ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は、殆どオリジナル展開です。
しかし、いよいよ明日ですね!キングオブモンスターズ!
私はもちろん明日見に行きますよ!


第5話 決意の試練

~~前回のあらすじ~~

訓練の一環としてオルクス大迷宮へとやってきた

ハジメ達。そこでハジメは、香織からハジメが死ぬ

夢を見て、迷宮行きを止められるが、ハジメは

彼女と約束を交わし迷宮へ行く事に。迷宮でハジメは、

司と共に彼の作ったジョーカーを纏って戦った。

そんな中、檜山の軽率な行動から罠に嵌まる一行。

彼らは石橋の上でベヒモスとトラウムソルジャーの

集団に挟まれる。だが、ハジメと司の活躍でこの

危機を脱する一行。その際、檜山がハジメを排除しようと

動くが、司の活躍でハジメは無事生還。更に司が

証拠となる物を突き付け、檜山が殺人を行おうと

した事が周囲に広まる。そして宿屋に戻った

ハジメの元に香織が現れ、約束を守れなかった事を

謝罪。そんな中で司が二人を思いっきりたき付け、

二人は互いの思いを告白。晴れて恋人同士に

なるのだった。

 

 

~~~

二人が落ち着く頃を見計らい、私はドアを

ノックして中に入った。

「それで、二人は付き合う事に?」

と聞けば、二人は顔を赤くする。

「う、うん。まぁ、ね」

「そうですか。それは何より。……ただ、

 一つアドバイスをしても良いですか?」

「アドバイス?」

と、首をかしげる香織。

「香織は先ほども言ったようにクラス一の

 美女。ハジメもあの時英雄的な活動を

 したから、例え付き合って居る事を

 公言しても、まぁ周囲からそこまでの 

 やっかみは受けないでしょう。しかし、

 二人が付き合う事を快く思わない者も

 居るでしょう。特に檜山や、その取り巻きです。

 なので、こう言ってはあれですが、余り

 周囲に人目があるときにイチャつかない

 ように。あと、互いが恋人だと言うことは

 隠しておいた方が良いでしょう」

「そ、そっか。うん、分かったよ新生くん」

「そ、そうだね。僕もそう思う」

 

と、頷く二人。しかし問題は檜山だけ

では無い。あのバカ勇者だ。

奴の日頃の言動からして、香織がハジメに

話しかけているのは、『香織が世話好きで

優しいから』と思い込んでいる節がある。

そこに、『香織はハジメが好きなのでは?』

と言う思考は存在していない。奴は

全て自分の都合の良いように解釈する

悪い癖がある。これで、ハジメと香織が

結ばれたとあっては、奴はハジメが香織に

何かして脅しているのでは、とでも

疑い出しそうだ。

あの洞窟で檜山を脅していたとき、勇者は

私が、『香織が誰の隣に立つのかを決めるのは、

彼女自身だ』、と言ったとき、あからさまに

頷いていた。

恐らく、奴の思考の中では、その誰か、とは

自分であると考えているのだろう。

 

そう言う意味では、あのバカ勇者も檜山と

大して変わらない。変わっているのは、

変にカリスマがあるのと力がある事だけ。

 

……いざとなれば、私の力で消せば良い。

しかし、避けられる可能性があるのならば

無用な争いは避けたい。それに奴は、癪だが

人気がある。中身がポンコツだが、外面は

良いのだ。ここで奴を殺す事は、どれだけの

人間と対立するか分からない。

それが私の考えだ。

 

「ねぇ、それって雫ちゃんはダメ?」

「雫ですか?まぁ、彼女は口が堅そうですし、 

 彼女なら大丈夫でしょう。しかし、坂上は

 脳筋ですし、天之河は、何というか

 騒ぎそうなのでやめておいた方が

 良いでしょう。あっ、何なら雫には

 私から言っておく事も出来ますが?」

「そっか。けど良いや。やっぱり私の口から

 直接言いたいから」

「分かりました」

 

その後、香織は自分の部屋に戻っていき、私と

ハジメも眠りについた。

ふぅ、今日は色々な事があった。

そう思いながら、私は眠った。

 

 

そして翌朝。ベヒモスと戦い、それを打ち倒した

とあって、それらの報告と予定が狂った事。

予想外の戦いに皆が疲れていると言う事で

私達は王都へと戻った。

そして、帰還後すぐに私達はメルド団長たちと

共にイシュタル、エリヒド王たちと謁見した。

 

まずは、メルド団長が『誰が何を』の部分を

省いて事のあらましを話した。

トラップに掛かり、橋の上に投げ出され、前を

トラウムソルジャーの群れ。背後をベヒモスに

挟まれた事。ちなみに、ベヒモスの名前が

出たときは、周囲の貴族達や武官など皆一様に

驚いていた。

更に、そのベヒモスが倒れたと聞けば、皆が

ザワザワとざわめいた。後に団長から聞いた

話によれば、最強と呼ばれた冒険者でさえ

歯が立たなかった怪物なのだそうだ。

そして、メルド団長がベヒモスとソルジャーを

倒し無事全員で生還した、と報告を受ける。

 

すると……。

「素晴らしい」

そう言って、イシュタルが笑みを浮かべた。

「流石はエヒト様に召喚された神の使徒殿たちだ。

 して、誰がベヒモスを倒した?やはり、

 勇者である光輝殿か?」

イシュタルは、期待のような視線を光輝に

向ける。他の人々もだ。

だが、肝心の光輝は苦々しそうな表情を

浮かべながら俯く。

 

「いえ。彼ではありません」

「……何?」

メルド団長の言葉に、イシュタルを始め

皆一様に怪訝な表情を浮かべた。

「ベヒモスを倒し、トラウムソルジャーの群れを、 

 まるで赤子の手をひねるが如く蹴散らしたのは、

 この二人です。新生、南雲。前へ」

「「はいっ」」

 

メルド団長の言葉に従い、私とハジメが一歩

前に出る。

それだけで、ザワザワと周囲がざわめく。

耳を澄ませば、『何故無能が?』『何かの間違いでは?』

と言う声が聞こえる。どうやら、ハジメが無能

だと言う話は貴族達の間にも広がっているようだ。

 

しかし、それは過去の話だ。

「どういうことですかな?メルド団長」

「どうもこうもありません。私はこの目で、

 はっきりと二人が戦う姿を見ました。

 ……二人とも、『あれ』、見せてくれるか?」

と言う団長の顔には、何やら悪戯を

思いついた子供のような笑みが浮かんでいた。

やれやれ、と想いつつ私は指を鳴らした。

 

すると私とハジメの前に、ヘルメットの

無いジョーカーZとジョーカー0が現れた。

それだけでどよめく人々。すると、

ジョーカー2機の胴体部パーツが上方向に開いた。

私とハジメは、前に回り込み、機体の中に

体を滑り込ませた。胴体部パーツが元に

戻ると、私は指を鳴らし二人のヘルメットを

取り出した。私とハジメは、うなずき合いながら

メットを被った。

 

それぞれのカメラアイが光を放つ。

私達に周囲が驚き、私達を見ている。

……なにやら王子であるランデル殿下が

キラキラした目で私達を見ている気がするが、

無視しよう。

 

「お、おぉ。メルドよ。これは一体……」

驚いた様子で彼に問うエリヒド王。

「はっ。これは、使徒の一人である新生司が

 開発した、ジョーカーと呼ばれる鋼鉄の

 鎧です。その力は、さながらアーティファクト

 のようでした。纏えばそれだけで力が増し、

 拳の一撃は巨大な鉄板を貫き、蹴りは

 一撃で鉄板を切り裂きます。そして、

 特筆するのは、その武器です。新生、

 ベヒモスを仕留めたアレを、皆に

 見せるんだ」

「はいっ」

 

そう言われ、私は背面のラジエータープレート

と右腕の巨砲、G・キャノンを展開した。

 

人の身の丈もあるG・キャノンに、改めて

それを見た生徒達や周囲の人間たちが驚き

ざわめく。

「この大きな筒から放たれた光は、

 ベヒモスをして、一切の抵抗を許さず

 に消し去りました」

「何とっ!?ベヒモスを一撃で!?」

「はい。それを目にしたときも、私は

 目を疑いました」

「うぅむ。何と大きな武器か。これを

 片手で持ち、一人で扱うとは」

と、エリヒド王はとても驚いていた。

 

その後、メルド団長、騎士アランの二人が

更に事細かに状況を説明し始めた。

20層の深部で、ふとしたきっかけから

グランツ鉱石を発見。それを取ろうとした檜山が

メルド団長の言葉を無視して、結果的に

トラップに嵌まってしまった事。

転移した状況で、皆がパニックになる中、

司がG・キャノンでベヒモスを倒し、ハジメが

皆を激励してソルジャーの壁を突破したこと。

撤退が遅れていた光輝やメルド団長を、

ハジメと司の二人が更に助け、撤退を

手助けした事。更に騎士アランはハジメの

勇気ある行動を称え、メルド団長は私の

知力とハジメの冷静さを称えた。他の同行していた

騎士達も、私達に対しかなり好感を持っていた様子だった。

そして、更に、二人の口から最後の攻撃で

檜山がハジメたちを排除しようとして

攻撃した事。しかし間一髪で二人が

生還したことを伝えると、皆の視線が

檜山に突き刺さる。

 

そこには、奴に対する軽蔑の物しか無かった。

 

特に武官たちは、ジョーカーの活躍を

聞く度に私に感心を示していた。

どうやら、そのジョーカーの生みの親である

私の損失が、どれだけの被害なのかを

考え、殺そうとした檜山に対して良い気分が

しなかったようだ。

 

しかし、一方で、余り私達に良い感情を

抱いていない者の視線がいくつかある。

どうやら、勇者である光輝を差し置いて、

活躍した事が許せない令嬢がちらほら居る

ようだ。奴は貴族令嬢達の間でも既に

人気を集めつつある。

 

バカな。戦争をするのなら、誰が活躍するか

では無い。どれだけ結果を残したか、

だろうに。などと思って居ると、最後に

エリヒド王が私達を英雄として称え、謁見は

終了した。

 

結局、謁見のあった日と翌日は訓練も無く、

休みだった。

神の使徒、と賞される私たちの中で、ベヒモスを

討ち取ったのを生かす腹づもりだろう。

城内を歩いていれば、私を見てベヒモススレイヤー、

などと言う言葉が聞こえてきた。

 

かつて最強と言われた冒険者をして倒せなかった

怪物を、一撃で仕留めた漆黒の鎧の戦士。

 

これほどプロパガンダに適した題材は無い。

この話は警備の兵士たちの間でも噂に

なっている。城の外にこの話が漏れるのも、

時間の問題だろう。

そう思いながら廊下を歩いていると……。

「あっ、新生君」

不意に、愛子先生と遭遇した。

愛子先生は現在、ハジメと同じ非戦闘職ながらも

『作農師』、と言う天職を生かして各地の農業

改革を行っていた。

その先生がどうやら帰って来ていたようだ。

私を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。

「ハァ、ハァ、新生君!あ、あの!

 大丈夫だったんですか!?私、

 皆が迷宮で大変な事になったって

 聞いて、それで!」

「落ち着いて下さい先生。怪我をした者も

 いますが、死者や重傷者はいません。

 傷も既に癒えて皆元気にしています」

何とか落ち着けようとする私の言葉を

聞いて、どうやら幾分か安心を取り戻した

様子の先生。

 

「そ、そうですか。……ごめんなさい、

 取り乱してしまって」

「いえ。お構いなく。それでは、 

 私はこれで」

と言って、離れようとしたのだが……。

「あっ!待って!」

と言って、服の裾を掴まれた。

「まだ何か?」

「あ、えっと、その、実は檜山君が

 とんでもない事をしたって聞いて。

 でも周りの人は詳しい事を

 知らなくて。それで生徒の

 誰かに聞こうと思ってたら、

 丁度新生君を見つけたから」

「そうでしたか。分かりました」

 

その後、私は先生の部屋に行き、

事の次第を全て話した。

 

「そ、そんな……!檜山君が、

 南雲君と、あなたを?」

「はい。奴は香織を好いていた。その隣に居る

 ハジメが邪魔だった。それが奴の行動理由です」

「そんな、それだけで……?」

信じられない、と言うような顔をする先生。

 

しかし、今更だ。

「人は時に、自らの欲望を抑えきれなくなり、

 暴走する。それが、犯罪や戦争です。

 欲しい物を手に入れるために、邪魔な

 存在を排除しようとする。それは人が

 誰も持つ闇の側面です。よく、人が

 変わったように、などと言いますが

 奴の性格を考えれば、そもそも

 考える必要など無かった。もっと

 しっかり、警戒しておくべきだった。

 でなければ、ハジメが危険に晒される

 必要など無かったと言うのに。

 ……。私も、まだまだ甘い。やはり、

 洞窟を出る時殺しておくべきだったのか」

「ッ!?今の、まさか、新生君は、

 檜山君を?」

 

「はい。迷宮脱出時、私は奴を射殺する気

 でした。しかし一番の被害者である

 ハジメが許したので、今は生かしています。

 最も、また同じような事をしたら今度こそ

 問答無用で射殺すると脅しておきました」

すると……。

「どうして!?どうしてそんな事を!?」

立ち上がり叫ぶ先生。

「新生君!何であなたは、そう簡単に

 殺すなんて言えるの!?仮にも

 クラスメイトを!」

「……。私は、私が望む人々が平和ならば

 それで良い。残りは赤の他人か、敵。

 そして檜山は私やハジメに手を出した。

 言わば、敵。敵は殺さなければ、守りたい者

 を、失わない為に。それに、端的に言って、

 奴の命に興味が無い。どうなろうと、

知ったことでは無い。そんな所です」

「そんなっ!?だからって!?」

 

「……。我々は戦争をしようとしているの

ですよ?」

「ッ!?」

「戦争とは殺し合い。……私はあの時言った。

 殺すなら殺される覚悟も持て、と。

 それは戦場に立つ必要不可欠な意思です。

 そして、現状元の世界に帰還するのなら、

 魔族を滅ぼしエヒトに頼るしか無い。

 ……戦わなければ生き残れない。

 ハジメや香織を元の世界に戻す為に戦う。

そのために、この手を血に汚す覚悟は

とっくに出来ています。

 守るべき物があるのなら、決意を持って

 その手に武器を取る。例えどれだけの

 血を被ろうと、どれだけ恨まれようと、

 所詮、恨まれ血に汚れてこその戦争。

 私にはその決意がある。それだけの事

 ですよ。守りたい人たちの為ならば、

 私は国家や神全てを敵に回してでも戦う。

 それが私の決意です」

とだけ言うと、私は立ち上がった。

 

「とりあえず、伝えるべき事は伝えましたので、

 失礼します」

そう言って出て行こうとしたとき。

「ま、待って!」

先生に呼び止められた。

 

「こ、後悔は、後悔はしないの?人を 

 殺す事に。戦争の道具になる事に」

 

「……。大切な人を守る為ならば、私は

 喜んで戦争の犬にでもなる覚悟です。

 大切な人を守れるのなら、私はどんな

 絶望的な状況でも戦い、その手を血で

 汚す事を厭わない」

ハジメや香織を、守ると誓った。ならば、

戸惑う必要も無い。

 

「敵ならば殺す。味方なら守る。それが、

 私の戦争に対する線引き。それだけです」

そう言い残して、私は今度こそ部屋を出た。

 

~~~

 

「敵ならば殺す。味方なら守る。それが、

 私の戦争に対する線引き。それだけです」

 

そう言って、私の教え子は出て行った。

私、畑山愛子はそれを呆然と見送る事しか

出来なかった。

そして、彼が出て行ってしまうと、私は

椅子に腰を落とした。

 

……彼は言った。人を殺すと。戦わなければ

生き残れないと。

まるで彼は、戦いを知っているかのような

口ぶりだった。いや、すでに魔物相手に

実戦を経験しているのだからそれも……。

いやでも、それ以上に何か、達観していると

言えるような物だった。

 

彼は言った。南雲くんや白崎さんを元の

世界に帰すために戦うと。その理由は間違って

無いのかもしれない。

けれど、だからといって人を殺すのはダメだ。

私はそう思って居た。

だけど……。

 

私は、彼の覚悟を否定しきれるだけの自信が

無かった。

彼は、何というか普段から落ち着いていた。

あっちに居たときから、天才と言われても

特にそれを誇示したりしない。むしろ、

普段から寡黙で、感情が希薄だった。

そんな彼が、この世界で兵器を、武器を

作り戦った。

そして、彼は人を撃つことに抵抗の色を

見せなかった。

多分、私がいくら殺人を止めようとしても、

彼は止まらない気がする。

殺人への忌諱感を、一切感じさせない

彼なら……。

確かに、戦うことでしか帰れないのなら……。

そう思う自分も心の中に居る気がする。

でも、やっぱり私は、戦う事を、殺し合う

事を否定したかった。

でも、今の私には出来なかった。少なくとも、

彼を説き伏せるだけの言葉を、

持っていなかった。

 

 

この時、私はまだ知らなかった。彼の出生の

秘密。その存在について。

そして、彼が『神』へと至る存在である事も。

 

 

~~~

迷宮での戦いから既に5日。その日私は

ハジメと共に鍛錬に励んでいた。

その内容というのが……。

「はぁっ!」

「ふっ!」

ジョーカーを纏っての格闘技術だった。

 

ハジメの繰り出すジャブを逸らし、腹部、

顎を連続で殴ってから首元に手を回し

投げ飛ばす。

「ぐっ!?」

倒れるハジメのジョーカー0。しかし

ハジメはすぐに起き上がった。

「まだまだぁっ!」

叫び、殴りかかってくるハジメ。

「ハジメ、格闘技で大ぶりは、厳禁、ですよっ」

「ぐわっ!?」

そう言って、2撃、3撃と避けてからパンチを

掴んで投げ飛ばす私。

 

「もっとコンパクトに、小さく素早く、です。

 大ぶりの技はカウンターを貰う可能性が

 大きいのです。格闘ゲームでは無いのですよ、

 実戦は」

「う、うぐっ!も、もう一回!」

それから私達は、数時間に及ぶ格闘の訓練を

行った。幸い、私の頭の許容量は人間のそれを

遙かに上回る物。知識として格闘技の技や

ポイントを覚えていたのが幸いし、今はこうして

ハジメを相手に格闘技の訓練をしていた。

そして、少し離れた場所で訓練していた香織が

こっそりとこちらを見て笑っていた。

 

オルクスでの一件、いや、香織との告白の

一件以来、ハジメは以前にも増して訓練へ

積極的に参加するようになった。

 

そして、今のハジメのステータスがこれである。

 

~~~~

南雲ハジメ 男 レベル:10

天職:錬成師

筋力:20(4000)

体力:20(4500)

耐性:20(5000)

敏捷:20(4000) 

魔力:20(20)

魔耐:20(5000)

技能:錬成、言語理解、鋼の戦士、王の祝福を

   受けた者

~~~~

 

基本的なステータスは最初の時から2倍程度しか

成長していない。しかし問題は括弧の中だ。

倍などと言う物ではない数値にまで上昇

している。

それに技能にある鋼の戦士、から察するに、

ステータスプレートがジョーカー0の

事を技能として認識している。括弧内の

数値は、ジョーカーの力を数値化した

物だろう。パワーよりも防御力に重点を

おいたジョーカー0の事を考えれば、

納得も行く。ジョーカーには魔力を増幅

するオプションも無いから、その点だけ

数値が変動していないのもうなずける。

……。開発してみるか、魔力増幅装置。

 

しかし、王の祝福を受けた者、とは。

この文章の中での王、とは間違い無く私の

事だろう。……しかし、なぜこんな技能が?

私との繋がりが関係あるのだろうか?

……と言うか、そもそも技能なのか?

 

などと考えている私の横で、ハジメは

ヘルメットを脱ぎ、荒い呼吸を繰り返し

ながら汗を拭っている。

「大丈夫ですか?ハジメ」

「ははっ、何とか、ね」

と、話していると……。

「『ハジメくん』」

 

香織が水筒を手にやってきた。

「これお水。喉渇いたでしょ?」

「あ、あぁ、ありがとう『香織さん』」

と、互いに下の名前で呼び合う二人。

二人は、あの夜以来付き合い始めたが、

私が言ったとおり周囲へは公言していない。

しかしその代わり、互いの事を下の名前で

呼び合っているのだ。

 

「あっ、良かったら『司くん』もどうぞ」

「ありがとうございます」

まぁ、それは私も同じだ。二人は、互いを

守ろうと必死なのだろう。ハジメも

香織も、己の強さを磨いている。

 

と、そこに……。

「ねぇ新生、ちょっと良い?」

「ん?はい」

声がして、顔を上げるとそこはクラスメイト

の女子が立っていた。彼女の名は

『菅原 妙子』。おっとり系ギャルの

見た目の女生徒だ。

「どうかしました?」

「うん。実は新生に貰ったこれなんだけど……」

そう言って、彼女が見せたのは、メカニカルな

鞭、『電磁ウィップ』だ。

 

「実はあとちょっと追加して欲しい機能が

 あるんだよね。出来る?」

「構いませんよ」

電磁ウィップは私が開発した物だ。菅原は

操鞭師という天職を持っているため、

彼女にあった武器として作った物だ。

 

彼女のオーダーは打ち付けた時にダメージが

上がるように、先端に展開式の刃を

付けて欲しい、と言う物だった。

この電磁ウィップは発熱機構と発電機構を

内蔵しており、相手を縛り付けて電流を

流す。打ち付ける際に発熱して相手を

溶断、もしくは熱によるダメージを

与える物だ。

 

その後も、何人は私手製の武器を持った

生徒達がやってきて、私にチューンを

頼んでいった。

 

なぜ、皆が私の武器を持っているのか、

その発端は愛子先生だった。

一昨日、先生が訓練を見に来て私とハジメ、

雫だけが未来的な武装を使って居るのに

気づき、不公平だから皆に武器を作って

あげなさい!と私に言ってきたのだ。

私は覚悟についてを答えたが、それ以前に

身を守るには強い武器が必要だ、と言われて

しまったのだ。

先生として、戦争はしてほしくないが、

それ以前に生徒に死んで欲しくない、と

涙ながらに言われてしまったのだ。

 

流石に断り切れなかった為、『一部を除き』、

私お手製の武器を与えた。

そう、受け取ったのは、全員では無い。

光輝と、檜山たち4人だ。

 

光輝は私の作ったエネルギーブレードの

受け取りを拒否した。その際に……。

「いやっ!俺は自分の力で強くなる!

 与えられた力で楽して強くなろう

 なんて、間違っている!」

そう言っていた。まぁ、私自身

こいつに武器を作るのは若干癪だった

ので、断る理由が出来た。

 

そして檜山たちに対しては、ハジメに

対しこれまでの非礼を土下座して謝罪し、

二度と彼を侮辱するな、そうすれば

武器を作ってやる、と言ったが案の定、

檜山がそれを拒否。戸惑う他の3人に

対して怒鳴りながらその場を後にした。

 

その際、先生から戸惑う視線を向けられたが、

私もここばっかりは譲れなかった。

「どうしてダメなんですか?新生君」

「奴らはこれまで、ハジメを侮辱していました。

 錬成師となったハジメを侮辱し、更には

 ジョーカー0を奪うために襲ってきた

 事もあります。ハジメに対する明確な

 謝罪と、二度と彼にこんな事をしないと

 言う確約が無ければ、私は武器を作る気に

 はなれません。でなければ、奴らはまた

 強くなったと勘違いしてハジメに喰って

 かかるでしょうから。……如何に先生と

 言えど、こればかりは譲れません」

しばし互いの視線を交差させる私と先生。

 

「……。分かりました。私が4人と話を

 してみます。謝って、約束すれば良いんですよね?」

「はい」

まぁ、これまで散々侮辱してきた相手に頭を

下げるんだ。特に檜山はこれを拒否するだろう。

しかし、仮に武器が渡った所でそれを消すのは

私の自由自在。驚異にはならないだろう。

 

ちなみに、武器はクラスメイト達だけではなく

日頃から世話になっていたメルド団長達全員

にもプレゼントした。

まずは、私の細胞から培養して創り出した剣、『マルス』。

この剣は見た目こそ普通の西洋剣だが、耐久力は

私の第4形態並みだ。つまり、並大抵の攻撃では

破壊不能なのである。

次に、相手の攻撃のエネルギーを吸収、圧縮し

おおよそ2倍の出力の衝撃波として相手に

はじき返し、その体をバラバラにする衝撃反射

シールド、『エア』。

この二つをメルド団長達に渡していた。

 

 

その後、私達は再び何度かオルクス大迷宮で

戦っていた。

 

『バンバンッ!!』

「クリアッ!」

『バンバンッ!』

「こちらもクリア」

襲いかかってくる魔物を、私とハジメの

タナトスが撃ち殺す。

 

今の階層は、既に30階層を超えていた。

皆も、私が武器を与えた事でかなりの力を

付けている。

加えて、ハジメも銃を使った戦闘に慣れ始めた

のも強い。

今の私達ならば、リアルな軍隊と同じ動きが

出来る。

 

しかし、皆が強くなるに連れて、不安が

大きくなっていった。そして、ある日。

「メルド団長」

迷宮の攻略を終えた私達は宿に戻った。

そして、その時私は団長に声を掛けた。

「ん?新生か?何だ?」

チラッと周囲を見回せば、私以外に

居るのは団長と騎士の人々だけだ。

 

これなら良いか。

「団長、一つ聞きたいのですが……。

 いつ、人殺しの訓練を始める気ですか?」

「ッ」

私が問うと、団長を始め、騎士の皆さんが

表情を暗くする。

「……。どうして、それを?」

メルド団長がそう問いかけてくる。

 

「幸いにして、今日まで我々は死者を

 出していない。皆も日々戦闘に

 慣れ始めています。しかし、戦闘への

 慣れと人殺しへの慣れは違います。

 ……いい加減、始めなければ。

 実戦で魔族を、人の形をした物を

 殺せと言われても、彼らは必ず

 戸惑います。そして、最悪そのまま

 殺される。……もし、魔族側に

 勇者がいる事がバレれば、向こうが何らかの

 行動を起こしてくるでしょう。今は

 まだ魔物だから良いですが、もし

 本格的に魔族と事を構えてからでは、

 遅いですよ」

「……。そうだな。新生の言うとおりだ」

「それでは、団長」

「あぁ。明日、王都に戻ったらそっちの

 訓練を始めるべきだろう」

「意見を聞いて頂き、ありがとうございます。

 これで、ある程度はふるいに掛けられるでしょう」

「ん?どう言う意味だ?」

「私達の最終目的は、あくまでも自分達の

 世界への帰還です。そのために戦う、と言うのが

 今のところの目標です。しかし、では

 その目標の為に人殺しが出来るかどうか。

 覚悟があるかどうかを調べるのです。

 ここで迷うようでは、実戦では使えない。

 精々魔物の相手が関の山です」

「そうか。……そうだな。……所で、お前は

 どうなんだ?そう言うの」

「既に覚悟は出来ています。大切な友人を

 守る為。敵なら殺す。味方なら守る。

 それだけです。敵にも家族や友人が

 居るようですが、そんな悠長な事を戦場で

 考えていたら死にます。だから、生きるために。

 或いは敵を心配する以前に守らなければならない

 人達の為に、敵を撃ちます」

私は、自分の覚悟を示した。

 

「ホント、お前は頭一つ飛び抜けてんなぁ。

 分かった。もうこれ以上は聞かねぇよ」

そう言って、団長と騎士たちは行ってしまった。

それを見送り、私は自分の部屋に戻った。

 

 

~~~

「良かったのですか?団長。新生殿の

 言う事を聞いて」

歩いていると、部下の一人が俺にそう

聞いてきた。

「遅かれ早かれ、やることになっていた訓練だ。

 それに、あいつの言うとおり本格的な

 戦いになってから殺人訓練、とも

 行かないだろ。どうせ、いずれはやらなきゃ

 ならなかったんだ。ふるいに掛けるってのも、

 奴の言うとおりだ。殺せる奴と殺せない奴に

 分ける。その辺も見極めてやる必要が

 あるさ。……それにしても……」

「新生殿、迷いがありませんでしたね」

「あぁ。友を守る為に敵を撃つ。そのための

 躊躇いもねぇって目をしてたな、ありゃ。

 まぁ、はっきり言ってそう言う奴の方が

 実戦で力を発揮するってもんだ。

 ひょっとすると、あの勇者よりもな」

「光輝よりも、ですか?」

「あぁ。……あいつは強い。しかし、お前等も

 聞いただろ。あいつ、新生が檜山を

 撃ち殺そうとした時止めたよな?そして、

 南雲と新生が、次は許さねぇって

 言ったときもだ。そりゃいきなり

 殺すのはどうかと思うが、次同じ事やった

 として、許すか普通?流石に2度目とも

 なりゃ、撃ち殺されても文句は言えないと

 思うがな。それをあいつは、殺人はダメ

 だと言った」

「……。まさか、勇者である光輝が一番

 戦えない、なんて事は」

「……あるかもしんねぇなぁ。殺人を

 あそこまで忌諱しているようじゃ、

 或いは……」

 

そう、俺は不安げに呟いた。

 

そして、その予想は当たっちまった。

 

 

~~~

翌日、王都に戻っていた私達。そして今日の

訓練となったのだが……。私達の前には、

浅黒い肌で作られた、僅かに耳の尖ったマネキン人形の

ような物がいくつも並べられた。

ちなみに私とハジメは既にジョーカーを纏い、

メットだけ外していた。私がハジメに言って

外したままなのだ。……でなければ、恐らく

『汚して』しまうだろう。

そう考えていると、団長がやってきて

話し始めた。

 

「よぉし、全員居るな。んで、急ではあるが、

 これからお前達には、ある事に慣れて貰う。

 それは、『人の形をした物体への攻撃』。

 まぁ、言っちまえば殺人への忌諱感を

 無くす訓練だ」

と言うと、ザワザワと生徒達がざわめく。

そして……。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいメルドさん!

 これはどういうことですか!?」

やはりあの勇者が食ってかかった。

メルド団長が何かを言おうとしたが、

その前に私が口を開いた。

 

「どうもこうもあるか。私達は戦争を

 しようとしているんだぞ?」

私は一歩前に出て、皆に向かい合った。

そして、後ろのマネキン人形を一瞥する。

「メルド団長、あの人形の肌の色と

 尖った耳、意味があるんですか?」

「あ、あぁ。魔族はその、肌の色が

 浅黒いって事とちょっと耳が

 尖ってるって事以外、姿形は

 あんまり人と変わらねぇ」

と言うと、一番動揺したのは勇者だった。

「そ、そんな!?あれじゃ、見た目は殆ど

 人間と……」

 

「つまり、ここであんな人形程度の物に 

 攻撃を躊躇っているようでは、そもそも

 戦争をしようなど夢のまた夢、

 と言った所か」

そう呟いた次の瞬間。

『ジャギッ!』

私はトールを抜き……。

『バンッ!』

一発、炸裂弾を放った。

『ドバンッ!』

そして、一体の人形の頭が吹き飛んだ。

 

しかし、吹き飛んだ瞬間周囲に真っ赤な肉と血が

飛び散った。

それだけで、後ろでは数人の生徒が口元を

押さえている。

しかし、私にはどうと言う事はない。

 

「ふむ。メルド団長、あの人形には

 何か仕掛けが?」

「あ、あぁ。ただの人形じゃ訓練にならねぇ

 だろうと思って、中にちょっとばかし

 動物の血と肉を入れてある。攻撃を

 受けると、出血したりするようにな」

「成程。リアリティを求めている訳

 ですか。納得です」

と言うと、私はトールをホルスターに

戻した。

 

その時。

「な、何をやってるんだ新生!!」

勇者が私の方に歩み寄って来た。

「何を、とは?」

「何って、今『躊躇いも無く』撃っただろ!?

 その銃で、に、人形を!」

「えぇ。そうですね。人形を撃ちました。

 それが何か?」

「何でそんな簡単に撃てるんだ!もし

 あれが本物だったらとか、考えないのか!?」

 

……ハァ、やはりこいつはバカだ。

団長達の方を見れば、唖然としている。

私にでは無い。勇者にだ。

 

「天之河光輝、やはりあなたはバカで

 どうしようも無い」

「な、何!?」

 

「忘れましたか?イシュタルから説明を

 受けたあの日、『躊躇いも無く』戦争への

 参加表明をしたのは、どこの誰だ?

 貴様だろう。天之河光輝。人を救うと

 言って、戦争をすると言ったのは、

 他ならぬお前だぞ?」

 

「うっ、そ、それは……」

「あれだけ勇ましく戦争をすると言っておいて、

 人の形をした生命は殺せない、だと?

 あの日、私は言ったはずだ。魔族も

 生命である以上、父と母が居て子供を

 作り生活していると。戦争をする、

 と言うのはそれら全てを皆殺しに

 する、と言う事だぞ?」

「そ、そんな必要は無いはずだ!

 こ、言葉が通じるのなら、話し合いで!」

「おい。貴様最初に言った事と今言っている事、

 矛盾しているぞ?最初は戦争賛成だった

 お前が、途端に戦争反対だと?

 ふざけるなよ?」

「ふ、ふざけてなんか無い!だ、大体

 新生はどうなんだ!今みたいに、

 簡単に人を撃てるお前の方が可笑しい

 んじゃないのか!?」

 

「ほう?それを聞くか?ならば教えてやる。

 覚悟がある、それだけの事だ」

「そ、それだけで!?」

「それだけだ。私には戦うに足る十分な理由だ。

 少なくとも、私の友人であるハジメは

 元の世界への帰還を望んでいる。

 だが、それを叶えるために一番可能性

 が高いのは、イシュタルの言うように

 戦争で勝ち、エヒトの力を借りる事だ」

「だ、だったら話し合いで平和的に!」

「平和的に、だと?両種族間で会合を

 開き、平和条約でも結べと?」

「そ、そうだ!言葉が通じるのなら、

 きっと!きっとわかり合えるはずだ!」

「……そうか。平和的解決がお望みか。

 なら、今すぐ勇者を止めて外交官に

 なる勉強をする事だ」

「なっ!?なぜそうなる!?」

「平和的にこの戦争を終わらせたいのだろう?

 だったらそうする他あるまい?

 それとも、貴様にはそれ以外にこの

 戦争を終わらせられる策があるのか?」

「そ、それは……。ッ!い、いや待て!

 そもそも何故こんな話をする!

 僕達は、この世界の人を助けるために

来たはずだろう!?」

「戦って敵を滅ぼし、人族を平和に

 するために、な。……まさかとは

 思って居たが、やはりお前は『ハズレ』だ」

「ッ!?どういう意味だ!?」

 

「お前は最初、勇んで戦争参加を表明した。

 が、人殺しの訓練になった途端に人殺し

 反対、だと?」

そして、次の瞬間私は奴の襟を掴んだ。

 

「貴様、戦争を何だと思って居る……!

 この、甘ちゃん坊やが……!」

『バッ!』

「うわっ!」

私は勇者を突き飛ばした。尻餅をつく勇者。

すると、女子数人が私に怒りの視線を

向けてくるが、無視する。

 

「戦争は殺し合いの場所だと

 何度言えば理解する。あれだけ息巻いて

 おきながらこの様。だから貴様は

 ハズレなのだ。何の覚悟も決意も無く、

 力を振るって、そして見たくない物、

 やりたくない事に反対する。

 救いようがなさ過ぎる。だがまぁ

 喜べ、お前は第一線から外されるだろう。

 精々魔物相手に戦っていろ。人とは

 戦いたく無いらしいからな」

それだけ言うと、私は勇者の前から

離れようとした。が……。

 

「待て!可笑しいのは、お前じゃないか!

 そうやって簡単に人を撃てるお前の方が!

 お前は、楽しんでいるんじゃないのか!

 戦う事が!だから、簡単に人を撃てるん

 じゃないのか!?きっとそうだ!

 お前は楽しいから人殺しが出来るんだ!」

バカ勇者は、まるで私をウォーモンガー

みたいに言い始めた。

 

やはりこいつは私について、勝手に解釈

しているようだ。

ならば一言言ってやるか。

「バカバカしい。言っただろう。

 戦争をするなら覚悟を持てと。

 帰る為に戦う覚悟。大切な友人を

 守る為に戦う覚悟。そのために、

 時には血の雨に濡れる覚悟。

 貴様は大義名分を掲げても、そこに

 それを貫き通す覚悟が存在していない。

 言わば、上っ面だけの空っぽな存在だ」

「か、覚悟があるのなら戦争で人を殺して

 良いと言うのか!?そんな訳無いだろ!

 覚悟とは、それは詭弁だ!」

「……その言葉、そっくりそのまま貴様に

 返してやろう。戦いたく無いからと

 平和的解決云々を言う貴様の言葉もまた、

 詭弁だ。最前線で命を賭けて戦っている

 兵士に、今と同じ言葉が言えるか?

 殺しは良くない、と?それで兵士達が

 納得するとでも?貴様。祖国、家族、友人。

 守るべき人や物があり、戦っている人々に

 今と同じ言葉を言って、納得させられる

 とでも?」

 

そこまで言うと、勇者は立ち上がりこちらを

睨んでいる。何やら今にも聖剣に

手を掛けそうな勢いだ。私は両腕を

組んだままだが、いざとなればトールを

抜く用意をしていた。

いや、いっそのこと武器を抜いたのを

理由に撃ち殺すのもあり、か。

 

等と考えていた、その時。

『スッ』

私とバカ勇者の間にハジメが現れた。

「ッ、ハジメ?」

「な、南雲?」

私達は声を掛けるが、ハジメは何も

言わずに私達の間を通り過ぎ、

タナトスを構えた。

 

「僕は、僕は戦う!帰りたい場所が

 あるから!守りたい人が居るから!」

そう叫び、構えるハジメ。そして

香織は、その言葉を聞いたとき一瞬だけ

息をのんだ。

そして……。

 

「ウォォォォォォォッ!!!」

『ババババババババババッ!!!』

雄叫びを上げながら撃ちまくるハジメ。

無数の炸裂弾が人形の周囲に着弾する。

そして……。

『ドバンッ!』

幸か不幸か、そのうちの一発が人形の

腹部に着弾、上半身を木っ端微塵に

吹き飛ばした。

 

周囲に血が飛び散り、私以外の皆が

呆然となる。

そして……。

「ハァ、ハァ、ハァ!うっ!?」

ハジメは、タナトスをその場に投げ捨てると

壁際に向かって走り出した。

そして……。

「うぅ、うぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

胃の中の物を吐き出した。

やはり、こうなるかもと思いヘルメットを

装着させていなかったのだが、正解だったようだ。

「ハジメくん!」

それを見て、香織が慌てた様子で駆け寄り、

ジョーカー越しに背中をさする香織。

 

それを私が見ていると……。

「ほら、これで、分かっただろ」

何故か勇者が自慢げに語り始めた。

「普通の人間が、お前みたいに簡単に

 人を撃てるわけ無いんだ!それはつまり、

 お前が普通じゃないって事だ!

 だからお前の言っている事はでたらめだ!」

そう叫ぶ勇者に、いい加減殴ってでも

現実を教えようとしたとき。

 

「僕は……」

ハジメの弱々しい声が聞こえ、私は振り返った。

彼は、壁に手を突きながら立ち上がった。

「僕は、司みたいに何かを作れる訳

 じゃない。錬成師って言う非戦闘職だ。

 ジョーカーが無ければ、まともに

 戦えない……!それ、でも……!」

フラフラになりながらも、ハジメは

立ち上がり私を見ている。そして、

次に隣に立つ香織を見つめる。

 

「僕は、家族の所に、あの世界に

 帰るって誓ったんだ。守りたい人を、

 守るって決めたんだ!

 そのために、戦うしか、無いって

 言うのなら、僕は戦う!」

 

「ハジメくん」

決意の籠もった目で、ハジメは真っ直ぐ前を

見つめている。そして、その隣で香織も

彼を見つめている。

やがて……。

 

「ねぇ、司くん。私にも撃てる銃って、

 ある?」

「か、香織!?」

「……」

驚く勇者を無視して、私は指を鳴らした。

そして掌に、白い拳銃を創り出した。

これは火薬を使わない。私の持つ魔力を

利用した武器を作れないか?と思い

開発した物だ。

「これを。これは使用者の中にある

 魔力を吸収し、魔力弾、とでも呼べる

銃弾を形成します。反動も殆ど無く、女性の

香織でも扱いやすいでしょう」

香織は、私の手の中にあるそれを取ろうと

した。

だが……。

 

「待てっ!」

後ろからバカ勇者が現れ私の手首を

掴んだ。

「……。何だ?」

「何だじゃない!お前、南雲と

 同じように香織を殺人の道に引きずり

 込もうって言うのか!?そんなの

 俺は認めない!」

「……貴様が認めなくても、戦う戦わない

 の決意と覚悟をするのは、全て個人の

 判断だ」

「香織!新生の戯言に惑わされるな!

 君は治癒師だろ?なら戦う必要なんて

 無いじゃないか!」

「……。ううん。違うよ。治癒師だから

 戦わないなんて、そんなのただの言い訳

 だよ。光輝くん」

そう言って、香織は私の手にあった

魔力式拳銃、『ティアマト』を手に取った。

 

そして、先ほど私やハジメが立っていた

場所からを構える。

「や、やめろ香織!」

咄嗟に止めようとするバカ勇者。それを

更に私が止める。

「彼女は自らの意思で銃を取った。

 ならばそれをどうするか、決めるのは

 彼女自身だ……!」

いい加減このバカの言い分にはうんざり

していた。だから香織に背を向ける形で、

彼女を邪魔しようとするバカ勇者を

妨害する。

 

そして……。

「ッ!!」

『シュンッ!』

香織が引き金を引いた。銃声らしい銃声も

無く、銃口から放たれた白い魔力弾が

空気を裂いて飛んでいく。

そして……。

 

『ドッ!!!』

人形の腹部に突き刺さった。

威力が弱かったのか、貫通したりする事は

無かったが、腹部は大きくへこんでいる。

そして、その影響か僅かに人形の隙間から

血が流れている。

 

あれが生身の人間だったなら、まず間違い無く

内臓損傷は確実だろう。下手をすると

破裂しているかもしれない。

等と思って居ると、香織が震えながらティアマト

を落とし、その場に膝を突いた。

 

「こ、これが、銃の、感覚?私は……」

「大丈夫か香織!?」

そんな彼女にバカ勇者が歩み寄り肩に

手を置くと、キッとこちらを睨み付けた。

「新生!!なぜ香織に銃を渡した!お前の

 身勝手な行いのせいで彼女は傷ついたんだ!」

 

何やらワーギャーと五月蠅い。そう思いつつ、

香織が立ち上がるのを待っていた。

そして、香織は地面に落ちた拳銃、ティアマトを

手に取ると、私の方へと近づいてきた。

「か、香織!?」

「……。ねぇ、司くん。戦うって、人を

 殺す事なんだよね?」

「そう。それが戦争です」

 

「……私ね、今自分で銃を撃ってみて、思った。

 怖いなって、こんな事に慣れたら怖いなって。

 ……でも、でもね。それ以上に、私は私の

 大切な人を守れない事の方が怖い」

 

そう言って、香織は涙を浮かべていた。

「この前、雫ちゃんが司くんから剣を

 受け取ってた時、言ってたでしょ?

 後悔するかもしれないけど、戦うって。

 ……私も、今はそう思ってる。

 戦う事を選んで、たくさん後悔する

 かもしれない。それでも、私は私の

 大切な人を守りたい」

そう言って、笑みを浮かべる香織。

 

そしてあのバカ勇者は

「香織、そこまで俺の事を」

などとほざいている。誰が何時貴様の

事だ言った、とツッコみを入れたいが、

今は我慢して香織の話を聞く。

 

「だから、そのために私も戦う」

 

「……例え、後悔したとしても覚悟が

 あるのなら、それはきっと乗り越えられる。

 ……あなたが戦うと言うのなら、

 私は止めない。その魔力式拳銃、

 ティアマトは、あなたに差し上げます」

「うん。ありがとう、司くん」

 

私に礼を言うと、香織はハジメの方へと

歩み寄った。

その後ろで、「か、香織?俺はこっちに……」

などとふざけているバカ勇者がいる。

いや、こいつは真面目なのだろうが……。

もはや救いようが無いな。

 

とか思いながら二人の動向を見守る。

 

「ハジメくん。その、私もハジメくんと

 司くんのパーティに入れて欲しいの」

と言うと、周囲の皆がざわめく。

 

「か、香織!?何を言ってるんだ!君は

 俺のパーティの仲間じゃないか!

 何で南雲や新生なんかの所に!」

叫ぶバカ勇者。しかし二人の注意を逸らす

程の物では無かった。

 

「私も、強くなりたい。強くなって、

 守りたい人が居るの。そのために、

 二人の戦い方とかを見て、もっと

 強くなりたい。だから……」

そう言うと香織は、今度は私の方へと

視線を向けた。

 

「私にも、切り札(ジョーカー)を下さい。

 守れる力を」

 

そう言って、香織は頭を下げた。

 

「か、香織!?君まで何を言ってるんだ!

 この前の雫みたいに!こんな物に

 頼ったって、人殺しになるだけだ!

 止めるんだ香織!」

 

もはや、こいつの言葉は香織には

届いていないようだ。

まぁ自業自得だ。

そして、彼女の方へ目を向ければ、

真剣に真っ直ぐな目でこちらを

見ている。

 

これ以上、何かを言うのは野暮か。

「……分かりました。雫の分も含めて、

近日中には用意出来るでしょう」

「……ありがとうございます」

 

そう言って、再び頭を下げる香織。

 

すると、バカ勇者が掴みかかってきたので、

その手を掴んで止めた。

「お前、まさか香織にまでジョーカーを、

 その兵器を渡す気か!?」

「そうだ。それが何か?」

「ふざけるなっ!そんな物、香織には

 必要無い!」

「必要無いだと?それは貴様が決める事

 じゃないだろう。香織が何を欲し手に

 入れるのかは、彼女が自分で決める事だ」

 

そう言って、私はバカ勇者を押しのけ遠ざける。

「そうか。分かったぞ。お前、あの

 鎧に何か特殊な装置を仕込んでるな!?

 それで南雲を操って、更に香織まで!」

「いい加減にしなさい光輝!」

何やら過大解釈を始めたバカ勇者を

一発ぶん殴ろうとした時、雫が

止めに入った。

 

「何バカな事言ってるのよ!新生君が

 そんな事する訳ないじゃない!」

「だけど雫!そうで無ければ香織が殺人者に!」

「まだ分からないの!?要は、今の私達は

 試されてるのよ!私も、香織も、

 南雲君も!皆も!……ここで、あの人形を攻撃

 出来ないようじゃ、戦争なんて出来ない。

 戦えない」

「し、雫」

「私は元の世界へ帰る。そのために

 戦う。だから……!」

そう言うと、雫は私の与えたヴィヴロブレードを

抜き放ち、構えた。そして……。

 

「はぁっ!!」

一瞬のうちに人形との距離を詰め、その胴体を

左肩から右脇腹に掛けてを、斜めに一刀両断した。

切られた上半身が落下し、中から肉と血が

溢れ出す。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!ッ!」

その時、雫がフラついた。

「雫!!」

咄嗟にバカ勇者が叫ぶ。が……。

 

『ギュッ』

一瞬で距離を詰めた私がその腕を引き、

止まらせる。

「大丈夫ですか?雫」

「う、ん。ありがとう。……けど、 

 慣れないね。ホント、相手は人形

 なのに」

「私以外で慣れていたら、それはそれで

 問題ですがね」

「え?それって……」

 

聞こうとする雫を無視する形で、

私は後ろの皆の方へと歩み寄る。そして語る。

「諸君、今見て貰った通りだ。諸君は

 これまで魔物と戦ってきた。しかし

 それは所詮魔物。もし魔族との戦いが

 本格的に始まれば、当然人の姿をした

 あの人形程度を倒せないようでは、実戦で

 戦うなどバカのやることだ。敵一人

 殺せないのなら、そもそも戦争をするな。

 ……よって、諸君等には今のところ3つの

 選択肢がある。一つ。戦争を避け、王城か

 どこかで引きこもるか。二つ。人型である

 魔族とは戦えなくても、魔物と戦うか。

 そして三つ。血を被る覚悟で魔族と戦うか。

 こんな所だろう。これら選択肢の

 決定は、諸君等自身にある。覚悟が無いの

 なら、戦うのは止めた方が良い。死ぬだけだ。

 しかし、たった一つでも戦える理由があるの

 ならば、戦えるはずだ。だからこそ、私は

 この言葉を語る」

 

「私は好きにする。諸君等も好きにしろ」

 

そう、選ぶのは全て、彼ら自身だ。

 

「戦うのが嫌なら武器を捨てろ。だが

 覚悟と意思があるのなら戦えば良い。

 自分の道は、自分で決めろ。他人に

 託すな。それは自分の人生だ。誰と

 歩み、誰を守るのか、何を成すのか。

 それは全て、自分で決める事だ。私の

 意見、その全ては第三者からの言葉で

 しかない。

 それを鵜呑みにするな。自分の頭で

 考えて行動しろ。……とりあえず、

 言っておきたい事はこれだけだ」

 

それだけ言うと、私はハジメの元に

歩み寄った。

 

その背を、バカ勇者が憎たらしげに

睨んでいるのにも、気づいていたが。

 

 

そして、結局武器を手に取ったのは全員

だった。と言っても、戦争に本格的に参加する

気のあるのは少ない。

精々、2割か3割と言った所だ。残りは

魔物退治だけの方が良いと言うのだった。

 

まぁ、彼らは元一般人。戦い慣れなど

していない。むしろ2割も良く残ったものだ。

しかし、その2割の中にあのバカ勇者もいた。

そのくせあの人形を攻撃しては居ない。

奴は戦争参加組の中に入っているつもり

だろうが、奴は戦力外だな。

 

まぁ良い。私はハジメと香織を守り、

二人の幸せを守るだけだ。それが私の戦う

理由なのだから。

 

     第5話 END

 




私は好きにする~~、の台詞は皆さんお察しの
通り、シン・ゴジラの牧教授の遺言の
オマージュです。

感想や評価、お待ちしています!

※あと、心配しないで下さい。ハジメ達は
 ちゃんと真のオルクス大迷宮に行きます。
 違うのは、ハジメ一人ではない事。
 最初から強いこと、などなどです。

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