番外ちゃんと旅するお話(仮)   作:ミッドレンジハンター

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前回のあらすじ三行
・融合体の身体
・キャンプでドキドキ
・ルビクキュー


番外ちゃん、リベンジする

 瞼が重くなってきた。明日は朝早くから行動したいし、早めに寝るとしよう。

 おやすみと声を掛け、テントに入る。やはり窮屈だが、それもキャンプらしさを感じさせてくれるので悪くはない。

 何とも言えない感慨に耽っていると、テントの幕が開き番外ちゃんが入ってきた。その手には戦鎌が握られている。

 

「ど、どうした?」

「テント、一つしかないから」

「あ、そうだったのか……。すまん、じゃあ俺は外で寝るよ」

 

 起き上がろうとした所を片手で止められる。

 

「それには及ばないわ。私もここで寝る」

「は? いや、でも……いいのか?」

「気にしないで」

 

 気にするなと言われても無理がある。あまりにも無防備ではないだろうか。

 思わぬ発言にドキドキしているうちに、彼女は髪飾りを外して横になっていた。

 

(まさか、寝首を掻こうとしてるのか? いや、それにしては遠慮なく視線を向けてくるし、普通武器は隠すべきだ。となれば監視……?)

 

 実は既に法国の上層部に連絡済みで、今もこちらの動向を伺っている。それが一番怖い可能性だ。今にして思えば、見ず知らずの相手に対してここまで親切にしてくれるものだろうか。

 考える程に恐ろしくなってきた。もしこの世界で死んでしまったらどうなるのか。ゲームのように何度でも復活、などと期待はできない。死んだらそれまでということもあるかもしれない。

 背中を冷たい汗が伝うのを感じながら、意を決して問い詰めようとしたが、それは彼女の言葉によって阻まれた。

 

「そういえば、あなたの名前は?」

「あ……まだ名乗ってなかったか。チャリオット。仲間からはチャーリーって呼ばれてる」

「仲間がいたの?」

「そうだよ。でも今は離れ離れ。何処にいるかもわからない」

 

 最後までプレイしていたフレンドといえばモモンガさんくらいしかいないが、彼とは連絡がつかなかった。彼は最後までギルドにいたはずなので、念のためギルド指輪による転移も試してみたが、やはり失敗に終わった。

 急に心細さを感じてきた。背中を預ける仲間がいないのはとても不安だ。

 

「ふぅん。まぁ関係ないけど。明日起きたら早速戦うからね」

「分かってるさ」

 

 そう言って彼女はニンマリと笑った後、仰向けで目を瞑る。その姿を見て、肥大化していた警戒心が徐々に治まっていくのを感じた。

 

(どう見ても、ただの無邪気な女の子だよな)

 

 初めは不幸なすれ違いもあったが、仮にも助けてもらった身だ。最初に出会ったのが彼女でなければ今頃どうなっていただろうか。人類至上主義を掲げる宗教国家なのだから、反論の余地なく処刑されてもおかしくない。そう考えれば、恩のある彼女を責める気にはなれなかった。

 

 そんなことより、明日のPvPに向けて作戦を考えよう。この世界は圧倒的に自由度が高い。ゲームの中では不可能だった多くの戦法が有効になるはずだ。

 次々とアイデアが浮かんでくることに、思わず笑みが零れてしまう。

 ついにユグドラシルが終わってしまったかと思えば、まるでデータを引き継いだかのように新たな世界に飛ばされた。そして初日の夜には既にPvPのことばかり考えている自分がいる。

 もしも神がいるならば、最大限の感謝を伝えたい。自分を"次のステージ"へ迎えてくれたことに。

 

 

* * *

 

 

 テント超しに明るい日差しが入り、和やかな鳥のさえずりが聞こえてくる。

 朝食はパンと牛乳で軽めに済ませ、集中する。調子は万全。()()()の対策もばっちり。昨日は不覚を取ったけど、今度はコテンパンにしてやる。

 

 

「よし。ルールを決めるぞ。一つ、アイテムによる回復は禁止。二つ、クリーンヒットを相手に二度与えた者の勝利。三つ目は、敗者は勝者のどんな命令も一つだけ従う……だけど、本当にいいのか?」

「問題ないわ。そうでもしないと本気出さないでしょ?」

「まぁ……」

 

 

 確かにチャリオットは手加減するつもりでいた。余計な怪我を負わせたくないからである。

 前回の背後からの一撃(バックスタブ)によるダメージから、自分と彼女の間には恐らく十レベル以上の差があると推測した。

 更にこの世界では痛覚が存在する。ゲームのように瀕死状態でも常に元気に走り回れるはずがない。傷が深ければ機能不全にも陥るだろう。

 そのように考えれば、どうしてもハンディキャップは必須である。

 

 

「やっぱり一つ目のルールは変更しよう。ポーション回復はしてもいいが、その時点で失格となる、でどうだ?」

「お好きにどうぞ」

「じゃあこれ渡しておくよ」

 

 そういって彼が取り出して見せたのは、見たことのない真っ赤な色をしたポーションだった。思わず顔をしかめてしまったが、反面ますます興味が湧いてくる。

 ずっと退屈だった人生に、突如現れた刺激的で魅力的な生物。

 

(お願いだから、もっと私を驚かせてね)

 

 受け取ったポーションを懐に仕舞い、互いに背を向け距離を取る。取り決めていた距離はおよそ十歩。周囲は良く育った樹木に囲まれ、大きく動けば武器の取り回しが面倒になりそうだ。

 

「この枝が地面に触れたら開始だ」

 

 細い木の枝が放られる。空中でくるくると回転している枝に一瞬だけ視線を向け元に戻すと、彼の左手はいつの間にかめらめらと燃え盛っていた。

 

(やっぱり知らない魔法を隠してる。なら先手必勝……!)

 

 カサリと小さな音を立て、二度目のPvPが始まった。

 

 

* * *

 

 

──<炎の大嵐(ファイアー・テンペスト)>

 

 踏み込む足を慌てて止める。燃える左手を地面に触れたかと思えば、眼前に現れた巨大な炎柱。それがいくつも重なって、完全に道を遮断した。

 これまで見たことのない凄まじい魔力の量だ。だが私に魔法は効かない。

 

 再度戦鎌を振り被り、前傾姿勢で大きく踏み込む。躊躇なく炎柱に突っ込んで──。

 

「あ゛っっっつ゛い゛!!!」

「何してんの!?」

 

 予想外の熱気に、地面にゴロゴロと転がって熱を逃がす。

 

(なななんで!? 私の異能(タレント)が機能してない!?)

 

 チャリオットもまた驚愕していた。

 

(嘘だろ!? いや考えなしに突っ込んだこともそうだけど、これは俺の中で二番目に威力の高い魔法だぞ。なんで「熱い」で済んでるんだよ!)

 

「今のはクリーンヒットってことでいい……のか?」

「効いてない! 全然平気!」

「そ、そうか。凄いな」

 

 ふぅーっと肺の空気を入れ替えて気を取り直す。理由は全く不明だが、彼の魔法は常識を超えている。いつもの様に無効化を前提に戦える相手じゃない。

 頭の中で作戦を練り直していると、彼の左手から炎は消え、両手にそれぞれ異なる形状の斧が握られていた。接近戦は元々こちらの望む所、魔法を使わないのなら好都合だ。

 

 先程とは打って変わってじりじりと間合いを取り合っていると、ある違和感に気が付いた。

 景色がほんの少し揺らいでいる。何かが仕掛けられているに違いない。すぐさま武技を使い、解除に掛かる。

 

「<空斬>!」

 

 横薙ぎと共に放たれる斬撃。狙い通り何かを切り裂くと、その周辺が炎に包まれ爆発した。恐らく、先の炎柱に紛れて仕掛けていたのだろう。

 魔法は無いと油断させて罠に掛ける。単純だが()()()()()。やはり短期決戦に持ち込むのがベストか。

 

 予定通り先手に踏み込む。すると相手は両手を下ろし、右脚を引く。一体何がという思考もままならぬ内に、視界が真っ暗闇に染まった。

 

(くっ。この匂い、まさか土!?)

 

 ほとんど遮られてしまった視界の左端に、わずかな金属の光沢が映った。咄嗟に鎌の柄で防いだが、その後急に強い力に引っ張られ鎌の刃が地面に突き刺さる。

 そして視界が晴れたかと思えば、迫りくるミドルキックに反応が追い付かず吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぅ……」

 

 脇腹の激痛に堪えながら顔を上げると、やっと状況を理解することができた。異常な脚力によって抉られた地面。そして鎌の柄が斧の()()の部分に引っ掛けられている。

 完全にしてやられた。防御に不向きという鎌の弱点を、こんな方法で突いてくるなんて。

 

「これ返すよ。さすがに獲物なしじゃ厳しいだろうし」

「ムカつく。全身汚れちゃった」

「それは……すまん」

 

 ぺっぺっと土を吐き出しながら武器を受け取る。

 本当に腹が立つのは、絶好のチャンスを蹴りで済ませられたことだ。斧で来るなら左腕の装甲で防げたのだが、蹴りで吹き飛ばされては意味を成さない。そのせいで武器を手放してしまったのだ。

 悔しいが、同時に嬉しさも込み上げてくる。今まで周りにいたのは取るに足らない格下ばかりだったが、彼は何度も何度も想像を上回ってくれる。

 

 改めて距離を取り、お互いに武器を構える。

 相手の動向に注意しながら距離を詰めると、今度こそ攻撃が通った。上手くいなされているが、この展開こそ望んだ形だ。

 少しずつ彼を追い詰める。片手斧と戦鎌ではリーチの差が雲泥である。一方的に攻撃を続け、切っ先が何度か掠り続ける。しかしここで当初の懸念事項が立ちはだかった。

 

 気が付けば周囲には樹木が立ち並んでいる。この程度切り裂くのは造作もないが、倒木に気を取られてリズムを崩されるのは面倒だ。

 そう考えていると、こちらの攻撃が一度弾かれ後退を許してしまう。すかさず接近を試みるが、既に左右から木が倒れ始めていた。彼は距離を取る一瞬の内に、二本の木を切り倒していたのだ。

 

「邪魔!」

 

 一刀のもとに両断する。瞬間隠れた彼の左手は、再び炎が灯っていた。

 

──薙ぎ払う炎(ファイアー・ウィップ)

 

 鞭のようにしなる炎が眼前に迫りくる。

 

「<流水加速> <神技一閃>」

 

 間一髪で回避し、倒木を飛び越え横に振るう。屈んで避けられてしまったが、次の手はある。

 

「<即応反射>」

 

 空中で崩れた姿勢を無理やりに戻し、往復するように横薙ぎを放つ。そしてついに、彼の右肩に深々と刃が突き刺さった。

 一瞬喜びの感情に包まれかけるが、それは途端に霧散する。彼の右手に()()()()()()()()()

 そして聞こえた魔法の名は磁力(マグネティック・フォース)。あの時の不意打ちがフラッシュバックし、咄嗟に後ろを振り返る。しかし、そこには何も見えなかった。

 

 その隙を彼が逃すはずもなく、気が付けば自分の首元には銀色の斧の刃が当てられていた。

 

「チェックメイト。俺の勝ちね」

 

 いてて、と肩を押さえる彼の姿を眺め、漸く自らの負けを悟った。

 

 

* * *

 

 

「いやー、危なかった。あんな隠し技を持ってたとは。燕返しって言うんだったかな?」

 

 チャリオットは項垂れる少女に次々と賞賛を送る。というのも、さっきから何も言わず俯いてばかりなのである。負けは悔しいだろうが、そこまで落ち込むことだろうか。個人的にはかなり良い勝負をしたと思っている。

 どうにも困ったと唸りながら歩いていると、アイデアが思い浮かんだ。

 

「そうだ、今度俺の技……え、もしかして泣いて……?」

 

 しゃがんで顔を覗いてみると、彼女はしくしくと泣いて頬を濡らしていた。

 

「な、泣かないでくれ番外ちゃん!」

「……もっと近くに来て」

「う、うん分かった────ぶへぇ!?」

 

 触れる位置まで近づくや否や、グーで殴り飛ばされ宙を舞う。二回転ほどして地面に叩きつけられた。

 

「はい、私の勝ちね」

「は、はぁ?」

 

 困惑しながらじんじんと痛む頬をさする。何を言っているんだこの子は。

 

「だって、ルールは『クリーンヒットを相手に二度与えた者の勝利』でしょ?」

 

──あ。そういえば、チェックメイトだの何だのと言ってしまったが、あれはヒットさせていなかった。

 

「まじかよ……」

「というわけで、早速命令を聞いてもらうわ。私と子供を作りなさい」

 

 

 

 ん? 今なんて言った?

 




あまり長ったらしい戦闘描写はしたくないのですが、(私の)番外ちゃんの性格的にやむなしということで頑張りました。
ちなみにチャリオットの魔法はダークソウル2の呪術をそのまま。
次回はモモンガさんが出てくる予定です。
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