番外ちゃんと旅するお話(仮)   作:ミッドレンジハンター

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前回のあらすじ三行
・kikyouさん強い
・ばいばいユグドラシル
・こんにちは番外ちゃん


vs番外ちゃん

 ……ここはどこだ。

 俺はさっきまで決闘場の床に座って空を眺めていた。しかし気付けば屋内にいる。

 ユグドラシルのサービス終了に伴い、プレイヤーは強制ログアウトさせられるという話だったはずだ。サーバーダウンがうまくいかず、しかもバグが発生してどこかに転移させられた……なんてことが起きているのだろうか。

 

 そして目の間にいるこのプレイヤー。同じく何が起きていのか分からないといった表情だ。ルービックキューブを持つ手が止まり、呆然とこちらを見つめている。

 

「す、すみません。ここって何処か分かります?」

「……」

 

 少女は何も答えず、壁に立て掛けられていた鎌を手に取る。まさか、この状況でPvPを始めようと言うのだろうか。

 

「あー、ちょっと今はナシで……」

「どうやってここに来たの?」

「え? いや、分からないです。多分バグだとは思いますけど」

「そう。まぁ、理由はどうあれ……自分の不運を呪うことね」

 

 それだけ言うと少女は鎌を両手に握り、横薙ぎを振るう。かろうじて後ろに飛び退き致命は免れたが、切っ先が掠り腹部から血が流れる。

 

「いって! え、なんで痛みが──」

「はぁあああ!!!」

「うぉっ!?」

 

 咄嗟で()()に念じると左手にミスリル製の盾が現れ、ギリギリで少女の攻撃を防ぐ。しかし盾は一撃で壊れてしまった。

 少女は一度距離を取ると、訝しげにこちらを見る。

 

(こんな状況だが、やるしかないのか。大丈夫、初見殺しは俺の得意分野だ)

 

 先程と同様に念じると、やはりショートカット登録した斧を取り出すことができた。そして恐らくだが、魔法も使えるだろう。指輪、ショートカット機能、魔法、どれもまるで昔から覚えていたかのように使い方が分かってしまう。

 

 ()()()()()()()振りかぶり、少女の頭部目掛けて斧を投擲する。しかし謎のスキルによって躱されてしまい、斧は奥の壁に突き刺さる。

 少女は低姿勢から一瞬で距離を詰め、大降りに鎌を振るう。早くも勝利を確信した顔だ。全てこちらの思惑通りだとも知らないで。

 再び指輪に念じ、今度は最硬金属で出来た盾を生み出す。袈裟懸けに振るわれる鎌を眼前で防ぎ、不快な金属音が木霊する。

 

「はぁ!?」

「残念。<磁力(マグネティック・フォース)>」

 

 <磁力>によって壁から引き抜かれた斧が、縦の回転力を伴って少女の肩に深く突き刺さる。

 この斧は、世にも珍しい背後からの一撃(バックスタブ)特化の性能を持っている。かなり大きなダメージになったはずだ。

 

 そう思っていたのだが、想定外の事が起きてしまった。

 少女の肩口から大量の血が噴き出ているのだ。それに何故か血の匂いもする。

 どう見ても致命傷であった。事実彼女はだらりと床に膝をつき、次第に眼が虚ろになっていく。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 返事がない。しかしその様子を見れば無理もない。呼吸をするだけで精一杯なのだ。

 見てられない。そう思ってアイテムボックスから最上級ポーションを探し出し振りかける。すると見る見るうちに傷は癒え血が止まる。慌てて斧を引き抜くと、まるで何もなかったかのように綺麗な肌が露わになった。

そして再び声をかけるが反応はない。いつの間にか気絶していたのだろう。

 

 辺りを見回しながらこれまでの状況を振り返る。謎の転移、法で規制されているはずの痛覚、そして混乱して攻撃を仕掛けてきたこの少女。

 

(一体、何が起こってるんだ……)

 

 

* * *

 

 さて、何から手を付けるべきか。

 一つ重大かつ致命的な事実が判明してしまった。ログアウトができない。というか、システム関連に何一つ触れられない。更に<伝言>も試してみたが、誰にも繋がる様子はない。困った。

 

 俺は色々と悩んだ結果、まずは安全を確保することにした。

 

 とりあえず、この少女にまた襲われてしまうのは避けたい。ちょっと可哀そうだが、装備を全て剥ぎ取ることにしよう。

 しかし、この恰好は凄いな……。頭には謎の飾りが左右に二つとバッテンマークのヘアゴムが十二本。左肩は大きく露出させ、黒いスパイクシールドやら肘当てやら、とにかく色々つけている。

 髪と瞳の色から考えるに、左右非対称がコンセプトなのだろう。それにしても、脚鎧(脛当て)を片側にしか装備しないとは。効率度外視のロマンキャラメイクというやつか。

 

 あまりにも装飾が多いため、苦戦しながらどうにか装備を外すことができたが、少女はほとんど下着姿になってしまった。起きたら絶対怒られる。

 しかしこれだけ脱がせたら普通はBANされてもおかしくない。それなのに何の警告もないということは、既に運営の管理下にはないのだろう。つまり何らかの組織による陰謀か。だが、そのリスクに見合うリターンが果たしてあるのだろうか。

 それを今考えても仕方がない。とりあえず剥ぎ取った装備をアイテムボックスに放り込む。そして拘束効果のあるワイヤーで体を縛り、壁に寄りかからせておく。

 

 次にやるべきことは、周辺の状況確認だ。ここは一体何処なのか。それを確かめなくてはならない。

 少し歩いて角を曲がると、そこには大きな扉があった。煌びやかな装飾が施されており、鍵穴などは見当たらない。試しに押してみてもビクともしないので、諦めて来た道を戻りもう片方の道を進む。

 やがて正面に見えたのは長い階段だった。五十段程あるその階段を上り切る直前、目の前に広がる光景を見て咄嗟に息を潜めた。

 その先には、白色の鎧を着た数人の兵士が居た。まるで今いる階段への道を守るように。

 

 想像以上に危険な状況かもしれない。先程の戦闘音で誰も駆けつけてくる様子がなかったので、付近に敵はいないと思っていた。

 だが恐らく、この無駄に長い廊下によって音が届かなかっただけなのだろう。

 そしてあの兵士の統一された装備を見るに、間違いなくNPCだ。自分を不法侵入者とみなし、襲ってくる可能性がある。

 

 どうするべきか……。俺の戦闘スタイルは複数戦に向いていない。ユグドラシルのサービス終了が告知されてから、タイマン専用の構成にしてしまったからだ。

 

 仕方がない。なんとかあの少女を説得し、協力して貰うよう頼むしかない。一度、戻ろう。

 

 

* * *

 

 

「ん……」

「起きた? 気分はどう?」

 

 少女は自分の体を確認した。意外なことに、特に気にする様子はない。

 

「私、敗けたのね」

「いやいや、今は勝敗云々話してる場合じゃないんだ。とりあえず聞いてくれ」

 

 俺は協力して欲しいという旨を伝える。

 

「あなた、何言ってるの?」

「え? とにかく協力するべきだってだけだよ。外はNPCだらけだし、何らかの悪事に巻き込まれてる可能性がある」

「はぁ?」

 

 何故理解してくれないのだろう。中の人がまだ子供だったとしても、そんなに難しいことは言っていないはずだ。

 いや、まて。まさか……。

 

「分かった。いくつか質問するから、正直に答えて欲しい。まず、今年は西暦何年だ?」

「セイレキって?」

「まじか……。じゃあ、アースガルズやヘルヘイムという言葉に聞き覚えは?」

「なにそれ」

 

 何ということだ。この少女はプレイヤーではない。なら、あの兵士達もNPCではなくただの人間だったのか。

 そして西暦という概念もない以上、地球以外の惑星に飛ばされてしまったのか。いや、ユグドラシルの仕様が残っていることを考えるとそれはおかしいな。

 とにかく分からないことが多すぎる。

 

「はぁ……。じゃあ、ここは何処かわかる?」

「スレイン法国の神殿最深部。聖域と呼ばれる所」

 

 当たり前だがそんな国はしらない。

 

「君の所属は?」

「スレイン法国特殊部隊『漆黒聖典』番外席次”絶死絶命”」

「は? なんて?」

「スレインホウコクトクシュブタイシッコクセイテンバンガイセキジゼッシゼツメイ」

 

 ば、バカにされている……。そのにやけ顔をやめろ。殺されかけて拘束されて、なんて肝が据わった奴だ。

 その後もう一度聞いたが、ダメだった。結局「番外」という部分しか覚えていない。

 

「もういい!」

「名前も知りたい?」

「……どうせ長いんだろ。番外ちゃんでいいよ」

「私をちゃん付けだなんて、いい度胸ね」

 

 その後も色々と質問し、目下の目標は定まった。

 まずはこの国を脱出しなくてはならない。スレイン法国というのは人間以外が住める国ではないらしい。というか普通に殺されてしまうそうだ。

 

「どうにかして逃げるしかない……。はぁ、死にたくないな」

「ふぅん。じゃあ私が協力してあげようか。この神殿の構造はよく知ってるし」

「ん? 番外ちゃんは俺が怖くないの?」

「見た目のことなら問題ないわ。私は人間至上主義じゃないし」

「そうなのか。でもタダじゃないんだろ」

「当然。私と一緒に脱出したら、再戦してもらうわ」

 

 なるほど、この子は戦闘狂なのか。でも、その気持ちは良くわかる。俺もしばらくPVPに勤しんでいたが、本気でやっていると段々と負けず嫌いになるものだ。

 嘘を吐いている感じはない。そもそも騙したいならもっとマシな理由を挙げるはずだ。

 

「そんなことでいいならいくらでも。あまり痛いのは勘弁して欲しいけど」

「決まりね。じゃあ装備返して」

「はいはい」

 

 アイテムボックスからぽいぽいと装備を取り出すと、かなり驚かれた。どうやらこの世界の人達はアイテムボックスが使えないらしい。これはあまり見せない方が良さそうだ。

 

 

* * *

 

 

 こうして番外ちゃんの協力もあり、俺は無事に法国から脱出することができた。

 

(あれ? あっさりすぎない? もっと苦戦するかと思ったんだけど……)

 

 

 

 

 




補足1
盾を創造する指輪の話は多分次回説明します。

補足2
本来ならばモモンガさんには<伝言>が繋がるはずでした。

補足3
チャリオットは番外ちゃんが人類最強であり、この世界での百レベルが異常だということにまだ気付いていません。


ちなみに番外ちゃんは設定資料の服装をみると、ブラつけてなさそうなんですよね。肩にかける紐が見当たらないんですが、どうなんでしょう。
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