天姫side
不可思議な夢をみた。翼をもった少年と私は出会うという、なんともメルヘンチックな夢を。何もない大草原に気が付けば私は佇んでいて普段からの夢の中なら骸や凪がいるはずだ。でも二人の姿はどこにもなかった。でも変わりに現れたのは…胡散臭い笑顔を張り付けた少年。第一印象=キツネ。少年はフレンドリーに私にあいさつをしてきた。
「ハロー。元気にしてた?」
「……誰…」
「ひどいな、僕を忘ちゃうなんてさ♪」
「…初対面の人間に何言われても全然感じませんけど」
「…初対面、か。…僕は、一度たりとて君を忘れたことはなかったよ。ずっと」
「……悪いけど私は貴方を知らないわ。記憶にないもの」
「……そうだろうね、だって僕たちが知り合うのはほんの先、『未来』でなんだから」
「未来?何のことを言って」
「待ってるよ、先の世で。覚えておいて。僕の名は……白蘭、だよ」
「白蘭(びゃくらん)?」
「そう、白蘭」
白蘭、何回も頭の中で繰り返し覚える。
「君に会えたら聞いておきたいと思ってたんだ、ねぇ、聞いていい?」
「………」
「現代での君ってフリーなのかな?それとも『未来での君みたいにもう誰かのものになってる』の?」
まだいいとも言っていないのだが彼には無言が了承したと思われたらしい。
ぐいぐいと顔を近づけ迫ってくるあたり普段から積極的な性格なのか。あくまで推測の域ではあるが。
「不躾な質問ね。だいたい、私はモノになったつもりはない」
厚かましいにもほどがある。
「ふーん。じゃあ僕にもチャンスはあるんだね。」
「は?」
目が点になった。何のチャンス?宝くじでもするつもりなのか。
「君を、もらうってことさ」
耳に吐息まじりのセリフ。うぅ、一瞬で背筋が寒くなってしまった。
言い返そうとしたが、視界はそこでストップ。真っ黒。
そして次に視界が開けた時、私は…
「…………朝かよ…」
ぼやけた頭で朝の香りを感じました。食欲の秋ですなぁ。
アップルパイとかアップルパイとかアップルパイとか。そればっかじゃんって思うよね?
でも食べたい欲求はどうしようもないからね。がまんすればするほど、ストレスは溜まりまくる。
今度、ひつじに肉まんとアップルパイを大量に作ってもらおうかな。催促の手紙でもだしとこう。あっれ?そういえば、今は秋だ。それなのに、庭をさっき覗いたらなぜか大きな笹が地面につっさしていた。なんでやねん。思わず大阪弁でつっこむほどだ。
なんで秋に七夕やんなきゃなんない訳?
グォングォングォン!
「だからね、ゴーラちゃん。季節はもうとっくに秋なんだよ。秋に浴衣はないってさっきから言ってるのに」
クソ寒いつーのに、なぜか浴衣を着る事を強要されている。
ゴーラちゃんが差し出してくる
綺麗な菖蒲が描かれた模様の浴衣。
それはおかしいとゴーラちゃんに突っ込むでも、珍しく彼は頑なに着てくれと渡してくる。
どうしてそこまでゴーラちゃんが必至になるのな、私には謎だった。
シロに視線を向けてみれば、のんきに毛づくろいなんかしちゃってる。
おまえののんきさを少しでも私に分けてほしいよ。
何かの用事で来たのかは知らないが、彼からの言葉。
いつもと同じくカッコよく決まっている赤ん坊らしからぬ赤ん坊。
「神男から聞いてないのか?」
どうやらリボーンは神男と交流があるらしく、しょっちゅう、というほどではないがたびたび彼の口から神男の話題を聞くことがある。
情報交換でもしているらしい。その内容はあんまり教えてはくれないけど。
「何を?アイツからは事後報告はあっても事前報告は一切しない究極のめんどくさがり男だからね」
小さなヒットマンが私に教えてくれたのは…
「お前が七夕やる機会逃したから季節を一日だけ夏にしてやると言っていたぞ」
「またかよっ!?」
アイツの唐突の思い付きはまたもやってきたとは。
「なんだ、嫌なのか?」
彼からは意外だといわんばかりに驚かれた。
「嫌とかそういうことの前にもっと大切なことあるでしょ。だから神バワー職権乱用するなっての!?季節遡ってどうするよ!?」
「いいじゃねぇか。せっかくのイベントなんだ。みんなも喜ぶだろう」
「いや、秋に七夕しますって、言ったところで人が集まると思う?秋だよ、秋」
さっきから私は何回、『秋』という言葉を連呼しただろう。
「お前が参加するなら、全員喜んでくると思うぜ。お前にその気がなかろうと強制参加させるけどな」
鬼!そうか、わかったぞ。
素直でいい子なゴーラちゃんがあんなに必至になるなんて、おかしいと思ったんだよ。
まさか、リボーンに脅されていたんなんて…
ショックだわ。
「リボーン、そんなに七夕をしたかったら私を巻き込まないで。私に願い事なんか必要ないわ」
今まで願ってかなったためしがなかった。私は自分の力しか信じない。神頼みなんてもってのほかだし誰かに頼むのもごめんだ。人に恩を売っておくのはいい。それをだしにして利用すればいい。いくらでも知恵なり力なり差し出そう。だがその反対はだめだ。なぜなら私にメリットがない。私自身に有利に運ばないことならば、わざわざ人助けする理由など皆無。正義感なんてものは私には存在していないし、赤の他人など知らない。
私の願いは願いで収まるほどのものではない。必ず成し遂げる。それは奴をこの手で殺す。
私から大切な者を奪った報いを受けさせてやる。後悔するよりも恐ろしい罰を下してやる。
たとえ、それが相討ちになろうと心の奥底で温めてきた復讐心が私を追い立てる。
でも彼の一言で私の決意は亀裂が入ってしまった。
「天姫。ゴーラ解体するぞ」
「喜んで参加させていただきますぅー!」
クソッ!見たぞ、決定的瞬間をこの目に焼き付けた。
私がひらりと意見を覆した途端、彼、リボーンはほくそ笑みやがった。
やっぱりゴーラちゃん脅していやがった。なんて悪な存在でしょうか!?
赤ん坊のくせして中身すんごい腹黒いわ。淀んでるくらいに真っ黒黒。
うぅ。ごめんね?ゴーラちゃん。神男のアホのせいで迷惑をかけてしまって…縋り付いて泣く寸前の私に
グォングォングォン……
彼はなぜか抱っこして慰めてくれました。
ちょっと、複雑でした。
ゴーラちゃん、私は子供じゃないよ?
なんとなく言葉にするのは、ためらわれたので視線で訴えたがまったく、伝わらなかった。
※
そして秋の七夕会始まりでーす。七夕会なんて大げさなもんでもなく、神男が行うのは空間を捻じ曲げて沢田家の庭から夜空を眺めてあー綺麗だねー、っていうだけなんだけど。もう投げやりだわ、私。
無理やりセットアップされた髪とか着付けされた浴衣に下駄。これで庭にでるのは寒いかななんて思ったけど、気温も変化させているようでそれほど寒いと感じることもなかった。
「「天姫ちゃん!」」
「京子、ハル。二人も来たんだ」
さすがばっちし決まってます。女の子ならやっぱりおしゃれせんとね。
二人とも可愛いでげすな、げへっ。
おっと、言葉がおかしくなってしまった。
二人とも可愛いですな、でした。
「うん、だって天姫ちゃんが参加するっておにーちゃんから聞いたから」
「ハルもツナさんから無理やり聞き出しました!」
……一瞬ハルの言葉に違和感を感じてしまったが気のせいだろうと自分に言い聞かせる。
あまりにも可愛いので幻聴が聞こえてしまったのだろう。そう思うことにした。
「天姫!最高に似合っています!」
「だから骸、人の腰に抱き着くのはやめろって何回言えばわかるの」
華麗にジャキッとトンファ―装備する恭弥。
「そこのパイナップル、おとなしくパイナップル星に帰れ。天姫に抱き着くなんて一億光年早いから」
「骸さまの髪型今度は殿様風にしてみたよ。ねぇ、天姫?面白い?」
凪よ、貴女の力は遊ぶためにあるんじゃないよ。
「凪?人の髪の毛で遊ぶのはダメだからね?面白くてもダメだから」
「うぅ」
どうして静かにしてられないのか、こいつらは…腰元の奴はこのさいスルーしておこう。
全然自分の上部が変化したことなど気にしていないのか、それとも人の腰に引っ付くことだけに必死なのかしらんが、骸はすんごく嬉しそうだ。
本人が幸せなら別にいいか。それにしても、ああ、頭痛くなってきた。
眉間あたりをぐりぐりしていたら、隼人が傍に寄ってきた。
「おまえ、体調とか悪いのか?」
「はっ?なんで。別に普通だけど」
「…いや、別に平気ならいいんだけど、よ…」
「……心配かけたんならごめんね?ホントになんともないから。」
原因といえばこの腰ぎんちゃくだから。
「…ならいいけどよ…」
女の子組は浴衣に着替えて、男子組は奈々ママお手製お菓子を食べながらのんびりと
みんなで星空を眺めた。
なんかみんなで一緒にいると、いいなぁって思えた。
冷え切った心にあったかいお湯が注ぎ込まれていくみたいに。
でも、やっぱり私にはほっとすることなんて許されていなかった。
罰は必ずやってくる。必ず。
それは、京子とハルを家まで送っていく隼人と武を見送り、最後まで犬猿状態だった骸と恭弥を一発はたいて強制的におとなしく(沈黙させ)骸は面倒見のいい犬に担いでもらって千種と凪を送り出した。恭弥は目が覚めたら送ろうかなと思ったので部屋に運んでもらった。その最中、沢田君が少し青ざめた顔で
「天姫って時々容赦ないよね」
「は?」
という会話があったりした。お風呂から上がって恭弥の様子を見に行ったらちょうど私の愛の一発から目が覚めたようで寝ぼけ眼で彼は言いました。
「…………天姫、だ」
「いや、私ですけど。私じゃなかったらなんですかい」
濡れた髪をタオルでわしゃわしゃしながら、彼の前に座る。
今の私はラフな格好で上は肩までのタンクトップにカーティガンにゆるゆるのズボンをはいた状態です。
「恭弥、もう夜も遅いし泊まってく?奈々ママが恭弥のお布団用意してくれたから」
「…うん…」
なんかとろんとした目だし、顔全体も赤いし、
風でもひいちゃったか?
彼のおでこに手を当てて熱をはかってみる。
「…熱は……微妙なような…なんとなく熱いような……」
「…………ん……」
ぼうっとしたままの彼はまるで夢心地に浸っているようななんとも可愛いい表情をしていました。するりと彼の手が私の頬を撫でる。ゆっくりと壊れ物を扱うかのように。
丁寧に、でも確実に、私に近づいてくる。彼と私の距離が少しづつ縮んでいく。
それに合わせて、彼の早鐘のように打っている心臓の音も聞こえてくるようだ。
猫が主人に甘えるかのように喉をごろごろと鳴らすかのように
甘くてとろっとした音を出す。
「ねぇ」
「ん?」
「欲しいんだけど」
何を、とは聞かないし、答えることもない。
だって、わかりきっている。だから彼は待っているのだ。
「恭弥君は何が欲しいのかな?」
「意地悪だね」
いつもよりワントーン声を低くし彼の様子をうかがう。無論、わざとだ。
「言わなきゃわからないじゃない。それともそのお口はただの飾りかな」
「飾りがどうか、確かめてみるかい」
だって面白い。反応も私に対するこの悦に陥った彼の表情も。
ただ私に甘えてくる姿が可愛くて、そこには違う愛情が湧き上がっていた。
「それも一興だね」
「…………」
そろっと恭弥の男にしては長い瞼が閉じられる。
私は目を細めたまま、彼へと徐々に近づき、
互いの吐息が感じられる位置まできた。後は彼のその唇に噛みつくだけ、彼もそれを望んでいる。それだけだった。
だが、ぞくっと背筋が、凍り付いた。
この私が。寒気を覚えた。
私に少しでも危機感を与える何かが近くにいる。
本能が訴えるのだ。
彼奴は誰だ、と。
「っ!?」
一つの気配を感じた。
それはとてつもなく禍々しいもので徐々にこの場所に来ているものだった。
「………、天姫…?」
訝しんだ彼は、私の様子をうかがってくる。
名を呼ばれるが、私はその近づきつつある気配に恐怖を感じた。
これは、アイツと同じもので、でも負の重さがビシビシと体全体に伝わってくる。
この息苦しさを与える者は誰だ。
この私に威圧感を与える、無礼者は誰だ。
さっきまでの一瞬の恐怖をいうものが私にとって許されないほど屈辱的に感じた。
「……ホントにどうしたの?」
恭弥の手が私の肩に触れる直前、私は無言のまま立ち上がり、部屋を出る。
「天姫っ!?」
呼び止められる声など一切聞こえてはいなかった。
玄関を飛び出し、敵の姿を感覚で捉える。
「……出てこい、無礼者が」
眼前に広がるのは夜の街並み。
しかし、そこには夜だけが潜んでいるわけではなかった。
どろどろとしたものがグチョグチョと出現し、それは徐々に人の形を成していく。
そして、最後の原型が成したとき、私の思考は動かなくなってしまった。
だって、あるはずがない。
彼女は人間であったのだ。こんな悍ましい気配に満ちたものではなかった。
私が逃げ捨ててしまった世界
彼の愛した世界、三国の世。
そこで私は彼女を、傷つけてしまった
大切な人を奪ったという罪であの頃の彼女はいつもにこにこしていた。
ほんわかとした雰囲気が
今は、まがったものへと変化している。
「お久しゅうございますわぁ?姫様ぁ」
三国の世で狗楽の世話係をしていた女官。劉牙の妹である、朱論。
「朱論…!?」
「わたしを覚えていますかぁ?姫様。昔、わたしは貴女に憧れておりましたの。
貴女の気品あふれる御姿、ひきつけられるその瞳。誰もがひれ伏してしまう天をも味方とされる大器ある貴女。どれもが完璧で完璧すぎてわたしは、…兄様にはもったいないお方と考えておりました。もっと兄様にはそれ相応のお方がおられるのではないかと、貴女はあまりにも天に近い方。それ故に恐ろしくもあった。いずれ兄様まで手の届かない場所までゆかれていくのではないかと危惧していました。それが……貴様のせいでやはり予期していたことが現実となってしまった」
呪いの言葉のように朱論は続ける。
ギッ!と血走った瞳でひたすらに私を睨み付け呪言ともとれる言葉をひたすらに朱論は言う。
「憎い、憎い憎い憎い憎い!神崎天姫、お前のせいで、お前のせいで兄様は……死んだ…!!かわいそうな兄様痛みに悶えながら苦しみにまみれながら死に伏し信じていた愛しい貴様に殺されようなどと。………悔しい……悔しいぃぃいいい!お前さえお前さえぇぇぇ―――!わたしたちの世界に現れなければぁぁあああああ――――!」
「朱論!」
今までの積み積もった感情が一気に爆発する。
どれだけ貴様をこの手で仕留めたかったか!どれだけこのときを待っていたか、と彼女の口が音をだすことなく形づく。
高速移動で朱論の動きはあっという間に私の前に現れる。彼女は武器を手にしてはいない。なぜなら彼女自身が武器であるのだから。
劉牙に叩き込まれた武術はあの頃よりも半端ないほどの高レベルなものへと進化していてそれを苦労して何とか直撃を避けるくらいにしか応対できない。余裕がないのだ、私に。
これほどまで自分の戦闘能力が落ちていた事実に対してショックなことはない。
それを再度に叩き込むかのように朱論が咆えた。
「今の貴様では、わたしにかなわぬ!」
「朱論やめろっ!」
どれだけ静止をかけても彼女は絶対止まることはない。むしろ加速する一方だった。
「いつも夢見ていた、貴様をこの手で殺すことをなぁぁああ―――――――!」
「朱論!」
「脇が甘い!」
「え!ぐっ!?」
ダンッ!と勢いよく地面に叩き付けられ、体全体を強打する。
「がはっ!」
その隙を狙い朱論は馬乗りの状態となり彼女の手が私の首に絞めにかかる。
絞めるという生易しい表現では現せない。縊り殺すだ。
確実に苦しみを与えながら、それをまじかで確認するために。
「貴様のような殺戮者が…なぜ生きている!?なぜ兄様は死なねばならなかった!貴様が死ねばよかったのだ貴様が兄様の代わりに死ねばよかったのだぁぁああ――――!」
血走った瞳で、血管が浮き上がるほどの腕力で締め上げてくる。
「ぁぁあ――――!」
「天姫!」
ツナや恭弥、リボーンが私を助けようとするが朱論の力によってさえぎられてしまう。
身動きをとられた皆。そこへまさかの人物が乱入してきた。涼やかな彼女の声。
「そこまでですわよ」
一陣の風が私と朱論の間を駆ける。
「なっ!」
朱論があわてて私から退き、途端に圧迫感から解放され酸素が一気になだれ込む。
「けほっ、かはぁあ…はぁはっ……?」
息が落ち着く間もなく私はその人物の方を見た。私の友の姿を。
劉牙のもう一人の妹であり、朱論の異母姉妹である燐華だった。
「主君に手をあげるなど臣下の身にあるまじき行為ですわよ、朱論」
自身の妹である朱論を厳しい瞳で見つめるいつでも戦えるよう構えている。朱論はゆらりと立ち上がり、憎悪を含んだ瞳で燐華を睨む。
「………どこまでもぉウザイ、ウザイわァ、ねぇ、姉さまぁ?」
「どうして邪魔をするのぉ?こいつの所為で兄様は死んでしまったのよ?生きている価値などありはしないのにィ?」
「黙りなさい、朱論。アレはあやつの策だったとなぜわからないのっ!!目を覚ましなさい」
「……いつもいつもいつもいつもいつもいつも!そうやって上から押し付ける。わたしはそんなあんたが大嫌いだった……血の繋がりなど、微々たるものだというのに、姉面しおって!所詮、女狐の娘のくせして、男に媚びることしか能がないのだろうぉ!?あの汚れた母親ともども!」
「っ朱論、お前……!?」
ここまで豹変してしまったとしても、家族である燐華にここまでいうのは許せなかった。
だが、燐華は私のように怒ってはいなかった。
むしろ涼しい余裕に満ち溢れた表情をしていた。
「何とでも言いなさい。ですが、自分が言った言葉に責任を持つのですよ?わたくしは姫様ほど己の妹に情けをかけることはありません。たとえ、わたくしの手によって、お前が死に至ることがあろうとも…」
覚悟なさい、と燐華の並々ならぬ殺気に気圧されるように朱論は顔をゆがめた。その表情には一筋の汗が滴り下りていく。
「…燐華……どうして…」
「燐華さんっ!」
見知った沢田君が声を上げる。どうやら燐華の出現によりみんなを拘束していたものが消えたようだ。私を守るかのように、朱論の前に立つ。劣戦と判断したのか朱論は
「チっ、次、こそは!」
舌打ちをしまた闇の中へと消えていった。私は展開の早さに思考がついていけていなかった。ただ燐華がどうして突然いや運よくこの場所に来たのか。彼女に問いかけようとした言葉は
「燐華、どうし」
燐華のとった行動によってさえぎられた。
「我が、愚妹の大罪どうかお許しくださいませ。アレはすでにあやつの術にて自我を囚われているのです」
燐華がいうあやつというのは、私を戦慄へと導いた。
彼女は私の前で膝をつき頭を垂れ彼女の簪がシャランと音を鳴らす。
わたしはただ呆然と彼女の行動を見下ろすしかできなかった。
「これより、わたくし、燐華はいかなるときも御前を離れることなく貴女様をお守りいたします。亡き兄に変わり貴女の盾となり剣となり貴女をお支えいたします」
「……燐華……」
そう、彼女の名を呼ぶことしかできなかった。本当はもっと言いたいことがたくさんある。
「これはもう決めたことにございます。いくら姫様といえど反論は許しませんわ」
「燐華、……」
いったい、どうしてそんなに切羽詰まった顔をしてるのさ。
燐華は一瞬言い淀んだが真剣な表情で私を見上た。
「事は一刻を争います。姫様。……蒼龍を取り戻すのです」
「蒼龍を?」
「今の姫様は不完全であり、あの闇の部分にいつまた襲われるやもしれません。そうなる前に分離してしまった蒼龍を探し出しその身に再び宿さなければ……御身にかかわることにございます」
淡々と言う彼女。それが不自然でたまらない。
「燐華、何かあったでしょう」
「………どうか、気を強く御持ちください。凍翆様率いる、軍が襲撃を受け、壊滅状態に陥ったのです」
「…嘘、じーじが……それで、容体は!?」
「陸遜殿が駆けつけ、一命は取り留めました。ですが…その襲撃を命令したのが………」
「誰なの、じーじを手にかけようとしたのは!!言いなさいっ、燐華!?」
「魏軍が将、…『戯減王』軍にございます」
『戯滅王』……それって、それって……。鈍器で頭を殴られた衝撃だった。
己を立たせていられなくなる。足がガクガクとふらつき、しまいには腰にまで力が入らなくなり、その場にへ垂れこむ。
「天姫っ!?」
「天姫、しっかりして…」
恭弥とツナが私を支えようとする。けど、私はそれにすらすがることができなかった。
「誰なんだ、その戯滅王ってのは…?」
リボーンの問いに燐華は、ためらいながらもその言葉をいう。
あってはならない現実を、真実をいうために。
群青色の瞳に私の姿が映る。情けないみじめな女の姿を。
「姫様、いいえ、天姫様並びに狗楽様の育ての親である、養父。曹 影動様にございます」
「ちちお、や?」
「天姫、しっかりしろ!?」
パパ、がじーじに襲撃を?
あってほしくなかった。やっぱり私は世界から嫌われた存在なのだ。
親に捨てられた私は世界からも捨てられる、なんと事実こそ残酷なものはないだろう。
私の存在がついに親子の縁さえも断ち切ってしまうなんて…
三国から逃げてしまった、私の罰だろうか。
大切なものがゆっくりと音を立てて崩れていくのを私は止めようがなかったのだ。
(崩壊はすでに始まっていたのだ)