番外ちゃんと旅するお話(仮)   作:ミッドレンジハンター

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竜王国

 

 

 正方形のタイルが敷き詰められた石畳に、窓がいくつも付いた縦長の建築物、それらを繋ぐ謎のアーチ。ゾンビが串刺しにでもされそうな突起物が屋根の上にたくさんある。

 どうしてこのような構造になったのかは知る由もないが、どれも歴史の教科書に載っていそうな風景である。

 

「うん。それっぽくていいな」

「ぽい?」

 

 嫌でもかつての世界を思い出す。

 科学の発展は監視社会を作り出し、貧富の差を生み、そして自然を破壊した。科学で得られたものは大きいが、損失はどれも致命的なものばかりだった。

 文化を築き、歴史を紡ぎ、家庭を営む人達が道を行き交う。太陽の日差しに目を細め、知り合いを見かけたら声を掛ける。そんな当たり前のことさえも出来なくなり、皆仮想現実に逃げたのだ。

 だめだ。どうしても、元の生活と比べてしまう。これはもう直すべき悪い癖かもしれない。過去は忘れて今を楽しむのが一番だ。

 

「ぽいってなにが?」

 

 隣を歩く番外ちゃんの格好に目を向ける。

 彼女の装備はあまりにも目立つうえ、本人からの希望もあったため今は着替えを貸している。緑色のフード付きコートに骸骨Tシャツとファイヤーパターンのパンツだ。年頃の女の子に対してあまりにも失礼なファッションだが、一応それなりに優秀な防具である。

 そもそも、彼女が持っていた防具はあれだけだった。着替えとして持ってきていたのは、何の効果も持たない普通の私服である。彼女はこの世界では相当に強い部類のようだが、ユグドラシルプレイヤーが紛れている可能性がある以上、最低限の防具は着ておくべきだ。でなければ怖くて眠れない。

 

 だが本当に申し訳ないと思う。本人は気にしていないようだが、あまりにもダサい。特に、ギルド長の御尊顔をあしらったTシャツが。

 

「聞いてるよね?」

「イケてるってこと。さて、これからどうしよう?」

 

 やるべきことは色々ありそうだが、個人的には資金の確保が最重要だ。その点で一つ確認したいこともある。これが上手くいけば、当面の生活費はなんとかなるはずだ。

 

「ちょっと寄りたい所があるから、これでご飯でも食べてて」

「え、いやでも……たったこれだけ?」

「贅沢言いすぎ。食べ終わったら連絡してね。じゃ」

 

 彼女はフードを深めに被りなおし、すたすたと歩いていく。

 俺は置いてけぼりにされてしまった。

 

 預かったのは小さな金貨1枚。その1枚を握りしめて辺りを見回す。この辺りに店はなさそうなので、少し歩いてみることにした。

 

 

 

 番外ちゃんと別れてから三十分は経っただろうか。未だ店に入れずにいる。なぜなら文字が読めないからだ。

 日本語が通じているのだから、当然文字も日本語だと思い込んでいた。番外ちゃんの口の動きを見て翻訳機能が働いていることには気付いていたが、まさか文字は適用外だったなんて。

 食品サンプルや写真でもあれば良いのだが、残念ながら見当たらない。唯一見つかったのはマグカップから湯気が出ている絵の店だ。どう見ても喫茶店か何かだが、すっかり腹も減ってしまったので、仕方なく入ってみることにした。

 

 店内は驚くほどお洒落だった。床は大理石で天井にはシャンデリアが飾られている。ここは庶民が出入りするような場所ではないのでは。

 しかし、店内には甘い香りが漂っていた。甘味はリアルでの生活も含め、しばらく口にしていない。ケーキを想像したら唾液が溢れてきてしまった。

 

「いらっしゃいませ。お一人様ですね」

 

 品の良い若々しいウェイターが出迎える。

 

「はい。あの……これで足りますかね?」

 

 番外ちゃんから貰った金貨1枚を見せてみる。ユグドラシルであれば下級ポーションすら買えない額である。

 

「はい、丁度ですよ」

 

 ほっと一息つく。どうやらレートはかなり低いらしい。

 しかし考えてみれば当然の話である。ユグドラシルにおいて金貨は万単位で取引するのが当たり前だが、現実でそんな売買が成立するはずもない。金貨を運ぶだけでも大変な労働である。

 

 店内を進み、ウェイトレスからナプキンを受け取る。そして席に着いてすらいないのだが、何故かドリンクを選ばされた。既に嫌な予感がする。

 

 更に奥へ進むと、そこには驚きの光景が広がっていた。

 ダンスホールのような広い空間に、大きな円形テーブルと大量のスイーツ。そしてドレスコードに身を包む育ちの良さそうな若い男女。これはもしや、立食パーティーと呼ばれるものではないだろうか。

 

(これは……やってしまった。素直に人に聞けば良かった。しくった……)

 

 しかも周りは揃いも揃って美男美女だ。街で見かけた人達も随分とレベルが高かったが、これが標準だとしたら恐ろしい。

 こんな場所で下手な行動に出て笑われるなんてことは絶対に避けたい。とりあえずはホール内を歩き回り、周囲の観察から始めるのが無難か。

 なんとか不自然に思われないようウロウロしていると、思わぬ相手に捕まってしまった。

 

「初めまして。一緒にお話しませんか?」

 

 話しかけてきたのはまだ十五にも満たないような少女だった。しかし身なりが良く、やはり顔立ちも可愛らしい。

 彼女も一人で来たそうで、何故か共に食事をすることとなった。ただ飯を食いにきただけなのに、そんなことある? と心の中で叫ぶ。

 

 最初は自己紹介から始まった。自分は名前だけ(五秒)で終わったが、少女は一分以上みっちり話してくれた。

 少女は別の国の魔法学校に留学中の学生で、休暇を貰って竜王国に戻ってきたそうだ。そしてつい最近、第二位階魔法を扱えるようになったという。常識を殆ど知らない自分にとって、魔法トークが出来るというのは非常に有り難い。

 

「おー、第二位階。いや懐かしいなぁ」

「チャリオット様も魔法が使えるのですか?」

「使えるよ。第十位階一つと九位階二つ」

 

 少女はくすくすと笑う。

 

「俺なんか変なこと言った?」

「ふふ、突然真顔で冗談を仰るものですから面白くて。これはあまり知られていないことですが、魔法は第七位階までしか存在しません。普通の人は第三位階が限界なんです」

 

 少女は笑っているが、これは衝撃の事実である。そんなこと番外ちゃんは教えてくれなかったぞ。

 第八位階より上の魔法は番外ちゃんとの戦闘で使用済みだから、存在が抹消されているわけではない。つまり、この世界の魔法レベルが想像以上に低いということか。

 

 六大神の話を聞いたとき、ユグドラシルプレイヤーのレベルは頭一つ抜けている、という程度しか考えていなかった。カンストプレイヤーが六人いれば、七十レベル千人に囲まれようが殲滅できるだろう。それほどまでにレベル差という壁は大きいものだ。

 しかし、常人で第三位階というのはあまりにも低すぎる。第三位階は確か<火球>とか<雷撃>辺りだったと思うが、そんな下位の魔法を使うプレイヤーはせいぜいが三十レベルというところだ。頭一つどころか天地の差である。

 

 (三十レベルなんて、一日中殴られても死なない自信あるぞ。モモンガさんなら上位無効スキルがあるから負ける要素ゼロじゃないか。これは六大神が崇められたのも納得だな……)

 

「どうされました?」

「いや、何でも……。俺お腹空いたし食べていい?」

 

 マナーが分からず口にしていなかったが、流石にもう良いだろう。近くにあったスコーンらしきものを手に取ってみる。まだほのかに温かいそれを口に運ぶ。

 

「! ……うま」

 

 思っていたより食感は柔らかく、中にはほんのりビターなチョコレートが入っていた。口の中で生地とチョコが交わり、舌の上で転がすと簡単に溶けてしまう。続いて最初に受け取ったドリンクを一口飲む。これはまさしくカフェラテの味で、濃厚だが喉をするりと通り、なんとも上品な余韻を残していった。

 前言撤回。この世界のレベルは想像以上に高い。結局良い意味で期待を裏切ってくれるじゃないか!

 目の前のテーブルと他のテーブルを目をやる。まだまだ数え切れないほどのスイーツがある。これが全部食べ放題……。

 

 

 

 気が付けばマナー云々は全て忘れ、尽きぬ食欲を満たすことに夢中になっていた。

 周囲の女の子は一人から二人、二人から三人と増え、彼女らがよそってくれたスイーツを次々と口に放り込む。男子からはさぞ冷ややかな目で見られているだろうが、もはや気にならない。

 ついでに女の子達からこの店のことを聞いてみた。どうやらここは、竜王国独自の社交文化を取り入れている店だそうだ。

 

 

 その昔、貴族や商人らは自らの跡継ぎを育てるため、子供達のための茶会を開いた。大人は一切関与せず、子供は将来のクライアントやライバルとの交流を通し、競争社会で生き抜くためのスキルを自主的に磨いていく。

 しかし時代の変遷とともにその在り方も変化した。かつての竜王国は男性優位社会であったが、女王が国のトップとなったことで女性の社会進出が増えてゆく。当然茶会の場にも現れるわけだが、年頃の男女が集まった結果どうなるか。

 茶会の本来の趣旨は失われ、両親の目が届かない絶好の出会いの場かつデートスポットへと変貌を遂げることになる。いわばエリートだらけのハイレベル合コンである。彼らのニーズを受け、誕生したのがこの店なのであった。

 

 

「ちょっとトイレ行ってくるね」

 

 個室のトイレに入り一息つく。料理はとても美味しいが、一つ難点があった。それはこの不便な両腕である。

 右腕はからくり仕掛け、つまり木製であるため防具の着用が不可欠である。食べ辛くて仕方がない。そして左は鳥の四本指であり、種族特性上防具を着けられず裸のままである。それ故、他人の前では片手しか使うことが出来ないのだ。

 窮屈だった防具を外し、服の下に隠した左腕を解放する。

 

「ん〜! ……よし、<伝言>」

 

 番外ちゃんは伝言を使えない。連絡を取るならこちらから伝言を飛ばす必要がある。

 ちなみに第0位階なるものは使えるらしいが、そもそもこの世界には自分のような剣と魔法を両立する″ハイブリッド型″はまずいないだろう。なぜなら90レベル以上でようやく実用的になる、いわゆる大器晩成型だからだ。それに、大器晩成とはいえ純戦士や純魔法詠唱者より強いわけではない。正直意外性があるだけなので、素直にどちらか一方を伸ばした方が楽なのだ。

 

「もしもし。もうすぐ食べ終わるとこだけど、そっちは?」

「やっときた。もう待ちくたびれてる」

「あ、やっぱり……ごめん、すぐ行くよ」

 

 名残惜しいがなるべく早く店を出ることにしよう。

 伝言を切ってトイレから退出しようとしたところ、一人の男と目が合った。金髪七三分けで身長が高く、いかにもエリートという感じだ。

 

「お前……!? ちょっと待て。話したいことがある」

「えっ」

 

 そのまま両肩を掴まれ、トイレの個室に押し込まれる。嘘だろこいつまさかホ

 

「どうなってるんだその腕は」

「腕? ……あっ!」

 

 完全にやらかした。この男を消さなければならない。

 




ここでは金貨は現在の貨幣価値に換算して10万円相当とします。
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