雲雀恭弥side
まさかあのパイナポーまでいるなんて聞いてなかったよ。赤ん坊から
「天姫の浴衣姿見られるぜ」
との電話がかかってきたとき、真っ先に『場所はどこ?』と尋ねていた。
電話越しにその場所を聞いたときはちょっと、顔をしかめてしまった。なんせ、あの小動物の家なのだから。普段の僕ならわざわざ群れてる場所に向かうなんてことはまったくない。でも天姫の居候先でもあるから半分はウキウキで天姫がいるから僕も行くんだ。じゃなきゃ行く理由もないしね。
天姫の浴衣姿なんてあの幼児の格好の時以来だったからどんなに綺麗な彼女になるかなんて予想もできなかった。
けどそれと同時に彼女に群がるあの草食動物たちも一瞬だけ頭の片隅に浮かんだ。
天姫は誰にでも優しいから、嫌な顔は一切せずにされるがままだろうと。
僕が守らなきゃ。そう確固たる思いが僕を突き動かす。
特にあの六道 骸……。あいつとの決着はいまだについていない。
一回、アイツと決闘したいのだが、天姫がそういうくだらないことが嫌いみたいで、喧嘩という言葉も耳にしただけで、さっきまで女神のように微笑んでいた表情はあっという間に急降下し、冷徹な女王へと変化する。
簡単に言うなら機嫌がすんごく悪くなる。めまぐるしく変わる彼女。
「天姫!最高に似合っています!」
「だから骸、人の腰に抱き着くのはやめろって何回言えばわかるの」
ジャキッ!
「そこのパイナップル、おとなしくパイナップル星に帰れ。天姫に抱き着くなんて一億光年早いから」
「骸さまの髪型、今度は殿様風にしてみたよ。ねぇ、天姫?面白い?」
「凪?人の髪の毛で遊ぶのはダメだからね?面白くてもダメだから」
「うぅ」
天姫は駄目っていってるけど、僕はなかなかイケてると思ったよ、髪型。
もちろん、あのパイナポー限定でだよ。
それに途中までは良かった
群れてるやつは無性に噛み殺したくなるけど、天姫の手前、それは僕の中でご法度になっている。見えないところでならいいみたいだけど、天姫が大切にしているものに手をかけたらたぶん、僕は生きてはいない。
言葉の意味は様々だけど僕にはこれだけで十分。それから僕には記憶がない。
痛恨の一撃を頭部に受け、一気に視界は真っ黒な世界へ。あ、れ……。ここは……
確か、アイツと面と向かってそれなりにいい手応えがあったはずなのにいきなり天姫が乱入してきて
「もう……ヤメロ」と、怒られた。
そして、ゴツン。ブラックアウト。まだずきりと後頭部が痛かった。
手加減一切してこないあたり相当怒ってたかな。僕の中でそれは不安に変わった。
怒っているなら僕のことを嫌いになるんじゃないかって。どうしよう……。
僕は天姫を怒らせてばかりいる。ああ、愛想つかされてないかな。
僕が全然気に障ることばかりするからもう相手にされないなんて事があったりしたら………もうこれ以上考えたくない。それ以上の恐怖は味わいたくないよ。でもそんなもの一気に吹き飛んだ。だって、彼女が来てくれた。
世界中の人間が虜となってしまうほどの妖艶さを身にまとって。
濡れたままの黒い髪から水滴がぽとぽとと滴りおち、お風呂上りの肌が色気づいている。
緩めのタンクトップから胸の谷間が見え隠れし、真っ白な雪のような白さを目立たせる。
口紅なんかしていないはずなのに、彼女のぷるるんとして吸いつきたくなるほどの見た目。
こんなに艶やかな天姫ってまじかにみられるなんて、幻じゃないよね?
本当に彼女なのか、それとも僕の願望が生み出したものなのか。
僕は恐れも知らずに彼女の名前を口にしていた。
「…………天姫、だ」
「いや、私ですよ?私じゃなかったらなんですかい」
僕らしからぬ発言だったと後から後悔したものだよ。でもその時の僕は正気ではなかった。
ううん、『正気でいられなかった』と言い直すよ。その時の僕は錯乱状態に陥っていた。
「恭弥、もう夜も遅いし泊まってく?奈々ママが恭弥のお布団用意してくれたから」
「…うん…」
ただのその声を聴いていたくて相槌を打っていた僕。
僕に向かってさしのばされた手はじかに僕の肌に触れた。
「…熱は……微妙なような…なんとなく熱いような……」
「…………ん……」
彼女の声が僕に浸透していく。じんわりと、でも確実に。僕の本能が叫ぶ。
「ねぇ」
「ん?」
「欲しいんだけど」
もう、待てないよ。僕からねだった、のかな。そう、ねだった。
本当はしてもらいたい。彼女に喰らいつくされたい、僕のすべてを、さ。
さっきから、鼓動は張り裂けんばかりに彼女を求めている。
はやく、僕を…って。
「恭弥君は何が欲しいのかな?」
「意地悪だね」
僕の内心を見透かすかのように、天姫は目を細め、唇をペロリと舐めた。
その一瞬の行為さえ、ぞくりと感じてしまった。
「言わなきゃわからないじゃない。それともそのお口はただの飾りかな」
「飾りがどうか、確かめてみるかい」
僕の目を見据えたまま、彼女は僕の望みの言葉を言った。
「それも一興だね」
「…………」
僕は目を完全に閉じた。
だって彼女をずっと見つめることなんかできやしない。
本当に僕自身の心臓がもたない。
今でさえもバクバクしているのに。
ああ、天姫の湯上りのほのかな匂いが鼻腔を掠める。
近いものすごく近い。すぐだ、彼女はすぐ近くにいる。
はやく、はやく、はやく
僕をしびれさせて僕をその甘さで満たして
ずっと、君に支配されたいから
君の毒は速効性で僕の動きを狂わせる
それでも僕はやめられないやめることはできない
(『それ』が当たり前のことと慣れ過ぎた僕だから)
※
沢田綱吉side
俺はまだ背筋が震えていた。その理由は、
「しかし、さっきの天姫怖かったな」
「おまえ、アレくらいでビビッてたら立派なマフィアのボスになれねーぞ」
「リボーン、無茶言うなよ…」
そう、天姫の事。
七夕の最中(秋だけどね……)の骸とヒバリさんの喧嘩が勃発したんだ。
その原因は、天姫の腰にしがみ付くまくっていたから。俺も殺意沸いていた。
他のみんなもそうなんじゃないかな。
さて、この二人が本格的な斬りあいになり、まじで死傷者出ちゃうよな状態になりかけいた時。誰かが二人の間に入った。素早くて目が追い付けないほどの動きで。
ホント瞬きの出来事。トンファーと三叉槍が交差する手前で、
「もう……ヤメロ」
冷たい殺意を放ちながら、ガシッと、素手で止めた。二人の武器を。あのたおやかな手で。
俺でさえ死ぬ気状態でかつ極限にならないとあの二人と闘うことなどできはしないのに、何も装備も武器も持っていない完全に素の天姫がいとも簡単に行ってしまったのだ。
しかも、本人いわくあれは子供ケンカと同じレベルみたいで、俺の言葉など全然理解していなかった。やっぱり、天姫はすごい。いろんな意味で最強だと再認識させられた。あの時は、そう思った。皆で楽しく七夕をした、その夜の時までは。
二階の自室のベットで横になっていた俺。リボーンは赤ん坊だからすぐに寝入ってしまったけど。その七夕が終わって皆がそれぞれと引き上げ二時間後のこと。
突然、家の中の空気が凍結。俺の背筋に冷たい氷塊が流れ落ちた。
「なんだ…これ……っ!」
恐怖に身を引きはがされそうになったが、天姫の顔が浮かぶ。
―――天姫?!
俺は布団を跳ねのけ、階段を駆け下り靴も履かずに外へ飛び出た。
そして、そこにいたのは……。少女が一人いて。天姫を馬乗りにして、首を絞めていた。いや締めるなんて生易しいものじゃない。縊り殺す。
ヒバリさんも天姫を助けようとしていたけどうごめく何かに体の自由を奪われ、助けに行くことができずにいた。俺はすぐさまに天姫のところに行って少女の腕をのけてやりたかった。だけど、
「くっ!?なんだよ、これ!」
「落ち着きやがれ、馬鹿ツナが!」
「でも、天姫が!」
リボーンに一喝されても俺は冷静になることもできなかったし助けることもできなかった。
俺はただ、部外者になるしかなかった。
天姫が人に恨まれてるなんて、だと思った。けど、血走った瞳でただ天姫に恨み言をくちばしるあの少女。あの子には恨みだけじゃなくてどうしようもない深い悲しみが感じられたんだ。その時、一陣の風が駆け抜けた。そう……
「燐華さんっ!」
天姫にとって大切な人がなぜこの場所にいるのかその理由がわからなかった。
そして天姫にだけわかるように何か話していた。
そして、何事かを彼女の口からきいた天姫は呆然とし床にへたり込んでしまっていた。
天姫には真実ととらえたくない事情を聞かされたんだと思う。
俺が聞きとれたのは、おじいさんが誰かに襲われたということ。その襲ったのは、そのおじいさんの息子。
天姫の育ての親。育ての親とお祖父さんが荒そうだなんて。
彼女が放心するのも無理はない。ちょっと、前のザンザスと九代目のように親子でいがみ合うなんてなんて悲しいことだろうか。悲しい、俺がそう感じてしまうこと以上に天姫はもっと違う、もっと絶望的な苦しみの中にいるんだ。俺は天姫に何をしてあげられるだろう。
この手でいったい君に何をあげられる?
震える彼女の手にためらいながらも俺はそっと自分の手を重ねた。
(こうして手をつなぐくらいしか馬鹿な俺は思いつかなかったから)