ありふれた職業で世界最強~シンゴジ第9形態とか無理ゲー~   作:ユウキ003

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今回は、エセアルラウネとの戦闘回です。


第12話 更なる深淵へ

~~前回のあらすじ~~

ユエを新たな仲間として迎え入れた

ハジメと司達。彼らはユエから得た

情報を元にオルクス大迷宮の最下層を

めざし進む。

一方、司たちが離れた事で残された

クラスメイト達の大半は戦争を避ける

ようになる。そんな中で光輝達

勇者パーティや檜山達はオルクスの

65層でベヒモスと再戦。しかし雫が

これを、司から与えられたジョーカーを

使い単独で退けてしまうのだった。

 

 

ユエと出会ってから数日。司は新兵器を

開発していた。

そして、ある日の朝それを4人の前で

説明した。

「『マルチアサルトモジュール』?」

と、説明された物の名前を、首をかしげ

ながら呟くハジメ。

「はい。略して『MAS』、です。

 全員ジョーカーを展開して

 下さい」

言われるがまま、ジョーカーを

展開する3人。すると、ハジメが

真っ先にそれに気づいた。

「あれ?腕に何かついてる」

自らの右腕を注視するハジメ。

 

そこには、銀色の長方形のボックス

のような物が接続されていた。

「これが、そのMAS?」

「はい。このMASの最大の特徴は

 汎用性と即応性です。例えば……」

司がパチンと指を鳴らした。

 

すると、3人の左腕のボックスが

光り輝き、一瞬で菱形の盾となった。

「す、すごい……!」

「一瞬で形が変わっちゃった……!」

驚く香織とルフェア。

 

「このMASは、ナノメタルという

 特殊液体金属で出来ています。

 このMASにはいくつもの武器の 

 データがダウンロードされており、

 使用者はそのリストの中から好きな物

 を呼び出して変形させ、使うのです。

 もちろん、使わない時は装備として

 除外したりも出来ます。それと、

 他にも武器をいくつか追加して

 おきました。各自確認して、試したい

 物があったら使ってみて下さい」

そう言われ、ハジメ達3人は内部の

武装のリストを閲覧していく。

 

そんな中で……。

「あれ?何これ」

香織が何か気になった物があったのか、

それを召喚したのだが……。

 

 

次の瞬間、香織が召喚したのは、

もはや『銃』より『砲』と呼べそうな

ほど巨大なアンチマテリアルライフル、

『ミスラ』を召喚した。タナトスの

2倍から3倍はありそうな大きさに

驚きながらも両手でキャッチする香織。

「わっ!っと。……うわぁ、何これ」

「それは、アンチマテリアルライフル

 のミスラです。あのサソリとの戦いで、

 迷宮にはタナトスもさして効かない

 魔物がいる事が分かりました。なので

 より威力の高い物として、その

 ミスラを設計しました」

 

ミスラは、ボルトアクション式の

対物ライフルだ。弾丸は19mmの

徹甲弾を装備。弾芯には、劣化ウランを

使った、速度を生かした運動エネルギー

による貫徹を目指して開発した装備だ。

反動など、生身の人間が撃てば撃った

本人が吹っ飛びかねない物だが、ジョーカー

ならその点は問題無い。

「す、すごいの創ったね司くん。

 ……と言うか、もし、仮にだよ?

 これで人なんて撃ったら……」

「まぁ、『消し飛び』ますね。文字通り」

 

「……。これ、人に使ったら絶対 

 アカンて」

何故か関西弁でツッコむハジメ。

しかし……。

「……。必要ありませんよ。この世界の

 鎧の程度は、既に分かっています。

 一般的な兵士を相手にするのなら、

 ノルン程度で十分です」

そう言うと、私は足のホルスター

からノルンを取りだし、スライドを

引いて初弾を送り込むとホルスター

にそれを戻した。

 

「「……………」」

その側で、俯いている香織とハジメ。

理由は、聞かずとも分かる。

「まだ人を撃つ事に抵抗があるの

 なら、私に任せて下さい」

「え?」

私の言葉に疑問符を呟くハジメ。

「私が新生司となる以前。オリジナル

 の一部だった頃、私は大勢の人間を

 殺してきました。そして今後も。

 幸いにして、人を殺した所で

 何も感じない私なら、いくらでも

 撃てる。だからもしもの時は、私

 に任せて下さい」

 

既にこの身は血で汚れている。

今更引き返す気も無いし、必要も無い。

後悔も無い。戸惑いも無い。良心は、

まぁあるかもしれないが、殺人への

後悔から良心の呵責に苛まれる程、

柔な精神構造は最初から持ち合わせて

は居ない。

 

が……。

「それはダメだよ。司」

そう言って、真っ直ぐ私を見つめるハジメ。

「仮に僕が人を撃たなきゃいけない

 状況でも、司に託すなんて事は

 しない。それは自分が汚れたくない

 から逃げてるだけだ。

 ……僕は、皆と元の世界に帰る。

 正直、まだ人を撃つ事に抵抗はある。

 でもだからって、撃つ事を司に

 任せるなんて最低な事は、絶対に

 しない!」

「……そうですか。ならば覚悟を

 持ちなさい、ハジメ。『弱肉強食』。

 これは人が法を、道徳を、文明を

 生み出す前から必然として存在

 した『世界の理』。弱き者は肉塊に

 成り果て、強き者がそれを喰らう。

 戦うのならば、血に濡れてでも

 戦い、生き残るのです」

「……うん。分かってる。僕は

 皆を守るし、誰にも手出しは

 させない……!香織さんも、

 ユエちゃんも!それに、司や

 ルフェアちゃんにも!」

「ハジメ」

私は、真っ直ぐ彼を見つめる。すると……。

 

「私だって」

更に香織がハジメに続いた。

「私だって、自分の罪は、自分で背負う。

 他人に背負わせて楽をしようなんて、

 思ってないから」

二人の言葉を私は黙って聞いていた。

その声色には、確かな決意があった。

ならば……。

 

「分かりました。では、覚悟は

 しておいて下さい。この先、人族と

 対立しない保障はありません。

 時に、我々は立ちはだかる者を

 殺し、その屍を踏み越えていく。

 そんな場面がやって来るかも

 しれません」

 

「……覚悟は、まだ不完全だけど、

 付いていくよ。僕達は司に」

ハジメの言葉に、香織、ルフェア、

ユエが頷く。

 

「分かりました。ならば、私も

 皆を率いる者として、最善を

 尽くしましょう」

私はタナトスを召喚し、マガジンを

装填する。ハジメ、香織、ルフェア

もそれに続いて各々の武器を召喚し、

弾を込める。

 

そして、4人が私を見て頷く。

 

「では。行動開始」

 

そして今日も、迷宮攻略の1日が始まった。

 

 

そんなある日。私達は鬱蒼とした樹海の

ような階層に足を踏み入れた。そこで

目撃したのが……。

 

頭に一輪の花を咲かせたティラノサウルス

モドキだった。

「……あの恐竜、頭に花咲いてますね」

「うん。咲いてるね」

私の言葉に頷くルフェア。

殺意を向けられていると言うのに、

絵面がシュールすぎてどうにも気が抜ける。

すると、そこにティラノモドキが突進

してきた。

「総員、射撃用意」

私が冷静に命令を下すと、3人がタナトス

を構えたが、その時ユエが一歩前に出た。

 

「『緋槍』」

そして彼女が魔法の名前を呟くのと同時に、

その手から炎の槍が放たれ、ティラノモドキ

の口から入り体を貫通してしまった。

 

それを見て銃口を下ろす3人。

ユエは、こちらに振り返ると、エッヘン、

と言わんばかりに胸を張る。

そして彼女は、スススとハジメに近づく。

ユエとしては、ハジメに褒めて欲しいの

だろう。

「あ、え~っと、す、すごいねユエちゃん」

「……ん。これ位、朝飯前。……今度は

もっとすごいの、見せる」

ハジメに褒められ、ご満悦な様子のユエ。

そのすぐ側では、香織のジョーカーが

カタカタと震えていた。

場所が場所なだけに、香織は怒りを

何とか押さえていたようだった。

 

ユエが仲間に加わってからと言う物、

私達の戦闘力、ハジメ曰く『チート戦闘力』

は更に跳ね上がった。

ユエは長い詠唱や陣を描かず、魔法発動の

トリガーとして魔法の名前を呟く、

それだけで魔法を行使出来る。

上級魔法でも、だ。

 

私の創り出す武器も魔法も、一長一短の

メリットとデメリットを持つ。

ユエの場合、魔法をほぼタイムラグ無しで

行使出来るが、その元になる魔力が

無限にある訳では無い。魔力が枯渇すれば、

ハジメなどから血を吸い補給する、神水を

飲むなどでしか補給する方法は無い。

魔法の中にはタナトス以上の高威力の物も

あるが、撃てなければ意味が無い。

対してこちらは、私が居る限り

銃弾等々の補給は無限に出来る。威力では

劣る感じは否めないが、戦闘継続能力は

こちらに分がある。

 

言わば、一撃必殺の魔法と。

手数の多い銃器。しかしだからこそ、

互いが互いをフォローしあう事でそれぞれ

のデメリットを打ち消すのだ。

 

……なのだが、ユエはたまに魔力を使いすぎて

よくハジメに吸血を求める。それを阻止

しようと香織がユエの口に神水のボトルを

突っ込んだ事が以前あった。

ユエ曰く、神水では回復に時間がかかるから

血の方がより効率的らしいが……。

そんな感じで二人はいがみ合う事があった。

 

安全地帯で争っていては仕方が無いので、

私の提案で協定を結ばせた。

内容はこうだ。

 

戦闘地帯ではスキンシップを最小限にする事。

イチャコラしたい時は安全地帯で、と言う物

だ。この協定を結んだ時。香織とユエは

背後にオーラで出来た般若とドラゴンを

浮かべながら固い握手を交わしていた。

ちなみにこれを見ていたハジメとルフェア

はガクブルで泣いていたが。

 

とにかく。ティラノモドキを倒した私達。

「皆、移動しま、ッ」

言いかけ、私のレーダーに反応する物に

気づいた。

ユエ以外の3人もレーダーに気づいたのか

すぐにタナトスを構えた。

 

「敵来る!全方位から!」

周囲を見回しながら叫ぶハジメ。

「一点を突破します。付いてきて」

呟き、私が駆け出すと他の4人が続いた。

そして木々の合間を抜け飛び出した先に。

 

「キシャァァァァァァッ!」

2メートル強のラプトル型魔物がいた。

 

しかも何故かティラノのように頭に花を

咲かせていた。が……。

「……」

『ドンッ!』

無言のままその頭をタナトスの炸裂弾で

吹っ飛ばした。

「……司、容赦ない。かわいかったのに」

「?」

ユエの言い分にハテナマークを浮かべつつ、

私達は移動する。包囲網がかなり狭まっている。

その時、幹の直径が5メートルはありそうな

木々が群生する場所に出た。

 

「総員、すぐさま樹上、木の上へ」

「「「了解っ」」」

「ん」

3人とユエが返事を返すと、3人は

コピーした技能、『空力』で。ユエは

風系統の魔法を使って木の上に飛んだ。

私も脚力を生かし、木の上に飛び乗る。

「各自武装を展開し迎撃態勢」

「「「了解っ」」」

「ん」

 

私達4人がタナトスを構え、ユエも魔法を

発動しようと構える。

そして5分もすれば周囲に集まってくる

ラプトル。だが……。

 

「な、なんで全員頭に花咲かせてるの!?」

魔物は皆、その頭部に花を咲かせていた。

それに驚きツッコむハジメ。

「気にしている暇は無い。各自、射撃開始」

『バンッ!』

私が指示を出し撃ち始めると、他の3人も

それに続いて射撃を開始。更にユエの

緋槍も次々とラプトルを貫いていく。

 

如何にラプトルの群れと言えど4丁

から放たれる炸裂弾の雨と緋槍の前には、

十秒と経たずに敗れ去った。

 

「総員、射撃止め」

私が指示を出し射撃を止めた時には、

バラバラに砕け散ったラプトルの

死骸があちこちに散らばっていた。

「ふぅ。何とかなったね」

と、息をつくハジメ。

 

しかし……。私には引っかかる事が

あった。

「……妙ですね」

「ん?どうかしたの司」

「はい。……あのラプトル達の動き、

 どこか単調ではありませんか?」

「え?」

「そう言えば、何て言うか、機械的?

 な感じで突進してくるみたいだった」

疑問符を浮かべるハジメと、顎に手を当て

答える香織。

「それに、あの花です」

「花?それってあの頭にあった?」

と、聞き返してくるルフェア。

「えぇ。もし、あれがティラノ型の魔物

 だけにあったのなら、その種類特定の

 身体的特徴で納得できたでしょうが……。

 なぜ現れたラプトル全てにあの花が?

 それに、ラプトルの行動も不自然です」

「……どうして?」

と、首をかしげるユエ。

 

「私達の世界にも、似たような動物が

 居ました。彼らは集団で狩りをしますが、

 その戦法は、一言で言えば狡猾。正面から

 獲物に襲いかかるのでは無く、奇襲を

 仕掛ける、と言うのが基本です。

 こちらの常識がこっちと同じ、とは

 思えませんが、あの花に単調な攻撃。

 我々の知るラプトルからかけ離れた

 行動」

「普通じゃない、って事?」

「えぇ」

ハジメの言葉に私は頷いた。

 

その時。

「ッ!レーダーが!」

一番に異変に気づいたルフェアが叫んだ。

彼女の叫びにレーダーを見ると、

全方位から光点がこちらに向かって来ている。

 

「な、何これ!?明らかに普通じゃないよ!」

「この数は……」

私はすぐに周囲を見回した。そして、木々の

中でも一番高い物を見つけた。

「全員、今すぐあの木の枝に向かって下さい。

 あそこに陣取り、防御陣地を形成します」

「「「了解っ!」」」

「ん」

 

私達はすぐに移動し、木々の中でも一番高い

樹の枝に移る。

そして、全員が移動したのを確認すると……。

「ハジメ、香織、ルフェアは樹の枝を攻撃

 して落として下さい」

「「「了解っ」」」

「ユエは広範囲攻撃魔法の用意を」

「ん。……特大のぶつける」

私の指示で、とりあえず枝を落としていく。

そして視界に入った群れは、ラプトルが

大半だったが、あのティラノ型も数匹

混じっている。

異なる種族の捕食者同士が、獲物を

無視してこっちへ攻撃をしている。

……やはり、これは何者かが。

 

そう考えていた直後、ティラノ型

が体当たりをしてラプトル達が

爪を使って樹を登り始めた。

「総員、ユエの魔法攻撃の範囲内

 に入るまで奴らを上らせないように。

 射撃開始」

「「「了解っ!」」」

『『『『ドドドドドドッ!!!』』』』

タナトスの炸裂弾が雨あられとラプトル

達に降り注ぐ。

それが、奴らが上るのを防ぐ。そして……。

集団が全て、木の根元付近に密集する。

 

「ユエ」

「んっ!『凍獄』!」

私が名を呟くと、魔法の用意をしていた

ユエがそれを放つ。

指定したポイントを基点として50メートル

四方を凍てつかせる範囲攻撃魔法、『凍獄』

の威力は凄まじく、タナトスの攻撃を

生き延びていたラプトルやティラノ

達を、全てカチンコチンに凍らせた。

 

「……ハァ……ハァ」

しかし、これだけの攻撃を放った為に

ユエも流石に疲れたのか肩で息をしていた。

「ユエちゃん」

それを見ていた香織が、背面の

バックパックから赤い液体が

入った、小さいパックを取り出して

彼女に渡した。中身は当然、ハジメの

血だ。

それを、若干不機嫌そうな表情のまま

受け取るユエ。

 

「……。生で吸っちゃ、ダメ?」

どうやら彼女は、ハジメから直に血を

吸いたいようだ。

「一応戦闘中だよ。我慢我慢」

「そ、それにほら。今はジョーカー

 着てるからさ。ね?」

香織、ハジメの順番でそう言って

説得しようとする二人。

 

「……………。ん」

やがて、ユエはパックに内蔵

されていたストローを起立させると

不機嫌そうに、中身に口を付けた。

 

と、その直後。

「ッ!?まただ!司!」

今度はハジメが気づいた。レーダーに

目を向ければ、さっきの倍の数の

光点がこちらへ向かって来た。

「これ、さっきの倍は居るって」

戸惑いながら呟く香織。

ユエも、パックの中身を急いで吸うと

それを投げ捨てた。

 

「ど、どうしよっかツカサお兄ちゃん!

 やっぱりここで迎撃する!?」

隣に居たルフェアが問いかけてきた。

他の3人も私の方を見ている。

 

しかし、あれはもしかしたら……。

 

「いえ。ここは打って出ます。

 そして、奴らを操っている本体を

 叩きます」

「本体?」

と、首をかしげるハジメ。

「恐らく、奴らは操られているのでしょう。

 あの頭部の花は、言わば遠隔操作の為の

 受信機、といった所です」

「……生きたフ○ンネル、って感じ?」

「恐らく。あの花は本体から放たれ、

 異なる種族を配下、奴隷とする為の

 武器です」

「……つまり、寄生」

「えぇ。その寄生した花を通し、本体が

 魔物を操っているのでしょう」

「じゃあ、逆に本体を倒せば……」

「この攻撃も止まる、と言う事です」

 

チラリとレーダーに目をやれば、敵の

集団がこちらに向かっている。

急がなければ。

「総員傾注。これより我々は敵本体を

 探索する。ハジメと私はEジョーカー

 へと形態変化し、他の3人はどちらかの

 背中か肩へ掴まり、後方から追ってくる

 敵へ攻撃を」

「「「了解」」」

「ん」

「では、行きましょう」

 

そう言うと、私が先頭で飛び降り、更に

ハジメが続く。そして私達のジョーカー

が自由落下中に光に包まれ、Eジョーカー

へと変化し、重力制御装置の力でふわりと

着地。そして更に、私の背中にルフェアが。

ハジメの両肩に香織とユエが着地した。

 

「それでは、移動を開始します。ハジメ、

 付いてきて下さい」

「うん!二人とも、しっかり掴まっててね!」

「んっ」

「うん!」

「ルフェアも、行きますよ」

「うん!ツカサお兄ちゃん!」

そして、私達は移動を開始した。

 

 

移動開始から数分。

「『緋槍』っ!」

「当たってぇぇぇぇぇ!」

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

足のローラーで樹海の中を疾走する

私とハジメのEジョーカー。

その背中や肩に掴まりながら、ユエが

緋槍を放ち、香織とルフェアがバアルで

弾幕を張る。

 

そして、私達は草むらの中を疾走しながら

ある方角に向かっていた。最初は、とにかく

本体を探しながら走り回っていたのだが、

ある方向に行こうとしたとき、急に攻撃の

手が強まった。そちらにだけは行かせない、

と言わんばかりに。

 

しかしそれは、二つの可能性を示していた。

そっちに向かって欲しくない理由があるのか、

或いはそう見せかけ我々を罠に掛ける

気なのか、その二択だ。本体があるなら

潰す。罠なら、最悪私のフルパワーで

突破する。それだけの事だ。

だからこそ、その方向、迷宮の壁に

見える洞窟へと向かっていた。

 

香織達が後方から迫る敵を迎撃し、

前方から来た敵には、シールドを

展開し弾き飛ばすか轢き殺す。

そして洞窟の入り口が見えてきたが……。

縦方向に割れた洞窟の入り口には、

Eジョーカーでは侵入できそうにない。

 

「各員傾注。入り口の前で瞬間的に停止し、

 私が追ってくる敵を迎撃。ハジメは

 その隙にノーマル形態に移行し、他の3人

 と中へ入り、裂け目を塞ぐ錬成の用意を」

「「「了解っ」」」

「んっ」

 

そして、入り口の前にたどり着いた瞬間。

『ギャギャギャギャッ!』

地面をローラーで削りながら180度回転。

背中のルフェアが降りると、チェーンガン

を稼働させ両手にMASを展開。更に

それをガトリング砲へと変化させる。

そして……。

『『バババババババババッ!!!』』

『『ガガガガガガガガガガッ!!!』』

両肩のチェーンガンと両手のガトリング砲

を前方に向けて撃ちまくる。

 

無論乱れ撃ちでは無い。全て狙っての物だ。

凄まじい勢いでレーダー上の光点が

消えていくが、焼け石に水だ。

「司!」

その時、入り口の奥からハジメ達の

声が聞こえた。

ノーマルのジョーカーへと形態変化

させながら、振り返り、駆ける。攻撃が

途絶えた隙に接近してくる魔物達。

しかし私は、左大腿部のスロットから

野球ボールサイズの物を取りだし、その

頭頂部にあるスイッチを押し、後ろに

投げた。

それが地面に接触した次の瞬間。

 

『ドォォォォォォォォンッ!!!』

爆音が響き渡った。

と言っても、それは『プラズマグレネード』

が炸裂した音に過ぎない。あれは、

爆発と同時に周囲へ高温の熱エネルギー

を放射する兵器だ。なので爆風も

殆ど無く、私に付いてこようとした

魔物達をプラズマが消滅させていく。

そして、その隙に入り口の裂け目に飛び込んだ。

 

「『錬成』!」

直後、壁を錬成で閉鎖するハジメ。

「……ふぅ」

ハジメが息をつき、後ろの私達の

方へ振り返る。

しかし……。

「ハジメ、錬成の腕を上げましたね?」

「え?そ、そうかな?」

照れくさそうに呟くハジメ。

「まぁ、拠点を作るのにハジメは毎日の

 ように錬成を使って居ましたからね。

 日々、上達しているのでしょう」

「そ、そっか」

と、他愛も無い話をしつつ、私は

武器リストからトールを抜く。

 

「さぁ、行きましょう。あの花の

 本体が、この奥に居る可能性が

 高いですから。それと、総員

 あの花に気をつけるように。

 特にユエは、です。私達は

 パワードスーツを纏い全身を

 覆っているので大丈夫でしょうが、

 生身の貴女は、十分気をつけて

 下さい」

「ん。分かった」

 

ユエが頷き、香織とルフェアがノルン。

ハジメがトールを抜く。

「では……。行きましょう」

私達は、静かに中を進んでいく。

中は暗かったが、暗視装置のおかげで

視界に困ることは無かった。

 

そして、私達は広い場所に出た。

左手を挙げれば、3人が止まり続いて

ユエも止まる。

周囲を見回し、警戒する。

と、その時。

 

周囲から緑色のピンポン球のような物が

5人目がけて襲いかかってきた。

「ッ!攻撃!」

「ふんっ」

ハジメが真っ先に叫び、私が結界を張る。

更に、結界の周囲に電気エネルギーの

球体を発生させ、そこから放つ雷撃で

ピンポン球をなぎ払っていく。

雷撃を抜けた物は、結界に当たるも

突破すること無く潰れていく。

しかしピンポン球は途絶える事無く

向かってくる。

 

「これ、突破はされないけどこっちも

 動けないよ!」

「どうするの?司くん」

周囲を見回しながら叫ぶ司と、私に

問いかけてくる香織。

だが、解決策は既にある。

 

私はパチンと指を鳴らした。そして……。

見つけた。本体は前方の暗がりの穴の中。

狙われないように、壁の奥、銃弾が

届かない場所に隠れていたが、相手が

悪かったな。

「直線で届かないのなら……」

私は右手でトールを構え、左手も

正面に翳す。

 

「届くように空間をねじ曲げるまで……!」

左手に力を込めると、空間が歪む。

入り口は、私の前。出口は本体の後方。

その時、本体の気配が僅かに動いた。

恐らく後ろに出現した歪みに気づいて

振り返ったのだろうが、遅い……!

『ドンッ!』

 

歪みを通して、トールの炸裂弾が

放たれた。

『バンッ!』

そして、前方の洞窟の奥から炸裂音が

響いてきた。

 

直後、あれほど高速で動き回っていた

ピンポン球が地面に落下する。

それを確認した私達は、結界を解いて静かに

穴の中へと入っていった。そこには、

ハジメ曰く『アルラウネ似』の魔物が、

頭を吹き飛ばされた状態で倒れていた。

 

「撃破確認」

「了解。……まぁ、相手が悪かったね」

若干、アルラウネに同情のような声をかける

ハジメ。

「……と言うか、司に勝てる魔物って、

 居る?」

「……。居なさそう」

首をかしげるユエに答える香織。

「うんうん。ツカサお兄ちゃんは

 無敵だからどんな魔物だって一撃

 だよ!」

そしてルフェアは笑みを浮かべながら

そんな事を言っていた。

私達は、そのまま奥に進み階段を発見。

次の階層へと降りていった。

 

 

敵は、101層の頃に比べて強くなっている。

が、苦戦を強いられる事はまず無かった。

5人に増え、銃火器には出来ない事が

出来るユエが加わったのも、大きな要因だ。

そして、ある日私達は改めてハジメと香織

のステータスプレートを見てみた。

 

 

~~~~

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:38

天職:錬成師

筋力:45(5000)

体力:50(5000)

耐性:35(7000)

俊敏:50(4800)

魔力:30(30)

魔耐:30(7000)

技能:錬成[+鉱物系鑑定]・言語理解

   ・鋼の戦士・王の祝福を受けた者

~~~~

 

これがハジメの現在のステータスだ。

そして変化があった。これまでハジメの成長

は、全てが同率で成長していたが、ここに

来て成長の度合いにばらつきが見え始めた。

筋力や体力など、フィジカル面での成長の

値が大きいのは実戦を経験しているから

だろう。

加えて、錬成の派生技能、『鉱物系鑑定』を

習得していた。これは王国直属の鍛冶職人

達でも上位の者だけが持つスキルだと、

以前書いてあった本を読んだことがあった。

 

一方の香織は……。

 

 

~~~~

白崎香織 17歳 女 レベル:34

天職:治癒師

筋力:120(5000)

体力:200(5000)

耐性:180(7000)

俊敏:190(4800)

魔力:500(500)

魔耐:500(7000)

技能:回復魔法[+効果上昇][+回復

   速度上昇]・光属性適正[+発動

   速度上昇]・高速魔力回復・言語理解

   ・鋼の戦士・王の祝福を受けた者

~~~~

 

これが香織の現在のステータスだ。

やはり現在はフィジカルな戦闘を

こなすだけあって、迷宮に潜った直後

の彼女のステータスと比較しても、

フィジカル面での成長が著しい。

そして、彼女もまた技能欄に

『鋼の戦士』と『王の祝福を受けた者』が

追加されている。

技能は本来、先天的な物で、派生技能以外

増加はしないと知らされていたが、

完全に増えているのだ。……私の

存在がイレギュラーだからか?

 

等と、考えていた時。

「あのさ司」

「ん?何ですか?」

「ふと気になったんだけど、司って

 ジョーカーを使わないで戦った方が

 強い?」

「……えぇ。まぁ。人間の姿である第9

 形態でもこれまでの能力を普通に

 行使出来るので。私がジョーカー

 を纏って戦ったのは、どちらかと

 言うと私の力を秘匿する為です。

 規格外過ぎると色々怪しまれると

 思って居たので」

「いや、まぁそれ以前に規格外

だったけど……。まぁいいや。

あと一つ聞きたいんだけど、司の

最強の攻撃って何?」

 

「私の最強の攻撃ですか?

 そうですね」

私が使える、最強の攻撃か。

う~む。

一番は……。

「とりあえず人工太陽を作って

 周囲の敵を焼き払いますね」

「……え?」

と、首をかしげるハジメ。

「後は、ビッグバンの数倍のエネルギー

 に指向性を持たせて敵にぶつけます」

「……はい?」

「それ以外にも地球サイズの隕石を

 作って落として潰したり」

「……」

「あぁいっそブラックホールを作って

 敵を放り込むのも手ですね。後は」

「…………」

「存在そのものを消滅させたり、

 5000シーベルトの放射線量を

 放つ放射性物質を内包した銃弾を

 たたき込んだり、などですかね」

「………………………」

「ちなみに放射線は5~6シーベルトで

 致死量なのですが……。ん?ハジメ、

 どうかしましたか?」

最初は首をかしげていたハジメ。しかし

今は何も言わずに遠い目をしていた。

その様子が気になったので声を

掛けたのだが……。

 

「司がさ。敵じゃなくて本当に良かった

 ってね。痛感してるんだよ。

 アハハハハ……」

と、乾いた笑みを浮かべる司。

「うん。私もそう思うよ」

そして隣を見れば、同じように香織も

どこか遠い目をしていた。

「……司の攻撃。相手は死ぬ」

ユエ、何ですかそれ。まるで私の

攻撃が即死魔法みたいに……。

「やっぱりツカサお兄ちゃんは

 無敵なんだね!もしかしたら

 神様だって倒せちゃうのかな!?」

そんな中で一人目を輝かせるルフェア。

 

「そうですか?まぁ、これが私の限界

 では無いので、第10形態にまで進化

 出来れば、多分世界そのものを消滅

 させたりも出来ると……」

「みんな!絶対に!司だけは

 怒らせないようにしよう!」

すると突然、私の言葉を遮り叫ぶ

ハジメ。

「うん!」

「んっ!」

更に、叫ぶように頷きながら首を

ブンブンと縦に振る二人。

 

「もうお兄ちゃん達ってば。

 ツカサお兄ちゃんは私達にそんな

 事しないって。ね?」

そう言いながら私の腕に抱きつく

ルフェア。

「えぇ。何せ、ルフェアやハジメ達は

 家族のような、いえ。家族ですから」

そして私は笑みを浮かべながらルフェアの

頭を撫でる。

 

「えへへ~♪」

すると、笑みを浮かべ私の前に回り

胸に顔を押しつけグリグリと

動かすルフェア。

その愛らしい仕草に、私も自然と

笑みがこぼれた。

 

「ちなみに司。もしそんな家族に手を出す

 奴が居たら?」

「は?そんなの決まってます。速攻で、

DNAの一片すら残さず消し去ります」

何やらハジメが聞いてきたので、真顔で

答えた。

 

「やっぱり、司が敵じゃなくて良かったね」

「「うんうん」」

ガクブルと震えるハジメの言葉に、

香織とユエは力強く頷くのだった。

 

「と言うか、ハジメは何故そんな私の

 攻撃力について質問を?」

「あぁいや。僕達の潜ってるこの

 迷宮ってさ。反逆者の一人が

 作った物なんだよね?」

「えぇ。恐らくは」

「それでさ。もしこのダンジョンが

 僕の予想通りなら、多分ゴールの

 反逆者の家、で良いのかな?その

 手前には絶対強敵がいると思うんだよ」

「強敵。ゲームで言うラスボスですか?」

「うん。この中で一番強いのは司だから、

 ちょっと気になったんだけど……」

 

「……司相手ならどんなボスでも雑魚同然」

「うん。絶対そうだって」

ユエの言葉に頷くハジメ。

しかし、迷宮のボス、か。

それは恐らく、これまでの魔物と比べもの

にならないくらい強力なのでしょう。

 

だが……。

「問題ありません」

私は、確信を持った瞳で皆を見回す。

「どんな敵であろうと、私を阻む事は

 出来ないでしょう。なぜなら、

 私は『ゴジラ』なのだから」

「ゴジラ?司、それって?」

「オリジナルの私に付けられた名前です。

 日本古来の神の名で、『荒ぶる神』の

 意味を持っていたそうです」

 

「ゴジラ。ゴジラ、か。うん。何か

 カッコいいね」

「うん。ちょっと怖い響きだけど、

 何だか神々しい名前だと思う」

「……ゴジラ。んっ、良い響き」

「それがツカサお兄ちゃんの本当の

 名前なんだね。うん。私もカッコいい

 と思うよ」

ハジメ、香織、ユエ、ルフェアがそう

言ってくれた。

 

かつては、畏怖と恐れ、憎しみを込めて

呼ばれたこの名をカッコいいと言って

くれる。……あの時、涙を流した時ほど

では無いが、喜びが溢れてくる。

 

「ありがとうございます。では、

 4人との信頼と友情の証として、

 改めて私の真名を伝えます。

 我が名は『ゴジラ』。荒ぶる神

 の名を持つ者である。と」

 

その日、私は4人に真名を教えた。

そして思う。もし、彼らのように

親しい仲間が出たときは、その信頼の

証としてこの名を教えよう、と。

 

     第12話 END

 




次回は、ヒュドラモドキとの戦闘です。お楽しみに!

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