ビアンキside
最近の天姫ってなんだか見るに堪えないほど疲れ切った顔をしているわ。
あの子の家庭環境はどこか私たちの所と同じような気がしていたんだけど、やっぱりそれなりに複雑なのね。こうやって自分が作った料理を食べてもらおうとすると決まって天姫はとても気まずそうに
「ごめん、私今は…おなかいっぱいだからいいや」
と変に遠慮する癖があるみたい。それが何回も続くとある疑問へと変わったわ。
もしかして天姫は遠慮という壁をつくり、人との関係をコントロールしているのではないかって。そう考えれば今までの私の料理に対する態度も頷けるわ。
だってママンの料理は素直においしいと食べるのに私の料理だけは食べられないなんておかしいもの。私は、そう心の中で納得した。
そしてある作戦へと決行することにしたわ。
突然の新たな同居人。明らかに一般人の類ではない立ち振る舞いに言葉遣いのその女。
「燐華、貴女にも協力してほしいの」
「わたくしでよければぜひ参加させてくださいな」
「心強いわ」
「ええ、わたくしも姫様には笑顔になっていただきたくて願ったり叶ったりですわ」
この作戦を成功させるためには、他にもどうしても必要な人物がいる。
私はさっそく携帯を手にとり、コンタクトをとるため登録している番号へと電話を掛けた。
(天姫、貴女のその気持ちを入れ替えさせてみせるわ!!)
そう強く心に誓って。
※
デジャブ。まさにこの言葉につきる。
なぜなら以前強制女子会に参加した時、見覚えのあるメンバーばかりが勢ぞろい今、天姫の前に勢ぞろいしているのだ。あの時の恐怖が今でも体に刻み込まれているので、天姫は見てわかるほどに顔を青くさせた。
ニコニコと笑みを浮かべる京子にハル、そして無理やり天姫を引っ張ってきた張本人、ビアンキそして燐華まで。ボンゴレメンバー勢ぞろいの女性陣である。
「…ビアンキ姉?それに燐華まで…これって言わなくても」
「女子会よ、天姫」
「驚かれましたか?」
「デスヨネー」
天姫はこう思っていた。やな予感しかしないよ、友よ。どうして燐華までビアンキ姉に加担するんだ。全然女子会って気がしない。いや、女子はいるけれどもね。こう、雰囲気がギラギラしてるっていうか。獲物が罠にかかりそうなの舌なめずりしながら待ち構えてるっていうか。ちょっと緊張感感じてます。
だがさすがそこな空気を読む女。顔に出さずに演技してみせる。
「京子にハル?……ホントに女子だけだねー」
「ええ、今回は女子もどきは存在しないわ。貴方を暗示する必要もないから」
ビアンキが言う女子もどきというのは、笹川兄であろう。
割とどうでもいいので天姫は軽く流すことにした。
「そうっスか」
「ささっ!天姫ちゃんはここに座ってください!ハルの隣ですぅ」
「あ、ずるい。じゃあその隣は私ね?」
女子二人にモテまくり名天姫であるが、内心生きた心地がしないようであった。
そんな天姫の心情など知るはずもなく、ビアンキはやる気に満ちていた。
いい調子よ、二人とも!とビアンキが心の中でエールを送っていることを天姫は知らない。天姫が一歩下がるのなら私たちがその分全身して近づけばいいと作戦だてていることを天姫は知らない。
ただ、罠にかかった獲物的に追い詰められている感じはあったのだ。
「姫様、燐華特製巨大肉まんをこしらえましたわ」
「わぁ~。すごい!」
「ワンダフルですね!」
「貴女、なかなかやるわね」
ビアンキは燐華の料理の腕前に感心した。
この私をうならせる好敵手はなかなかいないわ、と。
「お褒め頂き恐悦至極に存じます」
「燐華の料理久しぶりかも…」
…なんてこと…!天姫があんなに笑顔全開になってるなんて……!?
ショックで立ちくらみそうになったのを無理やりこらえてビアンキは己を叱咤する。
だって、私の料理をまだ出していないもの!って感じに。
「さぁ、私の料理も食べて頂戴!」
途端、ブシュウゥゥゥ――――――!と広がる怪しい煙を昇らせる物体X。
「のにゃ!?」「な、なんと………!?」
ビアンキはにやりと口元に笑みを浮かべた。
うふふ、天姫ったらそんなびっくりした顔して可愛いわ。それに燐華も着物の袖で口元を覆って悔しい様を隠しているつもりね。青い顔してるのがバレバレよ?これは私の料理の勝利ね!と、勝利宣言を勝手にしてた。
※
燐華side
あの騒動の後、姫様はディーノ様のおかげで少しは気分的にもよくなったようです。
でもやはり完全には前のようにはいかなくなってしまった。
姫様は時折ふっと翳りをみせあわててまた表情を作ることが多くなってしまいました。
このままでは、ノイズと闘うことなど、いえ、それだけではなく綱吉様たちも巻き込んでしまう日が訪れるやもしなれないと、わたくしは考えておりました。
ここは何としてもこの燐華がお支えしなくては、と決意してみたものの不慣れな環境で一体姫様に何をして差し上げられるだろうと自分に問いかけておりました。
そうしたらなんと、ビアンキ様が女子会なるものをやるとお言いになり、これは女性たちだけで集まり日頃のストレスから解放されるための会だと教わりました。
そしてわたくしにも協力を仰ぎたいと申してくださいました。
姫様を元気にするための素敵な会。
わたくしも参加できるということですので願ったりかなったりですわ。
無論、わたくしが断る理由などありはしませんわ。
喜んでビアンキ様とタッグを組みました。
ですが、ビアンキ様は毒殺の名人でいるとリボーン様から聞いておりましたので少々不安にございました。何やら彼女の作る料理はすべて毒が入った禍々しいものになってしまうという体質をお持ちのようでそれを食すと三日三晩はうなされ地獄に堕ちるという。
恐ろしいものですわ、もしそれが本当なのでしたら姫様に召し上がっていただくわけにはまいりません。
案の定、女子会が始まり初顔合わせの御方たちとあいさつもしてさぁ料理を披露というところでビアンキ様が自身たっぷりにわたくしに視線を投げかけてまいりました。
そして、彼女がもってきた膳の上には…ああ、口にするのもためらうほどすごいものでしたわ。
一瞬走馬灯のようなものを感じましたもの。
やはり、暗殺のプロ!侮れませんわ……ああ、姫様、冷や汗がとめどなく流れております。そっとその汗をお拭きしましたら、姫様はビアンキ様に気づかれぬよう耳打ちで
「…燐華、救急車の手配してくれる…?」
救急車!?それはこの世界での緊急避難のようなものでしょうか!?名前からしていかにもな感じですわ。
「姫様、まさかアレを食されるおつもりですか!?いけません、アレはまさに毒にございます、御命に係わる大事にございますよ!」
「……逃げられないでしょ…この状況…」
「いいえ、姫様だけでも逃げさせてみせますわ!この燐華にお任せを」
幼少時より、姫様の毒見役をさせていただいておりましたもの。一瞬でもくじけてしまった自分が恥ずかしい。こんなにも目をキラキラと輝かせて姫様がわたくしに期待していただいているのだから。
「…燐華…」
「……姫様は、わたくしが命をかけてお守りしますわ」
歓喜にあふれる姫様の表情。…これは死闘ですわね。一筋の汗が頬を伝うのは誤魔化せません。
「貴女たち、どうかしたのかしら?」
いけません、ビアンキ様に気づかれぬようしなければ…。わたくしはサッと笑みを繕い、
「いえ、では、最初にわたくしが……」
…ウッ…!なんという匂い、まるで体全体が危険と警報を告げてくる…
ですが、この燐華。行かせていただきます!
箸を持つ手が震えるのを片手で押さえつけながら未知なる物を口へと運ぼうとした瞬間、
「これは、これは!あの時の可憐な御嬢さんんではなりありませんか!」
突然の乱入でございました。
まさか、いきなりズカズカと無遠慮に入ってくるとは。
しかもあまつさえきょとんとしている姫様に軽々しく触れるなどっ!!
自分がもっていた箸を投げ捨て、無礼な男を成敗してやろうと思った瞬間、一陣の風が走り抜けました。それは…
「ロメオ!?覚悟しなさいっ!ポイズンクッキング!」
ビアンキ様でした。彼女はいつの間に用意したのかさらなる見た目にもキツイ料理を手にしてその男に襲いかかったのです。その様まるで、阿修羅のごとく。
「…なんでっ、いっつもいっつも!」
男は俊敏の速さで部屋を飛び出ていくとそのあとをビアンキ様が続けて追いかけていきました。牛柄男の出現によりわたくしたちは危険を脱出することが出来ました。
しかし、これは偶然ではないことはすぐにわかりました。
だって、あのリボーン様の気配がまるわかりのようにびんびん感じますもの。
窓ガラスの向こう、木の枝からにやりと笑みを送る男の姿。…ッチ。借りということですのね?あの方にはそんなもの作りたくなかったというのにしくじりましたわ。
わたくしもまだまだですのね。ですが、次こそ、己が実力でアレを…!
この時わたくしは誓いました!かならず、アレを克服してみせると。
(この時から毒料理の研究が始まったのだ)