ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

13 / 87
今回からはオルクス大迷宮へ行きます!
これで再び原作と似た流れになります!


第7話 深淵へ

~~前回のあらすじ~~

殺人訓練が始まって数日。司が

クラスメイトの為にカレーを作ったり

していた。しかし、オルクスでの訓練を

終えホルアドの街を散策していたハジメ、

司、香織の3人は亜人の少女を保護した。

3人に暖かく迎えられた事で少女、

『ルフェア・フォランド』は3人に心を

開いた。しかし、直後にそれを知った

イシュタルらによって、裁判が行われる

事に。檜山の策略で死刑判決を受ける

司、ハジメ、ルフェア。そして、ハジメ達

の事情をしったルフェアは頭を下げるも、

周囲から嘲笑される。しかし、ハジメと

香織がそれに激怒。教会側に反発。

更に司は自らの軍事力を誇示し、独立

武装艦隊、『G・フリート』の結成を

宣言。ハジメ、香織、ルフェアを

仲間として受け入れ、揚陸艇で

3人を連れ、ハジメは王国、教会から

独立するのだった。

 

 

~~~

「で、どうするの?これから。

 と言うか、どうしてホルアドの近く

 まで戻ってきたの?」

今、私達はホルアド近郊の森で野営を

していた。

ちなみに、揚陸艇は人の目が無い所で消した。

あれは良い意味でも、悪い意味でも目立つ。

この人数の移動なら、車でも十分だからだ。

ガーディアンも、いつでも召喚出来る。

今は夕食を食べた後だ。

 

そして、ハジメからの質問である。

「そうですね。順番にお答えしましょう。

 まず、私が作ったG・フリートの最終

 目的は地球への帰還です。その為に

 必要な情報などの収集です」

「成程ね。でも、どうやって集めるの?

 今のところ、ヒントなんて無いよね?」

「えぇ。香織の言うとおりヒント

 なんてありません。が、少し気になる

 事があるんです」

「気になる事?」

と、首をかしげるハジメ。

 

「二人は、ベヒモスとの戦いの時、私が

 指を鳴らしてから空間を歪曲させ、

 ゲートを作ったのを覚えていますか?」

「うん。そりゃね。凄かったから」

と、ハジメが言うと香織も『うんうん』と

頷く。

「あの時、指を鳴らしたのは音の反響で

 迷宮の構造を確認するためです。

 しかし、この時音の反響から得られた

 データが妙なのです」

「妙?それってどういうこと?」

「私達の知る限り、あの迷宮の階層は

 100層までです。しかし、あの時の

 反響データから言える事は、100層の

 下に、更に数十の階層が続いている、 

 と言う事です」

「ッ?どういう事?僕が図書館で

 読んだ本には、そんな記述無かった」

「……それから察するに、恐らくこれは

 私達しか知らない事実なのでは

 無いでしょうか?そして、もしかしたら

 そこに何らかの手がかりがある」

「だから、オルクス大迷宮に潜るの?」

「はい。ただ、その前に……」

 

と、言いかけてルフェアの方を向く私達。

彼女は、私達の視線に気づいてどこか

気まずそうだ。

 

「あ、あのね。ルフェアちゃん。僕達は

 これから危険な所に行くんだ。

 だから、それより先にルフェアちゃん

 をハルツィナ樹海のフェアベルゲンに

 送っていこうと思うんだけど……」

と、ハジメが言うと……。

 

「……ダメ。もう、あそこには帰れない」

出会った時のように、暗い表情で

そう呟いた。

「え?帰れないって、どういうこと?」

「……。フェアベルゲンにおいて、奴隷と

 なった物は死んだも同然。だから、

 私は既に死人扱い」

「そ、そんなっ!?あっ!でもほら!

 家族の人が心配してるだろうし!

 せめて生きてる事の報告だけでも!」

 

「居ないもん!」

 

ハジメの声に、叫び否定するルフェア。

彼女の言葉に、私達は黙り込んだ。

 

「……居ない、とは、まさか……」

「……私、捨て子なの。親に捨てられて、

 拾われて、育てられて。最初は、 

 皆優しかった。でも、段々相手に

 してくれなくなって……。

 友達も、居なくて……。それで、森を

 歩いてたら……」

「……帝国兵に捕まってしまった、

 と言う事か」

そして、その後は以前彼女が話した

通りなのだろう。

 

「私には、帰る場所も、待っている人も

 居ない……!でも、でも、私のせいで

 お兄ちゃん達に迷惑を掛けちゃって、

 帰れなくしちゃって……!

 ごめんなさい……!ごめんなさい!」

 

そう、謝罪しながら泣き崩れるルフェアを、

隣に座っていた香織が抱きしめ、優しく

その背中を撫でた。

 

「辛かったよね。家族も居なくて、

 奴隷にされそうになって……。

 怖かったよね?でも、大丈夫だよ。

 私達が側に居るから」

「カオリ、お姉ちゃん。う、うぅっ、

 うわぁぁぁぁぁぁん!!」

声を上げ、彼女の胸に顔を埋めるルフェア。

 

ハジメも、心に来る物があったのだろう。

明後日の方向を向き、目頭を押さえている。

 

帰る場所も無く、一人ぼっち。

 

それには、私も思うところがある。

 

私が、オリジナルの一部だった頃の記憶は

今の私にも引き継がれている。

番いとなる相手も居ない、真っ暗な

闇の中で、苦しみながら放射能に耐性を得て、

死ねない体となった。そして、放射能を

食べながら、ただ、『生き続けた』。

 

死ぬと言う生命の理を超えた存在。

 

それがオリジナルであり、私だ。

 

個体で完成しているが故に、『個』。

 

思えば、私もずっとひとりぼっちだったのだな。

 

 

そう思うと、私にルフェアにしてやれる

事は無いだろうか?そう、ガラにも無く

考え始めてしまった。

そして……。

 

「もし、ルフェアが望むのなら、私達が

 彼女の家族になるというのは、

 どうだろうか?」

「ぐすっ。……え?」

私の言葉に、目元を擦りながら涙を

拭い首をかしげるルフェア。

 

「実を言うと、私も孤児だ。親に捨てられ、 

 孤児院に拾われた。……孤独だった。

 世界は、まるで太陽が無いかのように、

 真っ暗で、何も無い。そんな時期が

 私にもあった。……そして、私は

 運が良いのか悪いのか、頭が良かった。

 だから、孤児院が大変になった時、

 物を作って売った。それが売れて、

 孤児院は持ち直した。が、おかげで

 私は周囲から天才と呼ばれ、

 気がつけば周囲から疎まれた。

 最初は面白半分で近づいてくる奴ら

 も居たが、私は元来、どうにも感情が

 薄い。だから、隣に居てもつまらないの

 だろう。すぐに、私から離れていった。

 ……高校に上がっても最初は同じ

 だった。なまじ有名になってしまったが

 故に、誰とも、友人と呼べるような

 間柄にはならなかった。……ハジメと、

 香織に出会うまでは、な」

改めて、私は二人に目を向ける。

 

「あれは、何時だったか。ハジメが

 お昼を忘れてお腹をグ~グ~と

 鳴らしていた時、近くに居た

 私が見かねてお弁当をお裾分け

 したのが、私とハジメの出会いの

 始まりだった」

「ちょっ!?何恥ずかしい話

 ルフェアちゃんの前で暴露

 してるのさ!?止めてよ恥ずかしい!」

顔を赤くしながら叫ぶハジメに

微笑を浮かべつつ、更に話を続ける。

 

「そして、ハジメと香織がよく話しを

 していたのもあって、更に香織という

 友人が出来た。……そして、

 かつては孤独であり、今こうして

 友人達と共に居るからこそ、ルフェア。

 今の君の気持ちの一端は理解出来る

 つもりだ。……だから、どうだろう」

 

私は、静かに彼女に向かって手を

差し出した。

「私達が君の家族になろう。

 君の帰るべき場所になろう。

 共に時間を過ごそう。

 ただ、旅を続ける以上、危険は

 伴うかもしれない。……どうする?」

 

「……。私、お兄ちゃん達やお姉ちゃんの

 側に居て良いの?」

「うん、良いよ」

「僕もだよ、ルフェアちゃん」

彼女が、香織とハジメを見上げれば、

二人は笑みを浮かべながら頷く。

 

そして、ルフェア自身の答えは……。

 

「危険でも、構わないです。連れて行って

 下さい。私も、戦います。足手まとい

 にはならないように」

「ッ。……ルフェア、何も戦う事まで

 強要する気は……」

と、私が止めようとする。

 

「……皆は、私を家族と言ってくれました。

 あの時だって、ハジメお兄ちゃんとカオリ

 お姉ちゃんは私を庇ってくれました。

 出会って数日の、私を。

 だから、私も皆さんを守る為に戦いたい

 んです。……お願いします」

そう言って、ルフェアは頭を上げてから、

真っ直ぐ私を見つめた。

 

「……。戦う、と言う事は最悪人を

 殺す事になる。ハジメと香織でさえ、

 今もまだ人を殺す事に躊躇いがある。

 人殺しになるんだ。……生半可な覚悟は、

 許されない」

 

「家族を守る為なら、私はどんな敵に

 だって、立ち向かって見せます。今は

 まだ弱いですけど、強くなって

 見せます」

 

その瞳には、確かな覚悟が映っていた。

……。あのバカ勇者より、よっぽど覚悟が

座っている。

 

「分かった。君の、ルフェア自身の

 決断なら、私は止めない。

 君の人生だ。自分で決めて、好きに

 生きなさい」

 

「うん!お兄ちゃん!」

そう言うと、ルフェアは香織の元を

離れ、私の膝の上に座り、私の胸に

体を預ける。

私は、静かに彼女の頭を撫でるの

だった。

 

そして、夜中になった時、私達3人は

ホルアドの街へと赴き、そのままオルクス

大迷宮に向かう。

ちなみに、4人とも光学迷彩システムを

内蔵した外套を纏って姿を消している。

 

「ねぇ、司くん。あそこに入るのに何で

 わざわざこっそりと行くの?」

「今の私達は、結果的に教会側を敵に

 回しました。あの時誇示した軍事力に

 よって、表だって私達を敵と発表

 しなければ御の字。逆に敵として

 世間に知らせられれば、我々は

 お尋ね者。できる限り、痕跡と

 なるような物は隠しておきたい

 んですよ」

 

そう言いながら、私達は人通りの無い

街中を足早に駆け抜け、大迷宮の入り口の

前までやってきた。

夜となれば、受付に人は無く、立ち入りを

禁止する看板と鍵付きの扉が行く手を

阻んだ。

 

まぁ、最も……。

「空間ねじ曲げて移動出来る司には、

 無意味だよなぁそりゃ」

と、私の作ったゲートをくぐり抜け

ながら呟くハジメ。

そう、扉のこちら側と向こう側を繋ぎ

さえすれば、扉など私の前には何の意味も

成さない。

 

そして、私達はそのまま奥へと進んでいく。

 

しばらく歩き、私達は第1層の、ラットマンと

戦った広いドーム状の場所まで来た。

幸い、ラットマンの姿は無い。

 

「さて、ここなら良いか。ルフェア」

「ん?何?お兄ちゃん」

周囲を見回し、安全を確認した私は

ルフェアの方に向き直り、彼女の

前に膝を突いた。

 

「これからルフェアに、ルフェアだけの

 武器を授ける。良いかい?」

「武器……!うん!良いよ!

 ルフェアがんばる!お兄ちゃんや

 お姉ちゃん達を守る為に、

 一杯頑張る!」

 

「……分かった」

静かに頷き、立ち上がった私は指を鳴らす。

 

すると、私達4人の前に一般的なジョーカー

とは異なる、大きなパワードスーツが

現れた。

「大きい」

と、呟く香織。

私やハジメ、香織のジョーカーを人型、

とするのならこちらはゴリラに近い

ものだった。

 

カラーは緑に青いラインが走っている。

そのボディで目を引くのは、ずんぐり

むっくりな体型だ。腕と足の太さは

人間の胴回りくらいはある。しかし逆に

頭部は殆ど胴体に直接接続されている

ようで、首と呼べる部位が無い。

 

「ハジメ、これは?」

「これは、『エンハンスドジョーカー』。

 普通のジョーカーは汎用性を求めて

 人型としましたが、こちらの

 エンハンスドジョーカー、略して

 『Eジョーカー』の特徴は、圧倒的な

 パワーと防御力、更にその怪力によって

 巨大な重火器の運用による後方支援を行う。

 そのために設計開発していた物です」

 

そう言うと、私はルフェアの方へ向き直る。

「ルフェア、これを纏う、と言う事は

 戦い、時には体を血で汚す事になります。

 ……本当に、良いのですね?」

「……うん。怖いけど、でも戦う。私は、

 私の家族を守りたいから」

 

「……分かりました」

そう言うと、私がEジョーカーに右手を

翳した。すると、胴体部パーツが稼働し、

開く。

「これは、今から貴方の力であり、盾であり、

 鎧です。中へ」

「……うん」

 

その後、Eジョーカーを纏ったルフェアに

ある程度説明をした。

 

まず、Eジョーカーは私達のジョーカーと

違い、直に体に纏うわけではない。なので、

機体の中にメカニカルなグローブとブーツが

ある。ここに手足を入れ、更に胴体部を固定する。

操作方式は、いわゆるマスタースレイブ方式だ。

また見た目とは裏腹に機体自体はそこまで重くは無い。

しかし砲撃支援が主な任務の為、走りながらだと

射撃精度が著しく落ちる。なので、足裏にはローラーを装備

しており、移動は基本的に歩く、と言うより滑る、と

言った方が正しい。

 

武装は、肩部に2門の20mmチェーンガン。

これは徹甲弾や焼夷徹甲弾などを発射可能。

外付けの武装はこれだけだ。

しかし、Eジョーカーはその豪腕その物が

武器になる。また、腕には砲撃時に体を固定

するためのパイルが装着されており、これは

緊急時にパイルバンカーとしても使用可能だ。

更に機体各部にジェネレーターとシールド発生装置

を内蔵しており、最大で半径10メートルの

ドーム型シールドを展開可能。更にこの

シールドは内側からの攻撃を通す。

つまり、シールドで味方や自分を守りながら、

一方的に攻撃する。

ちなみに開発コンセプトは、動く砲台である。

 

そして、私達もまたジョーカー0、Z、Qを

纏い、4人は行軍を開始した。

 

「まずは、ルフェアがEジョーカーに

 慣れる為に10階層まで降ります」

「分かった」

「うん」

「が、頑張ります!」

ハジメ、香織、ルフェアの順番で三者三様の返事を

返す。

 

「よし、行きましょう」

私を先頭に、香織、ルフェアが続きハジメが

最後方で後ろを警戒しながら進む。

 

最初は私が戦闘を行い、銃を撃つことが

どういうことか、ルフェアにレクチャー

しながら進む。

 

そして……。

「ッ。動体反応。接近中。……ラットマンだな。

 ルフェア」

「は、はいっ!」

「君の初めての射撃練習です。前方から

 ラットマンの群れ、およそ10匹が

 接近中。攻撃の準備を。ここで

 迎え撃ちます」

「う、うんっ!」

 

と言うと、まるでゴリラが地面に腕を突くような

動作で、Eジョーカーが前傾姿勢となる。

「え、え~っと、パイル起動!」

彼女が叫ぶと、音声コマンドを認識して

両腕のパイルが稼働し地面に突き刺さる。

本来は、頭で考えるだけでも動くのだが、

彼女はまだ慣れていないのだ、仕方ない。

 

そして、奥から迫るラットマンの姿が

見え始めた。

「え~っと、え~っと、狙いを定めて……」

更に、砲撃形態のEジョーカーの背中の

チェーンガンが、カクカクと動いて狙いを

定める。こちらも、私達が銃器を手で扱う

のとは違い、ルフェアの脳波によって

コントロールされている。今の彼女は、

目の前に映し出された画面の中にある

照準、レティクルを動かし狙いを定めている。

 

そして……。

「撃ちます!」

『『ドドウッ!!!』』

彼女が叫んだ次の瞬間、両肩のチェーンガンが

火を噴き、両門一発ずつ徹甲弾を放った。

そして……。

『『ズドンッ!!!』』

道がほぼ一直線だった為、10匹のラットマン達は

避ける事も敵わず、徹甲弾によって体を

引き裂かれた。バラバラになった体が通路に

落ちていく。

 

「うわぁ、ミンチよりひでぇや」

後ろで引き気味のハジメ。と言うかどこかで

そんな台詞聞いたことがあるような。

「……ルフェア、どうですか?魔物

 とは言え、初めて生き物を殺した感想は?」

「……正直、気持ち悪い。……で、でも!

 まだまだこれから!頑張ります!」

「そうですか。……まぁ、いきなり慣れろ、

 と言う訳ではありません。こう言っては

 あれですが、ゆっくり慣れていきましょう」

そう言って、私はEジョーカーに掌に

触れる。

物を掴む関係上、ここに触れる感触は、彼女の

手にしたグローブを通して彼女自身が

感じている。

 

「うん!私、頑張る!」

そう言って、ルフェアはEジョーカーに

ガッツポーズをさせるのだった。

 

その後、私達は順調に階層を降りて10階層まで

到達した。

「よし、3人とも、聞いて下さい。ここからは、

 一気にベヒモスと戦った場所までゲートを

 使って移動します」

「ん?どうして?」

「あの音波探査の時、調べて分かった事

 ですが、何故かあの橋から真下へ降りると、

 100層の先、101層へと続いていました

 まぁ、正規のルートでは無いと思いますが」

ハジメの疑問に答える私。

 

「じゃあ、あそこから飛び降りるの?

 でも大丈夫?」

「はい。問題ありません」

そう言って、私は指を鳴らした。すると、

私達4人の背中に、小さな箱形の物体が

装着された。

「ん?司、これは?」

「それは重力制御装置です。周囲の重力に

 干渉する、干渉フィールドを展開します。

 それを使って、101層まで降下します。

 良いですか?」

 

私の言葉に、3人とも頷く。

 

そして、私はゲートを開き、あの時の場所へと

出た。まずは私とハジメが突入し、安全を

確保。ハジメが後ろの二人に合図を出し、

ゲートを潜って貰った。

 

更に周囲を警戒するが……。

「……敵影無し。トラウムソルジャー、

 ベヒモス共に確認出来ず」

「……出てこない、か」

私の言葉に呟くハジメ。まぁ、それを疑うのも

無理は無い。なぜなら、あの戦闘で壊れたはずの

橋が元に戻っているのだから。

 

「ねぇ、あの橋って皆の攻撃で壊れたよね?」

「そのはずですが、こうして修復されている。

 ……誰かが直した、と言うのは考えにくい

 ので、ダンジョンが直した、と考えるべき

 でしょうね」

「……自己再生するダンジョンって。何か

 怪しいよね」

「えぇ。しかし、だからこそ、何かが

 あるのかもしれません」

そう言うと、私は橋の淵に立った。

 

下を見下ろせば、底知れぬ闇が広がっていた。

 

私の隣に立つハジメ、香織、ルフェア。

ルフェアは僅かに後退り、ハジメもあの日

落ちかけた事を想いだしたのか、ブルリと

体を震わせる。香織も、どこか不安そうだ。

 

「……。大丈夫です」

そんな3人を安心させようと、私は出来るだけ

優しい声色で語りかける。

「私達4人なら、何が来ても恐れる事は

 ありません。……行きましょう」

私は、そう言って隣に居たルフェアと

手を繋ぐ。

「……。うん、そうだよ。私、怖くない。

 お兄ちゃん達と、一緒なら」

そう言って、ルフェアの左手がハジメに

差し出される。

「そうだな。司がいれば、とりあえず大体の事は

 何とかなるし」

その手を握り、ハジメは香織に左手を

差し出す。

「そうだね。行こう。この先へ」

そして、香織もその手を取る。

 

そして……。

 

「行こう。この先に、何があるのかを

 確かめるために」

私達は、手を繋ぎ闇の底へ向かって

飛び込んだのだった。

 

 

 

私達は手を繋ぎ、重力干渉フィールドを展開。

ゆっくりと下降して行った。

そんな中で、横穴から水が噴き出していた。

私は何度か指を鳴らし、出来るだけ内部

の構造を調べる。そして……。

 

「……ここから入るしかない、か」

私はウォータースライダーの如く流れていく

横穴を見ながら呟く。

 

「こ、ここから入るの?大丈夫?」

ハジメが不安そうに呟く。

「ジョーカー、Eジョーカーの

 気密性は万全です。が、流されて

 バラバラになるのは不味いですね。

 ルフェア」

「うん、何?」

「Eジョーカーのシールド発生装置で

 私達も入れるシールドを展開して

 下さい。その中に入って4人一緒に

 流されれば、何も問題は無いでしょう」

「う、うん。分かった」

「では、ハジメ、香織。彼女のEジョーカー

 に掴まって下さい」

「うん。ちょっと失礼するよルフェアちゃん」

ハジメがルフェアの左肩に。

「よろしくね、ルフェアちゃん」

香織が反対側の右肩に掴まる。私は

Eジョーカーの背中にだ。

そして、ルフェアがそれを確認すると、

Eジョーカー内部のシールド発生装置が

うなりを上げ、4人の周囲を球状の

シールドが覆い包んだ。

 

「よしっ。では、突入」

「うんっ!行っくよ~~!」

私達を乗せ、ルフェアのEジョーカーが

水流の中へと突進していった。

予想通り、中は狭くさながらウォーター

スライダーのようになっていた。

シールドが時折壁や床を削りながら、

私達は流されていく。

 

「ま、まるで天然のジェットコースター

 だね!うわっとっ!」

「と、所でこれってどこまで行くのかな!?」

叫ぶハジメと香織。

「……む」

波の音の反響を利用して水路の先をマッピング

していると、少し先に川が穏やかになっている

場所があった。

 

「ルフェア。もうすぐ滝があり、そこ

 から落下します。そしてすぐに

 穏やかな川に出ます。川の脇に移動

 して下さい」

「う、うんっ!」

 

そして、話している内に滝が見えてきた。

『バッ!』

一瞬の浮遊感の後……。

『ドボォォォォンッ』

水の中へと落ちた。

 

『バシャバシャ』

そして、私達は川の中から上がり、

周囲を見回した。

 

「……。ここ、どこだ?」

「少し待って下さい。今確認を」

ハジメの言葉に応え、私が指を鳴らす。

「……。どうやら、ここは

 オルクス大迷宮の101層、の

 ようです」

「じゃあ、無事に入れたって事で

 良いのかな?」

「とりあえずは、ですね」

更に香織の言葉に応えながら、私は

ディスプレイ脇の時計に目を向ける。

 

このような洞窟の中では昼夜の感覚は

完全になくなる。日付の感覚も同様

でしょう。

 

「3人とも、聞いて下さい」

私がそう言うと、周囲を見回していた

3人がこちらに視線を向けた。

「私達はこれから、最下層まで向かい

 ます。武器弾薬などなどは私の力で

 生産出来るので、問題無いでしょう。

 同様に食料もです」

そう言って指を鳴らせば、何も無い

所から野菜や肉が現れた。

 

「とどのつまり、私が居れば物資

 補給の問題は解決できます」

「じゃあ、もしかして最下層に

 たどり着くまで、外には出ない、

 って事?」

と、首をかしげるルフェア。

「はい。今の私達は教会に目を付けられて

 います。それを躱す意味でも、当面は

 人前に出るのを避けたいのです」

「そっか。……まぁ僕は良いかな。

 確かに司がいれば何とかなるし」

「うん、私も大丈夫」

「あっ、わ、私も大丈夫だと思います!」

ハジメ、香織、ルフェアが頷く。

 

「ありがとう3人とも。……では、とにかく

 まずは休もう。ここに拠点を作り、一眠り

 したあと、探索を開始します」

「「「うんっ」」」

 

その後、私達は川辺に、私が作った

エネルギーフィールド発生装置で

結界を作り、中で寝袋に入りながら眠りに

付いた。

 

 

そして、数時間後。

朝になった(と言っても時計の時間的に)ので

私達は起床し、早速私の創造の力で作った

食材を調理し作った朝食を食べた後、

動き出すことになった。

 

「あっ。3人とも、装着の前にちょっと

 良いですか」

「はい?何ですかツカサお兄ちゃん」

「みんな、ブレスレットをした左手を

 私の方へ」

「こう?」

首をかしげながら右手を差し出す

ハジメとそれに続く、香織、ルフェア。

 

私は、ブレスレットのスイッチ

部分に人差し指を当て、データを

送り込んだ。

 

スイッチ部分がポウッとしばし

光を放ち、やがてそれが収まった。

「司くん。今のは?」

「ジョーカーのアップデート、強化

 です。実戦データを元に強化しました。

 また、香織とハジメのは使用者の

 意思によってEジョーカーフォーム

 へと変化させる事も出来ます。

 逆にルフェアの方にも、通常のジョーカー

 フォームを実装しました。これで、

 好きなときに好きなフォームへ変形

 出来ます。それと、各機の内部に

 武装データベースへのアクセス能力も

 付加しておきました。好きなとき、

 好きな銃を思い浮かべればそれが

 自動で創造され召喚されます」

 

「ははっ、流石司。仕事が早いな」

「いえ、それほどでも。……さて、

 それでは行きましょう。オルクス

 大迷宮の最底辺を目指して」

 

私は、目の前にある洞窟を睨み付ける。

その私の右隣にハジメ、彼の隣に香織。

反対の左隣にルフェアが並ぶ。

皆が私を見る。私は、左右の彼らを

見ながら頷く。

 

そして、皆が左手首を翳し、赤いスイッチ、

スタータースイッチを押し込む。

 

『『『『READY?』』』』

 

「「「「アクティベート(!!!)」」」」

 

『『『『START UP』』』』

 

私達は、それぞれジョーカー0、Z、Q、

そしてルフェア用のジョーカーRを

纏った。

 

今、4人のジョーカーは基本装備として

腰部背面にセベク。右腿のホルスターに

オートマチックのノルンを携帯している。

私の場合は、前衛を務めるつもりなので、

背中にヴィヴロブレードのアレースを

装備していた。

そして、私は更に指を鳴らし、4つの

銃器を私達の前に召喚した。

 

それは、私達の世界におけるサブマシンガン、

『クリスベクター』に形が似ていた。

「司、これは?」

「それは短機関銃『バアル』。洞窟内は

 狭いかもしれないので、近距離で火力を

 集中し、尚且つ取り回しの良いそれに

 しました。……では、前衛を私が。

 中衛は香織とルフェア。ハジメは

 後衛で援護しつつ、後方に警戒を」

 

「うんっ、分かった」

「私も」

「は、はい!」

三者三様の返事が返ってくる。

 

「では、行きましょう」

 

 

そして、私達4人のパーティによる探索が

始まった。

 

そこは、正しく洞窟という言葉がぴったりな

場所だった。そこを慎重に探索する。

もし、ここが101層ならば、魔物の強さなど

私達が訓練で潜った上層とは、比べものに

ならないだろう。

 

そして、歩いていると私達は巨大な

十字路にたどり着いた。

私は左手を上げて立ち止まり、周囲を

見回し、4人が隠れられそうな岩を

見つけた。

すぐさまその岩を指させば、ハジメが

先導して3人が岩陰に隠れた。それを

確認すると私も隠れる。

 

そして、影から十字路の方を見つめる。

「十字路、だね。どうする?」

と、問いかけてくる香織。

「……。ここでエコーロケーションに

 よる測定とマッピングを行います。

 恐らく、どこかに下へ降りる 

 階段があるはずです」

そう言って、私が指を鳴らそう

とした時。

 

「ッ!司待って!」

ハジメが小声で止めた。

何です?と聞こうとしたが、

その前にハジメが十字路の、私達から見て

正面の通路の奥を指さした。

 

私達がそちらに目を向けると、そこに

兎が居た。

 

 

ただし、サイズは中型の犬並。そして

やたらに足が発達し赤黒い線が幾重も、

血管のように表面を走っていた。

 

「……。不気味なウサギだね」

「ですね」

ハジメの言葉に頷く私。

「で、どうするの?」

「しばらく様子を見ます。但し、

 いつでも銃は撃てるように」

香織の言葉に私が指示を出すと、

3人ともバアルを構える。

 

すると、ウサギがスクッと立ち上がった。

ハジメが狙いを定めるが……。

『スッ』

ソッとその銃口に左手を置き、更に

人差し指を口元に当てた。

 

そして、数秒後。

白く尾が二つある狼がウサギに襲いかかった。

 

しかし、どうやら戦闘力はウサギの方が

上だったようだ。現れた5匹の狼を、ウサギ

はその足で次々と粉砕してしまった。

 

しかし、あのウサギは空中を蹴るような

動作をしていた。狼の方も電気を纏っていた。

恐らく、それらがあのウサギと狼の

固有魔法なのだろう。

 

しかし、あの戦闘能力は……。

「トラウムソルジャーよりは強そう

 ですね」

「強いなんてもんじゃないでしょ。

 あのウサギなら、ソルジャーの群れ

 だって蹴散らせそうだよ」

「た、確かに」

私が呟くと、ハジメも呟き香織が頷く。

 

確かに強い。だが……。

 

「私達の方が、もっと強いですよ。

 ……3人とも、一斉射です」

「うん」

「分かった」

「は、はい……!」

 

私達はバアルを構える。そして……。

「撃て」

私の合図で飛び出し……。

 

『『『『ドドドドドドドドドッ!!!!』』』』

4人のバアルが一斉に火を噴いた。

ウサギはこちらに気づいた様子だが、

遅かった。

通路を所狭しと迫る銃弾を躱すことは

出来ず、その四肢と頭を撃ち抜いた。

「……射撃止め」

そして、数秒ほど斉射して、それを

止める私。

 

カランカランと薬莢が洞窟内に落ちる音

が響いた後、静寂が戻った。

 

そして、私が3人に目配せをする。3人は

頷き、静かにウサギの死体まで近づき、

調べる。どうやら一発頭に喰らったようだ。

即死だった。

 

しかし……。放電能力に、空間に足場を作る

能力。更に瞬間的に距離を詰める力。面白い。

私は、ウサギの血だまりに指先を浸し、

ウサギのデータを取った後、更に狼の

血も採取し、データを抽出する。

 

データ解析開始。

……………完了。

 

能力獲得

1、雷撃操作能力、『纏雷』

2、瞬間跳躍能力、『縮地』

3、空間固定能力、『空力』

 

よし。データを解析。ジョーカー内部OS

アップグレード。……………完了。

 

私は血だまりの前から立ち上がり3人

の方へと歩み寄る。

「司、何してたの?」

「今正に倒した魔物から、固有能力の

 データを引き出しました。

 あの狼からは電撃操作能力『纏雷』。

 ウサギからは瞬間的な跳躍能力『縮地』と 

 空間固定能力、つまり空中に足場を

 作る能力『空力』です。

3人とも、ブレスレットを」

私の指先がブレスレットに触れ、獲得した

技能を付与する。

 

「……魔物の能力コピーするとか、

 流石だよ司」

「いえ。しかし慣れなければ使いようも無い

 ので、今はまだ使わない方が良いでしょう。

 今後は、こうやって敵を倒しながら

 魔物の能力を獲得していきましょう。

 案外、有益な力が手に入るかも――」

 

と、言いかけた時、私の成体レーダーに

何かが引っかかった。

 

私達が現れた十字路の一本から見て、

右の通路。

 

「敵接近……!右通路……!」

私が右の通路の方にバアルを構えると3人も

驚きながらそれに続いた。

 

そして、暗がりの奥から現れたのは、一言で

言えば『熊』だった。しかし魔物の例に

漏れず体表には赤黒い線が走り、その爪は

30㎝はあろうかという程の物だ。

 

「……グルルル」

その熊がこちらを見て睨んでいる。

 

奴の放つプレッシャーからして、恐らくは

あのウサギや狼よりは強いのだろう。

私は、バアルを手放し消滅させると背中

からアレースを抜き放った。

 

「3人とも。支援を頼みます」

「……。司、やれるの?」

「相手の力量が分からないので、何とも

 言えませんが。……任せて下さい。

 完全生物という技能、そして、

 全ての理の上に座す王という天職を

 持つ意味は、伊達では無いのですよ」

私は両手でアレースを持ち、正眼に構える。

 

しばし、私と熊の魔物、爪熊が睨み合う。

が、次の瞬間。

 

「ッ!!」

『ドンッ!』

私が先ほどウサギからコピーした能力、

縮地で一気に距離を詰め、アレースを

振り下ろした。

 

しかし、爪熊はその攻撃を熊らしからぬ

俊敏性で回避した。

そしてカウンターの爪を振りかぶる爪熊。

私は咄嗟にそのリーチから逃れるために

後ろに飛んだ。

暴風を生み出しながら振るわれる爪。

一瞬、私は避けたように感じた。

しかし……。

 

『ガキィィィィィンッ!!!』

「ッ!?」

何かが当たったようにジョーカーZの装甲

で火花が散り、私は後ろに吹き飛ばされた。

「司ァ!」

「司くん!」

後ろでハジメと香織が叫ぶ声が聞こえる中、

私は空中で体にひねりを加えて体勢を

戻すと地面にアレースを突き刺し、勢いを

殺した。

 

「ふぅ。……大丈夫です。ジョーカーZ

 の装甲に助けられました」

私は立ち上がり、地面に刺さっていた

アレースを抜く。

まぁ、私の生身の体の耐久力でもあの程度

の攻撃なら防げるだろう。

 

しかし、あの攻撃は……。

「各自、聞いて下さい。奴の攻撃は腕の

リーチの倍はあると思って回避

するように。

 恐らく、奴の固有魔法でしょう」

「成程。で、どうする?」

「戦法は変わりません。私が前衛を。

 3人は、チャンスを見つけたら

 バアルの銃弾をたたき込んで下さい」

「で、でも、そしたらツカサお兄ちゃんを

 巻き込んじゃうんじゃ……」

「大丈夫ですルフェア。私のジョーカーZは

 固いし、私も頑丈です。それこそ、

 気にせず当てるくらいの気持ちで

 撃っても構いませんよ」

と、安心させるように言うのだが……。

 

「それはそれでこっちが気にするから

 ダメだって」

「当たったら当たったで気にするよ司くん」

と、二人からダメだしが。

「……。そうですか。じゃあ頑張って

 避けます」

と言いながら、私はアレースを握り直し

爪熊を睨み付ける。

 

「行きます。援護をよろしく」

「うん」

「任せて」

「が、がんばります!」

「では……。ッ!」

三人それぞれの返事を聞きながら、私は

もう一度『縮地』で踏み込んだ。

「グルァァァァァッ!」

雄叫びを上げながら腕を振り上げる

爪熊。

しかし、同じ手は食わない。

私はそこから更に加速し、爪熊の攻撃を

懐に入ることで躱し、すれ違い様の

その脇腹を切り裂く。

 

「グルァァァァッ!?!?」

脇腹から血を流し叫ぶ爪熊。奴は

振り返り、私を睨み付ける。

私は、アレースを振って血糊を飛ばす。

「……どうした?この程度か?」

挑発の意味も込めて、左手の指を

クイクイと動かす。

「グルァァァァッ!!!」

すると怒ったのか奴が突進してきた。

 

爪熊は私に噛みつこうとその口を

大きく開き、向かってきた。

だが……。

『バッ!』

あと少しで牙が届くという所で

跳躍し回避。アレースを左手に持ち直し、

右足のホルスターからノルンを抜き

AP弾を発射。

『バンバンッ!!』

放たれた銃弾が奴の膝を撃ち抜いた。

『グルァァァァッ!?!?』

悲鳴を上げる爪熊。

 

その時。

「ッ」

ジョーカーのレーダーに反応があった。

爪熊の来た反対側、十字路の左から動体

反応が複数、接近してくる。

どうやらハジメ達も気づいたようで

そちらに視線を向けている。

 

そして……。

「司!こっちは任せて!司はその

 熊を!」

「了解。任せますよ」

背後のハジメ達に頷き、私は爪熊と

向かい合う。

 

ハジメはジョーカーとしての戦闘に

慣れているから良いとして、香織と

ルフェアはまだ慣れていない。

早々にこいつを片付けて、二人の援護を

するべき、か。

 

そう考えながら、私は爪熊の連撃をアレースで

防ぐ。

 

「……貴様には悪いが、余り貴様に時間を

 割くわけにも行かない。速攻で片を

付けさせて貰う」

「グルァァァァァァッ!!」

 

そう言うと、爪熊が渾身の右を振り下ろす。

しかし私は先ほどの倍の距離をバックステップで

下がる。見ると、爪熊の腕のリーチから離れた

地面に爪痕が出来る。

それを見て、攻撃のリーチを計算する。

あとは……。

 

体内リミッター、レベル10まで解放。

 

脳内から肉体に指令を下した瞬間、

体の中の全てが、活性化する。

視界がスローになり、四肢に力が満ちていく。

 

今の私は、肉体のリミッターを外した状態。

人として生活するため、体の防御力以外は

全て一般的な人間より僅かに高い程度で

制限を掛けている。しかし、戦闘となれば

話は別。その肉体のリミッターを外す事で、

私は人間を、いや、生物を遙かに超越した

運動が可能なのだ。

ゴジラとして、進化を続けた私の能力に

勝る者は、居ない。

 

「ッ!」

『ドッ!』

再び縮地で距離を詰める。

右手を振り上げる爪熊。しかし遅い。

『ガッ!』

その右手首を私の左手が押さえ……。

『ドスッ!!ズバッ!』

アレースが右腕の肘から先に突き刺さり、

一気に切り裂いた。

 

「グルァァァァァッ!?!?!?!」

悲鳴を上げながら咄嗟に後ろに下がる

爪熊。しかし、逃がさない。

私は、縮地で距離を詰める。

「トドメだ」

驚く爪熊。そして、それが奴の最期の

表情だった。

 

『ズバッ!!』

アレースの刃が、奴の首を切り飛ばす。

そして、私がアレースの刃についた

血糊を飛ばすと……。

 

「お疲れ様、司」

後ろから声が聞こえた。振り返れば、

バアルを構えた3人が立っていた。

「3人とも。そちらはどうでしたか?

 大丈夫でしたか?」

「うん、ハジメくんのおかげでね。ハジメくん、

 雷には雷だ~、って叫びながら狼の

撃ってくる雷をジョーカーの雷で撃ち

落としてくれたから。後は私とルフェア

ちゃんが撃ちまくったの」

 

「そうでしたか」

そう言いながらアレースを背中の鞘に収めた

私は、爪熊の方へと向き直り、奴の首元

から溢れた血だまりに右手を浸ける。

 

データ解析開始。

……………完了。

 

能力獲得

攻撃強化・延伸能力『風爪』

 

「……ふぅ」

「どうだった司?」

「この熊の能力を獲得しました。

 能力名は風爪。恐らくは攻撃に

 不可視の爪を追加するような物

 だと思われます。これは手足を

 使った攻撃だけではなく、銃を

 振るだけでも風爪を発動可能な

 ようです」

「じゃあ、接近戦で使えそうだな」

「えぇ、ハジメの言うとおりです。

 早速3人にも、付与しておきます」

 

そう言って、私は3人にも風爪の力を

与えた。

 

「さて、では行きましょう。この迷宮の

 最下層を目指して」

 

 

先頭を歩く、漆黒の鎧、ジョーカーZ。

それに続く、鎧を纏った3人。

 

彼らの長い迷宮攻略が、始まった。

 

     第7話 END

 




って事で攻略開始です!
次回か、或いは更に次の回辺りでユエが出てくると
思います!お楽しみに!

感想や評価、お待ちしています!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。