今日、狗楽はとある用事でとあるお店に来ていました。
神男の顔はしばらく見たくない心境でした。むかつくからです。
狗楽が目覚めた、懐かしき場所でもありました。
まるで永い間、実家に帰ってきていなかった子供のように気軽に庭に侵入しました。
玄関からではなく庭からなのが狗楽らしい。
「おひさ~?」
片手をあげ目の前にいる少年にあいさつをします。
気軽すぎますが、本人にしてみれば、最大限に自分を出しています。
狗楽となった自分を。
少年は狗楽が訪問してくることに気が付いていました。
その様子は驚くこともなく、逆に喜ぶこともなく彼らしいあいさつ。
「…くーちゃん、久しぶりだね。元気にしてた?」
眼鏡をかけていた少年は、前に身につけていた学生服から和服を身につけていました。
それはあの魔女が普段から身に着けていたものでした。
魔女はどこかに出かけてしまいました。
ですが
昔から変わらずに少年はお店にいました。
少年は魔女を待ち続けお店に残っていたのです。
時がたとうと、魔女に会えるのを信じて。
「元気、元気。バリバリ元気」
「そっか、よかったね」
狗楽はお土産に持ってきた、ひつじお手製の『肉まん』と『アップルパイ』の入った紙袋を手渡しました。
少年はそれを受け取り苦笑しました。
「肉まんとアップルパイ……どっちもアンバランスな組み合わせだね」
確かに、なんとも妙に思えてしまします。
ですがこれは、彼女が好きなものなのです。
少年も彼女のことは知っているので、この両方をおいしそうに口に運ぶ姿が目に浮かびます。
「ねーちゃんが大好きだからさ、二つとも。なんか大量に作ったみたいだからくすねてきた」
食い物の恨みはおそろしいと昔からいいます。
少年は狗楽の姉をよく知っていました。
面識もありました。彼女本人は知らないことかもしれませんが。
彼女の印象は少年にとってこう表現できます。
彼女は強靭な盾に四方八方を囲み、彼女自身も強く凛々し存在。
どんなに屈強な男たちが武器を片手に攻めようがどんな最強な兵器をもってしても彼女の周りを囲む盾は壊すことはできない。
だが小さな、本当に小さな子供の放った子供の握りこぶしくらいの小石一つで屈強な盾はいとも簡単に壊れてしまった。
なぜならその小さな子供こそ彼女にとって自分の命を捨ててでも大切にしてしまう相手だったから。
子供の行動一つで彼女は変化する。ほんの些細なことでも。
狗楽を一途に愛する彼女。彼女は記憶を対価に狗楽を救った。
彼女は覚えていなけど、少年は彼女を覚えています。
それが必然であるから。
「……お姉さん、怒ったりしない?」
少年の問いに狗楽は手をパタパタをふり大丈夫と豪語します。
「そんな細かいような性格してないから平気、平気」
姉の性格を熟知しているのか、もしかしたら小言を言われるのが嫌でもうその話題には触れたくないとか。
もう本人にはどうでもいいことなのか。
謎です。
少年は気を取り直して狗楽に聞きたかったことを聞きます。
その内容は彼女の中身のことでした。
「定着してるみたいだね。安心した」
少年は、少し心配していました。狗楽がちゃんと順応するかと。
「ああ、中身のこと?うーむ。定着したというか、何となくしっくりしてる感覚の方が強いかな」
狗楽の反応がすこぶるいいので、ほっと一安心しました。
「それは良好な証だよ。ともかく上がって。お茶いれるから」
話し相手がいるのは少年にとって楽しいこととなっています。
狗楽なら、なおさらでした。でも狗楽は…
「ごめん、少し急いでるからまた今度ね。それより」
あせらなくてもいいのに、と少年は言いますが狗楽はごめんと苦笑いします。
また来るからと後から付け足して。
少年ははぁっと深いため息をつくとこういいました。
「……何か知りたくて俺のとこ、来たんだね?」
キラリと狗楽の瞳が一瞬光ります。
「ご名答!ある人物の居場所が知りたいんだよ」
狗楽にとってもっとも、確実に真実にたどり着くに値する人物。
それは…
「神崎緋奈の居場所。教えて?」
狗楽が本当に知りたかったのは彼女の居場所なのでした。
むろん、ここは相応の対価を支払って願いをかなえてもらう場所です。
狗楽はぶつぶつと神男が教えてくれればいいのに、今どこにいるかはわからんと全然聞く耳を貸さないのだと少年に訴えます。
でも少年にはただ愚痴を聞くことしかできません。
粗方しゃべり終えて満足したのかようやく狗楽は黙りました。
やっと話が話が進みます。少年は狗楽に対価を指定しました。
「その大鎌が対価だよ」
「これ?」
瞬時に自分の手に出現させます。
小柄な少女が持つのはあまりに不釣り合いな黒光りする鎌。
まるで死神が持つかのような闇をまとうものでした。
オリジナルの狗楽が所有していた武器。
それを何となく使っていた、今の狗楽にはあってもなくても変わらないものでした。
気軽に少年に了承します。
「い~よ~」
「割とあっさりだね。もっと戸惑うとかいやだなとかって素振りないんだ」
「ないね。だって『わたし』のじゃないし。『オリジナルの狗楽』のだし」
そういいながら、ほいっと少年に投げます。
「……確かに対価もらったよ」
「それで、どうやってわかるの?」
狗楽のもっともの疑問はそこでした。
けど少年はわかっていました。なので即決でいいます。
「占いでは、どうやら君のおじいさんが居場所を知っているみたいだよ」
「はやっ」
「すごいでしょ?」
まぁ不思議なことには慣れているので深く突っ込んだりましません。
顎に手をつけ目を細めます。まるで見つからなかった獲物をようやく見定めたかのように。
「じーじが?ふーん。三国か……」
そういえば向こうはどうなってるのかな?
なんて考えつつそろそろお暇することにしました。
「気をつけるんだよ、くーちゃん」
「うん、君尋もちゃんとたまには運動してね。デブになった君尋、見たくないから」
今度来たとき遊ぼうよと誘います。
ですが狗楽の遊ぶというのは本当に遊ぶということではないことを君尋は知っています。
「…過激なのは勘弁してね」
と顔を少々ひきつらせながら穏便にすむよう頼みます。
「あはは、わたし手加減しないタイプだからビシバシ!バキ!!っといくよ。んじゃね」
恐怖の言葉を残して狗楽は消えました。
その場に残された君尋は深くため息をつき、その恐怖の遊びが訪れないことを祈りました。
(彼女は加減を知らない奔放さだから)