天姫side
これは夢。現実ではない世界だが私達はそこに確実にいる。
「天姫、一緒に黒耀にいきませんか?」
それはもう120%全開の笑顔を浮かべ、私の手を取っている彼に私は軽くため息をつく。
三人白いテーブルを囲み雄大な草原の中でお茶会をしていた。
私はもちろん、お気に入りのアップルパイ。そして私の隣を挟むのは骸と凪である。
皆この世界の中では白一色の服装でシンプルイズベスト。ここでは自分を着飾る必要がないからだ。
しかし、いくら夢の中といえど私の大好きなアップルパイを食している最中に片手をとられたままでは、味わうこともできない。
フォークをお目当ての物にグサッ!っとさして食べようとも私の隣に座る彼が離してくれないのだ。それにかまって光線を出し続ける骸にまたため息が出てしまう。
正直にウザイ。
だがこの台詞を彼に言ったらおそらくへそをまげてしまいもっと後始末が悪い。
なにせ彼とはここ最近まったく連絡をとっていない。
いや、それはなんとなく違うか。彼からの『交信テレパシー』はウガァーっと叫びたくなるほど送られてきた。大量に。
内容は大概淋しいだとかなんで並中で黒耀に来てくれなかったとか殆ど愚痴?みたいな内容だ。
駄々っ子もここまでくると可愛げなどなくなる。ただそれを今まで語ってきていない話だからだ。
「どんな誘いというか学校が違うこと前提でそれ言ってるの?」
「だって、最近全然出番がないんですもん」
口を尖らせて不満そうに訴えかけてくる骸。
男の子がそう拗ねるもんじゃありません。お母さんはそんな子に育てた覚えはありませんよ!
「男が語尾にもんってつけるんじゃないの」
「そんな冷たい天姫も素敵です」
今の状況によく余裕ありありな態度で会話できるものだ。
器用に凪が繰り出す槍を避けながら、どうしてこういう事が夢の中でも繰り広げられるのでしょうか?
凄い速さでビュンビュンと風を切っていく凪の攻撃を軽やかに避ける骸。
どうでもいいが人の食べてる横でそういうしょうもない戦いはやめてほしい。
一通り戦い終わった二人はようやく満足したのか、お互い同時に席に着く。
そして、汗一つかいていない眼帯少女、凪は私にピトっと手を重ねてきて一言。
「私も淋しい」
「凪が言うなら!いつでもこの胸に飛び込んでおいで!」
速攻で私は堕ちた。このうるるんした凪に勝てる人がいるなら今目の前に名乗り出てほしい!憤慨した骸は納得いかんとばかりに大声を上げた。
「この差はなんですかっ!?」
「可愛いの差」
「ぐっ!?」
「フッ」
勝ち誇ったような笑みを見せる凪。
ああ、凪がどんどん黒く染まっていくような気がする。
私の周りは濃すぎるキャラばっかりだ。
「クハハハハ!どうやら決着をつけねばいけないようですね!」
「受けてたつ」
やはりそう静かな空間というのは夢の中といえど無理があるのかな、なんてちょっとたそがれてしまった。だけど喧嘩を止めなければ私にも被害が来てしまう。
「ああ!もう、喧嘩しないの!」
なんだって私がらみだとこんなににぎやかなのかな。
ある程度落ち着いたところでさっきの真意を問いただす。
「骸。ちゃんと昨日、私お手製手作りおにぎりプレゼントしてあげたでしょ?」
ホントはそんなつもり無かったけど。
「確かにちゃんと受け取りましたよ。あんな大量なおにぎり食べきれるか自信はありませんが、天姫がせっかく作ってくれたものです。愛情が篭っているものを捨てるわけにはいきませんからね」
全て冷凍保存にしましたので!と何故か胸をそらす。
別に私が彼らの元に直接持っていったわけではない。
ゴーラちゃんがもったいないと思って自主的に骸たちに白羽の矢を立ったというだけの事。
確かに風紀委員の皆さんに差し入れをするどころではなかった。
それを素直にホントは君達の為に作ったわけではないんだよといえば、またやかましいことになるので黙っていることにする。
この世界で学んだ、余計な事をいえばそれは新たな火種を生むという学習能力からきているからだ。
「……おなか壊さないようにね」
無駄なアドバイスかもしれないが言わないよりはマシなので言っておいた。
千種と犬にちょっと悪いことしたかも。毎日、おにぎりなんて肉食な犬には飽きるんじゃないかな。でも、色々別な料理法もあるか。たとえば、チャーハンとか?
「天姫、おにぎり作るの上手ね」
「まぁ、狗楽のご飯とか作るのが忙しいときとかお金に困ったとき時はおにぎりだけですませた頃もあったしね。本人文句言わないで、もぐもぐ食べてくれたからありがたかったかな」
苦労させてしまった分申し訳ない気持ちがある。
でも目まぐるしく変わる環境にあの子は何一つ文句を言ったことはない。
それが不安の一つの要素。
………どうしてるかな?……
「………あの子、嫌だ……」
「…?何か言った?」
「ううん」
凪の声は小さく聞き取れないほどだったがたいしたことはなかったみたいで私の問いに頭を振るだけだ。だがなぜか骸は少し青い顔になっていた。
「ねぇ、天姫?あのね、お願いがあるんだけど……」
私にしだれかかってくる彼女。うん、激可愛い。
どうやったらそんなに可愛くなるのかぜひ、ご教授お願いしたいほどだ。
「何?骸なら断ってるけど凪のお願いは極力聞いてあげるから」
「天姫、僕の事ホントは嫌いですか?」
骸がちょっと、涙目になりながら半べそかきだした。
そんなことあるわけないのに。ただ、変態振りをなんとかすればいいだけの話。
でも自分で気が付いて初めてわかることもある。
とりあえず、骸は放置で。今は凪のお願いを聞くのが先決だ。
「それで、どんなお願い?」
「私とおそろい着てくれる?」
「はい?」
そこで、目が覚めた。ぱちくり。
瞬き一つすれば見慣れた天井がそこには広がる。ムクリと起きて目覚まし時計を確認。五時二十四分、か。シロは私が起きたことで寝ていた箇所を動かされてしまったので、大きく伸びをし、また暖かな寝床を求めて私の布団の隙間から入り込んで眠りへと戻っていく。
薄情な愛猫。側にいたりいなくなったり、気紛れなところが最近見受けられるがそれでもシロは私の大切なパートナーだ。この距離が変わることは未来永劫ないだろう。
ゴーラちゃんもまだ起動時間ではないので活動停止している。
じゃあ目が覚めたのは私だけか?のそりとベッドから降りて鏡をのぞき込む。
ところどころはねている髪を手で押さえつつ、ふわっとあくびひとつした。
「朝のお散歩でも行きますか」
この時間に起きたのも意味があるんだろう。
私は着替えて一人散歩することにした。
「くぅ~、寒くなったなぁ~」
みんなを起こさないよう、静かに玄関のドアを閉めた。
そういえば、私がこの世界に落ちてもうどのくらいの月日が経っただろうか?
思い起こせばあの子供の姿の時から始まりなのだ。
ディーノとの出会いやキャッバローネのみんなと過ごした日々、ザンザス以下ヴァリアーとの触れ合いやおじい様とも出会った。まだ、自分を取り戻していなかった頃の私は、日本に来て初めて沢田君と出会う。彼だけじゃない、彼を囲むみたいにしてあったその仲間たち。色々ホントにあった。一言ですませられないほど、味わった事。
原作をぶっ壊してできた世界はこの後同じ道を辿るのだろうか。漫画でしか知らなかった彼らの鼓動。生きていると実感する瞬間。
また、皆に教えられることも多々ある。出来ることならば、争いなど無縁な生活を送ってほしいと願ってしまう。彼らの笑顔がずっと絶やされることがないよう守りたい。
だが、それもいずれかなわない未来がやってくる。遠からず、その予兆はもう起こってしまった。未来のランボとの初の顔合わせの件だ。彼は私をまったく知らないと言ったのだ。
と、いうことは未来での私はすでにいない。
私は漫画の内容を詳しく知らないのだが沢田君たちが未来へ飛んでしまうくらいには把握している。それがいつごろ発生するのかはまだわからないが、いずれは彼らに知られてしまう可能性が高い。
コツンコツン、とブーツの音が響く。
周りには私の姿しかない。人影がまったくない世界で、なんとなく一人になった気がした。
未来での私は何処へ行ってしまったのか。
幾等考えてもまったく、答えはでない。悶々とただ時間が過ぎていくだけだ。
そして、気がつけば並森公園へたどり着いていた。人っ子一人いないその場所。私はふらりとそこへ踏み込んだ。なんとなく、ブランコへ座る。
「……………」
ポツンと私だけがゆらゆら揺れる。そこへ、一つの影が近づいてきた。
「……君は……」
「………ん?」
人が来るのは気配でわかっていたが、まさかこっちにくるとは…。
こんな朝早くに知り合いと会うか?と疑問を抱きつつ視線を上げると
「…………」
眼鏡をかけた少年、入江正一が目の前に立っていた。茫然と私がいることに驚いている。
あらま、この子って重要人物じゃなかった?
かすかに頭に残ってあらすじを思い出しながら彼を見つめた。おかしい。私は彼とはまったく接点はないはずだが。彼は私を知っているのか?
ただ、立ち尽くし私の顔を凝視し続ける彼。……私の顔はそんなに凄いことになっているのですか。私には物凄く不愉快極まりない。ええい!見世物じゃないぞ。
「…何か用事?無いなら話しかけないで」
今の私はセンチメンタルなんだよ。
「……ゴメン!そんなつもりじゃっ」
彼はまだいなくならない。むしろ、なぜかもじもじしだした。
私はあえて、視線から遠ざける。だってね?なんで恥ずかしがるんだよ、彼が。
「………」
彼はなぜか意を決した表情で私に大声で話しかけてきた。
「あ、あの!隣座ってもいいかな?あっ!迷惑でなかったらなんだけど……」
語尾ぐらいはっきり言いなさいな。別に座ればいいでしょう、私はここを支配している人じゃないんで。
「……ここは公園の敷地内でここはブランコで私は勝手に座ってるだけ。君も私の許可なんか求めなくても勝手に座ればいいんじゃない?」
朝からブランコしたいならすればいいじゃないか。
彼は、なぜかほっと息をつきながらおそるおそるといった様子で隣の空いているブランコに腰を下ろす。
「…どうして、こんなところに?」
「……なんとなくだけど」
「そっか、僕もなんとなくここにきちゃった」
一緒だねと言われた。
いや、たぶん違うと思うけどと突っ込みたかったが、メンドクサイのでスルー。
「そう」
一呼吸、間があく。何か喋ってくれないかな。すごく空気が重いような……。
私の思いを知ってか知らずか彼のほうから話題を振ってきた。
「………僕、迷ってるんだ。これから先必ず行なわなければならない事に対して」
それはどーいう事?えっ、未来形の話?全然理解していないので返答は避ける。
「………」
だが、彼はまったく私の事など気にしていないようで、スラスラと話を続ける。
「それは決まっている事で、絶対にミスは許されない。けど僕がそれをすることで何かが変わってしまうのがすごく怖いんだ」
「…………」
……ブランコの話とか?
朝早くからきたけど、私がいたから出来なかったとかって事?
今、私がここにいることでブランコに乗ろうか乗るまいか迷っていると、そういう事なのか!?
「まったく違う展開に繋がったりしないか、誰かを失った結果になってしまわないか」
彼とってブランコに乗ることは重大な事なんだね…
そんなに思いつめるほど気にしているなんて。
そんなに真剣なら、私もその彼の真剣な問いに答えなければならない。
ここで、答えなければ女が廃る!
「君が恐れるのは結果?それとも自分に対する非難?」
「っ!?」
自分に正直なればいいじゃないか。
「人が何かをするのにいちいち理由が必要なの?」
ブランコ乗りたい時だってあるさ。
ただ人の視線が気になるからこんな時間にきてやってるんでしょ?
「天姫さん…」
「人に意見を求めないで。結局それを決めるのもやめるのも自分。他人の意見に左右されるくらいならそれまでの事だし。君は自分で選んだ事なんじゃないの」
他の人間が大の男の子が実はブランコ大好き人間だったなんてとショックを受ける存在など無視してしまえばいい。
自分に貪欲になれ、少年よ!
「……うん…」
「私は否定しない。かわりに賛成もしない。ただ在るがままを受け入れる。それが今の君なんだから」
たとえ、たくさんの人間に否定されようとも私は理解ある女だから安心してくれ。
私もブランコは好きさ、なんかこう、たそがれたくなるときってあるからさ。
「……………」
「ただ、抗うと決めたならその時は…」
「………その時は?」
いや、あんまり深く考えてなかったからそんな期待を篭った視線で待たれてもこっちが困るんだけど…ヤバイ、何も浮かばない。
ここは、定番のアレで逃げるしかない!
「秘密。答えは自分で見つけること」
「……君はずるい人だ…」
言ったもん勝ちだわっ!!
「……また会う日もあるかもしれない。じゃあ、ね」
「ありがとう、天姫さん」
まるで、さっきまで不幸のどん底のような表情をしていた彼はまったく消えていた。
今目の前にいるのは、晴れ渡った顔でなぜか嬉しそうな正一君。
いえ、お礼を言われるようなことは一切してませんから。
私は、おなかがすいたので颯爽と歩いた。
それから家に戻った後でアレ?と思った。名前名乗ったっけ?と。