戻った。物陰に隠れ、ターゲットを待つ。するとほどなくして天姫が出てきた。ママンに見送られて家を出る。
天姫が身にまとうのは並森の制服だ。丈の短いスカートを好むのは動きやすさ重視故だろうか。それにしてもいい感じの太ももだぜ。
……学校に通うのか、まぁ、見た目の年齢で判断するならば妥当なところだろう。
ママンもアイツを居候させる以上保護者になるわけだしな。教育上通って悪くはない。
だとすると今まで黙っていたのはこれか?
いや、もっと違う根深いもののはずだ。
俺は彼女に気付かれないよう細心の注意を払い、後をつけた。
天姫の行動に違和感を感じるところがない。だが、それが逆におかしかった。
天姫ほどの女がこれほど無防備に背中をみせるだろうか。
ついに学校の中まできてしまった。
職員室手前の廊下で天姫はピタリと止まる。
背中を見せてはいたが、一切のスキがない。
その沈黙が俺には重かった。
完全にばれている。俺は姿を見せずにはいられない状況に陥っていた。
「天姫、俺を騙せると思ってたか?」
「………まぁ、100%無理かなとは思ってた。リボーン」
やはり、俺の気配に気付いていたか。
天姫の力は計り知れないものだ。
この俺でさせ、その力の片鱗を見せ付けられたときは、畏怖を抱いてしまう。
俺と話している時、天姫は確実に『蒼龍姫』としての己をかもし出す。
その圧倒されるオーラに、常人では気絶してしまうほどの殺気を入り混じりながら。
だが、俺たちはファミリー。仲間だと認識している。いや、それだけじゃねぇ。
愛しい女としてもだ。たった一人大事にしてぇ女。
「お前はいつも何も言わない。山本も俺と同じ考えだ」
それがお前にとって当たり前の環境だったとしてもこの世界ではありえないと。
「いつ何が起こるかなんて、普通の人間には分からないものでしょう?言った所で覆せないこともある」
確実に覆せない事に慣れてしまったのか。
己の運命を素直に受け入れてしまうのか。
俺は納得しない。
お前の無茶振りは何度も味わってきた。その度に悔しい思いもした。
「だからと言って、全て、一人で抱え込むことが正しいことだと思っているのか。お前は」
人は一人では生きていけない動物。
お前だってそうだろうが、弱みを見せてもいいんじゃねぇか?
俺の想いをあいつは曖昧に濁す。
「もう、タイムリミットだよ。リボーン」
そういってあいつは走り去る。タイムリミット?
この世界での居られる時間を指しているのか。
それまでその時がくるまで天姫は学生として平凡に何事もないかのように普通に暮らす?
そしてまた自然に居なくなってしまうのか。誰が許すか、そんなもの。俺は認めねぇ。
「初めまして神崎天姫と言います。海外生活が長かったので色々と不自然な事で皆さんにご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが、どうか宜しくお願いします。
「言っとくがこいつに手出したら命はないと思え」
確実に天姫に不安を与える危険分子を抹殺する。
それが天姫のいる未来を作り出すことに繋がるはずだ。
席についた天姫は早速ツナたちと会話を始める。
そんな、何気ない姿は何も知らない人間にしてみれば、極普通なところだ。
だが、天姫の内心は……
「宜しく、沢田君」
「一言言っといてくれれば良かったのに…」
「十代目の言うとおりだ。朝一緒に登校できただろうーが!」
「…………まぁ、これからは一緒に学校行けるしな?いいじゃねぇか。な?」
「そうなるよう、祈るだけだよ」
ああ、ただ祈っていろ。
お前はただ祈るだけでいい。俺が全てをやる。
お前の未来は俺が作り出す。何に変えても、な。
(未来をお前にやる)
※
山本武side
ホントに目が点になるってこの事をいうんだな。自然にでてしまった驚愕した反応。
「……マジかよ…」
天姫は、俺たちと同じ並森中にそれも同じ一年で同じクラスにいる。
仮面のような精巧な笑顔を作り落ち着いた声のトーンで喋る。
それは聞くものを魅了させてしまう、魅惑voiceだ。
「初めまして神崎天姫と言います。海外生活が長かったので色々と不自然な事で皆さんにご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが、どうか宜しくお願いします」
追加だ。魅惑の微笑みつき、だった。
クラスの連中をこんなにフリーズさせる存在は、中々いないぜ。
昨日の今日でまさか、こんなサプライズが用意されていたなんて。
ったく、天姫はホントに秘密主義者だな、
なんて苦笑しかでなかった。
なんの策略か知らないが、天姫の席はツナの隣だった。
その席確か誰かいたはずだよな?
だけど誰一人として、その事に気がつく奴は誰もいない。
ツナの奴手回ししたのか……ずりぃな。
隣同士。絶好のポジションを捕られた。
けど同じクラスにいる以上チャンスはいくらでもある。
このくらいで負けていられないぜ。
それに天姫には聞きたいこともある。あの花見での出来事を。
「…………まぁ、これからは一緒に学校行けるしな?いいじゃねぇか。な?」
「そうなるよう、祈るだけだよ」
笑顔。だがそれは笑顔になりきれていない不完全のようだった。
……天姫やっぱり。昨日あの時に何かあったんだ。
じゃなきゃそんな顔して笑わないだろ?
他の奴は分からなくても、俺は一発でわかったぜ。
一時間目が終わった後、俺たちはすぐに自分たちの席を同時に立った。
勿論、天姫と話す為。
せっかく、同じ空間にいるのだから少しでも共にいたい。
だが、先に女子らに先を越されちまった。
「天姫ちゃん。これから一緒に勉強できるね!」
「京子、私も嬉しいよ。そっちの子は京子の友達?」
「あ、うん」
「……どうも、黒川花って言います」
にこやかに握手を求める天姫が行うのは流れるようなそして洗練されたその滑らかな動きだ。
「宜しく、花って呼んでもいいかな?」
「…っ!?………よ、ろしく」
黒川の顔が茹で上がったタコのように真っ赤になってしまった。
破壊力は計りしれないものだ。免疫がない者なら尚更のこと。
「天姫、ちょっとは加減してやれよ?」
俺の問いに天姫は全然わかっていないようだった。
頭上にははてなマーク。
鈍感。何度言っても天姫はわかんないだろうなぁ。
それが天姫の魅力だから仕方が無いか。
昼メシ時。
次こそは一緒にと意気込んだけどやっぱり笹川と黒川に先を越された。
女子は女子で一緒に昼を食うらしい。
だが突然の呼び出し。それは風紀委員からのものだった。
天姫は一瞬、肩を震わせた。
そして
「……………馬鹿恭弥がっ」
「あ、天姫!?」
笹川と黒川の呼び止める声を振り切り何故か叫びながらクラスを出て行ってしまった。
その動き、まさに韋駄天。
誰もが圧倒される行動。ホント、退屈しねぇわ。
天姫といるとな。
(平凡から刺激あふるる日常へ)
※
雲雀恭弥side
早く、君に会いたい。話したい。
君の瞳に僕を映らせたい。
その思いで必死に問題が起こった所で群れていた奴らを噛み殺してきた。
後半、一体何匹噛み殺したかなんて全然分からなかったぐらい。
ただ僕が気がついた頃には草食動物共が山積みにされていたけどね。
バイクをとばして学校へ。
でも、急いで帰ってきてまさか、ドアが破壊されてるなんて考え一切、なかったよ。
粉砕一歩手前な状態で、応接室の中が丸見え状態。
対峙しているのは……
「何これ」
「委員長!」
土下座をしている草壁以下風紀委員数人。反対に腕を組み眉間に皺をよせ不機嫌を現しているのは呼び出しに応じてくれた彼女。
ああ、やっぱり君は何を着ても似合ってしまう。
ただ文句を言うのならスカートが短すぎだ。彼女の見事な脚線美が丸見えだ。
「君達、なんのプレイしてるわけ?」
「なんもしてないから!?」
ちょっとからかっただけなのに…今まさに僕は極限状態だ。
なぜなら天姫の機嫌はあっという間に急降下したからだ。さっきから交互にソファをいったり来たりしている。僕が天姫の隣に腰掛けようとすると、彼女はすぐに僕から離れた反対側の方へ身を寄せてしまう。それが何回も。そして僕は何回謝り続けただろう。数えている暇なんか一切ない。
「僕が悪かったから、いい加減機嫌なおしてよ」
「やだ」
僕の必死なお願いは彼女の即答で一刀両断。彼女は本当に女王様気質だ。思わずぽろっと出てしまった言葉は確実に彼女の耳に入ったようだ。
「強情すぎるのも問題だよ…」
「嫌なら私と関わらなきゃいい問題でしょ?」
気がついたときには後の祭りだ。軽く腕組みし足を組んだ彼女は視界から消えうせろと言わんばかりに、僕を見ない。それが完全に彼女を失望させてしまったのかと地獄に叩き落された気分だ。こんな姿、風紀委員長にあるまじき姿になってしまった。
「……冷たくしないでよ。これでも急いで戻ってきたんだ……」
言い訳ではないけれでせめてもと自分の思いを伝える。
彼女に汚れた血など見せるわけにはいかないと思ったが、早く会いたかったのでそのまま返り血を浴びたまま来てしまった。これも嫌われた原因の一つなのかと思ってしまった。
だがいつの間にか彼女は僕の隣に座っていた。そしてしなやかな指が僕の髪を撫でる。壊れ物を扱うかのように。僕は、無意識に彼女を見た。彼女の表情はさっきとは一変。まるで面白そうなものが見れた満足感に溢れていた。目を細め顔を近づけてくる。
「ごめん、仕事で忙しかったんだよね。急に呼び出されるものだから私も苛立っちゃって」
………、やられた。
彼女は僕の反応をみて楽しんでいたのだ。なんてドSだ。
だがこんな彼女だからこそ僕は惹かれて止まない。万華鏡のような色々な表情を見せる君だから。僕を魅了するんだ。
「もう、怒っていない?」
「うん、もう怒ってないから」
「……よかった」
全て彼女にはお見通しだ。
僕の心の奥底まで的確に掴んでしまう。衝動的に彼女に抱きついた。
だってそんな彼女が愛おしい。君の全てが僕を歓喜させるから。
「結局、私を呼び出したのはなんな訳?」
「昨日、話したじゃないか。もう忘れたのかい?僕のお願いを聞いてくれるって事」
彼女は急に無言になった。
「……………」
まるで僕など興味無くなったかのような感覚に陥った。僕は慌てて、冗談を言った。
「…………忘れてたね…」
「ごめんね?」
直視できないの知っててやってる…完全にわざとだ。自分の顔を彼女に見えない位置で隠す。だって、こんな真っ赤な顔を見られたくない。
「……………許してあげる。でもその顔は僕の前だけにしておいて、ね?」
口でなんとか誤魔化すことは出来たと思うけど、たぶん、彼女にはバレバレだ。
気配で笑われているような気がする。……、やられた。ホント、彼女は意地悪だ。さっきのだって、わざとだ。でもいいさ。君に攻められるのは僕だけでいい。それに、その顔を見られるのも僕だけでいいんだ。
「で、恭弥のお願いは?」
さり気なく本題を彼女から問われる。すっかり舞い上がっていた僕は一呼吸間があいた。
「三つ聞いてくれればいいよ」
僕の半場強引にお願いした条件を彼女は嫌な顔を一つせずに、全て受け入れてくれた。
素直に嬉しい。
これで学校にいる間も君を独占していられる。
君が持ってきてくれたお弁当も一緒に食べられたから尚更僕は気分が上がったよ。
(高まる鼓動は君の所為)