ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回はサソリの魔物との対決です。
実はユエの出番がかなり減ってます。


第10話 深淵の出会い 後編

~~前回のあらすじ~~

順調にオルクス大迷宮を攻略していく司達。

そんなある日、4人は迷宮150層で不思議

な扉を発見する。これまでとは違うその

扉の奥に何かあると感じた司の判断で

4人は扉を爆破して突破。内部に入ると、

そこには一人の少女が囚われていた。

彼女曰く、裏切られ囚われたと言う話を

司は訝しむが、ハジメは以前司が言った。

『好きにしろ』という言葉を引き合いに出し

彼女を助けたいと言う。それによって司も

納得し、少女を捕らえていた立方体を破壊。

しかし、直後にサソリ型の魔物の強襲を

受けるのだった。

 

 

「香織!少女に神水を!」

ノルンを向け、睨み合う中叫ぶ。

「うん!」

香織は頷き、背面のメカニカルな

バックパックの中からペットボトルを

取り出した。

それの中身は、神水だ。101層で回収した

神結晶が生み出す、ハジメ曰く『ウルトラ

ポーション』、神水ならば、恐らく彼女

に活力を与えてくれるだろう。

「ハジメくん!」

それを投げる香織。

 

『パシッ!』

「ありがとう香織さん!」

ボトルを受け取ったハジメは、柱の

影に隠れるとボトルのキャップを

開け彼女の口にあてがう。

「これ、ゆっくりで良いから飲んで」

「……ん」

コクコク、と喉を鳴らしながら神水を

飲む彼女。やがて体中に活力がみなぎると

驚いたように目を見開き自分の体を見つめた。

 

その時。

『ジュワァァァァァッ!』

何かが溶ける音がした。二人が驚き柱の

影から顔を出すと、司のジョーカーZ

が先ほどまで立っていた場所が、サソリが

放ったであろう毒液で溶けていた。

 

毒液か。厄介な。

私はサソリの放った毒液、いや、溶解液を

跳躍して回避。

『ババンッ!』

カウンターでノルンからAP弾を放つが……。

『ギキィンッ』

並の魔物の外皮なら貫通するAP弾でも、

あのサソリの魔物の外殻を貫く事は

出来なかった。

 

ノルン程度のアーマーピアシングでは

効果が無いか。これではバアルの弾丸も

奴の外殻を貫く事は難しいか。

 

その時、毒液を発射したのとは反対側の

尻尾の先端が膨れ上がった。

かと思った瞬間、無数の針が打ち

出されてきた。

だが……。

 

体内リミッター、レベル20まで解放

 

「ふぅ」

リミッターを解放した私の瞳が、

紫色の光を放つ。体に、人間では

考えられない程の力がみなぎる。

世界がスローになる。そして……。

『ガガガガガキィンッ!!!』

襲い来る全ての針を、アレースで切り落す。

 

今度は、こちらの番です……!

私はアレースにエネルギーを送り込む。

すると、赤熱化していた刀身が白く

白熱する。縮地の力で一気に距離を詰め、

アレースを振り下ろす。サソリは

4本ある腕の一本でアレースを

受け止めた。

だが……。

 

『ジュゥゥッ!』

「キシャァァァァァァッ!?」

受け止めた瞬間、奴の腕から煙が上がり、

次いでサソリが悲鳴を上げた。

咄嗟に後ろに飛び退り、毒液を吐き出す。

私も後ろに跳躍し、毒液を回避する。

 

見れば、先ほどヒートソードを受けた箇所

が焼けただれている。どうやら、

最大出力のヒートソード形態のアレース

ならば、奴を斬れる。

 

奴は、私の方を睨み付けている。

だが、それは命取りだ。何故なら……。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『ドドドドドドドドドッ!!!』

後ろから香織のバアルが援護射撃を

行う。

 

『ギギキィィンッ』

放たれた銃弾は、やはり予想通りその外殻

を貫く事は出来ない。だが、奴の注意を

逸らすのには、十分だった。

 

『ザンッ!!』

私は、一瞬で距離を詰め、先ほどの

鍔迫り合いで黒くなった箇所にもう一度

アレースを振り下ろした。

白熱した刃が、ザクリとサソリの傷口を

切り裂き、腕の一本を切り落した。

 

「キシャァァァァァァァッ!?」

音を立てて落下する腕と、悲鳴を上げる

サソリ。

と、その時、サソリは毒液を辺りに

振りまく。

「むっ」

私は咄嗟に後ろに飛ぶ。

「うわっ!」

更に援護していた香織の方にも毒液が

飛んでいき、彼女も慌てた様子で下がる。

「ルフェア!シールドを!」

「うん!」

 

私達は一旦距離を取り、ハジメと少女が

隠れる柱の陰に飛び込んだ。

そして私達を護るようにルフェアの

Eジョーカーがシールドを展開する。

こちらに向かって放たれた針をシールド

が弾く。

 

私はすぐさまタナトスを創り出す。

「各自傾注。奴の装甲はノルンのAP

 弾やバアルの銃弾では貫徹出来ません。

 香織、ルフェア、ハジメはここから

 タナトスとチェーンガンを使って

 支援を。私が前に出ます」

「「「了解っ」」」

「……行きます」

 

私は柱の陰から飛び出し、タナトスを撃つ。

『ババンッ!』

放たれた炸裂弾が奴の外殻に命中する。

炸裂した箇所を見れば、奴の装甲に僅か

ながら罅が入って行った。……行ける。

 

そう思った時。

『ジュワァァッ!』

奴の放った毒液の一滴がタナトスの

銃身に当たり、銃身が溶けていく。

私は咄嗟にタナトスを投げ捨て、

ホルスターからノルンを抜いて放つ。

『カンカンッ!』と甲高い音が

響きながらも、毒液の尻尾に命中し

その狙いを逸らす事が出来た。

 

「司!」

「当たってっ!」

「行っけぇぇぇ!」

『『『ドドドドドドドッ!!!!』』』

その時、柱の陰から3人の一斉射撃が

サソリに襲いかかった。

奴の注意がそちらに向く。奴は毒液を

柱に向けて発射しようとした。

 

だが……。

『バシュッ!』

『ギュルルルルッ!!』

私の右腕のアンカーが奴の尻尾に巻き付き、

こちらへ引く事で狙いを逸らす。

 

毒液は発射されたが、明後日の方向へと

飛んでいく。

そして、私は地面を蹴りリールを巻き取り

ながら接近。

「キシャァァァァァッ!」

サソリは、残った3本の内の一本を私

に向けて放つ。だが……。

『ガキィィィンッ!!』

腰元から生えていたテールスピアが

うねりながらその巨大なハサミを

弾いた。

そして……。

 

『ズバッ!!!』

アンカーを回収し、すれ違い様に

毒液の尻尾を、根元から切り裂いた。

 

「キシャァァァァァァッ!!」

悲鳴を上げるサソリ。私は壁を蹴り

4人の元へと下がった。

「司!」

「これで毒液は使えません」

とは言え、何が出るか分からない

以上、早急に片を付けるべきか。

 

「香織、ハジメ。二人はEジョーカー

 へ移行。3機のチェーンガン、合計

 6門で飽和攻撃を行います。私が

 合図したら、思いっきりやって

 下さい」

「OK!」

「うん!任せて!」

二人が頷くと、私は再び前に出る。

 

その時。

「キィィィィィィィッ!」

咆哮を上げるサソリ。すると、私の

進路上にある地面が波打ち始め、次の

瞬間には無数の棘が生え私に向かって来た。

だが……。

リミッターを解放した私の反応速度も、

胆力も、常識を遙かに超えた物だ。

 

「この程度、笑止……!」

『ズバババッ!!!』

棘をアレースで切り裂き、更に進む。

今度は針を雨の如く発射してくるが、

それがどうした?

 

『ギキキキキキキィィィンッ!!』

「キシィィッ!?」

その全てを、残像を残すほどの速度で

たたき落とす。

そして……。

 

アレース、最大出力

 

再びエネルギーを送り込む。アレース

の表面温度は、既に万単位に届く程だ。

既に、アレースの周囲は蜃気楼の

ように空気が揺らめいていた。

それを、サソリが放ったカウンターの

ハサミに叩き付けた。

 

『ジュォォォォォォォッ!』

奴が溶解液を放った時と似た音を

立てながら、ハサミが溶けていく。

「ギシャァァァァァァッ!?!?」

悲鳴を上げながらも、サソリは

残った2本を私目がけて放った。

私はそれを跳躍し回避する。そして……。

 

「撃て……!」

静かに呟いた次の瞬間。

 

『『『ドドドドドドドドドドッ!!!!』』』

後方に待機していた3人のEジョーカー

から幾重もの銃弾が放たれるサソリに

殺到する。

 

例え、機関砲弾がその装甲を貫徹する事が

出来なくても、その衝撃は装甲を伝い

内部へと響く。同様に、貫徹しなかった

としても運動エネルギーを完全に殺す

事は出来ない。

つまり、『倒す事』は出来なくても

『ダメージを与える事』は出来るのだ。

恐らく、今の奴は襲い来る衝撃に

よって体がかき混ぜられている頃

だろう。

 

そして、射撃が止むと……。

「キシィィ……」

砂煙の中から、フラフラになり外殻が

ボロボロになったサソリが現れた。

「……終わりだ」

私は、跳躍しサソリの装甲が、一番

脆くなっている部分にアレースを

突き刺した。

 

僅かな抵抗の後、その体内へと刺さる

アレース。そして……。

『ボワァァァァァァァッ!!』

アレースを通して内部に着火した。

装甲の割れた部分や傷口、口から

炎を吹き出したサソリは、数秒すると

動かなくなったのだった。

 

私は、アレースを抜くとそれを背中の

鞘に戻した。

 

「終わったみたいだね、司」

そこへ、少女を背負ったハジメ、香織と

ルフェアがやってきた。

「えぇ。……予想外に強敵でしたが、

 まぁ私達4人に掛かれば、と言った

 所でしょうか。さて」

私は、ハジメの背中におんぶされて

いる少女に目を向ける。

 

「とりあえず、ここを離れて安全な

 拠点を作りましょう。彼女と話を

 するのも必要でしょうし」

 

そして、私達は少女が囚われていた

部屋を離れ、150層の一角に拠点を

作った。

 

拠点を作り、出入り口にシールドや

セントリーガンを展開した後、中に

椅子とテーブル、お茶に茶菓子を置いて、

私達は話し始めた。

 

ちなみに、色々ポンポン物を作り

出したり、装着を解除したりした所を

見て、少女はとても驚いていた。

あと、彼女が素っ裸だったのでとりあえず

私が服を創って着せた。

 

そして、まずは私達の方から自己紹介

を始めた。

「私は新生司。歳は17。よろしく」

「僕は南雲ハジメ。よろしくね」

「白崎香織です。はじめまして」

「……私はルフェア・フォランド。亜人、

 森人族、です」

挨拶をするも、ルフェアは初対面の

彼女にどこか怯えていた。

 

「さて、まずはこちらから名を名乗った

 のだ。次はそちらの番、と言うべき

 だろう。君の名は?」

「……付けて」

「は?」

少女の言葉に、私は一瞬呆けた。

 

「……もう、前の名前は要らない。

 私は、変わる」

「それは、つまり。過去との決別の意味も

 込めて新たな名前が欲しい、と?」

「……うん」

少女は私の質問に頷いた。

 

「……との要望ですが、3人は何か

 候補というか、アイデアはありませんか?」

私は3人に話題を振る。3人とも頭を抱え

悩む。

 

やがて……。

「……ユエ」

「ん?」

何かを呟くハジメに、私は首をかしげた。

「ハジメ、何か?」

「あ、いやっ。……『ユエ』、なんてどう

 かな?」

ユエ……。

「それは中国語で言う月、ですね」

「うん。何て言うか、初見のイメージ、

 って言うか。僕達の世界にも吸血鬼の

 伝承とかがあってね。吸血鬼=夜、

 みたいな感じなんだ。それで夜と

 言えばお月様、って事でユエなん

 だけど……。嫌だった?」

と、ハジメが聞くと、少女は全力で

首を左右に振った。

 

「……全然。それが良い。私は

 今日からユエ。……ありがとう、ハジメ」

「うん、どういたしまして」

ハジメから与えられた名前、ユエがとても

気に入ったのか、少女改めユエは

とても嬉しそうだった。

 

しかし……。

『クゥゥゥッ』

そんな彼女のお腹から、悲鳴が……。

「あっ」

途端に顔を赤くするユエ。

やがてユエは申し訳なさそうに

私達を見回す。

 

「……あ、あの。誰か、その……」

「あっ。もしかして、血が欲しいの?」

香織が聞くと、コクンと頷くユエ。

とは言っても……。

「誰のが良い、とかはありあますか?」

念のため私が聞いた。すると、ユエは

真っ直ぐハジメに目を向けた。

 

しかも、よく見ると彼女の頬が赤く

染まり、まるで思い人を見る女性の

ようだった。

「ん?」

何やら、ユエの表情に首をかしげる香織。

「え、え?ぼ、僕?」

一方のハジメは戸惑いながら右手で

自分を指さした。

無言でコクンと頷くユエ。

 

ハジメは困ったようにこちらを向いた。

「……ユエ、吸血行為を行ったとして、

 吸う量は大丈夫ですか?」

「……ん、大丈夫。ちょっと貰うだけ」

「では、吸血行為によってハジメも

 吸血鬼に変わってしまう、と言う事は

 ありませんか?」

「……それも大丈夫。そんな事、今まで

 一度も無かった」

 

ふぅむ。聞く分には危険性が無いよう

ですし……。

「ハジメ、折角のご指名です。少しだけ

 分けてあげてはどうですか?」

「え?う~ん」

悩むハジメ。しかし……。

 

「……」

『ウルウルッ』

瞳を潤ませ、無言でハジメを見上げるユエ。

 

『だ、ダメだ!これは卑怯過ぎる!

 か、可愛いのと可哀想過ぎて

 拒めない!』

「わ、分かったよ。ちょっとだけだよ」

そう言って、ハジメは首元を露出

させた。

 

それを見たユエは、笑みを浮かべながら

ハジメの座る椅子に近づき、彼の椅子の

上に膝立ちで立つ。そして……。

 

『カプッ』

「いっ、つ」

一瞬、痛みに顔を歪めるハジメだったが、

すぐに歯を食いしばった。

 

やがて、数秒後。

ユエが口を離した。

すると、先ほどまでやつれていた肌が

艶々と艶を取り戻し、白い肌にも生気

が戻った様子だった。

 

そして、ユエは口元についた血をペロリ

と、妖艶さを醸し出しながら舐め取り、

頬を赤く染めながらハジメを見ている。

「……ごちそうさま」

「お、お粗末様でした」

ユエの言葉にそう呟くハジメ。

 

しかし、この時二人は気づいていなかった。

 

そんな二人の様子を見ながら、

笑みを浮かべつつ背後に般若の面が

見えるほどのオーラを吹き出している

香織と、その隣でルフェアがガタガタと

震えながら顔面蒼白にしていた

事実を。

 

 

その後、ハジメの首元を念のため手当

してから、私達の素性を話した。

 

私達が人族の神、エヒトによってこの世界

に召喚された異世界人であり、魔族と

戦う為に訓練をしていた事。しかしある日

瀕死のルフェアを私達3人が保護した事。

それがきっかけで聖教教会に目を

付けられてしまった為、ルフェアを

守る意味でも、教会の考えに反発する

意味でも、教会と王国から離れ、独自

の艦隊、G・フリートを結成したこと。

そして今は、元の世界への帰還方法を

探すため、世間には知られていない謎の

空間であるオルクス大迷宮の、100層

以降へ足を踏み入れた事。

 

「そして、約1ヶ月による探索の末、

 我々はこの150層へとたどり着き……」

「……私を見つけた」

「はい。これが、私達の現状です」

 

と、説明したとき。

 

「あっ。そう言えば司」

「ん?何です?」

「司ってさ、ルフェアちゃんを助けた時、

 自力で帰れる可能性がある、

 って言ってたよね」

「あっ!そう言えば確かに!」

ハジメが思い出し、次いで香織も

思い出したようだ。

 

「え?本当なの?ツカサお兄ちゃん」

「……すごい」

更にルフェアが首をかしげ、ユエが

驚く。

 

「そう言えば、詳しい説明はあとで、

 と言って色々ありましたからね。

 それについても、ここなら

 あなた達4人以外に聞かれる心配 

 も無いでしょうし……」

 

いずれ、私の事を全て話そうと思って

いた所だ。場所的にも、丁度良い。

 

「私の、全てをお話しします」

 

 

そうして、私は全てを話し始めた。

 

私が、ハジメと香織から見ても異世界人

である事。元々が『人』では無かった事。

孤独な、突然変異の化け物である事。

記憶が元の映像を交えながら、私は私の

『オリジナル』が辿った経緯を説明した。

そして、オリジナルが凍結される寸前、

その一部であった『私』がこの世界

へと飛ばされ、進化した事。

そして、人類が支配する地球で生存

するために、人に擬態した事。そして

人に擬態し、赤子の姿で孤児院に

拾われた事などなど、全てを。

 

「え~っと?つまり司は元々異世界

 の怪獣で?それが凍結されそうに

 なったから緊急手段として司の

 元になった体細胞が異世界、つまり

 僕達の世界に飛ばされてきて、

 海で成長しておっきくなって、

 人に擬態した、と?」

「はい」

と、私が頷くとハジメと香織は顔を

見合わせた。

 

「いや、その、うん。司が前々から

 規格外で色々すごいし人間離れ

 してたのは知ってるけど……。

 いくら何でもそれは……」

やはり、いきなりは信じて貰えないか。

 

「では、証拠をお見せします」

 

そう言って、私は席を立ち、皆から

少し離れた。そして……。

 

『ボコッ!』

私の体、正確には背中が突如として

膨れ上がった。

「司ッ!?」

驚くハジメ。

「来ないで下さい。これから、一時的

 に退化します。よく見てて下さい」

そう言った直後、私の体の各部が

膨れ上がる。

服がはじけ飛び、肉が膨張し、骨、

骨格が変形する。

 

皮膚が黒く、ゴツゴツとしたケロイド状の

物となり、足は太く、手は逆に退化し、

胴体と首が長くなり、顔も人間離れし

髪の毛も消滅する。そして、背中を

突き破って幾重も列を成す背鰭が

現れた。更に、腰元からは太く長い

尻尾が現れる。

 

そして、数秒を掛けて私は、

大凡3メートルサイズの、第4形態

へと変化してしまった。

そのサイズに見合わない小さな

目で4人を見つめると、皆が

驚愕していた。

 

「嘘、だろ?司、なのか?」

驚き、後退るハジメに私は小さく

頷く。

そして、私は表皮から煙りを

吹き出し体を覆った。

 

「ッ!?司!?」

驚き、咄嗟に叫ぶハジメ。

その時。

「これで分かったでしょう?」

煙が晴れると、そこには裸の、

ゴジラ第9形態、人間態である司が

立っていた。

 

「私は、人では無いのですよ」

 

 

その後、私は破れて無くなった服を

再度創り出し、それを纏うと席に腰を

下ろした。

そして周りを見れば、皆、俯いていた。

……分かっていた事だ。

 

こう言う反応をされる可能性など、

考えるまでも無い。

「皆、私が怖いでしょう。当然です。

 あんな化け物が人の皮を被って

 いるのですから。……だから、

 安心して下さい、としか今は

 言えません。ですが、どうか

 ご安心を。私は今の第9形態の次、

 第10形態となり、元いた世界の

 座標を見つける事が出来れば、

 すぐに元の世界へと皆を届け、

 私はその力で異世界へと行きます。

 もう、二度と皆の前に姿を現す

 事はありませんから」

 

 

その言葉に、ハジメは拳を握りしめた。

「進化と観測には、1年ほど掛かる

でしょう。それに、別の方法での

帰還の術も探します。だから、

どうか1年だけ耐えて下さい。

そうすれば……」

「ふざけるなっ!」

その時、ハジメの声が司を遮った。

 

「……。分かりました。では、どこかに

 シェルターを創ります。皆はそこで

 待っていて下さい。私一人で世界を

 回りながら、帰還の方法を……」

 

その時。

「違うっ!そうじゃないんだよ司!」

再びハジメが司の言葉を遮った。

「二度と会わないって、何だよそれ!」

「……。私は、所詮人とは異なる異種族。

 人と相容れない存在です。以前の私と

 人が戦ったのが、良い例です」

 

私は、俯きながら呟く。かつてオリジナル

がそうであったように。

だが……。

「それは、言葉が通じなかったからだろ!

 でも今の司には言葉が通じる!

 それに、僕を見くびってるんじゃ

 無いのか司!」

「え?私が、あなたを?」

 

「そうだよ!司は僕の殆ど唯一無二の

 男友達だ!それに、こっちに来てから

 僕の事を考えて、ジョーカー0まで

 創ってくれた!何度も助けてくれた!

一緒に戦ってくれた!今更司が人間

じゃないって知ったくらいで拒絶

するほど、ちっぽけな友情を結んだ

つもりなんて無いよ!」

「ッ」

 

私は、ハジメの言葉に息をのんだ。

すると……。

「そうだよ、司くん」

「香織」

次は彼女だった。

「……もちろん、司くんが人間じゃないって

 事には驚いたよ?でも、怪物だとは

 思ってないよ?本当の怪物って、自分

 勝手に暴れる人の事を言うと思うんだ。

 ……でも、司くんはこの世界に来てから

 皆に戦う事の重さを、何度も教えて、

 力を与えてくれた。それに、私達が

 教会に反発したときだってG・ 

 フリートを結成して私達を助けてくれた。

 だから、私も感謝してるよ、司くん」

「わ、私も!」

香織の次は、ルフェアだった。

 

「私も、ツカサお兄ちゃんがあの日

気づいてくれたから、ここに居る。

美味しい料理を作ってくれて、教会

で殺されそうになった時も助けて

くれた!私、お兄ちゃんにたくさん

助けて貰った!だからいっぱい、

い~っぱい感謝してる!だから、

だから私はツカサお兄ちゃんの事、

大好きだもん!」

「ッ、ルフェア」

「……私も、司たちに助けられた。

 それに……。ずっと一人だった寂しさ。

 私も、分かる」

そう言って、ユエは涙を浮かべていた。

 

4人の言葉は、肯定と好意の言葉だった。

拒絶されるかも。私はそう思っていた。

しかし、受け入れて貰えた。

その時。

 

『ポタッ』

何かが目元を伝い、テーブルに落ちる。

ハッとなって私は頬に指を当てる。

すると指先が濡れる。濡れた指先を

頬から離し、その指先に目を向け、私は

それが涙だと理解した。

 

「司……」

ハジメの声が聞こえる。

 

あぁ、そうか。これが、『喜び』か。

ふふっ、かつては絶望の権化のように

恐れられていた私が、ここに来て涙を

浮かべ、喜びに心震わせる日が来ようとは。

「……進化とは、怖い物です。

 涙など、流す事の無い縁遠い存在

 と思って居たのに」

 

私は、掌に落ちた涙を握りしめる。

その時。

「大丈夫だよ」

いつの間にか側に来ていたルフェアが

私を抱きしめた。

「私は、お兄ちゃんの家族だもん。

 お兄ちゃんが私を受け入れてくれた

 みたいに、今度は私が、私達が

 受け入れるから」

 

「ルフェア。……ありがとう」

 

その日、私は心の底から笑えた気がした。

 

 

それから数分後。

 

「しかしまぁ、改めて考えると司の

 ハイスペック過ぎるのも全部説明

 出来るよね。秒単位で進化する

 生物とか」

「そう言う意味だと、放射能って

 怖いよね」

素直に驚嘆するハジメと、ため息を

突く香織。

「けど、司の進化ってそんなにすごいの?」

「はい」

 

私は頷き、第1から第9までの能力を

話した。

すると、ハジメと香織は引きつった

笑みを浮かべた。

 

「え~っと?第5形態だと細胞レベルで

 生きて?」

「はい。なので完全消滅しない限り、

 それこそ指一本でもあれば復活します」

「第6形態だとエネルギーが無限になって?」

「はい。永久機関を獲得したので最悪食事

 を取らなくても生きていけます」

「第7形態だと体内に宇宙を宿して

 あらゆる元素を自由自在に操れる?」

「はい。普段無から有を創り出している

 能力もこれに起因します」

「そんでもって第8形態なら物理法則

 すら無視出来る、と?」

「はい。だから空間を歪めたりも

 出来るんです。ちなみに、第9形態

 の今なら様々な事象に介入出来るので、

 指を鳴らすだけで町とかを無かった事

 にも出来ます」

 

「……。神だ。神チートだ」

「今更ながらに思うけど、司くんが

 敵じゃなくて良かったね」

「……司怒らせたら世界が終わる」

「流石ツカサお兄ちゃん!無敵だね!」

 

三者三様の反応。ハジメはどこか

遠い目をして、香織は苦笑。ユエは

何か失礼な事を言っているような……。

ルフェアはどこかキラキラと目を

輝かせていた。

 

 

その後、ユエから改めて詳しく彼女の

事情を聞いた。

吸血鬼は現在から、数えて300年ほど前に

争いで滅んでいた事から逆算して、ユエは

300歳は生きている事になっていた。

そして、彼女の口から出た言葉に、

私達は首をかしげた。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が

 作ったと言われている」

「反逆者?」

と、オウム返しに質問するハジメ。

 

「司、分かる?」

「少しお待ちを。……脳内のデータ

ベースに、ありました。反逆者とは、

遙か以前、神代と呼ばれる太古に

おいて、神に反旗を翻した7人の眷属を

指すようです。

彼らは世界を滅ぼそうとしたが、

その野望が叶うことは無く、彼らは

世界の果てに逃げ延びた、と

あります。そして、その果て、

と言うのが七大迷宮のようですね」

「……付け加えるなら、その迷宮の底に

 彼らの家があるかも、って言われてる」

 

遙か太古、神に逆らった者達の遺跡、か。

しかし、これは好都合です。

 

「どうやら、最初の見立て通りここには、

 正確にはここの最下層には何かがある

 ようですね。ユエの情報で更なる

 手がかりが分かった事ですし、当面の

 目的はこのオルクス大迷宮の最下層部

 へ到達する事にしようと思いますが……」

「そうだね。僕には異論は無いよ」

「私も」

「私もですよ、お兄ちゃん」

「ん、私も」

皆、同意してくれた。

 

「……。分かりました。それで、ユエは

 これからどうしますか?私達は

 自分達の世界への帰還を目指して

 居ます。その際、ルフェアも連れて

 行こうと思って居ます」

「……ルフェアを?」

「はい。実は、彼女もいろいろありまして

 身寄りがいないのです。なので、 

 実質的に今は私達が家族です。

 ユエは、どうしますか?」

 

「……私も連れて行って。私には、

 もう帰る場所……ない」

「……分かりました。ただ、この先

 戦いが続く過酷な道になるでしょう。

 それでも構いませんか?」

「ん。構わない。着いてく」

「そうですか。……では、改めて現状の

 確認を。私達が今目指すべきは、この

 オルクス大迷宮の最下層にあると

 される、反逆者の住居かそれに準ずる

 物を発見する事。そして、そこで

 元の世界へ帰還するために何か方法

 がないか探る事。また、このオルクス

 が空振りであった場合、他の迷宮に

 足を運ぶべきだと思うのですが、皆

 の意見が聞きたいのです。何か

 意見や反論はありますか?」

 

「ううん。僕は無い。確かに司の

 言うとおり、今はとにかく、一番

 情報がありそうな反逆者の事を

 色々調べてみた方が良いと思う」

「うん。私もハジメくんに賛成」

「私も特に無いよ」

「……ん、私も」

皆、私の言葉に賛成してくれた。

 

すると……。

「……あ、一つ質問」

と言ってユエが手を上げた。

「何でしょうか?」

「……この中で一番偉いの、司?」

と、ユエが首をかしげた。

 

「え?う~ん、まぁそうだよなぁ。

 僕にジョーカーを作ってくれて、

 ルフェアちゃんを助けた後

 G・フリート創って僕達を

 誘ってくれて。で今はこうして

 オルクスに潜ってるし、それを

 提案したのも全部司だからね」

「うんうん。そう言う意味では

 私達の隊長は司くんだね」

ハジメが頷き、香織も続く。

 

「私が、隊長ですか?」

「うん。と言うか司以外じゃ

 出来ないって。なにげにこれまで

 僕達を引っ張ってきてくれた訳だし」

「そうそう」

頷く二人。

「ユエちゃんは何か不服ある?」

と、ルフェアが聞くと……。

 

「……違う。気になったから

 聞いただけ」

どうやら理由としてはそれだけの

ようだ。

「まぁ、とにかく司がこのチーム

 のリーダーって事には変わりない

 からさ。これからもよろしく、

 リーダー」

そう言って、ハジメが私の肩を叩いた。

 

リーダー。私が、か。

まぁ元より似たような立場だったし、

それが明確になっただけの事。

 

「それでは、今日はとりあえずもう

 休みましょう。サソリとの戦闘で 

 クタクタですし」

「「賛成~」」

ハジメと香織が少々不抜けた声で頷く。

 

結局、その後は私が料理を創って早めの

夕食を取った後、ハジメと私で浴室を

創り、皆汗や汚れを落とすと同じ部屋で

布団を5つ敷いて眠りについたのだった。

 

 

サソリの魔物と戦いを終えて『ユエ』という

仲間を得て、同時に更なる情報を得た

私達は、再び迷宮の底を目指す事を

決めるのだった。

 

   第10話 END

 




って事で無事ユエと合流です!

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