ジルside
『ディディに逢いたい!』
「ジル様。それは無理だと何度も申した筈です」
さっきからこの会話の繰り返しで疲れた。もうすでに二時間以上このおっさんとバトル状態だ。おっさん=執事みたいな人なんだがおっさんで十分である。
事の発端はここに来て既に十日経っていること。
最初は三日の予定でお泊りのはずだったが一向にディディの姿は現れることはなく、おじい様も仕事で会える機会がほとんどないことだ。
なぜこんなにも延ばされなくてはならないのか?いい加減ディーノのいる家に帰りたい。
暖かく迎えてくれるあのファミリーの家に帰りたい!
手足をじたばたとさせ必死に抗議するが相手に全くダメージは得られない。
「駄目なものは駄目なのです。大人しく勉強をしてください。もうすぐで家庭教師の方がみえますので」
そういい残すとオッサンはすたすたとドアへ向かい出て行った。しっかりと鍵を閉めることも忘れずに。
『あのクソ親父!』
「にゃおん」
声に出すことはできないが教科書など片っ端からドアに投げつけとりあえず部屋はめちゃくちゃになったが、それもすぐにメイド達が現れ何事もなかったように綺麗に元通りにしていく。そんな気遣いいらないからさっさと帰らせろと声をだして思いっきり叫びたかった。気力も体力も奪われその場にしゃがみこんだ。クロが柔らかい毛並みを押し付けてくる。
「にゃ」
『……どうしよう、クロ』
なぜこんなことになってしまったのだろう。理由も聞かせられないまま半監禁状態が続くのだろうか。
クロを胸に抱きそんな絶望感に囚われる。一生このままなのかと。
だがここで諦めるジル様ではない!
誰が大人しくしてられるか!
私はなにか言い案はないかと必死に策を練った。
幼児を舐めるんじゃねぇぞ、何としてでも這い出てでも脱出してやる!
絶対出てやる!だから待ってて、ディディ!
◇◇◇
ボンゴレの総本部つまりジルがここから出ようと奮闘しているその玄関ではある人騒動が勃発していた。本人は半場殴りこみの勢いで駆け込んできたのである。
キャッバローネファミリーのボスディーノとその相手をするのはボンゴレ屈指の精鋭部隊である。
「ふざけんな!なぜジルに会わせてくれない!?ジルをアイツを返せ!」
「できません。九代目のご命令です。キャッバローネのボスには一切ジル様に近づけさせぬようと」
さっきからこの言葉ばかり繰り返しもうディーノは切れ掛かっていた。
「それがおかしいって言ってんだよ!あの人がそんなこと言うはずねぇんだよ!」
「ボス!落ち着けって!」
「黙れ、ロマーリオ!邪魔すんな」
鞭を取り出し、今にも攻撃を仕掛けようとするディーノを慌てて押さえつける部下たち。
だがディーノの部下たちも考えること望みはボスと同じであった。
ジルの笑顔で屋敷のみんなは活力を得ていた。喜怒哀楽の激しい少女。声が出ない代わりに表情で自分たちに訴える幼い子供。いつしかジルがいることが当たり前に慣れてきた。最初こそ、腫れ物を扱うように接していたが、いつの間にかジルのペースに巻き込まれそれが自然であると受け入れるようになった。
ジルはもう皆にとってもファミリーなのだ。
「ボス、俺も参加しますぜ!」
「そうだな。ジルがいない家なんて帰っていても寂しいだけだしな…俺も!」
「そうだ!やってやろうじゃないか!」
懐から武器を取り出し、各自やる気満々の声を上げる部下たち。
高まる闘志は皆に伝染し、ディーノは心打たれたように部下を見つめた。自分だけではなかったのだ。
「…お前等…」
胸に熱いものがこみ上げて来たとき、ポンと肩を叩かれる。
振り返ればロマーリオがさきほどまで止める側とは思えないほど清々しい笑みを浮かべて言った。
「いきますか?ボス」
「……行くしかねぇだろ、おまえら、行くぜ!」
「「「うぉぉ―――!」」」
「ってなわけで、一発おっぱじめようじゃないか」
不敵に微笑むディーノはビシッと鞭で地面を一打ちした。
「貴方は自分がどんなに愚かしいことをしようとしているのが自覚できていないのですか?……馬鹿馬鹿しい。同盟を破棄してまでジル様を手にしようなどと。あの御方は我々ボンゴレの未来を左右される大事なお人。その御方を奪取されようなどと……その跳ね上がった根性きっちりへし折ってさしあげましょう!」
ごきりと指の関節を鳴らしながら精鋭部隊を率いる隊長は冷ややかな視線をディーノに向けた。
一瞬即発の状態、お互いの刃が衝突しようとした瞬間!
バァン!と一発の銃声が皆の意識を奪う。
皆が銃声がした方へ視線を向けると一人の男が空へ拳銃を放っていた。
「そのケンカしばらく俺に預けてくれないか」
「家光さんっ!?」
そう、ボンゴレ門外顧問沢田家光、突然の彼の介入で展開は180度ガラリと変わった。
※※
「本当ですか!?ジルが狙われていると言うのは!」
「ああ。さっきの戦いも仕組まれたことだったんだよ」
長い廊下をお互い全速力で走りながら家光は事の顛末を説明した。
「彼女はお前達が相手したクワイエットファミリーのボス、ドルハッチ・ジョーに身柄を狙われている。ジルがボンゴレにとって重要な柱であることを嗅ぎ取ってな」
「じゃあ!やっぱりあのリングはジルの!?」
情報漏洩。どこから漏れたのかは分からないが奴は人一倍『権力』に固執していると噂で耳にする。アイツの狙いはジルそのもの。
つまりジルが初代ボンゴレに仕えた蒼龍姫と呼ばれた女性の生まれ変わりということなのか?いや、まさか転生というものが本当に存在するのか?
様々な考えが頭をめぐるが答えなど出るわけがない。ディーノは軽く頭を振って目の前の現実に意識を集中させた。
「虚像のリングが再びこの世に現れたらジルはもう普通の少女ではいられない。これからはあの子自身に大きな重圧が圧し掛かる。それにボンゴレの敵にも狙われやすくなるんだ」
「今ジルは!ジルは何処にいるんですか!」
「警備は万全に部屋にいてもらっている。だが、先程敵の侵入経路がみつかったと部下から連絡が入った。………正直に、今は危険な状態だ」
「そんな!?」
どうしてジルが選ばれてしまったのだ。どうか、あの子から笑顔を奪わないでくれとディーノは願わずにはいられなかった。ただジルの無事を祈って息を切らしながら走り続ける。
※
『やった、出られた!』
「にゃ~ん」
ジルは何とか脱出成功することができた。というか人気が感じられなくなった隙をついてドアを開けたら鍵が開いていたのだ。まるで罠を仕掛けらている気分だったが、すぐに逃げられる状況に油断が生まれた。廊下を出た所で見知らぬ者に背後をとられてしまったのだ。
「お嬢さん、待っていましたよ」
「っ!」
声が聞こえたとおもった瞬間背後からぐっと抑えつけられ、湿った布で口元を抑えられる。
ヤバイ!と思った瞬間、ぐらりと視界は斜めになっていき意識を奪われていく。誰かに抱き留められる感覚とクロの威嚇する声。
そこでジルの意識はブラックアウトさせた。