ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回で、ようやくユエが登場しますよ!


第9話 深淵の出会い 前編

~~前回のあらすじ~~

真のオルクス大迷宮へと侵入に成功した

ハジメと司たちの4人は、早速迷宮の探索

を開始。第1層で神水を生み出す神結晶を

回収しつつ、4人は第3層まで降下。

第3層に降りた時点で時間的、体力的な

事を考えた司の指示で拠点を作り休息。

その際、色々ありつつも、司は

ルフェアを守るべき存在と認識する

ようになったのだった。

 

 

朝(と言っても洞窟なので朝日など無い)。

体内時計によって、私は設定した時間に

微睡み等ない状態で覚醒する。

パチッと目を開けば、目の前には

私の左腕を腕枕にしてルフェアが

眠っていた。

 

私は、ゆっくりと左腕を引き抜き、代わりの

枕に彼女の頭を乗せた。

起こさないように慎重にベッドから

降りた私は、指を鳴らして普段の

服装になる。

 

ちなみに、私の普段着は黒いコンバット

ブーツ。茶色のカーゴパンツ。黒い半袖

シャツの上に、背中に龍が描かれた

黒いトレンチコートを着ている。

このコートは、元の世界に居たとき高校

進学時に孤児院の人から貰った物だ。

少々思い入れがあったので、私が技能、

創造の力で作成したのだ。皆がファンタジー

系の格好をしている中、この格好で

出歩いた事があったが、その際には

ハジメから……。

 

『それはもうホントに才能の無駄遣いです!

 あとそのコートカッコいいね!』

 

と、怒られて褒められた。

 

これでは戦闘時、支障が出ると思われる

だろうが、普段戦闘時はジョーカーZを

纏っている。それに、トレンチコートには

特殊な繊維を織り込んでおり、剣や弓、

果ては銃弾を防ぎ、火属性の攻撃を

喰らっても延焼しない優れものだ。

 

私はトレンチコートを脱いだ状態の

服装に着替えると、念のため防音用の

結界を作りその中で食材を創り、更に

調理を始めた。

 

そして、調理していると……。

「ん、ん~?あれ?ツカサお兄ちゃん?」

体を起こし、瞼をこすりながら

起きるルフェア。

それに気づいて私は結界を消滅させた。

「おはようルフェア。よく眠れましたか?」

「うん」

私が声を掛けると、ルフェアは笑みを

浮かべながら頷いた。

 

その後、朝食の準備をしていると……。

「「……」」

無言でハジメと香織がやってきた

のだが……。

 

二人とも、目の下に隈が出来ていた。

 

「……。まさか夜通しだったんですか?」

 

と言うと……。

 

『スッパァァァァンッ』

何故かハジメがハリセンを取り出して私

の頭を引っぱたいた。

いや、それ以前にそのハリセンどこから

取り出したんですかハジメ。

 

「違うって!お互いドキドキしっぱなしで

 眠れなかったんだよ!殆ど一睡も

 出来なかったんだよ!僕まだ

 DTだよ!OK!?」

「……。何をそんなにブチ切れている

 のですかハジメ」

と言うと……。

 

『スッパァァァァンッ!』

さっきよりいい音がした。私の頭から。

「司のせいでしょうがぁぁぁぁ!」

 

……。どうやら私の行動は完全に裏目に

出てしまったようだ。

「二人は超が付くほど奥手かと思い

 場をセッティングしたつもりだったの

 ですが……」

 

「うん!とりあえずありがとうって

言っとく!でも今後こう言うのは

やんなくて良いから!」

「分かりました」

どうやら私の行動は余計なお節介だったよう

ですね。

 

「では、精々、精の付く食べ物を作る

 程度にしておきます」

『スッパァァァァンッ!!!』

「それもアウツッ!色んな意味で

 アウトだから!」

サムズアップして言ったら再び

ハリセンの一撃が私を襲う。

 

そして横を見れば、ルフェアが必死に

笑いを堪え、香織が長い長いため息を

付いていたのだった。

 

それにしても……。最近ハジメの私に

対する態度がボケキャラにツッコむ

ツッコみキャラになっている気がする

のだが……。

 

まぁ良いか。

と思いながら私は食事を用意していた。

 

その後、結局朝食を取ってから更に

ハジメと香織を仮眠させ、昼食を取って

から拠点を出た。

 

「さて、では行きましょう」

ジョーカーを各々纏い、私達は外に出た。

 

しかし、気になった事があったので

私は早速、タールに右手を浸しデータ

を採取した。

ふぅむ。

「司、どうかしたの?」

「……全員、ここでの発砲は控えた方が

 良いかもしれません」

「へ?何で?」

ハジメが首をかしげると、私は3人の

ディスプレイに、このタールモドキの

データを転送、映し出した。

 

『≪フラム鉱石≫。艶のある黒い鉱石。

 熱を加えると融解しタール状になる。

 融解温度、摂氏50度。タール状態では

 摂氏100度で発火。発火時の熱量は

 3000度に達する』

 

それを見た瞬間、ハジメと香織が息をのむ

のが分かった。

「うそぉん」

「えぇ……」

戸惑うハジメと香織。二人は辺りを見回す。

「も、もしかしてこれ全部……」

「はい。フラム鉱石ですね」

香織の言葉に応える私。

すると二人はカタカタと震えだした。

 

「ち、ちなみに司。ジョーカーの

 耐えられる温度って……」

「7000度まで耐えられますが?」

「あっはい」

震えながら問いかけたハジメに言うと、

それだけ言って黙ってしまった。

そして二人の震えも止まる。

 

しかし、下手に銃を使って階層が火の海、

と言うのも面倒ですね。

やむを得ないか。

私はパチンと指を鳴らした。すると

4人の背中にヴィヴロブレードが装着

される。

更にもう一回指を鳴らす。今度は、右腕

下部にアンカーランチャーが出現した。

 

「とりあえず、近接武器として

 高周波ブレードと右腕にアンカー

ランチャーを装備させました。

これなら大丈夫でしょう」

 

そう言うと、私が前方を見据え、他の

3人もそれに倣う。

 

「行きましょう。探索2日目の、開始です」

「うん」

「行こう」

「が、頑張ります」

私の言葉に、ハジメ、香織、ルフェアが

それぞれ返事を返し、探索2日目が始まった。

 

それから、私達の2日目が始まった。

第3層の探索において一番厄介だったのは、

タールの中から現れるサメ型の魔物だった。

この魔物は、後から調べて分かった事だが

気配遮断、と言う言わば隠密スキルを備えて

居た。

しかし、各種レーダーを装備する私の目に

掛かれば、何て事は無かった。

 

先頭の私を食おうと飛び掛かってきた所を

アレースで一刀両断した。

幸い、サメ型魔物以外には大した魔物は

存在せず、私達は順調に第3層を突破した。

 

 

それからは、大体1日に2~3層のペースで

下へ下へと降りていく私達。

 

その途中でも、色々あった。毒の痰を

吐き出す2メートルの虹色毒ガエル。

それと麻痺の効果を持った鱗粉を

まき散らす蛾の魔物がたむろする、毒の霧

に覆われたフィールド。

これらはジョーカーの気密性と空気を

浄化するフィルターの力よって、

特に問題無く突破した。

 

しかし……。

あの蛾の魔物を見ていると、無性に

倒したくなった。

そう本能に訴えてくる物があったので、

とりあえずG・キャノンで跡形も無く

吹き飛ばしたが……。

 

「それはオーバーキルだって司!」

と、熱で溶解した洞窟の一部を指さし

ながら怒られてしまった。

 

次の階層では、洞窟の中なのに鬱蒼とした

ジャングルが広がっていた。

そして、そこでの敵が巨大なムカデの

魔物だった。それが突然頭上から振ってきた

時、運悪くハジメが落下地点の側に居て

魔物を凝視してしまった。更にこれは節

一つ一つが分離して増えるのだ。

これが向かって来た時には……。

 

「いやぁぁぁぁぁあ!!

 来ないで~~~~!」

悲鳴を上げながらバアルを撃ちまくる香織と。

「ひゃっはぁぁぁぁぁぁっ!

 汚物は消毒だぁぁぁぁぁぁっ!」

何故かテンションが振り切れたハジメが

私作の火炎放射器、『シャマシュ』で

ムカデの魔物を焼き払っていく。

「気持ち悪い~~~!や~~~~!」

どうやらルフェアも気持ち悪いらしい。

Eジョーカーへと変化し、チェーンガンを

撃ちまくっている。

私はバアルを単発にして一匹一匹を

狙い撃っていく。

 

ちなみに、その階層にはもう一つ、

魔物がいた。ハジメ曰く『RPGゲーム

のトレント似』な魔物の頭から落ちてきた

果実を、ハジメが何の気なしに食べたら

美味しかったようだった。

他の二人もそれを口にして美味しそうに

していた。

 

そして……。

 

「狩り、開始」

 

ハジメのそんな言葉に続くように、3人は

笑みを浮かべながらトレントを狩りまくった。

 

ふむ。香織とルフェアも日々順調に強く

なっている。これはとても良い事だ。

と、私は果実をむしり取られ無造作に伐採

されていくトレントを見ながら

考えるのだった。

 

そんなこんなで、私達は日々戦い強く

なりながらオルクス大迷宮を潜って

行った。

 

そして、探索開始から1ヶ月が経とうと

していたある日。

150層に私達は到達した。もうここまで

来ると、香織とルフェアも頼もしくなった

ものだった。ここにたどり着く少し前から、

最近は二人一組に分かれて階層を探索

する事をしていた。

いつでも4人で行動出来る訳では無いので、

それに対する訓練の為だ。

同時に、階層を注意深く観察する

為でもあった。

 

第101層で神結晶を発見したように、

どこに何があるか分からない迷宮で

何か重要な物を見落とさない為でも

あったのだ。

 

そして、150層で私とEジョーカー

フォームのルフェアの二人で次の層へ

続く階段を発見した時だった。

 

『ピピッ!』

≪司聞こえる?≫

通信機から音がしてハジメの声が聞こえた。

「こちら司。こっちは問題ありません。

 今し方下への階段を発見しましたが……。

 どうかしましたか?」

≪あぁうん。なんて言うか、変な扉を

 見つけた≫

「変な扉?」

私がその単語を繰り返すと、周囲を

警戒していたルフェアが僅かに振り返る。

≪あぁ、だから出来れば合流して欲しいんだ≫

「分かりました。すぐにそちらと

 合流します。では、後で」

そう言って通信を切る私。

 

「ハジメお兄ちゃん達、どうかしたの?」

「何でも、変な扉を発見したとの事です。

 二人と合流します。行きましょう」

「うんっ」

ルフェアの質問に答え、彼女が頷くと

私達は足早に部屋を後にした。

 

ジョーカー同士は、互いの位置を確認出来る

GPSのような装備を持っていた。

二人のマーカーがある方へと向かうと……。

 

「あっ。司くん、ルフェアちゃん。こっち~」

待っていた香織が手を振る。

「お待たせしました。で、これが……」

そして、合流して早々私達の目に

飛び込んできたのは……。

 

高さが3メートルはある、装飾付きの両開きの

荘厳な扉。その左右には巨大な一つ目の象が

2つ。壁に半ばめり込むようにしながら扉を

挟むように立っていた。

 

「……明らかに人工物ですね。今までの

 迷宮と、何か違う。それに……」

「やっぱり、司も感じる?僕も、何て言うか

 この部屋とその奥から、その、

 プレッシャーを感じるんだ。

 それで、どうする?」

「……」

 

私は、ハジメの言葉に無言で考える。

 

これまでには無い、明らかな人工物。

そしてこの、部屋の奥から放たれる

プレッシャー。まず間違い無く、

この中には、何か『居る』、もしくは

『ある』。

 

……この先では、何が起こるか

分からない。しかし、だからといって

これほどの人工物。スルーする訳には

行かない。

……ならば、万全を期す。

 

私は扉から離れた通路の角の場所に立ち、

指を鳴らすと、メカニカルな杭を創り出し

床に突き刺した。

 

「司、それは?」

「ポイントマーカーです。今から

 3人のジョーカーに転移システムを

 付与します。もし、命の危険を

感じたら、テレポート、と言う言葉

を思い浮かべるか叫んで下さい。

このマーカーの地点に強制的に

転移します」

 

私は、3人のブレスレットに触れ、

転移システムを付与する。

「ここから先、何が起こるか

 分かりません。しかし、あの扉の

 奥には何かある。だから行こうと

 思います。……最悪、ここで

 待っている。と言うのもあり

 ですが……。3人は、どうしますか?」

 

「……僕は行くよ。司と一緒なら、大抵の

 事は何とかなるから」

「私も行く。ハジメくんや司くんを

 守る為に」

「わ、私も行く!私も皆を!

 家族を守りたいから!」

 

皆、行くと言ってくれた。ならば……。

 

「では、行きましょう。行動開始です」

 

 

私達は、ゆっくりと扉に近づく。

左右では、ハジメと香織が像を警戒

している。

私は、タナトスを背面に装着して両手を

空けると静かに扉を触れる。

扉には、二つの窪みがありそこには魔法陣

が描かれていた。しかし……。

 

「……この魔法陣は……」

「どうしたの司」

「いえ。王国の座学で教えられた魔法陣

 とは些か毛色の違う魔法陣ですね、これは」

「つまり、古いって事?」

と、問いかけてくる香織。

「……それも、相当ですね」

そう言って、私は扉を撫でる。

 

「どうやら、数十年、程度では済まない

 でしょう」

「って事は、数百年は昔って事?」

「恐らくは」

 

しかし、魔法陣が描かれた窪みが二つ。

どう考えても、何かをはめ込め、と言う

意図にしか思えない。

しかし、左右の石像を見るに……。

何かを手に入れるのにはこの左右の

石像を……。それは面倒だ。

 

よし。ここは……。

「各自、下がって下さい。この扉を爆破します」

「爆破?……マジで?」

「あくまでも扉の破壊を前提とした、

極小威力のコンポジット爆弾、C4

を使います。3人は下がって。それと

ルフェアはシールド展開の用意を」

「うんっ。任せて」

3人が下がると、私は扉の破壊に必要な

爆薬の量を計算し、それを扉にセット

したのだが……。

 

「…………」

 

無言で私は両隣の一つ目石像を見上げた。

「ハジメ、この石像は……」

「うん、怪しいね。これ絶対、扉を

 開けようとしたら、復活して襲われる

 パターンだよ絶対」

確かに。

 

私もそう思ったので……。

「動き出す前に頭だけでも吹っ飛ばして

 起きましょう」

私は跳躍し、石像の額にC4をセット

した。

 

心なしか、石像が震えているように

感じたが無視して下がる。

「ルフェア」

「うん!シールド展開!」

彼女が叫ぶと、私達4人を包み込む

半径3メートルのシールドが展開された。

私は爆弾の起爆装置を左手に握っていた。

 

「起爆用意。各自、耐衝撃防御姿勢」

私が言うと、ハジメと香織が念のため

腰を下ろし地面に膝を付け、ルフェアの

Eジョーカーが腕のパイルを地面に

突き刺した。

「起爆5秒前。カウント開始。

 5、4、3、2、1。爆破っ」

『カチッ』

 

『『『ドドドォォォォォォンッ!!』』』

 

扉と石像の頭部にセットした爆弾が

ほぼ同タイミングで爆発した。

周囲に爆音が響き渡り、砂埃が舞う。

しかし、爆音とは裏腹に司の計算によって

セットされた爆薬の量は、扉と石像の頭部

の破壊の為だけに調節されており、周囲

への被害規模は無いに等しい物だった。

 

そして、あれほど荘厳だった扉は既に見る

影も無く、煤こけ黒くなっていた。

そしてその扉が、ハジメ達の方へと

倒れてきた。

『ズズゥン』と音を立てながら倒れる扉。

 

「……よし、進路確保」

扉が開いた(?)のを確認するとそう

呟く司。ちなみにハジメは……。

 

「君たち、出番無くて残念だったね」

と、この場所で長らく敵を待ち、役目を

果たすときを待っていたであろう一つ目

巨人達の象に向かって手を合わせていた。

 

 

これで、扉が開いた。

「各自傾注。これより中へ入る。

 中では何があるか分からない。

 警戒は怠らないように。それと、

 奥には光源が無い。各自、暗視 

 装置とライトを点灯」

そう指示を出すと、各自が暗視装置を

起動すると共に、小型ライトを起動した。

 

メット左側頭部のカバーが開き、中から

小型のライトが現れ、前方を照らす。

ハジメがタナトス。香織とルフェア

がバアルを構え、私はノルンを握っていた。

改めて中を見回せば、壁には召喚された

あの日見たような、大理石の壁が広がり、

等間隔に柱が両脇に置かれていた。

 

その時、奥の方で何かがライトの光を

反射した。

「ッ、何?」

戸惑いながらもそちらにバアルを

向ける香織。

私達4人が『何か』に注視していた。

その時。

 

「……だれ?」

『何か』の方から声がした。

それは間違い無く人の声だった。

 

そして、声が聞こえるのと同時に理解した。

中央には、立方体のような物があり、そこ

から何かが『生えている』ように見えた。

 

しかし、生えているように見えたそれは、

体の殆どを立方体に取り込まれ、唯一頭

が外に出ている、『人』だった。

しかし、こうも暗くては相手が良く

分からない。

 

私はノルンをホルスターに戻すと

パチンと指を鳴らし、マルチランチャー

ピストル『アテネ』を創り出した。

 

これは単発の信号拳銃のようなもので

様々な弾丸を放つことが出来る。

更に、吸着機能付きの照明弾を創り出し

アテネに装填する。

「今から部屋を明るくします。全員、

 暗視装置をカット」

そう言うと、全員が暗視装置を切り、私

は天井に向けてアテネから照明弾を

放った。

 

『ベチャッ』という音と共に照明弾が

付着し、光を放つ。

そして、その光が私達と立方体に

埋め込まれていた人を照らし出した。

 

突然の光に目を背ける人、いや、

『少女』。

 

人は少女だった。

長い金髪にその隙間から見える紅い瞳。

歳は、12、3歳と言った所だろうか。

その少女は、やつれて見えるがそれでも

十分に美しいと呼べる物だった。

 

そして、その少女が頭を巡らし、こちら

を見ている。

 

そして……。

「おね、がい。……助け、て」

少女は、掠れた声で助けを乞う。

しかしその音量は小さくとも必死な

事は私でも分かった。

「待ってて!今!」

 

その声に反応し、ハジメが前に出ようと

するが、私がそれを制する。

「なっ!?司!?何で!」

「落ち着いて下さいハジメ。

 ここはどこですか?一般人が

 存在すら知らないオルクス大迷宮の

 150層ですよ?そんな場所に、

 こうして封印されている彼女は、

 危険な存在かもしれません」

「ッ!?」

私の言葉に、息をのむハジメ。

 

そして、私は一歩前に出て少女と向き合う。

 

「貴女は、何故ここに?封印されている理由

 を、ゆっくりで良いから話して下さい」

「……私は、裏切られた」

「裏切られた?誰に」

「……私の、おじ様。……私は、先祖返り

の吸血鬼。すごい力、持ってた。……だから、

国の皆のために頑張った。でも、

ある日……おじ様や……家臣が、私は

要らない、って……。おじ様が、王だ、って。

……それでも、良かった。でも……私の

力、危険だ……殺せないから……そう言って、

封印……された」

 

聞こえてきた話をまとめつつ、私は更に

問いかけた。

「貴女のすごい力、と言うのは?」

「……怪我しても、すぐ治る。……首

 落とされてもその内治る」

擬似的な不死身、と言う事か。

「それだけですか?」

 

「……もう、一つ。私、魔力、直接

 操れる。……陣も要らない」

 

……魔法陣や詠唱無しでの魔法行使。

成程。普通は魔法を行使する『準備段階』

がある。それが詠唱や陣を描く事。

しかし彼女の場合、それが必要無い。

魔法を行使するスピードにおいて、

右に出る物は居ない、と言う訳か。

 

しかし……。

 

彼女の話が『本当』だと確信する証拠が

無い。

ここに居たのなら、そう言う作り話を

考える時間だってたっぷりあっただろう。

私は思案を続けていたとき。

 

「……お願い。助けて」

少女の声が、助けを求めて部屋に響く。

その時。

 

「司。司の事だから、やっぱり色々

 疑ってるのかもしれないけど……」

そう言いながら、ハジメは私の隣

を通り抜け、少女を捕えている

立方体に手を当てた。

 

「僕はこの子を助けてあげたい」

そして、ハジメは真っ直ぐ私の方を

見つめた。

 

「……彼女の話が100%本当、

 と言う確証はありませんよ?」

「うん、分かってる。でも、司は

 前に言ってたよね?『私は好きにする。

 諸君等も好きにしろ』って。

 だから僕は好きにする。僕は

 この子を助けたいって思った。

 だから助けたい」

 

少女は、そう語るハジメの背中を

見上げていた。

 

やれやれ、と言うべきですか。

後ろを見ると、香織がうんうんと

頷き、ルフェアは彼女の話に同情

しているのかヘルメットを取って

泣いていた。

「分かりました。では……」

 

私は、アレースを取りだしそれを即座に

アップグレード。柄の部分に腕部から

伸びるコネクターを接続。すると赤い

アレースの刀身が、更に赤く赤熱化

していく。

 

「とりあえず、この立方体をぶった切り

 ますか」

私は、立方体の横へ移動しヒートソードと

化したアレースを振り下ろした。

 

予想外に強い抵抗を受けた物の、

すぐさまアレースの温度に負けた

立方体が切れていく。すると、途中

で立方体の抵抗が無くなった。

 

どうやら、立方体が力を無くしたようだ。

これなら……。

「ハジメ、ちょっと立方体を

 殴ってみて下さい」

「OK!任され、たぁっ!」

『ドゴォォォォッ!』

ハジメのジョーカー0の拳が立方体

に突き刺さった。すると……。

 

『ビキビキビキッ!』

立方体に罅が入り……。

『バリィィィィンッ!』

音を立てて砕け散った。

 

「あぅ」

立方体という枷と体の支えを失った

裸の少女が宙に投げ出された。

「おっ、と」

それを、咄嗟にハジメが抱きかかえる。

 

「君、大丈夫?」

ハジメは彼女の顔をのぞき込んだ。

すると……。

 

「ありが、とう」

少女は、掠れる声と共に涙を浮かべながら

そう呟いた。

 

 

その時。

「っ」

私のレーダーに迫り来る敵の存在が

映し出された。

 

「敵接近!」

私はすぐに叫んだ。緩み掛けていた

ハジメと香織、ルフェアの表情が引き締まる。

「ハジメは少女を連れて扉付近まで後退!」

「了解っ!」

ハジメは、少女を抱きかかえて下がる。

「香織、ルフェアは戦闘態勢!敵は……!」

 

相手の迫ってくる方向、それは……。

「直上!!」

 

私が叫んだ次の瞬間。天井から

『ソレ』が降ってきた。

私は咄嗟に跳躍し香織とルフェアの

所へ下がり、振り返る。

 

落下してきたそれは、一言で言えば

サソリだった。

但し、体長は5メートル前後。二本の尻尾

を持っているサソリだった。

 

この部屋に入った時、側にこの魔物の

存在は感じなかった。恐らく、仮死状態

か何かで眠っていたのだろう。

あの少女が封印を解いた瞬間に

襲いかかる敵として。

 

少女を助けたと思ったらこれですか。

だが、やるしか無い。

 

「総員、戦闘態勢!ハジメは少女を守りつつ

 柱の陰に後退!ルフェアは二人の直援に!

香織は後方から射撃支援!」

「「「了解っ!!」」」

 

矢継ぎ早に指示を飛ばし、私はアレースを

両手で握り直し構える。

 

新たな出会いがあったと思った直後に

この戦闘。

目の前に居るサソリの魔物と、私達の戦いが

始まろうとしていた。

 

     第9話 END

 




って事で、ユエとエンカウントしました。
本当は、サソリと決着付けるつもりだった
んですけど、分割しました。

感想や評価、お待ちしています!

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