闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的82友との再会

狗楽side

 

わたしがその地に足を踏み入れたのは偶然だった姉の悲願であるノイズを殺すため、その足がかりを探していた。だがそう簡単に尻尾をだすような間抜けな男ではないのでなかなか情報は集まらず苛立ちはピークに達していた。

 

そんな中、とある世界についた。それは死が蔓延したところ。

一人の少女によって引き起こされた現象。彼女と再会したのは偶然だった。

 

くるるんとしたヘアーも再会したくなかった相手をみるとへたり込んでしまうくらいに。

 

もう死んだものと思っていたのにと内心毒づく。

 

できるならば顔合わせなどしたくなかった。なぜなら彼女とは面識がないのだ。いちいち狗楽を演じなければならない。遥か遠い三国の世での知り合いで彼女とは友達といっていいのかなんなのか微妙であやふやな関係だった。

とにかく本来の狗楽にとっては歳近くそれなりに気心しれた関係だったのだろう。彼女に対しては好印象と記録には残されている。灰色の淀んだ世界の中少女は笑った。

手には赤に染まった双剣を手にしていて鈴が転がるような清い音のような声質で挨拶をする。

 

「あら、元気にしてたのね」

「や!輝瑠姫(きるき)。こんなところでまた再会だなんてやっぱりわたしたち仲いいんだねぇ~」

 

記憶に残された狗楽はこんなしゃべり方だったか。本人を演じるのも楽じゃない、と内心ため息の嵐だ。一方、表情ではおどけた道化を演じる。輝瑠姫はそんな心打ちを見透かすかのようにわざと笑う。

 

「…クスッ、ずいぶんと明るくなったこと。まるで別人みたいに」

 

ズバリ、図星を言い当てられた訳だが開き直ればいいこと。

 

「そういうあんたこそまるで壊れたみたいだね人格。自我保ててるんだ、あんなのといっしょにいてさ」

 

あんなの=ノイズのことだ。

わずかに主を愚弄されたことで目の前の少女の眉がピクン反応する。だが表情は壊れない。

ふむふむ、ノイズと一緒にいることで人格汚染でも生じたか。

可哀想に。ただ簡潔に一言考えた。だがそれだけだ。助けるとかなんとかしてあげなくちゃ、なんてものは浮かばない。今のわたしにとって不要な存在。

思いやり、悲しみ人間らしい感情。綺麗さっぱりすっからかんだ。

彼女の足元に転がるのは、ふつうならば考えられないもの。

人間だった残骸だ。肉片と呼びにふさわしいものばかり。正気ある人ならば平然としていることなどありはしない。けど輝瑠姫にとってはふつうのことなのだろう。さっきから微笑みを絶やしてはいない。

 

「お互いが生まれ変わった。その言葉がふさわしいと思いませんこと?でも本当に嬉しいわ。また再び貴女に出会えたんですもの」

「わたしは嬉しいなんて感情は一切ないから。あんたとは会いたくなかったもん」

 

できることなら今すぐ視界から消えてくれたら最高に嬉しいよ。

 

「なんて寂しいこというのかしら、狗楽。貴女、『人形』に成り下がったことで品もどこかに消え失せてしまったようですわよ」

「うるさい、そんなくだらないこと言うためにあんたここにいるわけ?だとしたら病院行くことお勧めするよ、強くね」

「あらあら、貴女こそ病院へ行ったほうがよろしいのでなくて?人格破綻している『姉』共々ね」

 

その一言でわたしの気が膨れ上がる。瞬時に大鎌を出現させる。

 

「軽々しく口にするな。輝瑠姫」

 

わたしの反応を楽しむかのように。輝瑠姫はさらに笑みを深くし口元に描かれた皺も深くなる。反応を返すのがまるで楽しみのように。

 

「子供みたいに癇癪をおこしては成長しなくてよ?まぁ、もっともイカレタ姉妹だもの、そんなところも一緒なのでしょうね」

「黙れよ」

 

紅竜、あの女殺したいよ。ダメかな?

 

紅竜はわたしに待ったをかけた。

相手の挑発にのるのは関心しません、と彼女は助言してくる。

わたしはすかさず言い返した。

 

だって馬鹿にするんだよ。わたしのことそれに天姫のことも。

わたしの存在意義を貶すなんて……。

生かしておけないじゃない、減らず口はおしおきしなくちゃ余計につけあがるだけだもん。

 

「今の狗楽ではわたくしにはかないませんわよ。刃向うだけ損ですわ」

「愚痴愚痴うるさいんだよ反逆者」

 

やってみなきゃわかんないだろ、とそう続けるつもりだった口は以後かなかった。

なぜなら首元には…。

 

「反逆者はあの女ですわ」

 

ギラリと光る双剣があった。輝瑠姫が繰り出している剣はわたしの首元でクロスしちょっとでも動けばギロチン状態だった。

 

(……いつの間に…、)

 

輝瑠姫本人は、俊足の意で狗楽の背後に立っている。

 

「ほら、勝てないでしょう?」

「やかましい」

 

なんかピンチかもしれないが、負けてられるかと口で応戦する。

それと同時に首にわずかにピリッとした痛みが走った。狭まった双剣はミリ単位で皮膚に食い込んだ。

ああ、また揚羽にどやされる。いちいちうるさいんだよね。女の子が傷をつくるもんじゃないって。生きてれば関係ないだろうに。

 

わたしはわたしで、この状況の中物思いにふける。後ろの女も何が可笑しいのか、しきりに一人で笑ってる。少女は狗楽のその姿を恍惚そうに見つめる。

 

「狗楽、力がほしいならノイズ様を頼りなさいな。あの方は全知を司る御方。貴女の悩みを解決してくださるでしょう」

 

わたしの悩み?なんであんたなんかにわかるにさ。それに…

 

「誰があんな変態のとこいくか」

 

死んでも嫌である。あっかんべーと舌を出してやりたいがなんせ体制が体勢。

身動きできない。即答で返された当の本人はあっけにとられたがすぐに回復した。

 

「…『人形』のくせに可愛げのないこと。ならば面白いことを聞かせてあげますわ」

「聞きたくな~い」

「………神崎緋奈という女を探しなさいな。あれは貴方の血縁でもある。そうすればあなたの両親を奪った犯人もわかるでしょう」

「は?何いってんの。親はうちら姉妹を捨てたはず……それに血縁者だって?何意味わかんないこと言ってんの?頭までイカレタわけ?」

「あら、二人だけの姉妹だというのにそんな事も教えてもらえてないのかしら。かわいそうに。貴方たち本当に姉妹?」

「ねーちゃんがわたしに嘘つくわけないじゃん。馬鹿ばっかり言うなよ」

「無知というのは時に恐ろしいですわね。嘆かわしや」

「……さっきからべらべらとやかましんだよっ!」

 

輝瑠姫のスキをみて肘で腹をつきその体制から脱出する。

身を転がしながら戦闘態勢をつくりだす。

 

「おお、怖い怖い、『穢れた死龍の御子』様のお力は本物ですものね?わたくし、あまりに恐ろしいので退散させていただきますわ」

 

袖で口元を隠し、キツネのように目を細めた。

 

「また逢いましょう、狗楽」

「輝瑠姫…」

 

かつて、友ともいえるのかはわからないが彼女は空気に溶けていくかのように透き通って最後には完全に消えた。

あとに残されたわたしは意味深な言葉に考え込んだ。

 

「神崎、緋奈…?ひ、な……ヒ、ナ」

 

緋奈ひなヒナと心の中で連呼した。そうすると何か引っ掛かりが浮き上がってくる。

 

よく考えたら一人の人物が浮かんできた。口やかましい過保護な義兄、曹揚羽。

彼のばーばの名前ではないか。本人に会ったことはまったくない。

しかし、その話だけはじーじから結構聞かされていた。当時、姉との関係がぎくしゃくしていた中、じーじが私たち姉妹が本当は異世界からきたのではないかと聞いてきたのだ。

昔、じーじに聞いたことがある。じーじの奥さんはヒナって呼ばれてたって。

出自は不明、年齢もあいまいでただ彼女が時たま口にしていたのは『異世界』『神』そして自分を『龍姫』と名乗っていたとも。

 

それは『龍』』の対である証。龍姫はねーちゃんとわたししかいないはず。

そのはずなのになぜ神崎緋奈はその言葉を知っている。なぜ彼女が名乗っているのだ。しかもまだ引っかかることがある。

 

ねーちゃんが偶然落ちた、あの世界。そこには初代『蒼龍姫』なる者が存在していた。まるで、その世界にこそあるべき者であるように。

 

おかしくないか?なぜ、二つの異なる世界で同じ呼び名、同じ存在が伝えられているんだ。まるでそうあるように、最初から設定されているようではないか。仕組まれた?

 

結論から言おう。

 

ありえない、これがわたしの答えだ。

なぜなら龍姫を名乗る者は自分の龍が存在することになる。半身ともいえる存在。わたしたち、『龍姫』にとって彼らはなくてはならない大切なパートナーだ。

これが果たしてただの偶然だろうか?……いいや、きっと違う。ゆうこの口癖にようにこれは【必然】なのだ。

 

ねーちゃんとわたしがその名前で呼ばれるようになったのはこの三国の世に定着してかr。あその以前に、すでに『龍姫』は存在していたのならばわたしたち以外に神男との契約を結んだ者がいる事実になる。異世界を渡る能力を与えられ、世界のバランスを保つ契約者。

アイツ、今まで黙ってやがったんのか。ぎりっと怒りで思わず奥歯が鳴る。

 

『神』というキーワードに当てはまるのは、知り合いの中で一人しか思い当たらない。

神の権力を思うままに操る究極のおバカ。

神男。姉を引き込んだ張本人。わたしたちを利用している男。

アイツの真意はいつもあやふやでまるで芯がない。

いつも飄々としているくせに、いざとなったら動きだす妙な神。もしかして本当に血縁者なのか。だとしたらなんでねーちゃんは何も教えてくれないんだ?

いやいや、もしかして知らない可能性もある。だったら話してくれないことも理由がつく。

 

「あー!もうイライラするっ」

 

いくら考えたところで解決する問題でもない。ならば進むのみだ。

 

「まずはしめあげるか!」

 

わたしはその世界を後にした。むろん一国も早くアイツに問いただすために。謎は少しづつ増えてゆく。

 

でも着実に一歩ずつひも解かれていくのだ。本当の真実を。

そして目の当りにするのだ信じがたい現実を。ある男はずっと待ち焦がれていた。

 

この手に掌握するその瞬間を。『蒼龍姫』彼女は至高の宝なのだから。

 

(そして最高の供物でもある)

 

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