天姫side
ここってこんなに住み心地良かったけ?
当初彼に強制的に連れて来られた時の印象しかないことに気が付く。約束通り私はなぜか黒耀センターにいます。なぜなら彼らによって拉致られたから。
約束したのだから仕方が無い。約束は守るものだ。
けどさ……こいつの定着位置というのは、私の腰元なのだろうか?骸よ。
ぎゅうぎゅうと抱きついてくる、腰ぎんちゃく。
彼の冷徹なイメージはもはや宇宙の屑と化している。
だらけた顔ゆるみきった顔だらしない顔。あの漫画の中のクールな骸は消え去った。
「天姫ー!良く似合っていますよ。その改造制服」
嬉々として語る骸に私は口元ひくひくさせながら「ありがと」とだけ返す。
彼には好評なようだ。凪が私の為に用意したというコレ。結構動きやすさ重視をメインにしているので私は好きだ。ちょっと、おへそ当たりがスカスカして寒い。
私おなか冷やすタイプだから、正直キツイのだが。腹巻しても平気かな?
…だって、しょうがないじゃん!寒いんだもん。女の子はおなか冷やしちゃいけないんだよ☆冷ややかな視線…私に、でない。
私の隣に佇む凪の視線は、明らかに侮蔑を含んだものだった。おもに骸への。まったく、この子らの関係って何だ?主従関係通り越して敵対関係のようだ。
骸に対してわかりやすいほどに「ッチ」と舌打ちした凪。気を取り直したのか彼女は少し照れながら
「……本当は、長めのスカートも似合うかなって思ったけど、転んだら嫌だから止めたの」
と説明してくれた。そうか、そうか。
うん、いまどきの長いスカートってどのくらいなのかは知らないが私は短いほうが動きやすいので助かった。
「……ありがとう、凪」
「天姫が嬉しいと私も嬉しい」
そんな頬染めながら言われたらこっちも照れてまうがな。
「…天姫…」
「…凪…」
互いの手を取り合い、見つめ合う二人。もう二人だけの世界…
無論、私は本気でやっているつもりはない。ノリだ。
だがまったくそのノリというものを理解していない人間が一人存在していた。
「天姫ぃいいいい―――――!?」
がばっっと無理矢理乱入してきた彼。
「ちょっと!?」
「僕と言う者がありながらなぜ!クロームとラブラブしているんですかっ!?」
誰もラブラブしているとは言っていないだろうが。
腰が砕けてしまうんじゃないかと思うくらい抱きついてくる。
お前の腕力は底が無い。
その内私は腰が砕けてしまうのではないかと思うよ。
「骸さま…ウザイ…」
「凪、なんだか、黒いモノが押し出されようとしているけど、なんとか鎮めてくれない?ね?ね!?」
私を助けると思って、ね?人生まだまだ謳歌していないんですよ!
なんとか凪をなだめて、路線からずれた話を元に修正する。
「ところで、来たはいいけど私学校に休むとかまったく連絡いれてないよ?ってか恭弥待ってる間に拉致るって酷くない?」
朝早くからは来るなんて誰が予想できようか。
「クハハハ、僕は悪ですよ?わざわざあの男に断りを入れる必要などありませんってかムカツキます!」
「悪どうのこうの言う前に人間としてどうさ?明らかに私情が混ざりまくりじゃん」
それだけ自己主張できる人は早々いない。
「私は天姫と一緒にいたかった」
「うん、凪いいよ。骸が主に首謀犯だから凪は全然無関係ね」
凪がこんなに淋しがっていたなんて…うーん、どうするかな。
凪だけ沢田君の家に連れて行こうかな、なんて思ったり。
「だから、どうしてそんなに僕を蔑むんですか!?」
おまえの行動全てがそのことに繋がっているとなぜ理解できない?本当にわかってないのか、こいつは。
「ざっくりはっきり言ってあげようか?」
「僕の硝子のハートが粉々になるぐらいの威力ですか?」
「ううん、ソレをレーザー砲で跡形もく霧散させるくらい」
「やっぱいいです、やめてください」
懸命な判断だ。フッ、可愛い奴め……青い顔して怯えているあたり攻めてみたくなる。ってか、苛めたい。さて、なにやら骸に命令されて大量の買出しに行かされていたらしい千種と犬。
素直に行ってきてあげるなんて、なんていい子たちだこと……だとすれば、私の料理の腕を久し振りに披露するべき時だわ。
なぜかエプロンが用意されていたが、深く突っ込んだらキリがないのでそこは流す。
まとわりつくのは相変わらずな三人だったが、凪が手伝ってくれたので相当の量は作れた。
成長期はたくさん食べなきゃ。ちなみに作ったのは中華メイン。八宝菜に手作り餃子にワンタンスープ。ご飯は冷凍おにぎりを解凍して野菜たっぷりいれたチャーハンにして出した。その他まあ色々と。しかし、昔と同じような事を注意しているかな。犬とか犬とか犬とか。
「犬、ちゃんと噛んで食べなさい」
「わかってるら!」
そういっても彼の箸は止まることはないし、無我夢中で口に放り込んでいる。
「千種、ちゃんと栄養とってる?野菜とか食べなきゃ駄目だからね?ホラ、コレも食べて」
「うん」
そうだった、結構ゆっくりじっくり味わって食べる子だったわ。
「天姫、僕は三食しっかり食べていますからね」
「それはよろしい。でも食べながら喋らない。行儀が悪い」
骸、基本は黙って食べることだよ。お前が喋るとたぶんゆっくりご飯食べられないわ。
「なんだか久し振り、こういうの」
「…凪?」
一人、箸が止まっている彼女。おいしくなかっただろうかと、不安になったがまったく違う者だった。
「これが、『家族』…」
感慨深くいう凪。そっか、この子は環境が環境だったから。
わいわい、みんなで食卓を囲む。それが普通でなかったんだよね。
「……凪……」
「ありがとう、天姫」
本当に嬉しそうに瞳を細め、笑顔を浮かべた姿。
私にとって心から笑っている彼女をみたのは今日が初めての日でした。
今日は、一日黒耀センターに閉じ込められた。無論、携帯は没収されたので誰から着信がきたとか、メールなどの類はまったく関知していない事。
まぁ、こんな日もたまにはいいかと思ったのだが。
やっぱり、私の周りには過保護な人間が集中しているようで、のんびりなどはしていられなかった。まず、恭弥が乗り込んできた。血走った瞳全開で今にも殺人を起こしそうな勢いに仰け反りそうになった。
「僕の許可なしにまた、天姫を連れ出すなんて、………覚悟は最初からしてるよね」
骸たちと一悶着し、骸たち用に作っていたお菓子(クッキー)を渡し強制的に帰らせた。
また、今度は沢田君たちが乗り込んできた。沢田君を筆頭に
「骸、言い訳は後で聞くからまずは殴らせて」
などと、いつもの頼りなさげな沢田君が消え去って黒属性沢田様降臨だし。
またもや黒曜戦を彷彿させるような勢いの彼ら。
そんな大事にされてたなんて天姫感激!とか空気読めない私じゃないですよ。逆に焦りますわ。私見たいな小娘一人いなくなったくらいでそんな問題に発展してしまったら、ちょっと旅行行ってきますなんて気軽に言い出せるもんじゃない。
彼らにはすいませんと平謝り(私が悪いわけではないのに!)また、お菓子(クッキー2)を献上し、明日には帰るのでと説き伏せ帰って頂いた。
無論、骸たち用にあげようと思っていたお菓子はすっからかんである。
「取り返しに行きますっ!」
と意気込む骸を叩いて大人しくさせ、杏仁豆腐を作っていたのでそれを皆に振る舞い仲良く食した。夜はあの頃と同じく、みんなで川の字になって寝た。新しい『家族』が加わった初めての夜。私を真ん中にして、みんながピタッとくっついてきて身動きが取れなかった。………私のポジションってお母さんみたいな。まぁ、それもいい嬉しいことだ。
この気持ちはとても心地よいもので、私を満たしてくれるから。……おやすみ、明日もまた元気に生きよう。眠れ、愛しき子供たちよ。君たちの夢路は私が守るから。
(それが私の在り方なのだから)