ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回もオリジナルです。けど、次回からオルクスへ
向かいますのでご心配なく!
オリキャラが登場します!一応、司の嫁候補です。


第6話 決別

~~前回のあらすじ~~

ベヒモスを倒し王都へと帰還した

ハジメ達。そんな中で活躍著しいハジメと司。

二人は周囲に自らの実力をしめした。

そんな中で司は愛子に説得されクラスメイトの

大半にお手製の武器を配った。

一方で、司の提案から対人戦闘の為の、

もっと言えば殺人行為への訓練が始まる。

これに抵抗する光輝だったが。

司に続く形で、ハジメ、香織、雫は戦う

意思を示したのだった。

 

 

~~~

殺人訓練の開始から既に3日。

これらの訓練に参加しているのは、今のところ

私、ハジメ、香織、雫、坂上など数人。そしてあの

バカ勇者だ。

とは言え、奴は人形一つまともに殺せては

居ない。

 

それを横目に、私とハジメ、更に香織が

オートマチック拳銃、『ノルン』を使って

射撃練習をしている。

タナトスやトールなどは、炸裂弾を使って居るが故に

一撃で相手を殺してしまう可能性がある。

そこで開発したのが、ノルンだ。

これはあらゆる弾丸、非致死性の電撃弾を始め、

AP弾やホローポイント弾、通常弾など、様々な

銃弾を撃てる。

 

一度、あのバカ勇者に電撃弾を込めたのを渡して

撃ってみろ、と言ったが、これで奴はそれを拒否し、

『お前の策略には乗らないぞ!』などと

言い放った。非致死性弾丸だと事前に

言ってもこれである。

やはりこいつは、戦力外だな。

 

などと思いながら、ノルンの射撃練習を終える

私達。

「ふぅ」

香織は息をつき、人を撃つ緊張感からか大量の

汗を掻いていた。

「あの、香織さん。良かったらこれ」

そこへ、ハジメがタオルと水筒を差し出した。

「あっ、ありがとうハジメくん」

香織はタオルと水筒を受け取り、汗を拭くと

水を飲んだ。

 

その後も訓練を続けているが、二人とも訓練には

必死に取り組んだ。

……やはり、守るべき存在が居ると言う事の

影響力は強いのだろう。

 

なんやかんやでお昼時。皆がそれぞれ

集まって食事をしていた。ちなみに私の側に

居るのは、ハジメと香織だ。

数日前から、私達3人で集まって食事を

する事になった。

そして案の定、バカ勇者が絡んでくるが、

そのたびに香織が『私が二人と食事したいから

してるんだよ』と言って、更に雫がバカ勇者を

たしなめ席に連れ戻している。

 

そして、そんなある日。

「ハァ。……なんか、毎日洋食って飽きるよなぁ」

と、近くの席に座っていた男子が呟いた。

「……こっちに来てから米、食ってないしなぁ」

「お米、熱々のご飯。あ~~。俺は米が食いて~」

「おいよせよ。俺までご飯が食いたくなる」

そのやりとりを、周囲の皆も聞いていたようで、

数人が「お米かぁ」とか言っていた。

 

「……さながら食のホームシックですね」

「うん。こっちに来てからお米って見た事

 無いもんね」

「ご飯、確かに懐かしいな~」

私が言うと、ハジメが頷き香織が相槌を打つ。

「やはり二人も、ご飯が懐かしいですか?」

「うん」

「そうだね~」

私の言葉に頷くハジメと香織。

 

……。米、か。

皆、やはり米が主食の日本人とあって米が

食べたいようだ。まぁ私も分からない訳でも無い。

少し、聞いてみるか。

私は食事を終えると、厨房の方へと向かった。

 

「すみません」

「ん?おぉ、神の使徒様。何かご用で?」

そこで、一人のシェフだと思われる男性に

声を掛けた。

 

「実は……」

私は、元の世界の料理で米の事を話した。

 

「成程。慣れ親しんだ料理が無くて

 皆さん落ち込んでる、と」

「はい。それでなんですが、この世界に 

 お米はあるのかどうか、聞きたいのですが」

「う~ん。……あっ、そういやありますね」

ある、と言ったのか?このシェフ。

「本当ですか?どこに?」

 

「はい。実はウルという名前の街があるんです。

 そこは湖畔の街で、稲作が有名なんですよ」

「稲作、つまり米ですか」

そこへ行けば米が仕入れられる、か。

幸い金が無い訳でも無いし……。

行ってみるか。

 

そう思い、私は行動を開始した。

 

 

~~~

そして夜。生徒達は夕食の為に食堂

へと向かった。

するとそこで出てきたのは……。

 

「こ、これって!?カレーライス!?」

まごう事なき米料理、カレーライスだった。

「すげぇ!なんでカレー!?ってか

 こっちの世界にも米あったのか!?」

皆が皆、久しぶりのカレーに舌鼓を打っていた。

そして、殆どの生徒はそれを食べ終えると

部屋を出て行った。その後に、香織とハジメ

だけが残って厨房の方へ向かった。

「あれ?二人ともどこへ……」

それに気づいた雫も、二人の後を追った。

 

そして、厨房に行けば……。

「え!?新生!?」

そこではシェフの格好をした司がいた。

「ん?あぁ、雫ですか。どうしました?」

「いや、えっと、南雲君と香織がこっちに

 来るのが見えたから来てみたんだけど……。

 あっ!もしかしてさっきのカレーって!?」

「はい。私が作った物です」

「あんたが?って、そういやたまに自前の

 お弁当持ってきてたわね。……それにしても、

 よくお米とか見つけたわね」

「お昼時、何人かが米料理を食べたいと

 言っていたので、気になって調理人の

 方に聞いたところ、ウルという湖畔の街で

 稲作が盛んだと聞いたのです。なので場所を

 教えて貰い、あの時迷宮から脱出したのと

 同じ空間跳躍でウルの街へ行き、お米を

 買い付けてきました。が、料理に迷って

 居たとき、偶々街でカレーライスモドキの

 料理を作って居る店があったので、更に

 香辛料などを仕入れてきて作り上げました」

「へ~。って言うか、あんた動き出すと

 ホントアグレッシブよね。空間跳躍とか」

と、苦笑を浮かべる雫。

「けどまぁ、美味しいカレーも食べられたし、

 ありがとね、新生」

「いえ、お粗末様でした」

こうして、司の一日シェフは終わった。

 

のだが、司のカレーを口にした厨房のシェフの

人達が私に料理を教えてくれとせがんできた。

日頃からお世話になっている手前、断れる

訳には行かず、司は色々と(トータス人にとっては)

異世界料理である日本や各地の料理を教える

羽目になったのだった。

 

 

~~~

そして、数日後。

その日は、再びオルクス大迷宮に潜っていた。

転移から既に1ヶ月近くが経とうとしていたことも

あり、皆は魔物相手から余裕で戦えるように

なっていた。

今はもう、50階層まで余裕で降りられる程だ。

そしてその日は午前中の内に55層まで攻略した

あと、私の力で上にまで戻った。

 

そして、その日は普段から訓練を頑張っていた、

と言う事で午後はホルアドの街で自由行動

となった。

 

その時、香織とハジメは二人でどこかへ

行こうと言う事に。しかし……。

「香織、どうせだから俺とどこかに

 行かないか?」

空気を読まずに香織を誘うバカ勇者。

だが……。

「あっ、ごめん。私ハジメくん達と

 行くから。じゃあ後でね」

と言ってあっさり断られてしまった。

呆然とする勇者に、内心ほくそ笑んでいた

のだが……。

 

ん?香織はさっき、ハジメ『達』と言ったのか?

「ほら司、行くよ」

「行くよ~司くん」

何故か二人は私の手を引く。

いや、ここは二人っきりでデートパターン

だろうと思うのだったが、近くに他の

奴らも居る。特にバカ勇者が。そう考えると、

二人して歩いてデートしている所を見られて

付き合っているのがバレるのは不味い。

 

……いや、そもそも付き合っている認識など無い

バカ勇者になら見られても逆に大丈夫か?

 

などと考えながら、私はハジメ、香織と共に

ホルアドの街を散策する事に。

結局私達は殆ど食べ歩きのような物を

していた。

 

しかし、迷宮の近くにある冒険者の街。

私達はとある怪我人が運ばれていく場面を

目撃した。

 

「退いて退いて!怪我人が通るよ!」

怒号が聞こえ、そちらを向くと右腕の肘から

先を無くし、血を流す冒険者が仲間と思われる

冒険者と共に、近くに見える病院のような

施設に運ばれていった。

それを、じっと見送っていた香織。

 

そして、それを見た私は……。

「……決めるのはあなたですよ?」

「ッ」

「助けたいと思ったなら、助ければ良い。

 私達に迷惑がどうの、などと考えているので

 あれば不要です。あなたが成すべきだと

 思ったのなら、行動すれば良い」

私がそう言うと、香織はハジメの方を見た。

ハジメも、笑みを浮かべながら無言で

頷いた。

 

それを見て、香織も頷き彼女は病院のような

建物へと走って行き、私とハジメも続いた。

 

 

「天の伊吹、満ち満ちて、聖浄と癒やしを

 もたらさん。『天恵』」

そして、治癒師としての力で怪我をした

冒険者を助ける香織。

すると、先ほどまでうなっていた冒険者が

安らか表情と呼吸になる。

「とりあえず、傷を治しました」

「すまない。見ず知らずの仲間のために。

 何と言ったら良いか」

香織の言葉に、男の仲間と思われる冒険者の

一人が頭を下げた。しかし彼は、すぐに

悲痛そうな表情で彼の右腕を見つめた。

 

傷は治っても、失った四肢を回復させる事は

出来ないのだ。

「……こいつも、これで冒険者は廃業か」

残念そうに男を見つめる冒険者。

すると、香織がこちらに視線を向けてきた。

「ねぇ司くん。何とか出来ないかな?」

「まぁ、出来なくは無いですが……」

「じゃあお願い!私じゃ、出来ないから」

悲痛な表情の香織に頼まれては、断る

事も出来るはずが無い。

 

そして、私は男の頭上でパチンと指を

鳴らした。

 

すると、無くなっていたはずの男の右腕が、

周囲の者達が気づいた時には、傷一つ無い

形で元に戻っていた。

「えっ?!こ、これは一体!?」

驚く仲間の冒険者。しかし、ここまで

やってしまったのなら、いっそ。

 

「ドクター。この病院には他にも四肢欠損

 などをした怪我人は居ますか?」

「え、あ、は、はいっ。ここはダンジョンで

 負傷した冒険者の為の病院なので、他にも

 たくさん」

「そうですか。ではそこへ案内して下さい。

 彼らの傷などを『消します』」

「は、はいっ!こちらへ!」

 

ドクターの一人に案内され、場所を移る

私達。

「その、良かったの?司くんに

 何か頼む形になっちゃったけど……」

「元々、香織があの男を助けたい為に

 動き出した結果です。お気になさらずに」

道中、聞いてきた香織にそう答えながら、

私は病室を回り、指を鳴らすだけで、

彼らの傷を全て『無かった事』にした。

 

私の力は、言わば『事象・概念への介入』。

先ほどの男は、右腕を喪失したと言う『事象』に

巻き込まれていた。だからその事象を上書きして、

『無かった事』にしたのだ。

喪失の無効化。つまり腕の復活である。

 

そして、私が病院を回りきる頃には100人

ほどの冒険者を再起可能にしていた。

そして、私達が出て行く時。

 

「奇跡、奇跡だ。あの人、いやあのお方は、

 指を鳴らすだけで怪我人を治した。あのお方は、

 『奇跡の担い手』だ」

なにやら、ドクターの一人が私の背中を見ながら

そう呟いていたのを聞いていたのだった。

 

 

そして、夕暮れ時。

私達は郊外の公園へと足を運んでいた。

「ごめんね、ハジメくん。色々回ろうとか

 言ってたのに……」

「う、ううん!別に気にしてないって!

 香織さんや司のおかげで大勢の人が

 助かったみたいだしさ!気にしてないから!

僕は!」

……相変わらず、まだまだ緊張しているハジメ。

それが初々しいな、と持っていたとき。

 

――助けて――

 

私の強化された聴覚に、声が聞こえ、私はバッと

後ろに振り返った。

「ん?司?」

その様子に気づいたのか、ハジメと香織も

こちらを向く。

しかし私は森の奥の方へと視線を向けたままだ。

 

そして、見つけた。

 

「助け、て」

ボロボロの姿で、金髪の14、5歳くらいの少女

が森の中からこちらに手を伸ばしている姿を。

『バッ!』

私は考えるより先に飛び出した。

 

すぐに少女の元に駆けつけ、倒れそうに

なる彼女を抱き留め、首元に指先を

当て、彼女の様子を精査する。

……。脈はアリ。しかし極度の栄養失調。

このままでは空腹で死ぬな。今は

気を失っている。私が気づいた事で、

安心したのだろうか?

 

そう考えた私は彼女の顔に右手を翳し、

エネルギーを彼女の中に送り込んでいく。

「司っ!」

そして、その頃には咄嗟に追ってきた

二人が追いついた。

「司、どうし、ッ!?女の子!?」

「えっ!?どうして、それもこんな

 ボロボロな格好で!」

驚く二人。そんな中でエネルギーの

供給を終えた私は、指を数回鳴らして、

彼女の体の各部にあった傷、汚れた

体を『無効化』し、綺麗に整えた。

 

しかし、この子の特徴を見る限り……。

 

「人、では無く亜人族ですね」

「亜人?それって大陸の東の樹海で

 暮してるって言う?でもどうして

 そんな子がホルアドの近くに?」

と、首をかしげる香織。

「……。あくまでも推論ですが、彼女が

 ここまでボロボロだったのを見るに、

 『何か』から逃げてきた。そして

 その何か、とは恐らく帝国の兵士でしょう」

「帝国?何で?」

「帝国は我々の居る王国と違い、実力主義の、

 傭兵の多い国家です。そして、帝国は

 奴隷制を認めています。加えて、亜人族は

 人から差別されている存在。恐らくその

 樹海の辺りで帝国に捕えられた物の、

 何かの理由で逃走し、這々の体でやっと

 ここまでたどり着いた、と言う所

 でしょうか?」

 

「そんな。……あっ!でもこの子どうするの!?

 このままここに置いておく訳には!」

……香織の言葉も最もだ。

しかし……。

 

「我々が彼女を匿うのは、かなりのリスクを

 覚悟しなければなりません」

「え?どういうこと司」

「彼女は亜人族。つまり、エヒトの信者から

 見れば、下等種族。そしてイシュタルは

 もちろんの事、人族の大半は聖教教会の

 信者です。当然、王城の内部にも信者

 は多いでしょう。……神の使徒と言われる

 私達が、その差別対象である亜人を

 匿ったとバレたら、どうなるか。

 ……最悪、聖教教会や王国を敵に回すかも

 しれません」

「ッ!?マジ、で?」

「あくまでも最悪の可能性です」

ハジメの言葉に、そう伝える私。

 

「私としては、助けても構いません。

 いざとなれば、国や組織を敵に回す

 事も厭いません。……こんな時に言うのは

 あれですが、私には元の世界に自力で

 帰れる可能性があります」

そう言うと、二人は驚いた表情を浮かべた。

 

「つ、司!?それホント!?」

「はい。今は詳しく話しませんが、可能性は0

 ではありません。つまり、最悪聖教教会を

 敵に回しても帰れる可能性があります」

私の言葉に、二人は黙り込む。

 

やがて……。

「僕は、助けるべきだと思う」

「……」

静かに呟くハジメに私は黙ったまま聞いていた。

「司は帰れるって言ってくれたけど、それ

 以前に、それが正しいって思うから。

 この子は、助けを求めたんだよね?」

「はい」

「……なら、助けてあげよう」

「分かりました」

私はハジメの言葉に頷いた。

 

そして、香織は……。

「うん。私も、この子を助けるのに賛成」

「……良いのですか?」

「うん。……司くん、言ってたよね。

 好きにしろ、って」

「えぇ」

「じゃあ、私も好きにする。二人と一緒に、

 この子を助けるよ」

「……分かりました。とりあえず、宿屋へ

 運びましょう。……何か、文句を

 行ってくる奴が居たら、私の殺気で

 黙らせますから」

 

そして、私達3人は気を失った彼女に

私が作った大きなフード付きコートを

着せてハジメが背負った。そのまま、

宿屋へと向かう。

そして、たどり着いた私達はそのまま、

戻っていたメルド団長達に声を掛けつつ

私とハジメの部屋に行こうとした。

 

が……。

「香織、帰っていたのか?ん?おい南雲。

 背中のそれはなんだ?」

あのバカ勇者が声を掛けてきた。

「な、何でも無いよ。ちょっとね」

咄嗟に誤魔化すハジメ。

しかし、逆にそれが奴の不信感を

煽ってしまった。

「……。怪しいな。おい南雲!

 それは何だ!やましい事が

 無いのなら見せろ!」

こちらに近づいてくるバカ勇者。

おかげで周囲の目もこちらに

向いている。

 

「お前には関係無い」

咄嗟にバカ勇者の前に立つ私。

「ッ!お前、何を企んでいる!

 まさか、何か犯罪を!?ふざけるな!

 犯罪に香織を巻き込むなど、許さないぞ!」

 

次の瞬間、バカ勇者、いや、バカは距離を取り

聖剣に手を掛けた。

そして、私も……。

『ジャギッ!』

トールを構え、狙いを付ける。

その姿勢に周囲が驚く。

 

「……天之河。先に言っておくぞ。剣を

 抜いたが最後、決闘等というふざけた

 事は抜かすなよ?武器を取ったが最後、

 それは殺し合いだ。だから、お前が剣を

 取り斬りかかってくれば、私は貴様を

 殺す気で行く」

 

私は、さっきを乗せて狙いを付けたまま、

離さない。

「新生、いや貴様の狙いは何だ!

 南雲が背負っているそれの正体は!

 やましい事で無いと言うのなら、

 何故俺たちに話せない!」

「言っただろ。貴様には関係無い。貴様が

 首を突っ込まなければ穏便に済むことだ」

「ふざけるなっ!香織を犯罪に巻き込むなど、

 僕が許さない!」

 

ちっ。……分からず屋のくせに……!

互いに睨み合い、一色触発の雰囲気。

その時。

 

「ん、んん……」

ハジメの背負っていた少女が起きてしまった。

それだけで皆の視線がハジメの背中に

集まる。

「あ、れ……?ここ、は……」

「わ、わわっ!だ、ダメだよ起きちゃ!」

咄嗟に慌てるハジメ。すると、少女は

現状を理解したようで。

 

「い、嫌!下ろして!下ろしてぇ!」

「わっ!?ちょっ!?暴れないで!

 落ちる落ちる!」

少女が暴れ、ハジメの体がフラつく。

そして……。

『ガタッ!』

「うわっ!」

「きゃっ!」

ハジメが椅子の足に躓いて少女が床の上に

尻餅をついてしまった。

 

そして、そのせいで少女の頭部を覆っていた

フードが取れてしまう。

「ッ!?子供!?いや、それ以前にその耳、

 まさか亜人の森人族か!?」

その時、騎士の一人が剣を抜こうとした。

 

私は、咄嗟に左手にトールをもう1丁取り出し、

その騎士に向ける。

「ッ!?新生!貴様どういうつもりだ!」

バカが本格的に聖剣を抜こうとしたとき。

 

「みんな待って!!!」

香織が叫んだ。

「司くんも銃を下ろして!お願い!私が

 話すから!」

……。仕方ない。

私は両腿にホルスターを作るとそこに

トールを収めた。

更に……。

「お前もその手を離せ」

「団長!」

メルド団長が騎士を収めた。

「それと光輝。お前もだ。剣から

 手を離せ」

「しかしっ!」

バカが叫ぶと少女はビクッと体を

震わせ、私は再びホルスターに手を

伸ばす。

「……武器抜こうとしてたら話も

 出来ないだろうが。良いから離せ」

「……。分かりました」

バカが剣から手を離すと、私も

ホルスターから手を離した。

 

「それで、どういうことだ?これは」

「はい。私が話します」

 

その後、場所を食堂に移し香織が全てを離した。

外で公園を訪れた時、偶然にも私が少女の助ける声を

聞いたこと。それを助けた私達3人は

少女を保護しようとしたこと。人族の

間で亜人に対する差別意識が大きい事から、

目立たないようにコートとフードを

着せて連れてきた事を、全て。

 

「成程な。事情は大体分かった」

腕を組みながら頷く団長。

「まぁ、確かに人間の中には亜人を

 差別する奴も多いが……。

 それで、お前達はどうする気だ?

 そこのガキを」

「そこまでは何とも。話をして

 みない事には。助けてしまった以上は

 乗りかかった船。出来れば彼女を

 祖国、フェアベルゲンにでも

 送り届けるか、不可能ならば

 我々、私とハジメ、香織の3人で

 保護する、と言った所でしょうか?」

「保護、だと?」

「幸いと言うべきか、私達3人は

 亜人族に思う所などありません。ご存じの

 通り異世界人。聖教教会に入信

 した覚えも無いですし。だから、正直に

 言えば聖教教会の亜人に対する差別

 意識など知ったことでは無い、と言った所です」

私がそう言えば、側に居て俯いてた少女が

僅かに視線を上げてこちらを見ている。

 

「それに、迷宮などで入手した魔石を売って

 ある程度収入も得ています。物は私の

 力でいくらでも作れます。少なくとも、

 彼女にある程度裕福な衣・食・住の

 3つを提供出来る自信はあります」

「そうか。……しかし分からねぇな。

 それでお前たちに何かメリットが

 あるのか?」

 

「ありません」

『『『ガタタッ』』』

と言うと、周りの生徒達が何故かずっこけた。

まさか私が、メリットが無いと動かない薄情者

だとでも思って居たのか?まぁ良い。

「しかし無いとは言い切れないし、今のところ

 あると考える要素は無いです」

「そうかい。それでもか?」

「彼女は私達に助けを求めた。ハジメと

 香織も彼女を助けるのには賛成している。

 私としては、これだけ理由があれば十分です」

「……分かった。それで、当面は?」

「まずは彼女の意思を確認します。食事を

 してもらい、落ち着いたら我々の事情。

 彼女に害を与える気が無い事を伝えます。

 まぁ、いきなり話せと言っても無理が

 あるでしょう。当面は、ここに滞在させ

 つつ話を聞く。王城の方は、こっちよりも

 聖教教会の人間が居て五月蠅そうですし」

「ははっ。違いねぇ。……分かった。んじゃ

 俺等は明日一旦王都に戻るが、お前等はここに

 滞在するんだな?」

「はい。……亜人である以上、狙われる

 可能性もあります。そう言う意味では、ここに

 彼女一人置いて行くわけにも

 行かないでしょうし」

「そうか。分かった」

 

その後、私達は少女と共にここに滞在

する事にした。最初、宿屋の人間が

彼女の滞在を渋ったので、相場の10倍の

金を出して、文句があるなら他の店に

行くと言ったら、即行で承諾した。

 

ちなみに、何故かバカ、脳筋、雫の3人も

ホルアドに残っている。

どうやらバカが、『香織を新生や南雲と

一緒のままにしておけるか!』とか

言って残ると言ったらしい。

他の二人は、そのバカと一緒に居る

目的で残ったようだ。まぁ、雫は

常識的だし、脳筋、坂上もバカに

比べればまだ良識がある。残って

くれたのはありがたい。

 

ちなみに、坂上は私が与えた武器で

巨大でメカニカルなグローブを持っている。

相手を握りつぶしてよし、殴って良し、

更に魔力を込めれば拳型エネルギーを

飛ばす事も出来る。遠近両方に対応した

装備だ。

 

一方の私達はと言うと……。

保護した翌日の朝。私は朝食をお盆に載せて

運んでいた。向かう先は香織と少女の部屋だ。

彼女自身、異性よりは同性の方が落ち着ける

ようなので香織に頼んだ。加えて、部屋の

前には常に私が立っていた。

 

元より人に擬態した身。普段は人間と活動

サイクルを合わせるため眠っていたが、

本来なら眠らずとも体を休める事など

十分に出来るのだ。

 

『コンコンッ』

部屋の前にたどり着くと、扉をノックした。

「香織、起きていますか?香織と

 少女の分の朝食をお持ちしました」

「あぁうん。ありがとう司くん。

 入ってきて良いよ」

「失礼します」

ノックすると中から香織の声が聞こえたので、

断りを入れながら中へ入る。

 

中に入ると、香織と例の少女がいた。

 

少女は、小柄だった。見た目は

私達の世界で中学1年か2年くらいだろうか?

金髪のショートヘアに、碧眼。その瞳の

色はサファイヤのようだ。

今、少女は香織が見繕ってきた服を

来ている。

白のスカートに茶色のブーツ。

上にはノースリーブの白い服を着て

その上に、緑色で肩の前で留める、

二の腕くらうまでの長さの、短めのマントを

羽織って居た。

 

その少女を一瞬だけ一瞥して二人の

前に食事を置く私。今日の朝食は

トーストに卵料理、サラダとスープ

と言った簡単な物だ。最初は宿屋の

シェフに頼もうとしたが、亜人の食事を

作ると聞いて、嫌な顔をされたので

毒を混ぜられると不味いと思い

厨房を絶望の王の殺気で脅し、げふんげふん、

頼んで貸して貰い私が作った。

 

少女は、戸惑った様子で料理を見つめていた。

「あっ、もしかして、苦手な物でも入ってた?」

それを見ていた香織が聞くと……。

「い、いえ。違い、ます。これ、食べて、

 良いん、ですか?」

「えぇ、どうぞ。あなたの為に用意した物です。

 お好きなだけ食べて良いんですよ?」

私が促すと、少女は恐る恐る、という感じで

パンを食べた。最初はゆっくりと一口。

それを咀嚼して飲み込むと、それからはもう

スピードアップだ。すぐに料理を食べ終えて

しまった。

 

「はふ~~」

満足げに息を吐き出す少女。彼女、昨日の夜は

水以外殆ど口にしていない。私がエネルギーを

分け与えたのもあるが、周囲に人しか居ない

状況だ。緊張と恐怖で食べ物が喉を通らなかった

のだろう。

 

「どうやら、お口に合ったようですね」

と私が言うと、少女は少しびっくりした

ように肩をふるわせた。

「は、はいっ、あの、えと、と、とても、

 美味しかった、です」

「そうですか。それは良かった」

「……。あの。この料理って、あなたが

 作ったんですか?」

「えぇ、そうですけど、何か?」

「えっと、その、美味しい料理を、

 ありがとうございました」

そう言って、少女は頭を下げた。

「いえいえ、お粗末様でした」

そんな彼女に、私も微笑を浮かべながら

そう返すのだった。

 

そして、朝食の後。香織の部屋に訪れる

私とハジメ。

流石に3対1で向かい合うのには怖い

だろうと思って、香織には少女の隣に

座って貰った。

 

そして、私達の口からまず私達の素性と

いきさつを説明した。

私達が異世界人である事。魔族との戦争で

人が勝つために、聖教教会が崇める

エヒトによって召喚された事。戦争の為に

最近は訓練をしている事。そして昨日、

偶々郊外の森で彼女を発見したことなど。

 

そして、私達の説明が終わると彼女は

静かに話し出した。

 

金髪ショートヘアに青い瞳の少女の

名前は、『ルフェア・フォランド』。

歳は15歳。私達と2歳違いだ。

種族はあの時の騎士の言うとおり、

森人族、つまり『エルフ』だった。

 

ちなみに、種族名が分かった時、

『やっぱりエルフ居たんだ!うぉぉぉ!』

って感じで興奮したハジメ。

『ハジメくん?』

そして、そのハジメは般若のオーラを浮かべた

香織の(鬼の)微笑の前に震えながら黙った。

 

彼女は、亜人の国、『フェアベルゲン』で

暮していたらしい。その国がある

ハルツィナ樹海は普段から濃い霧に

覆われているらしく、この霧の中で

迷わないのは亜人だけのようだ。

しかし、ルフェアはふとしたきっかけで

その樹海の外に出てしまい、そこで

帝国兵に捕まったと言う。そして帝国へ

連行されようとしたとき、魔物の

襲撃があった。

運良く逃げたルフェアだったが、彼女は

がむしゃらに走っていた為、帰り道が

分からなくなってしまったと言う。

 

そしてその後は、襲い来る空腹を雨水で

耐え凌ぎながら、どことなく彷徨っていた

らしい。しかしまともに食べ物が無かった

為、ルフェアは限界だった。そんな中、

奇跡的にホルアド近郊までたどり着き、

そして私達に保護され、現在に至る。

 

と言うのが彼女の話だった。

 

その話を聞いた後、私達3人はルフェアに、

フェアベルゲンまで送り届ける事を

伝えるが……。

「あ、えっと、そ、その、それだけは、

 待って、下さい」

何故か彼女はそれを拒んだ。何か理由が

あるのかもしれないが、踏み込んだ質問は

まだ早いと3人で話し合い、とにかく

もう一つの方法として、私達が彼女を

保護する提案をした。

 

すると……。

「あ、あの、どうして、皆さんは私を

 守ってくれるんですか?」

「え?」

「あの時、騎士の人が剣を抜こうとしたとき、

 シンジョウ、さんは私を庇うように。

 皆さんだって、これが教会に知られたら。

 3人とも、神様に呼ばれた、神様の

 使い、なんですよね?」

 

「……。ただ、助けたかったから、かな?」

「え?」

ハジメの言葉に、ルフェアが戸惑い首を

かしげた。

「助けてって声が聞こえた。そこで

 弱って、死にそうな君を司が見つけた。

 それを黙って見捨てるなんて僕には

 出来なかった。だから、助けた。

 それだけかな」

「え?そ、それだけ、で?」

「私達、神の使徒だなんて言われてるけど、

 本当はちょっと強いだけの普通の

 人間なんだよ?だから、神の使徒とか、

 そう言うの以前に、一人の人間として、

 ルフェアちゃんを助けたかった。

 それだけだよ」

そう言うと、香織が優しくルフェアを

抱きしめた。

 

「色んな事があって、怖かったよね。

 辛かったよね。でも、もう大丈夫。

 私達がルフェアちゃんを守るから」

「シロサキ、さん」

彼女の温もりに、ルフェアは次第に目尻に

涙を溜める。

「ありがとう、ございます。うぅ、うぅぅ」

 

恐怖と空腹、死ぬかも知れない絶望から

解放された事で、彼女は涙を流し嗚咽を

漏らした。

 

これからは、ハジメや香織が彼女の心の

支えになるかも知れない。

私の方は、なれるかは分からない。

しかし、折角だ。昼食と夕食。それに

食後のデザートは、折角だから異世界料理で

美味いものをたくさん作るとしよう。

 

ちなみに昼食はミートスパゲッティ。

夕食はハンバーグにした。デザートに

パフェを作ったら、とても喜ばれた。

 

そんな日の夜。歩哨としてドアの前に立っていると

扉が開いた。

『キィッ』

「あ、シンジョウさん」

中から出てきたのはルフェアだった。

「ルフェア、どうかしましたか?」

「うん、えっと、その……」

顔を赤くして言い淀むルフェア。

……あら、おトイレですか。

「分かりました。案内しましょう」

そう言って、右手を差し出す私。

「うん、ありがとう」

ルフェアは、一瞬頷いて私の手を握った。

 

そして、彼女をトイレに連れて行き、

外で待ってから出てきた彼女を元の

部屋に連れて行こうとした。

 

「ありがとうシンジョウさん。

 シンジョウさんって、優しいね」

そう言って、ルフェアは私に向かって

笑った。しかし……。

 

「優しい?私が、ですか?」

「うん!」

「……。私は昔から感情が薄くて、優しい

 と余り言われた事がありません」

「そうなの?でも、シンジョウさんの

 作る料理、暖かくて、美味しくて。

 それに、シンジョウさんの手だって、

 こんなに暖かいよ」

「……」

私の手が暖かい、か。

「じゃあねシンジョウさん。お休み」

 

そう言うと、ルフェアは部屋に戻った。

 

そして、私は密かに彼女が握ってくれた

右手を、ギュッと握りしめるのだった。

 

そして、保護してから2日後の朝。

今日は香織とルフェアの部屋に集まり、

4人でホットサンドを食べていた。

たった3日とは言え、ルフェアは私達

に心を開いた。香織を姉のようにしたい、

ハジメと、私が作ったトランプで遊び、

私が作った料理を美味しそうに食べてくれる。

 

今も美味しそうにホットサンドを

頬張っている。

 

しかし……。

『ドタドタ……』

むっ?

何やら外が騒がしい。私は残っていた

ホットサンドを口に放り込んで飲み込むと、

3人を庇うようにして扉と相対し、

トールの入った右足のホルスターに手を

伸ばした。

 

それを見たハジメは残っていたホットサンドを

急いで食べると同じように携帯していた

オートマチック、ノルンに手を掛ける。

「香織さん!下がって!ルフェアちゃんを!」

「うん!」

頷きながらも、香織は左手でルフェアを庇い

ティアマトを抜く。

 

すると……。

『ドンドンドンッ!!』

ドアが乱暴にノックされ、ルフェアが怯える。

「おいっ!ここを開けろ!我々は聖教教会

 から派遣されてきた神殿騎士だ!

 ドアを開けろ!さもなくばぶち破るぞ!」

 

神殿騎士だと?なぜ奴らがここに?

そう思って居たが、考えても仕方ない。

私は後ろの二人に目配せをしてから、

懐からメカニカルなブレスレットのような

アイテムを取り出し、一つを私の

左手首に付け、残り二つを二人に渡した。

香織とハジメはそれを装着すると頷く。

ゆっくりと扉を開いた。

 

「……何用ですか?」

「ここに、亜人族の娘を匿っている

 男が二人居ると聞いた。貴様等だな?」

二人?なぜ私とハジメだけ。

しかしまぁ良い。

「それが何か?」

「その亜人族の娘は唯一神エヒトを侮辱した

 不敬罪の容疑が掛かっている!並びに、

 その娘を庇った容疑で貴様二人も

 連行だ!」

神殿騎士が私に手を伸ばす。

 

が。

『ガシッ!ギリギリギリッ!』

「なっ!?ぐあぁっ!?」

「ほう?連行だと?それで、連行して

 どうするつもりだ?」

「そ、それは、貴様等に、関係の無い……!」

「言わなければこの腕、折り砕くぞ?」

『ギギギギッ!!!』

「ぐぁぁっ!?さ、裁判だ!王国王城、

 エリヒド王と教皇イシュタル様の前で、

 裁判を行う!」

「ほう?」

そこまで聞くと、私は腕を放し、男を

蹴っ飛ばした。見れば、外に数人の

神殿騎士とやらが控えており、今にも

剣を抜きそうだ。

 

私は後ろを向き、3人を見る。

「どうします?二人とも。ここで

 こいつらを処分し逃げるか。

 それとも負ける可能性が高そうな

 裁判に行ってみるか?」

「なっ!?貴様!神の使徒と

 呼ばれうぬぼれているようだが、

 舐める――」

「『舐めているのはそっちだろう?

  三下が』」

 

次の瞬間、絶望の王の力で騎士達を

黙らせる。

騎士達はその顔に絶望を浮かべガクガクと

震えている。

「ちょっと黙っていろ。3人で話をしている

 所だ」

 

そう言いつけると、私は3人の方に

振り返った。

「それで、どうします?」

「……。ここで彼らを殺して逃げるのは

 得策じゃない。まず間違い無く、

 聖教教会とかから異端者認定とかされて、

 お尋ね者になる。それは避けたい」

「……となると、裁判に出る以外に

 選択肢は無い、か」

ハジメの言葉を聞き、私は顎に手を当てた。

 

そして、ルフェアを見れば、彼女はビクビクと

怯え震えていた。

そんな彼女の肩に、床に膝を突きながら私は手を置く。

「し、シンジョウさん」

「大丈夫だルフェア。君の事は私達3人が

 守る。……信じてくれるか?」

 

その言葉を聞き、彼女は私、ハジメ、香織

を順に見回す。二人が、笑みを浮かべながら

頷く。

「う、うん。私、信じるよ。3人の事」

「うん。ありがとうルフェア」

 

そう言って私は彼女の頭を撫で、立ち上がった。

 

「行こう。裁判とやらを受けにな」

 

その後、私達は神殿騎士に監視されながら馬車で

王都へと向かった。

 

ちなみにその際、私とハジメ、ルフェアに

手錠をしようとしたので、私が殺気を

滲ませながら、『そんな事してみろぶっ殺すぞ』

と顔で言ってやった。

 

手錠を掛けようとした神殿騎士は、泡を吹いて

倒れ仲間に運ばれていった。

 

そして、王都、王城に着けば周囲を

神殿騎士に監視されながら、召喚された

あの日と同じ玉座の前に連れて行かれた。

そして、見ればエリヒド王とイシュタルが

座っていた。左右を見渡せば貴族や文官、武官達。

更に、同じくこっちへと来ていたクラスメイトや

メルド団長達に先生がいた。

 

そして……。

『ザッ!』

「ッ!?何するんですか!?」

後ろを歩いていた香織の前で衛兵が斧を

交差させて彼女の進路を阻む。

「中央へ行くのは罪人の3人だけです。

 使徒様はあちらのご同胞のところへ」

そう言って、香織だけがバカ達の方へと

半ば強制的に連れて行かれた。

 

そんな中で、見た。檜山が薄暗い笑みを浮かべている

姿を。

 

成程。おかげで繋がった。

奴はあの日、ルフェアを見ている。そして私達が

助けた事も。それを見た奴は私達の排除を

思いついた。私達が亜人を助けていると、

イシュタル辺りにでもチクったのだろう。

香織を罪人として居ない辺り、恐らくは

彼女までも罪人にして自分から遠ざけないため。

イシュタル達にもメリットはある。

 

あのバカだ。バカは扱いやすい。イシュタルの

言葉を信じやすいからだ。しかし最近、

奴の注目度はがた落ちだ。天職が勇者だが、

スコアで言えば私やハジメに大きく引き離されて

いる。特に私はベヒモスを倒し、ハジメは

トラウムソルジャーの群れを多く撃破している。

それに対し、あの時バカがした事と言えば、

団長の命令に背いて足を引っ張っただけ

である。役立たずも良いところだ。

そして、イシュタルにとっては扱いやすい

バカが1位に君臨していてくれた方が

ありがたいのだろう。だから邪魔な私と

ハジメを排除する。香織を排除しない

のは、檜山の思惑でもあり、同時に彼女を

罰する事でバカが反発するのを

恐れてのことだろう。

 

 

まぁ良い。貴様等の裁判での言い分。

じっくりと聞かせて貰うとしよう。

 

「跪け」

そして中央にたどり着けば、後ろにいた

衛兵がそう言った。ハジメとルフェアが

そうしようとするが……。

「止めろ二人とも。立ったままで良い」

そう言って止めた。すると……。

 

「貴様っ!教皇様の前でその態度は何だ!」

神殿騎士と思われる男が剣を抜き私に

向けてきた。だが……。

「さっさと跪――」

『ドゴォンッ!』

 

次の瞬間、男の顔を掴み後頭部から床にたたきつけた。

 

床がひび割れる。しかし殺しはしない。

この場で殺しても面倒だ。周囲の神殿騎士

達が剣を抜く。

 

「私を跪かせたいのなら、実力で

 やってみろ。まぁ、もっともここに

 居る全員が掛かってきた所で、結果は

 同じだがな」

そう言って指を鳴らすと、騎士達の

剣が突如として消滅する。事象・概念への

介入能力。これは言わば、『存在への介入』。

今の一瞬で、奴らの持つ剣の存在を消滅させた。

 

「さて、裁判をやるのだろう?」

私は真っ直ぐ王とイシュタルを睨み付け

ながら問いかける。

「さっそく、そちらの言い分を聞かせて

 貰おうか?」

 

私が言うと、イシュタルは騎士達に向かって

手を向けた。戦闘態勢だった神殿騎士達が

一歩下がる。

 

「新生司。南雲ハジメ。貴様等は主、エヒト様を

 侮辱する不敬を働いた亜人を匿った不敬罪が

 問われている。……何か聞くことはあるかな?」

「あぁあるとも。たくさんあるとも。

 ……まず第1に、彼女、ルフェアがエヒトを

 侮辱したと言ったが、具体的な内容は

 一体如何なる物なのか、教えて貰うか。

 第2に、世間では亜人に対する人族の

 差別意識は知っている。しかし、彼女らを

 保護し、衣食住を与える事を罰する法律は、

 少なくとも王国には無かったはずだ。

 それとも、教会側の教えには瀕死の

 亜人を保護してはならない、と言う類いの

 物があるのか?

 第3に、その刑が執行されればどうなる?」

 

「……。その者がエヒト様を侮辱した証拠は、

 昨日天啓を持って知らされたのだ。

 そして直後、私は汝等がその者を

 匿っていると言う情報を入手した。

 その者を捌けと、エヒト様が

 お告げになったのだ」

 

天啓で人の命を捌くだと?バカバカしい。

 

「それで、第2の方は?亜人保護が

 悪だとでも?」

「……。あぁ、その通りだ」

「ッ!?何だと!?」

奴の言葉にハジメが表情を歪め叫ぶ。

「亜人とは所詮、エヒト様から

 見放された愚か者共の末裔。信仰心

 も無い、獣にも人にもなれぬ、

 まがい物に過ぎない」

……奴の目には、まるでルフェアを物

のように見ている。はっきり言って、

今すぐ奴の頭をトールの炸裂弾で

吹き飛ばしたい。

 

「ふぅ、とりあえず、そちらの言い分は

 聞いてやる。で?第3の質問の

 答えは?不敬罪で私達をどうすると?」

 

「……無論、死刑」

 

「「ッ!!」」

その言葉が聞こえた瞬間、離れている

香織とルフェアが息をのむ。

 

「この世界において、エヒト様に

 逆らうのは万死に値する行為。よって、

 お前達3人は死刑とする」

 

その言葉に、ルフェアはガクガクと

震えている。

それに気づいて、私は彼女の肩に手を

置き、彼女に微笑んでからイシュタルを

睨み付ける。

 

「成程。死刑か。では、こちらも生存権を

 行使し、不当な裁判に異議を申し立てると

 するか」

 

「貴様、エヒト様の天啓に背くと?」

 

「ハァ。……貴様等狂信者はそうやって 

 口を開けばエヒトエヒトエヒト。

 はっきり言わせて貰う。神だか何だか

 知らないが、そんな存在に勝手に 

 死刑宣告されたところで、はいそうですか

 と納得出来る程、神を信じては

 いないのでね」

 

「貴様っ!エヒト様を侮辱するか!」

と、騎士の一人が叫ぶ。

「ふんっ。こちとら異世界人。この世界の

 宗教になどてんで興味が無いのでね。

 ここで戦っていたのも、元の世界に帰還する

 にはエヒトの力が必要だからだ」

と、私が言うと、何故かルフェアが震えた。

……今のどこに震えるワードがあったの

だろうか?まぁ良い。

「しかし、ここまで言われてはここで戦う

意味も無いか。ハジメ」

私は左袖をまくり、あのブレスレットを取り出し

彼に目配せをする。そして、ハジメもそれに

気づいたのか香織に目配せをしてから

ブレスレットを露出させる。そして、

香織も静かに自分の左手首に右手を当てている。

 

彼女が一歩前に出ようとする。が……。

「ッ、待て香織」

あのバカが彼女の腕を掴んで止めた。

「ッ。離して光輝くん!二人は何も

 悪いことなんてしてない!」

「それは分からない。特に新生は躊躇いも

 無く人に暴力を加えるような男だぞ?

 それにあの少女だって、どんな事を

 していたか……」

「ッ!ルフェアちゃんが悪人だって

 言うの!?」

「い、いやっ、それは……」

香織の剣幕にバカが一瞬躊躇うが……。

「け、けど彼女を庇ったら最悪香織まで

 死刑になる!僕は、香織を守る為に!」

などと言って説得しようとしていたようだが。

 

と、その時。

 

「ま、待って下さい!」

 

不意に、ルフェアの叫びがこだまする。

そして、彼女はその場に土下座をした。

 

「ふ、二人は、何も悪い事なんかしてません!

 弱っていた私を介抱してくれただけです。

 だから、だからどうか、罰するのなら私

 だけで……!どうか、伏して、お願いします」

 

「ルフェアちゃん」

「……」

ハジメが名を呟き、私はそれを黙って

見ている。

 

彼女は震えながらも罰するのは自分だけで、と

言った。……それは、私達を護るため。

そうか。先ほど、帰還にエヒトの力が必要

だと言ったときに震えたのは、この為か。

 

今、私達3人はエヒトから見放されたら

元の世界に帰れない。彼女はそれに気づいて。

……何と高潔な魂だろうか。

 

だが……。

 

「……。身の程をわきまえよ、獣風情が。

 貴様らの願いが叶えられる訳無かろう」

 

それを一蹴するイシュタル。更に周囲から、

ルフェアを侮辱する嘲笑の声が響き、

彼女が涙で床を塗らす。

 

よし。いい加減、我慢が出来そうに無い。

 

そう思った次の瞬間。

 

「「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」

 

部屋の中に、二人の怒号が響き渡った。

ハジメと、香織のだ。

二人は、烈火の如く怒りの表情を

浮かべていた。

 

そして、こちらに来ようとする香織を

バカ勇者が掴んで止めている。

「香織!行ったらダメだ!」

「離して!」

「だが!このままでは君も死刑になる!」

「関係無い!あそこでルフェアちゃんが

 泣いてる!それを、黙って見過ごすなんて!

 私には出来ない!」

 

そう叫び、香織はバカの腕を振り払って

私達の元に駆け寄る。そして、泣いている

ルフェアを抱きかかえ、イシュタルを睨み

付ける。

 

「……イシュタルさん。はっきり言います。

 あなた達の考えに、私は到底賛同

 出来ない……!」

「あぁ!!僕もね!」

「異端者認定でも、何でもすれば良い!

 それでも私はこの子を、ルフェアちゃんを

 守る!そう、彼女と約束したから!」

「カオリ、お姉ちゃん」

彼女に抱かれながら、その顔を見上げる

ルフェア。

 

「愚かな。あなたまでエヒト様に逆らう

 と言うのか?聖教教会に反発したのなら、

 異端者として追われる事になる。まして、

 エヒト様のお力が無ければ、帰還する事

 すら出来ないと言うのに」

 

奴は、教会を敵に回す事による不利益を盾に

香織を脅す。

すると……。

 

「そ、そうだ!香織!今ならまだ間に合う!

 こっちへ戻るんだ!帰る為なら、仕方ない事だ!」

 

……奴め、言い切りおった。奴自身、香織を

守りたい一心なのだろうが、それは香織の

怒り、火に油を注ぐだけだ。

香織は、バカを睨み付けるとルフェアの

頭を優しく撫でる。

 

「帰れるとか、そんなのどうでも良い!

 お前達が敵になるのなら、倒してでも

 進む!今ここで、ルフェアちゃんを

 犠牲にして生き延びたって、それで

 元の世界に帰ったって嬉しくなんか無い!

 それに、約束したんだ!ルフェアちゃんを、

 僕達が守るって!」

 

更に、ハジメが香織とルフェアを

守るように二人の前に立ち叫ぶ。ルフェアが

ハジメの背中を見つめている。

「ハジメ、お兄ちゃん」

 

さて、ここからは私の番だ。

 

「……貴様等は私達を敵に回すと言ったな?

 ならば良いだろう。ここで、貴様等を

 叩き潰すまでだ」

 

そう言って、パチンと指を鳴らせば私達4人の

周囲に、突如としてロボットの兵士、

『ガーディアン』が銃、『セーフガードライフル』を

携え現れた。更に、連続で4回、指を鳴らす。

 

すると、部屋の中が突然陰る。

皆が慌て、窓の側に居た兵士がカーテンを

開く。そして外を見て驚いた。

 

「う、うわぁぁぁっ!?何だあれは!?」

驚き、腰を抜かす兵士に皆がそちらに

目を向ける。

 

外の上空には、白い長方形のような船、

『揚陸艇』が4席も浮遊していた。

 

さて、これで準備は良いだろう。

 

「私達を敵に回すなら、別に構わない。

 しかし、私達にはそれ相応の軍事力が

 ある。私が開発したジョーカーシリーズに、

 そして鋼で出来た鋼鉄の兵士、ガーディアン。

 更に無数の空を飛ぶ船。あまり、私達を

 舐めない事だな」

 

そう言って、私はイシュタルらを鼻で笑う。

 

「さて、ではこれだけギャラリーが居るのだ。

 ……聞け!王国の人々よ!教会に属する者よ!

 私は今日ここに、トータスにおける如何なる

 国家、宗教、種族にも属さない武装組織、

 『独立武装艦隊G・フリート』の結成を

 宣言する!」

 

これは、元より考えていた計画だ。しかし

こんなに早く結成する事になろうとは。

まぁ良い。

 

「さて、私はG・フリートを結成したが、

 その仲間としてここに居る3人。

 南雲ハジメ、白崎香織、ルフェア・フォランド

 を艦隊に勧誘したいと思う?

 共に来るか?」

 

私が問いかけると……。

「あぁ、行くよ!あんな胡散臭いじいちゃんの

 下に居るのはもううんざりだ!」

「うん。私も、連れて行って」

ハジメ、香織の順に頷く。バカが何か

言っているが無視する。

 

そして、私はルフェアの前に膝を突き、

抱きかかえられている彼女と視線の高さを

合わせる。

「ルフェア。君はどうする?」

「わ、私は……。本当に、一緒について

 行っても、良いの?」

「あぁ。もちろんだ。私達3人は君を

 守ると約束した。だから、君自身が

 選べ。その選択を拒む者は、ここには

 居ない」

 

まぁ、居たとしても邪魔したらぶち殺すが。

 

そしてルフェアは……。

 

「お願い、します。連れて、行って、下さい」

涙ながらにそう言った。

 

自らの命を差し出し、私達を助けてくれようと

した恩人。どうしてその願いを見捨てられよう。

「分かった。もう大丈夫だ」

 

そう言って、彼女に微笑んでから、私は

立ち上がり、メルド団長らの方へ目を向けた。

 

「そういうわけです。世話になりました。

 メルド団長」

「……。そうか」

団長は、短くそれだけ言うとどこか寂しそうな

表情を浮かべた。

 

団長らには世話になった。『プレゼント』は、

彼の机の上にまとめて置いて

おけば良いだろう。あとは……。

 

「雫」

私は懐から、4つ目のブレスレットを取り出して

雫に投げ渡した。

「これって……」

「遅くなったが、君専用のジョーカーだ。

 携帯性をアップさせた。まぁ、見ていれば

 分かる」

 

そう言って、私はハジメと香織の肩を叩く。

 

すると、二人は頷き、香織はルフェアを離して

立ち上がる。

 

そして、二人ともあのブレスレットを

露わにする。

「何を?」

それを見ていたランデル殿下が呟く。

そして……。

 

二人はブレスレット中央の赤いボタンを押した。

 

『『READY?』』

 

するとブレスレットから電子音声が響く。

それに周囲が驚く中。

 

「「アクティベート!」」

二人が異口同音を叫ぶ。

 

『『START UP』』

 

再びの電子音声と共に、ブレスレットから

光が溢れ出す。そして、ブレスレットを

していた左腕、胴体、右腕、両足の

順番でジョーカーの鎧が二人の体を

覆っていき、最後はヘルメットが被さり

二人のジョーカーのカメラアイが青く

輝く。

 

もはや、ハジメの専用機となったジョーカー0

は深紅のマフラーをたなびかせ、その両手に

1丁ずつトールを持っていた。

 

そして、香織の纏ったジョーカー。それは、

全身がマゼンタに白のラインが走っている、

と言う物だ。彼女専用に開発した、

新たなジョーカー、タイプQ。

 

二人はジョーカーを纏い、ルフェアを

守るようにしてイシュタルや神殿騎士を

睨み付けている。

 

ちなみに、本来なら赤いスイッチを

押すだけで装着出来る仕様にするつもり

だったが、ハジメの猛烈な提案で音声

コマンドによる承認段階も追加

する事に……。

 

本人曰くカッコいいから、らしいが。

まぁ、今は気にしていても始まらない。

 

さて、私も行くか。

 

「イシュタル。私達を敵に回したくば、

 好きにしろ。しかし、貴様等が私達を

 明確な敵とした時は……」

 

『READY?』

「アクティベート」

『START UP』

 

私も漆黒のジョーカー、タイプZを纏う。

 

「魔族より先に貴様等を滅ぼす。

 ……これだけは伝えておこう」

 

絶望の王のオーラと共に、部屋の中に

居たハジメ達3人以外、特に教会側の

人間と王国貴族に、圧倒的なプレッシャーを放つ。

耐性の無い貴族達は泡を吹き出し失禁しながら

バタバタと倒れていく。

神殿騎士達もギリギリ立っていたが、やがて

ガクガクと震え膝を突いた。

 

それを一瞥し、指を鳴らしてガーディアンを

消滅させると私達は窓の方へと歩み寄る。

 

進行方向に居た人間どもが、モーゼが海を

割るかの如く左右に避ける。見れば、

窓の外に一席の揚陸艇が接近していた。

 

そして窓を開けた時。

 

「ま、待て!」

バカが人の道の中に出てきた。

 

「……何か?」

「お前、香織をどうするつもりだ!?

 どこへ連れて行く!」

「どこへ?それは船へですよ。

 彼女は今、G・フリートの仲間だ。

 それだけの事。ハジメ、ルフェアを」

「うん。ルフェアちゃん」

「はい」

ハジメのジョーカー0がルフェアを

抱きかかえる。

 

「行きましょう」

そう言って、窓を開け放てば揚陸艇の

スラスターから生まれた風が室内に

入ってきた。

あまりの突風に人々が顔を守る。

 

まずは、ハジメがルフェアを抱えて

揚陸艇の上に飛び乗る。

「香織、先に」

「うん」

頷き、足腰に力を入れる香織。

「ま、待て!香織!」

それをあのバカが留める。

「香織!言ってたじゃないか!大切な人を、

 俺を守りたいって!なのに、どうして!?」

 

「……光輝くん。私、一度も

 大切な人を光輝くんだって言った覚え、

 無いよ?」

「え?」

香織は、呆れつつそう呟くと揚陸艇に

向かって跳躍した。

 

それを見送ると私は項垂れるバカを一瞥する。

その時。

「新生君!待って!」

今度は先生が私に声を掛けた。

「ほ、本当に行くの!?」

「……。残念ながら、ここにルフェアの

 居場所はない。それに、教会側の反感を

 買ってしまった以上、その側に居る

 訳にも行かないでしょう。私達は

 私達で、地球帰還の方法を探りますよ。

 もし、地球帰還の方法が分かれば、

 真っ先にお伝えします。では……」

 

そう言って、私も揚陸艇に飛んだ。

上部ハッチを開け、中へと降りる。

そしてコクピットへと行き、3人に適当な

席に着くように言う。

3人が着席するのを確認した私は操縦席に

座り艦を操る。

 

スラスターからピンクの炎を吐き出しながら、

揚陸艇が王城から離れていく。

 

そして、空に待機していた3隻と合流し、

揚陸艇は山の向こうへと消えていったの

だった。

 

 

誰もが、何も出来ずに揚陸艇を見送る事しか

出来なかった。

 

そして、王の生み出した艦隊、G・フリートが

この日、活動を開始した。

 

~~~

その日の夜、真夜中。

 

「クソッ!クソクソクソッ!?おい!

 どうなってんだよこれぇっ!」

王城の一角、人気の無い場所で人影が

二つ。一人は檜山だった。

「おいっ!?計画と違うじゃねぇか!

 亜人のガキの事チクって、二人を

 殺させて!そんで香織は俺の所に

 来るって計画が、全部パァじゃねぇか!」

「うぅん。まぁ、何というか予想外

 だったね。まさか船や軍隊まで

 作れるとは。けど、まだ終わった訳

 じゃない。力を付けて、チャンスを

 狙う。良いでしょ?たくさん我慢して、

我慢した分、あの二人から彼女を

奪った時の高揚感って言うの?

それがたっぷり味わえるんだし」

「ッ!……ふふっ、そうだな」

薄汚い笑みを浮かべる檜山。

「それじゃ、僕は行くよ。表向きは、

 今まで通りで。じゃあね」

 

そう言うと、もう一人は彼から離れて

言った。

 

そして……。その一人が薄暗い廊下を

歩いていた時。

「くっ、くくっ!ふふふっ!まさか、

 まさか思い通りに行くなんて!」

その人物は、笑い声を堪えられなかった。

 

そう、彼女が望んでいたのとは、檜山と

全く逆の内容だ。

檜山にとって、ハジメ、司の二人は

香織の側に居る邪魔な存在だった。

だからそれを排除するために、イシュタルへ

二人が亜人を匿っている事を教え、

光輝が反発するからと香織だけは

見逃すように上手く仕向けた。

しかし、もう一人にとって邪魔なのは

香織の方だった。

『あの二人なら或いは?』

そう考え、見事に予想が的中。

香織は教会側に反発しハジメ達と

共にここから去った。

 

「ふふふっ。ボクもやれば出来るじゃん。

 よ~し、このままやっちゃうか~」

端から見れば楽しそうに。

しかし、その表情はとても歪んでいたのだった。

 

聖教教会、延いてはエヒトへ刃向かう形と

なったハジメ、香織、司、ルフェア。

次に彼らが向かう場所はどこなのか?

 

     第6話 END

 




書き溜めしておいたのが、ここまでなので次回から
一気に投稿スピードが落ちます。

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